一時は仲間の死の知らせに慟哭する蜀の将たち
すべてが無に思えた長い空白のとき・・・・
誰もが涙を流していた。
しかしそんな中、呂白という男が現れ、そしてその後、
仲間が逝ってはいなかったことを知る。
「「「「「「おぉぉぉぉおおおおお!!!」」」」」」
一時の静寂ののち、場は笑顔でみたされた。
まさにそれは絶望から歓喜への瞬間だった。
「はわわっ、雛里ちゃん雛里ちゃん・・・・
ほんとに雛里ちゃん?」
「あぅ・・・朱里ちゃん、ひどいよ・・・」
「・・・れ・・ん殿?・・・恋殿ぉーー!!」
「・・・・ねね・・・ただいま」
仲間の無事を知り、笑うもの、泣くもの、怒るもの、
反応はそれぞれであったが、皆一様によろこんでいた。
~一刀視点~
少しは役にたつことができただろうか・・・
城の庭にでても蜀将の笑い声が、叫び声、
そしてなき声が俺にまで聞こえてきた。
そのどれもが仲間を思い、その生還を共に喜んでいるものであってほしいと
俺は思いながら、久しぶりに見るこの青空に、そしてこの同じ青空をみつめているであろう愛しき人に思いを馳せていた。
少しは、俺なりに俺並みの道をすすめているだろうか?・・・
でも、こんなんで誇っていたらきっと、華琳はこういうであろう。
そんな自分に満足しているようではまだまだよ、と。
そう考えると自然と頬が緩む。
「そろそろ、いくか」
そう思いながら俺は城の外へと足を踏み出そうとしていた。
「どこへ、いくのですかな、呂白殿?」
一人、城をあとにしようとする俺にそんな声がかかる。
振り返ってみるとそこには空の青にも劣らない綺麗な青髪をもった女性が
立っていた。
「・・趙雲殿、ですか。」
「私の名を知っておられるか」
「はい、誰もが知っていると思いますが。あなたは有名なので」
「いやはや、あなたに言ってもらえるとはうれしいかぎりですぞ」
「やめてください、趙雲殿、自分はなに、も・・」
俺はそう言いかけようとしたが彼女は突然頭を下げ、その体を涙で震わせながら
いった。
「なに、をいっておられる、呂白殿・・・」
「・・・・ど、どうしたのですか?」
「ただ・・・お礼が、お礼がいいたいのですよ・・呂白殿。
わが主、桃香様を導いて下さり、本当に感謝する。
そして、なによりも、恋と雛里を助けてくれて、ありがとう
蜀はあなたに救われた。」
そう涙を流しながらいう趙雲。
「顔をあげてください、趙雲殿。自分はただ、妹が打ち取られたときいて
激情に身をまかせ、蜀王である劉備殿に刃をむけた、いわば反逆者ですよ
お礼を言われるようなことは何もしていない。」
「・・・呂白、殿は・・」
「はい?」
「嘘が、下手くそなのですな」
趙雲は涙を手で拭い、すこし笑いながらそう言った。
「恋と雛里は何も言いませんでしたが、先ほどの玉座の間での流れを見ていても、
誰もが思わずにはいられない。
本当は、我々の仲間は死ぬはずであったと。
しかし、そんな二人をあなたが救ってくれたのであろう?」
「それは思いすごしなのでは?」
「それでも、皆は、あなたをそう、おもっているはずですよ」
「・・えっ?」
振り返るとそこには劉備をはじめ、蜀将のみなが駆けつけてきていた。
「待ってください、呂白さん」
そして、その先頭には劉備がたっていた。
膝に手をつきながら息を切らしているところを見ると、急いで駆けつけてきてくれたということがわかる。
「これは劉備殿、先ほどはですぎた真似を致しました。
申し訳ありません」
正直俺は、皆がここにいることに驚いていた。
「ふぇっ?あっ、そ、その・・・そういう訳では・・・
あの、いろいろと本当にありがとうございました!
呂白さんのおかげで、私は王なんだって、改めて強く思いました。
本当に、私の失いかけていたものを教えてくれて、ありがとうございました。
それに、私の、いえ私たちの大切な友達を助けてくれて、
本当にありがとうございました。」
「いや、別に自分は・・」
そういいかけると趙雲が俺の耳元によってくる。
「呂白殿、皆がああいっておられるのです。
ここはこの趙子龍の涙に免じて皆の感謝の気持ちを受け取ってくだされ」
久しぶりに感じた温かさだった。
「・・では劉備殿、皆さんの感謝の意、ありがたく頂戴します」
「だ、そうだ。桃香様。」
「うん! じゃあ、みんなで今日は宴だ!」
「そういうことです、呂白殿、きて、くれますよね」
「では、お言葉に甘えて」
こうして俺を加え、歓喜に包まれる中、宴が催された。
その日は、なんだかなつかしいようなそんな雰囲気に包まれて俺は
こっちの世界にもどってきて久しぶりに自分の幸せを改めて感じた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん、
お兄ちゃんは、ほんとに恋のお兄ちゃんなのだ?」
やはり、この質問だよなぁ・・これから結構大変そうだ。
「そうだよ、えっと・・・張飛ちゃんだっけ?」
「鈴々でいいのだ!」
この小柄でよくあんな武器を振り回せるもんだ。あの、有名な張飛だもんな・・
今度、鍛錬をよく見てみたいな。
「真名でいいのかい?」
「恋のお兄ちゃんなら大丈夫なのだ!」
「そっか、じゃあ鈴々、俺のことは刃ってよんでくれ。」
「うん、お兄ちゃん!」
「いや、刃って・・」
「わかったのだ、お兄ちゃん」
なんかこの子、季衣ににてるなあ・・・
「まぁ・・・いっか。」
「それよりなんで顔をかくしているのだ?」
「ああ、これか。」
一刀が言い訳を言おうとしていると、左腕にピトッと
恋がくっつき、鈴々の質問に答える。
「・・・・・にぃにい、恋を助けるとき、やけどした」
空気を読んでくれたのか、ありがとう恋。
そう思いながら俺は恋の頭を撫でる、
そんな俺に恋はよりそって気持ちよさそうにしていた。
「やっぱりきょうだいなのだなー」
俺たちのそんなやりとりを鈴々をはじめ多くの将が温かい目で見ていた。
しかし、趙雲だけは違う目で見ていたのをその時俺は気づいていなかった。
「でも、・・大変だったのだなー、・・・あっ愛紗!」
そんな鈴々の声で顔をあげると、そこには関羽がたっていた。
「さきほどは無礼な態度をとってしまい失礼しました、呂白殿・・・」
俺が玉座の間に入っていったとき、彼女が俺に剣を構えたのをいっているのだろうか。
「いえ、無礼をいたしましたのは自分のほうです。申し訳ない」
そもそも、彼女は当然のことをしただけで、謝るということはないのだが・・
「そのお詫びといってはなんですが、我が真名
をお受け取りください。
我が真名は愛紗と申します。
これからは愛紗とおよびください」
「いえ、無礼をはたらいたのはこちらである故、
・・それに、あなたはいたって当然のことをしたまでで、
そのようなことでは真名は受け取れません」
「もう、わかってないなー呂白さんは。愛紗ちゃんはちょっと照れて、
そういうことをいっているだけだよー」
俺が真名を受け取るのを拒んでいるとそんなことをいいながら劉備が近づいてくる。
「とっ、桃香様!」
劉備のいっていることがあながち嘘ではないみたいに愛紗は赤くなりながら慌てていた。
「あ、の・・?」
愛紗が赤くなり、もじもじしながらなにかをいおうとしている。
きっと、さきほどの続きなのであろう。
「はい、わかりました、愛紗殿。自分は刃といいます。」
「殿はいりません、それに敬語も・・」
「わかった、愛紗、これからもよろしくな」
「あーずるいー、愛紗ちゃんって意外にちゃっかりしてるんだからー。
呂白さん、私のことは桃香ってよんでね。」
「よろしくな、桃香」
「うん!」
そういいながらまたもとの場所に戻っていく彼女の笑顔は明るく輝いていた。
そんな笑顔をみて俺はやっぱり急いで来たかいがあったと思った。
「あの、刃殿、お願いがあるのですが・・・
よろしいでしょうか?」
そんなことを考えていると愛紗が俺の袖をくいくいと引いていた。
「?俺にできることなら」
「あの・・・私と手合わせをお願いしたい」
「・・・それはきつい話だな愛紗、
俺には愛紗のような武はないよ」
「そうですか?張任、冷苞を単騎で討ち取ったその武、
ぜひ見てみたいのですが・・・・」
まったく愛紗は何言ってるんだ、
武神、関雲長にかてるわけないだろ・・・
恋!たのむ!またフォローしてくれ!!
俺はそんなことを思いながら恋をみる。
しかし、恋には俺の思いは届かなかった。
「・・・・・(コクッ)・・にぃにぃ、恋より強い」
・・・っっ!!恋っ、それはないだろう・・・
関羽だぞ、というか、恋、恋と戦ったこともないし、
それにあの呂布に勝てるわけがない・・・
というか、恋おもしろがってないか?
「・・・ふむ、恋がそういうなら間違いないでしょう、
お願いします、呂白殿」
ここで断ればずっとそのことをいってきそうでこわいしな・・
まあ、なんとかなるの・・かな・・
はあ・・・
「わかったよ、愛紗、ほどほどにたのむ」
「それは、あなた次第です。刃殿。」
そういって、ふふっと笑う愛紗だった。
その日は一日中、成都から笑いが絶えることはなかった・・・
それはまるで暗い夜を
昼間の明るさのようにつつみこむ
まぶしい光であった。
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仲間の無事をしり、歓喜する蜀の将兵たち。そこに、呂白の姿がないとしった桃香たちは彼をおいかけた。