No.474677 IS -インフィニット・ストラトス- ~恋夢交響曲~ 第十八話キキョウさん 2012-08-24 14:15:51 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:933 閲覧ユーザー数:906 |
「遅い!」
第二グラウンドに無事到着したのだが、やっぱり時間には間に合わず、鬼教官に怒られてしまった。これ以上怒られるわけにはいかないので、急いで一組整列の端に並ぶ。
「ずいぶんとゆっくりでしたわね。スーツを着るだけで、どうしてこんなに時間がかかるのかしら?」
「道が混んでたんだよ」
冗談混じりに一夏が答える。実際俺たちの通る廊下は大渋滞してたしな。
「ウソおっしゃい。いつもは間に合うくせに」
「おい、お前らその辺にしとけって」
「ええ、ええ。一夏さんはさぞかし女性の方との縁が多いようですから? そうでないと二月続けて女性からはたかれたりしませんわよね?」
俺の制止も聞かずに一夏をなじるセシリア。彼女は一夏に何か恨みでもあるのだろうか?
「なに? アンタまた何かやったの?」
後ろの列から声が聞こえる。後ろの列は二組の列なので、声の主を特定するのは簡単だった。
「鈴、お前も参加するなって・・・」
「なによ、あたしには関係ないってわけ?」
いや、そういう意味じゃなくてだなぁ・・・。
「こちらの一夏さん、今日来た転校生の女子にはたかれましたの」
「はぁ!? 一夏、アンタなんでそうバカなの!?」
「安心しろ。馬鹿は私の目の前にも二人いる」
案の定、鬼教官が登場。だからやめとけっていったのに。今日も朝から出席簿があいも変らぬ音で響き渡るのだった。
◇
「では、本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を行う」
「はい!」
今日から本格的な実践訓練ということもあって、みんなの返事にもどこか気合いが入っている。
さっきから主に俺の横のほうと後ろのほうから気合いが入っているとは言い難い文句が聞こえるが、気のせいだと思っておく。
「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょっと活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。――凰! オルコット!」
「な、なぜわたくしまで!?」
まぁさっきの雑談が主な原因だろうな。だからやめとけって言ったのに。
「専用機もちはすぐに始められるからだ。いいから前に出ろ」
「だからってどうしてわたくしが・・・」
「一夏のせいなのになんであたしが・・・」
「まったく・・・。お前ら少しはやる気をだせ。――あいつらにいいところを見せられるぞ?」
最後のほうは聞き取れなかったのだが、その言葉を聞いた瞬間、二人は妙に生き生きとしてきた。
「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」
「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね! 専用機もちの!」
さっきとは打って変わってすごい気迫だな。一体織斑先生に何を言われたんだ?
「それで、相手はどちらに? わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」
「ふふん。こっちのセリフ。返り討ちよ」
「あわてるな馬鹿ども。対戦相手は――」
織斑先生が対戦相手の名を告げようとした時、どこからかISの飛来する音とともに、
「あああああああっ~! ど、どいてください~っ!」
と山田先生の叫び声が聞こえた。その叫び声の方を見ると、こちらのほうに向かって一直線に先生が向かってきている。
「あ~、一夏。頼んだ」
とりあえず山田先生を止める役目を一夏に押し付けようと、先生の進行方向上に一夏を押し出した。
「って、ええっ!?」
と、思ったら俺の体まで一夏の方向について行く。あろうことか、一夏が俺の手をすんでのところでつかんだらしい。
「さっきの二の舞はくわないぜっ! お前も道連れだ、奏羅!」
「バ、バカっ!」
ドカーン!
俺たちは山田先生の突進を受け、数メートル後ろに吹っ飛ばされた後、ゴロゴロと地面を転がった。
「い、一夏・・・、生きてるか・・・?」
「なんとかな・・・。白式の展開が間に合わなかったらどうなってたか・・・」
ふにゅっ。
「「ん?」」
一夏と俺の声がはもる。左手にに伝わる柔らかい感触。いままでなんか触ったことあるようなないようなそんな不思議な感触が掌に伝わっている。
「あ、あのう、織斑くん、天加瀬くん・・・ひゃん!」
山田先生の声が聞こえる、俺の左のほうから。おそるおそる自分の左手のほうに目をやると、そこには、俺の左手と一夏の右手が仲良く並んでいた。山田先生の上で。
「そ、その、ですね。困ります・・・こんな場所で・・・。しかも三人でだなんて・・・。いえ! 場所だけじゃなくてですね! 私と織斑くんと天加瀬くんは 仮にも教師と生徒でですね! そ、それに貴方達二人がいくら仲がいいからといっても二人とも私とだなんて・・・。ああ、でもそれはそれで・・・」
どうやら地面に三人一緒に仲良くゴロゴロところがった結果、俺の左手は山田先生の左の山田を、一夏の右手は山田先生の右の山田を無意識のうちに鷲掴みにしていた。
「う、うわっ! す、すいませ――」
刹那、ハイパーセンサーから送られてくる敵ISが射撃体勢に入るという情報。反射的に体を動かすと先ほどまで顔があった場所をレーザーが通り抜けた。
「ホホホホホホホホホホ・・・。残念です。外してしまいましたわ」
怒ってる、ものすごく怒ってる。実際には見えないがいわゆる『怒りの四つ角』ってやつが、セシリアのおでこに浮いているのがわかる。
「・・・・・・」
ガシーンとなにかを組み合わせる音が響く。見ると、鈴が双天牙月を連結させていた。そういえば鈴があれを組み合わせると投擲もできるって――
「死ねっ!」
ためらいもなく一夏に向けてそれを投げる鈴。ってか、このコースだと俺も巻き添えじゃないですかっ!?
「うおおおおっ!」
なんとか身をかがめてよけた俺と一夏だったが、鈴が投げたそれはブーメランのように戻ってくる。まずい、これは死んだ。
「はっ!」
短く二発分だけ火薬のはじける音がし、双天牙月はその軌道を変える。どうやら、誰かが銃弾を放って助けてくれたらしい。
俺たちはピンチを救ってくれた射手に目を向けると、驚いたことにそれは山田先生だった。
倒れたままの状態から、わずかに上体だけ起こしての射撃であれだけの命中精度。その様子は普段のあわてっぷりからは全然想像もつかない姿だった。
「・・・・・・」
どうやら、驚いたのは俺たちだけでなく、セシリアと鈴はもちろん、普段の山田先生を知っている他の女子たちもだった。
「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」
「む、昔のことですよ。それに代表候補生どまりでしたし・・・」
ぱっといつもの雰囲気に戻る山田先生。織斑先生の言葉に照れているのか、ほほが少し赤かった。
「山田先生って代表候補生だったんですか・・・」
「え、ええ。さっきも言った通り、代表候補生どまりでしたけどね」
俺の質問に、恥ずかしそうに答える先生。うーん、やっぱりいつもの山田先生からは想像もつかないな。
「つまり、山田先生は本音スペシャル・朝ご飯バージョンということか・・・」
「えっ? ど、どういうことなんですか?」
「あー・・・。いえ、なんでもないです」
見た目はあれだが、中身はおいしい。それが本音スペシャル。山田先生もつまりはそういうことだろう。
「さて、小娘どもいつまで惚けている。さっさとはじめるぞ」
「え? あの、二対一で・・・?」
「いや、さすがにそれは・・・」
「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」
負ける、という言葉が気に障ったのか、セシリアと鈴は再びその瞳に闘志をみなぎらせる。
「では、はじめ!」
織斑先生の号令と共に空中へと飛び出す二人。それに続いて山田先生も飛翔する。
「さて、今の間に・・・そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」
「あ、はい」
空中での戦闘をみながら、シャルルが山田先生のISについて解説を始めた。
「山田先生の使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代開発再後期の機体ですが、そのスペックは初期第三世代型にも劣ら ないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体です。現在配備されている量産型ISの中では最後発でありながら世界第三位のシェアを 持ち、七カ国でライセンス生産、十二カ国で正式採用されています。特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばないことと多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)を両立しています。装備によって格闘・射撃・防御といった全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティーが多いことでも知られています」
「ああ、いったんそこまででいい。・・・終わるぞ」
シャルルの見事な説明に聞き入って忘れていたが、セシリア、鈴、山田先生で戦闘が行われているんだった。改めて空を見上げると、山田先生の射撃にいいようにセシリアが誘導され、鈴と激突したところにグレネードを投擲。爆発が起こり、二つの影が地面へと落下した。
「くっ、うう・・・。まさかこのわたくしが・・・」
「あ、アンタねぇ・・・何面白いように回避先読まれてんのよ・・・」
「り、鈴さんこそ! 無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」
「こっちのセリフよ! なんですぐにビットを出すのよ! しかもエネルギー切れるの早いし!」
「ぐぐぐぐぐぐぐぐっ・・・!」
「ぎぎぎぎぎぎぎぎっ・・・!」
なんというか、両者の主張はそこそこあってるのでなんだか余計にみっともなく見えてくる。そんな二人の様子に一組、二組の女子からくすくす笑いまで起こっていた。
「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」
いつも通り手を叩いて、織斑先生がみんなの意識を授業に戻した。
「専用機もちは天加瀬、織斑、オルコット、デュノア、凰、ボーデヴィッヒだな。では六人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな? では分かれろ」
その言葉とともに、二クラス分の女子が俺、一夏、シャルルのところに集まってくる。
「織斑君、一緒に頑張ろう!」
「わかんないところ教えて~」
「天加瀬君、わたしたちがついてるよ!」
「倒れてもちゃんと介抱してあげるからね!」
「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ」
「ね、ね、私もいいよね? 同じグループに入れて!」
集まってくるまでは予想通りだったのだが、思っていたよりも人数がいるので、俺たちはどうしていいか分からず呆然と立ち尽くしてしまう。その状況を見かねたのか、あるいは自分の浅慮に嫌気がさしたのか、織斑先生は面倒くさそうに低い声で告げる。
「この馬鹿者どもが・・・。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百周させるからな!」
この一言にそれまでわらわらと群がっていた女子たちは、蜘蛛の子を散らすように移動して、それぞれの専用機もちのグループはすぐに出来上がった。
◇
「では午前の実習はここまでだ。午後は今日つかった訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」
全員が起動テストを終えた俺たちの班は、格納庫にISを移してから再びグラウンドへ。なんとかスムーズに出来るようにみんなが協力してくれたおかげで、俺たちの班は少し早く終わったのだが、一夏の班は本当に時間ギリギリだった。
「あー・・・。あんなに重いとは・・・」
「お疲れさま、一夏」
一夏の班は一夏一人で結構な重量のあるISを運んでいたので、だいぶ疲れているようだった。ちなみに俺の班はみんなが一緒に手伝ってくれたので問題はなかったが。
「まあ、いいや。奏羅、シャルル、着替えに行こうぜ。俺たちはまたアリーナの更衣室に行かないといけないしよ」
「え、ええっと・・・僕は機体の微調整をしていくから、先に行って着替えててよ。時間掛かるかもしれないから、待ってなくていいからね」
「ん? いや、別に待ってても平気だぞ、な、奏羅?」
「ああ、それに微調整するなら俺も手伝うよ」
「い、いいからいいから! 僕が平気じゃないから! ね? 先に教室に戻ってて、ね?」
「お、おう。わかった」
妙な気迫に押され、俺と一夏は頷いてしまう。そういえばさっきの更衣室の出来事と言い、なにか着替えたりする時に不都合でもあるのだろうか?
とりあえず本人もああ言っていることだし、待っていても仕方ないので、俺たちはさっさと更衣室へと向かった。
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