『まず、君は一つ気になっている所があると思うけど、どうして私が君の正体を見破ったのかという事から話しておく。確かに今の君の格好では高町なのはだという人物だとはだれも思わないだろうし、お面を掛けているから私以外は誰も気づくはずがないだろう』
「……何が言いたいの?」
ミルティオルが言ったことはその通りであり、今の姿は高町なのはだったという事を言われても誰も信じないぐらいの恰好をしている。高町なのはに似ていると言われるのは顔だけで、自分が高町なのはだという事を気づかれないようにお面を付けているのである。
だが目の前の画面に映っているミルティオルはすぐに自分が高町なのはだという事に気づかれた。どうしてわかったのかとナノハが思わないはずがなく、ミルティオル自ら教えてくれるという事もあって気になっていた。
『私が君の正体が高町なのはだと気づいたのは簡単な事だ。君と私は深い関わりが存在しており、そのおかげで君の正体が知ることが出来たという事だ』
「……私とあなたの間に深い関わり? そんなもの、私にはないけど?」
『いやあるはずさ。高町なのはだからというわけではなく、ゼーゲブレヒト家として私とは関わりがあるはずだ』
「っ!?」
ゼーゲブレヒトとして関わりがある。そう言われてナノハは驚いたが、すぐに思考を回転させる。
ゼーゲブレヒトとして関わりがあるという事はベルカ時代に関係があるという事であり、シルフィア姉妹と同じようにミルティオルは何かの末裔であるのだろうと思った。
そこまでは考えが付いたがそれ以上の事はナノハには出てこなかった。オリヴィエの記憶があるとはいえ、オリヴィエの生まれた頃から亡くなったころまでの記憶を持っているので、どの末裔だという事を記憶の中から探るのは難しいためミルティオルが誰の末裔だという事までは分からなかったのある。たぶんベルカ時代の戦争していた時代ではあると思うが、それでもオリヴィエが知っている人物は多数存在しているのでその中から探すのは無理であった。
その様子を見ていたミルティオルはナノハがまだ自分が誰の末裔だと気づいていないように見えたので、ヒントを言い始めるのだった。
『まだ気づいていないようだから少しヒントを伝えておく。私の先祖はオリヴィエがかなり関わりがあった人物であり、あの戦争の時に表立った行動をしていた人物だ。それだけでもまだたくさん思いつく人物がいると思うが、これくらいのヒントを言えば私が誰の末裔か分かるだろう』
ミルティオルの言い方は、まるでナノハがオリヴィエの記憶を持っているような言い草であった。ナノハもその事に気づき、どうしてその事まで知っているのかと思ったが、すぐに思考を回転させた。
戦争時にかなり関わりがあり、オリヴィエの記憶をなのはがすべて覚えている事を知っている人物。特に後者は特定の人物に言っていないのでかなり絞られていた。そのうちの一人にはシエルフィ・シルヴェルンであるが、実はほかにもエクスティアとカリべリティアの存在と効力を知っている人物はいた。しかし、シエルフィ・シルヴェルン以外の人物にはどこに力を封印したかという事は伝えてなかったので、それ以上の事は知らなかったのである。
そしてシエルフィ・シルヴェルン以外に知っていた人物は立った二人。そのうちの一人は子孫を残さずにオリヴィエと一緒に亡くなっている事を知っているので、必然的に一人に絞られてしまった。オリヴィエにとってその人物とはエクスティアとカリべリティアの存在と効力を教えた数日後に裏切り、そしてオリヴィエはその彼が裏切る前にとんでもないことをしていたのを知ったので、良い印象を持っていなかった人物であった。
「……まさか、ベスカ・アンデュリッヘの子孫だというの!?」
『いかにも。かつてはオリヴィエの仲間として活動しており、戦争の最後辺りで裏切った人物だと言われている人物の子孫だよ』
それは、オリヴィエの記憶を持っているナノハにとって最悪のことであった。
ベスカ・アンデュリッヘ。歴史上はオリヴィエ・ゼーゲブレヒトを裏切った人物であり、ある国のスパイだと言われている。その事は確かに事実であるのだが、彼がやっていたことは非道で外道とオリヴィエが思っていた人物であった。自分と自分の知り合い以外の人間を物としか思っていないような人間であり、裏切ってから非道な実験などをしていたという事を知ったのである。
だからこそオリヴィエの記憶を持っているナノハにとってはベスカ・アンデュリッヘの子孫には絶対に会いたくないと思っていたぐらいであった。だがそれとは逆に、人体実験を公認していた首謀者がベスカ・アンデュリッヘの子孫だと思うと、ベスカ・アンデュリッヘの血を持っているという事を考えると納得してしまうところあった。
「とにかくミルティオル・ベスカ中将だという事は分かった。だけどどうして私を呼び止めた? 私はさっさとほかの所へ向かって開かなかった扉を開けたいのだけど」
『あぁ、あの部屋については後でパスワードを教えるよ。別にそれほど必要なものもないからな?』
「……どういうつもり?」
『だから言っただろう? それほど必要なものはあの部屋の中にはないと。まぁ、あの中には君にとっては重要な事があるかもしれんがこっちにとってはもう必要ないのでな。っと、話が逸れた。それでは本題へと入らせてもらう』
ミルティオルは一度言葉に間を空けて、そしてナノハに話し始めるのだった。
『ナノハ・ゼーゲブレヒト。私の仲間にならないか?』
「そんなの、聞かれる前にお断りよ。私が何のために動いているのか分かっているのでしょ? それなのに私を仲間に勧誘するなんてどうにかしてる」
『そんなことは知っているさ。だが、君の友達たちがどうなってもいいのかな?』
「…………」
その言葉に、ナノハは黙ってしまった。どうやらミルティオルは人質を取ったりしてどうにかナノハを手に入れたいのだろうと思った。
そこまでして自分が欲しいのかと思いながらも、ナノハはだまってミルティオルの言葉を聞く。
『とくに、自分の娘である高町ヴィヴィオに何かあったら君にだって困るのだろう? それでも君は私に仲間にならないというのか?』
「…………」
『その話を聞いてもだんまりか。私だってそれほど時間がないのだからなるべく早く返答を貰えるとうれしいのだが』
「……最低ね、あなた。私と同じエースだとは聞いていたけど、こんなにも最低だと思っていなかった。それに私の考えはとっくに決まっているし、何があろうと揺るぎはしない。たとえそれが、ヴィヴィオが誘拐されようとも」
ナノハは自分の友達や犠牲になろうとも、そんな覚悟はとっくに決めている。そのために今まで行動してきたのだし、今更そんな話を持ち出されたとしても同様なんてするナノハではなかった。
だが、その事にミルティオルは驚いていた。ミルティオルが聞いていた話とは全く違っており、今の言葉でナノハが揺らぐだろうと思っていたのである。
「それと、あなたが考えていた事なんて分かりやすかった。どうせ私を仲間に入れられればフィルノ達を殺すのは楽になるからでしょ? 分かりやすすぎて笑いたくなったぐらいだし、あなたがそんなにバカだとは思わんかったぐらい」
『ぐっ……』
「それで本題の話は終わったから、早くあの開かない扉のパスワードを教えてもらいたいのだけど? まさか、自分で言っておいて教えないというのはないよね?」
『……「f92snsw8ifp74nad」だ』
「ありがとう。それじゃあ今度会うときにはもっと分かりやすいような勧誘は止めることね」
ナノハはミルティオルに対して屈辱的な言葉を言い放って、通信室を後にするのだった――
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J・S事件から八年後、高町なのははある青年に会った。
その青年はなのはに関わりがある人物だった。
だがなのはにはその記憶が消されていた。
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