No.473881

~貴方の笑顔のために~ Episode 13 残されたもの

白雷さん

劉備の甘さはパンドラの箱をあける鍵だった。
それは、彼女たちにあらゆる禍をもたらした、
果たしてそこに何が残っていると言うのであろうか?

2012-08-22 19:11:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:13996   閲覧ユーザー数:11025

~成都~

 

桃香たちの無事を知り安堵する蜀の将たち

しかしそれは桔梗の言葉から絶望へとかわる・・・・

 

「ねねはわからんが、恋と雛里は死んだよ」

 

 

 

「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」

 

その一言は、おそらく、彼女たちが今まで聞いた中でも、心に響く重い一言だったのであろう。皆がその言葉を疑い、半ば呆然としていた。

 

 

「・・・えっ?あっ、あの、その、うそだよね・・・・

 そんなの・・・」

 

桃香は、玉座から、立ち上がりフラフラと皆のもとに歩いていく。

その足取りに王の威厳はなかった。

 

「桃香様、本当のことです、恋ちゃんは火計にあい、雛里ちゃんは

 伏兵の冷苞さんの部隊により・・・戦死、しました・・・」

 

そう泣きながら言う紫苑、

その姿をただ茫然とみている桃香たち・・・・

 

信じられない

 

きっと皆が思ったその一言。

 

なにかが間違っている。もしかしたら彼女たちは誤報を伝えられたのかもしれない。

そう誰もが希望にすがみついていた。

 

しかしその彼女らの思いをかき消すかのように伝令がやってきた。

 

 

「報告します!」

 

「こんな時に・・何だ!?」

 

愛紗が苛立ちながら、伝令にそう聞く。

 

「はっ、・・陳宮様がおもどりになりました」

 

「ねねは無事じゃったか・・・それで、ねねは今どこにおる?」

 

「はっ・・・・・・」

 

「どうした?」

 

「・・・近くにいるのですが、

 そっ、その我々がなんといっても

 反応せず、まるで魂がぬけてしまったような

 そんな様子なのですが・・・」

 

その伝令の言葉で、その場にいたすべてのものがおもった。

今まで聞いたことが

 

“事実”

 

なんだと。

 

 

静寂なとき・・それはいつしか慟哭のときへと変わっていた。

 

 

「・・・う・・そ・・です。雛里ちゃんが・・し・んだ?

 なんで・・・この前まで笑って・・・

 一緒にいた・・・のに」

 

親友の死・・・それに呆然とする朱里。

他のものも何が何だか分んなかった。

ただ受け入れられなかったのだ、その現実を。

 

「・・・わっわたしのせいだ・・・

 わたしのせいで恋さんと雛里ちゃんが・・・」

 

桃香は自分の甘さがこの事件につながったのだとそう思い、

ただ魂が抜けたように、呆然としていた。

 

「桃香様のせいではありません!」

 

そんな慰めの言葉も桃香にとっては辛かった。

かえって、みんなが自分を責めてくれた方がよっぽど楽になれる

と、そう思っていた。

 

「愛紗ちゃんはだまってて!!」

 

「・・・っ!!(ビクッ)」

 

「私のせいなんだよ・・・わたしがあのとき

 張任さんたちを仲間にしようっていったから・・

 あのとき私がわたしが“では、聞きたい、劉備殿”・・・っ!?」

 

桃香の言葉に誰もが口をつぐんでいた中、その静寂を打ち破るかのように

男が王座の間に入ってくる。

その男の姿は漆黒の外套で覆われ、仮面をかけている異様な姿だった。

 

「だっだれだ、貴様!」

 

その、不気味な男の姿に身構える愛紗。蜀の将の多くがその男に対し愛紗と同様に

構えていた。

 

「ぬ、ぬしはたしか・・・」

 

そんななか、何とも言えない様子で桔梗が皆の前に一歩進み出る。

 

「桔梗様、こいつのことをしっているのですか?」

 

「・・・あぁ・・こやつは呂白じゃ・・」

 

 

「「「「「「・・・・・・っ!!」」」」」」

 

 

桔梗の言葉に皆が驚きの表情を表した。

 

 

 

 

~一刀視点~

 

 

「二人にお願いがある。二人には死んでもらいたい」

 

俺は小屋のなかでそう言いながら成都に行くための準備をしていた。

 

「・・・それはどういう?」

 

俺の言葉に含みがあったのを知ったのかそう雛里が尋ねる。

 

「俺は、今回の事件で、蜀王、劉玄徳とすこし話がしたいんだ。

 この事件をどう考えているか、そう問いたい。

 雛里ならこういえばきっとわかってくれるはずだが」

 

「・・・はい」

 

雛里は一刀の言っていることの心理はわかったという顔をしているが、

どうも納得していない様子だった。

 

「ごめんな、雛里たちにはつらい役回りになってしまうかもしれない。」

 

でも、俺は聞かなければいけない。知らなければいけない、この世界における

劉玄徳という存在を。彼女の生き方を。

俺が愛した女性に王として立ち向かったその真実の姿を。

そしてこれから肩を並べて歩んでいく王としての器を。

華琳・・・、君が認めた友の姿を。

 

「・・それでも、私は信じています」

 

雛里は俺の意図を察してくれたのかそう言ってくれた。

 

俺にとって、今回の件を彼女がどう捉えているのか、それが疑問だった。

彼女がとった方針で、二人の大切な友を失っていると彼女たちはそう思っているだろう。

その事実を彼女がどう受け止めているのか、俺は知りたかった。

 

「では、劉備殿と話を、させてくれないか」

 

「・・・私は何を?」

 

「玉座の間までの抜け道を教えて欲しい、それと、君たちには俺が玉座の間を出るまで、見つからないところにいてほしい。蜀にいくまではこの外套で姿を隠してもらう」

 

「・・・なるほど、そういうことですか。   しかし、刃さん。私はなにも桃香様のためだけにあなたを止めたかったわけではありません。

 そんなことをしてしまうと、あなたはかなりの危険を背負い込むことに

 なりますけど・・」

 

「大丈夫だ、俺は」

 

心配しそうにしている雛里の頭を撫でる。

 

「その根拠は、なんですか?」

 

根拠・・・

 

「あなたがそれを行う、利点はなんですか?」

 

・・・

「そんな大それたものはないよ。あるとしたら、ちょっとした、

 兄としての、そして君の友としての誇りだけだ。」

 

「そう、ですか」

 

そういう雛里の表情は先程までの暗いものではなく、笑顔であった。

 

 

 

 

 

 

 

「貴方が呂白か?」

 

俺は、今そうした過程で玉座の間にいる。

玉座の間の雰囲気は絶望に包まれ、そしてその中心には劉備がいた。

彼女の目は何をも見ていなかった。

ただ、虚ろであった。

 

「はい。 私の性は呂、名は白、字は乱舞、

 飛将軍呂布の兄です。

 私の要件はただ一つ、」

 

そういって俺は、刀に手をかける。

だれもがいきなりのことでなんのことかわからなかった。

瞬間、劉備を除く蜀将が緊張に包まれる。

 

「自分の妹の仇をうちにきた」

 

そういって、俺は劉備にむかって歩いていく。

しかし、そんな俺を遮るかのように周りの皆が剣をぬき俺に構える。

 

「やっ、やめて、みんな」

 

今にも蜀将が飛び出しそうな状態にあったとき、劉備がたち、そういう。

 

「ですが、桃香様!」

 

「桃香様は下がっていてください」

 

 

 

「やめて、お願いだから。剣を、しまって・・」

 

そういって、劉備は俺の方へと歩み始めた。

 

「桃香様!危険です!」

 

「大丈夫だよ、もう。みんなには心配かけちゃって、ごめんね。

 けれど、これは私が行かなきゃいけないから」

 

そうして、劉備は俺の目の前にあゆみ出た。

 

「なんの真似ですか、劉備殿、わざわざ切られに来たというのですか」

 

「・・違います。」

 

「では、これはなんの真似ですか」

 

俺の前に劉備は膝まづきそして涙を流していた。

 

「私にはこれくらいしか、できることはないですから。」

 

「それで、自分が貴方を許すとでも・・・」

 

「思っていません・・」

 

「・・・一つ、聞きたいことがあるのですが。  

あなたは今回の事件について、どう考えているのですか?

 

「・・・」

 

「あなたは先程からずっと涙を流している。

 それはつまり、あなたがとった判断をあなたは後悔しているということですか?

 あなたの判断で仲間を死なせてしまったと、そう後悔しているのですか?」

 

そう・・・劉備の理想は甘い、

 だからこそそんな理想を歩むうえで、その道を後悔し

 前にすすむのをやめることなんて俺は許さない。

 それは他のものの命を背負ってることさえしない

 “逃げ”なのだから・・・

 

 

 

「私は・・・わたしはっ・・・後悔していません」

 

涙を流しながらも、その声はその涙で聞きづらかったけれども、劉備は

必死にそういった。

 

「なぜ、ですか?張任はあなたの仲間を殺したのですよ!

 そいつらをうらまないのですか?

 俺はにくいです。特に冷苞が、

 最愛の妹を手にかけたのですから。

 だから、俺は冷苞をうちました、この手で。」

 

劉備は俺の質問にギュッと自分の袖を握りしめる。

 

「うらまないっていったら嘘になります。けれど私は・・・私は、後悔していません。

 恋ちゃんと雛里ちゃんからしてみれば私は最低なことをいっているのかもしれない・・・

 そして、恋さんのお兄さんであるあなたからしても私は意味わからないことを

 言っているのかもしれない。

 けれど、恨んで、憎んで、その先に何があるというのですかっ!

 そんなことをしてしまったら私たちは、すべての人を恨まなくならなきゃいけないかもしれません。

 私は決めたんですっ!たとえ恨まれてもそれを私で止めるって。

 争いをせず話し合う、

 そしてみんなが笑顔になる国をつくる、

 それが私の理想です!私たちの理想なんです!

 それはみんなで支え合いながらここまで歩み続けてきた道なんです!

 そして、蜀の王たる自分の姿なんです!

 だから、私は変えたりしてはいけないんです。それは私だけの道では

 ありませんですから。

 だから、・・・そのために行ったことには私は、私は後悔はしません!」

 

そう涙しながらいう劉備。

 

そうか・・・悔やまないでなお仲間のために涙をながすか・・・

以前、徐州から益州へゆくとき関羽は 交通料じゃないってわたさなかったときには、

現実を見ないただ甘い王だとおもったが・・・

強くなったんだな・・・・

なぁ、華琳、

 

 

「そう、ですか。では劉備殿、今一度おききしても?

 貴方のの理想はなんですか?」

 

「みっ、みんなと笑顔で平和な国をつくることです」

 

「ではなぜ涙をながすのです?前に進むためには不要な

 ものだと思うのですが」

 

「そっそれはちがいます、呂白さん。

 仲間のために涙を流せない人なんて

 平和な国をつくれないんです。

 それにこの涙は悲しさだけのものではありません!」

 

「劉備殿・・あなたはその道をどんなに辛いことがあったとしても

 その命にかけて、一生つらぬけると、そう言えますか?」

 

「はい・・・それはつらいかもしれない

 ・・・でもっ私は歩みつづけます!」

 

そういって立ち上がった劉備は王としての威厳があった。

 

その時、俺は思い出す。

あの夜に華琳が言った言葉を。

 

「なぁ、華琳、劉備と仲良くなったんだな」

 

「ああ、桃香ね。 そう、ね」

 

「この前までただの甘たれと罵っていたのは嘘だったのか?」

 

「いえ、それは本当よ。一刀。

 でも、一刀、それでも彼女は、確かに私と肩を並べるに等しい器をもった

 王だった。

 ねえ、一刀、桃香の良いところはどこだと思う?」

 

「なんだろうな。理想を仲間と共有するところか?」

 

「違うわ。それでは誰だって、できるじゃない。

 彼女がもっているものは私になくて彼女にあるものよ」

 

「華琳にないものなんて、あるのか?」

 

「私だって人の子よ、あるにきまっているじゃない」

 

「なんなんだ、それって、」

 

「それはね、一刀もそのうち気がつくでしょうけど、

 彼女は理想を決して捨てたりしないということよ。

 理想は誰だってもてるわ。だけどその理想を一生貫ける者なんてめったにいない。

 自分が不利になったとき、自分の手がその理想に届かないってそう思ったとき、

 理想というものは簡単に変わってしまうわ。そして、理想に溺れ自分を見失う者までいる。

 だから私は嫌いだった。現実を見ないで、理想を言っている人たちが。

 けれど、一刀、桃香はしっかりもっていたわよ。彼女の道を。

しっかり、あの肩で背負っていたわよ、仲間たちの思いを。

 彼女は理想を最後まで貫き通せる人間だわ。」

 

 

俺は、そこまで思い出すと自然に笑みがこぼれる。

 

確かにな、華琳。俺も今わかったよ。痛いほどに・・

だって、彼女の目は、俺を見ているめはこんなにも真っ直ぐなんだから。

 

「そう、ですか。  今までの無礼の数々、なんといって

 いいかわかりません。 申し訳・・」

 

そういいながら俺が膝をつこうとすると劉備が俺に手を差し伸べる。

 

「・・劉備、殿?」

 

「そんなことしないでください、呂白さん。」

 

そういう劉備の目は温かいものであった。

 

「ありがとうございます、劉備殿。もう少し、一人になって考え直したいと思います。

  では、自分はこれで」

 

そう言いながら、俺は場所をあとにした。

 

 

~桃香視点~

 

私は、絶望のそこにあった。

私がとった道のせいで、大切な友達を二人も失ってしまった。

もうなんでもいい、そう思った。

 

けれど、そこに、光をさしてくれた、いや私が王なんだと気づかせてくれた

人がいた。

それは、恋さんのお兄さんだった。

 

彼が去ってから、再び玉座の間は静寂に包まれていた。

 

 

しかし、そのあと私は、とんでもない光景を目にしたんだ。

 

なぜなら玉座の間の扉がいきなり開けられて、そして、

 

そこには・・・

 

 

今まで逝ってしまったと思っていた二人が立っていたから。

 

 

「あわわ・・・ただいまでしゅっ」

 

「・・・・みんな・・・ごめん」

 

 

私をはじめ、皆はその光景になにも言えなかった。ただ、動揺していた。

夢をみているのではないかと。

 

 

「「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」」

 

 

「あわわあわわわわ・・・なんか静かです。」

 

「??」

 

それ、でも、ただ今いえること、

それはこれが・・・今この瞬間は、私が見ているこの光景は、現実なんだってこと。

 

だって、つねっている頬がこんなにも痛いんだから。

 

私は駆け出した。

 

 

 

「おかえり!恋ちゃん!雛里ちゃん!」

 

 

そういって私は二人に抱きついた。

 

 

 

 

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」」」」」」

 

 

一時の静寂ののち、場は歓喜の声で満たされた。

 

 

 

パンドラの箱・・・開けたそのなかには

最後に“希望”が残っていた。

 


 
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