~第二夜 錬金術師、剣士と吸血鬼に会う~
光が収まると、俺は林の中にいた。
「何処でしょうか、ここ?」
全く見覚えのない場所。
似たような場所は父さんの実家にあるけど、違うのは明白。
その場に座り込み、思考する。
――推測、幻覚系の術
――可能性大
――原因、青い宝石
四番、カット。
今は原因より状況判断を最優先。
――状況判断、現在不明の林地
五番、カット。
分かりきったことをいちいち思考伝達するな。
――危険、背後より刃物の接近を確認
っ!!
後ろを振り向かず、前転して回避すると、さっきまでいた場所に小太刀が通過する。
体勢を整え見上げると、小太刀を手にした青年がいた。
「お前が侵入者だな。何処の手の者だ」
侵入者?
「侵入者とは、ここは誰かの所有地なのですか」
「そうだ」
「失礼、侵入するつもりはありませんでした。と言うより、何故自分がここにいるのかも分からないもので」
「惚けるのか?」
「事実です」
「信用に足りない」
ハァ………何なんでしょうこの人。
「だから何ですか?殺しますか、その刀で」
「目的不明の侵入者を放置は出来ない」
「全く、母さんみたいな人ですね。融通きかない人は大変ですね」
「余裕だな。勝てるとでも思っているのか?」
「貴方の情報がないので分かりませんが、少なくとも並みの人では俺に勝てませんよ。それに―――」
金の腕輪から取り出すはエーテライトと言う擬似神経。
ミクロン単位のモノフィラメントだ。
そのエーテライトでハンドガンを編み上げ、実現。
それを右手に持つ。
左手にはナイフを逆手で装備。
高速思考、展開。
「―――勝算の無い戦いはしないんですよ、“アトラスの錬金術師は”。」
やるって言うなら、手加減しませんよ。
その一言で、戦いの火蓋は切られた。
――敵は小太刀を一本所持
――間合いはおよそ一メートル
――遠距離からの銃撃を推奨
直ぐにバックステップで距離をとり、ハンドガンを撃つ。
男の人は銃口を見ながら避け、距離を詰めてくる。
無論、それも計算の内。
走りながら銃撃の手をゆるめない。
銃撃は“あくまで目をそらすため”。
月明かりに照らされたここでは気づかれるかもしれないから。
と、突然男の人の姿が消える。
どこに!?
――背後、袈裟斬り
なっ!!
予測通り、回避と同時に小太刀が通り過ぎる。
「ありえません、人間のスピードでこれ程とは。貴方本当に人間ですか?」
「人間だ。それに単なる移動術だ。」
まさか七夜レベルの速さの移動術があるとは……。
――計測、基本能力値を記録、変動指数を導入
――損害予想値を底上げ
結構早い………けど“勝てない敵じゃない”。
幸いにも、俺には父さんの血も流れてるんだ。
退魔の暗殺一族“七夜”としての血が。
今度はこちらから仕掛ける。
男の人に向かって走りながら銃撃する。
しかし、彼もまた銃口を見て最小限の動きで回避する。
反応速度もなかなかですね。
それでも“七夜”には劣りますけど。
距離は後三歩。
彼方が小太刀を振りかぶると同時に、此方もナイフを振るう。
刃と刃が一瞬交わり、離れる。
それは何度も何度も繰り返され、両者は互いに距離をとった。
「成る程。腕には自信があるようですね」
「そっちもな。しかも銃も使いこなしている。見た目通りの少年とは思えないな。一体何歳だ?」
「失礼ですね。立派な――――」
父さん譲りの暗殺術、その内の移動術《閃走・水月》を使い、瞬時に彼の真下に移動。
更にそこから蹴り上げる。
「―――10歳ですよっ!!」
蹴りは彼の頬を掠める。
その表情は驚愕に彩られている。
「驚きですか?まさか自分だけがあの速度で動けるとでも?貴方が出来るんですから、俺に出来てもおかしくはないでしょう?」
「お前一体何者だ?」
傷から滴る血を拭い、俺に問う。
「迷子の子供ってところでしょうかね」
「冗談キツいなっ!!」
またさっきの移動術ですか。
あの男性の情報は大分揃っているので、もう勝ちは揺るぎませんね。
余裕を持って回避すると、彼から距離をとる。
だが、彼は殺すわけにはいかない。
と言うか、殺せない。
何故なら―――
――遠方より銃を構える者あり
――スナイパーライフルの所持を確認
――目視による回避は不可能
――打開策を考案中
―――彼を殺せば“盾”が無くなってしまうから。
彼は此方から交渉を持ちかける材料にするしか俺が無事でいられる保証は無い。
全く難儀なものです。
ナイフを胸の前で構える。
今回の戦闘で初めて近接武器による構え。
当然彼は俺が“ナイフで斬りかかる”と予測するだろう。
案の定、彼はその場で構えをとる。
先程の移動術もこの為の布石。
あのスピードを見切れないなら、彼は小太刀で打ち合うしかない。
ですが、それが―――
「―――貴方の敗因だ」
左腕を思いっ切り引く。
すると、彼は不自然な形で固まった。
いや、“固めさせられた”。
「くっ!何だ、これは!!」
彼の身体には細く光る何かが巻き付いている。
そう、それはエーテライト。
戦闘中に腕輪に仕込んであったエーテライトを辺りに張り巡らせ、囲んだと同時に捉えた。
銃撃の最中もナイフでの斬り合いでも機会をぬすんでエーテライトを飛ばしていた。
最初からこの戦闘は彼を捕らえる為に行った。
無論、後ろにいる“彼女達”の抑止力として、だ。
「動かないでください。少しでも動けば、貴方が先切れますから。お互いに注意しないと貴方も死にます」
これで彼女達は無闇に撃てない。
俺が撃たれて倒れれば、その動きだけで彼は細切れになる。
「いい加減出てきてください。目的も分からず襲われた上に、そんな場所からじっと見られるのは不愉快です」
「それはごめんなさい。でも恭也を離してもらえるかしら?」
茂みの中から長い黒髪の女性が現れる。
年は縛っている彼と同じくらいでしょうか。
「嫌です。今離したら、まだ構えていらっしゃる方が撃ってくるじゃないですか」
「ノエル、銃を置いて此方に来なさい」
黒髪の女性が言うと、茂みから更にメイド服を着た女性が現れる。
うわぁ、翡翠さん以外のメイドさんは初めて見ました。
っと、そんな暢気に構えている場合ではない。
彼方が誠意を見せてくれた以上、彼を捕縛したままではいられません。
エーテライトを彼から離す。
と、同時に彼が掴み掛かってくるが、回避。
それも計算の内です。
「躾のなってない番犬ですね。主人と客の話合いを邪魔するなんて」
「黙れ!!」
「恭也、落ち着いて。君、彼は私の恋人なんだからあまりそういう言い方はしないで」
黒髪の女性が恭也と言う人を宥める。
「失礼、配慮が足りませんでした。さて、何故仕掛けたのかは大体分かってるので、まずここは何処なのか答えていただけますか?」
「えっ?襲った理由は聞かないの?」
「聞いてほしいんですか………“吸血鬼”」
そう口にすると、場の空気が更に重くなる。
「……知ってたの?」
黒髪の女性が言う。
そりゃあ、七夜の血のお陰で人外は分かりますし、何より―――
「同朋が分からないほど血は薄まっていませんから。」
「!!」
その場の全員が驚く。
―――俺が死徒のクォーターでもあるから。
「同朋って、君も、その………吸血鬼なの?」
黒髪の女性が問う。
「厳密に言えば、貴方とは少し違いますが、俺も吸血鬼ですよ」
「えっと、どの辺が?」
「貴方からは俺が知ってる吸血鬼らしい感覚が感じられません。吸血鬼としての概念が貴方とは違うのかもしれません」
「じゃあ君の言う概念っていうのは?」
「先程から貴方が一方的に質問しています。まず俺の質問に答えてください」
「………ここは日本。海鳴市という場所よ」
海鳴市?
そんな地名初めて聞きました。
――検索、該当する地名は存在しない
――虚言の可能性あり
――否、彼女の挙動から虚言ではないと判断
――更なる情報を請う
「じゃあまたこっちから―――」
「まだです。貴方は二回質問しました。まだこちらの番です。魔術、錬金術、時計塔、アトラス院、英霊、聖杯戦争、この内どれか一つでも聞き覚えのあるものは?」
「魔術とか錬金術ってオカルト?時計塔ってどこの?アトラス院って聞いたことないし、聖杯戦争は歴史か何かかな?」
あぁ、きまりだ。
「最悪だ、なんて悪夢だ。まさか―――」
―――平行世界に飛ばされるなんて。
座標移動じゃない、次元移動。
第二魔法の類か、実体験出来たのは確かに良い。
時計塔より先に第二魔法を完成させられるのならば収穫はある。
でもこれは俺が意図してやったわけではなく、事故。
いや、予期できないならこれはさながら災害だ。
先の青い宝石を使うにしても安全性、そして何より確実性に欠ける物を使うなんて論外。
実質帰る手段がない。
事実に俺はうなだれる。
「えっと………取り敢えず、家に来る?」
黒髪の女性の提案。
「宜しければ……。」
俺は頷くしかなかった。
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異界に飛ばされた少年。
そこで出会うは………。
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