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IS -インフィニット・ストラトス- ~恋夢交響曲~ 第十七話

キキョウさん

恋夢交響曲・第十七話

2012-08-23 23:54:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:918   閲覧ユーザー数:895

「奏羅、朝飯に行こうぜ」

 

「おう、ちょっと待ってくれ」

 

俺と一夏が同じ部屋になって数日。俺と一夏は朝は毎日一緒に食事をとっている。ルームメイトかつクラスメイトということもあるのだろうが、やっぱり男同士っていうのは変に意識しないので落ち着くっていう理由が一番だろう。

 

「一夏、いる?」

 

「おう」

 

廊下から聞いたことがある声が聞こえる。一夏がドアを開けると、そこには凰さんが立っていた。

 

「い、いきなり開けないでよ! びっくりするでしょうが」

 

「何の用があるんだ、鈴? 俺と奏羅は今から朝飯食べに行くんだが」

 

「ふふん。まさにそうじゃないだろうかと思って誘いに来てあげたのよ。・・・奏羅がいることは誤算だったけど」

 

あの一件の後、一夏と鈴の仲は元通りに戻っていた。まさに雨降って地固まるだ。雨といわず土砂降りだったような気がするが。

ちなみに、あの一件以来俺も『鈴』と呼んでもいいといわれた。俺はまだそこまで親しくないような気がしたんだが、彼女いわく、

 

「あ、あんたがあの時『友達』って叫んだんでしょうが!」

 

らしい。そういえば無人機の襲撃の時、俺の友達に手を出すなとか言ったような言わなかったような。

 

「そりゃあどうも。じゃあ食堂に行こうぜ」

 

「ええ」

 

三人で並んで歩きだす。朝ということもあり、ところどころドアが開いており、中から制服姿の寮生が出てきていた。

 

「お。織斑君と天加瀬君だ。やっほー」

 

一人のほほんとした子が、俺たちに手を振っている。確か名前は、布仏本音(のほとけほんね)・・・だったかな?普段一夏がのほほんさんと呼んでいるので、いまいち名前があってるか不安になる。

 

「やー、おりむーにまかせー」

 

「その愛称は決定なのか?」

 

独特のあだ名に一夏が突っ込む。まかせーって俺のことだろうか?

 

「決定なのだよー。それよりさぁ、私と一緒に朝ご飯しようよー」

 

まるで構ってほしい子犬のように接近してくる彼女。昔ペットショップでこんな犬を見たことがある気がする。

 

「残念、一夏はあたしと朝ご飯するの」

 

「わー、りんりんだー。勇気が出そうだねー」

 

「そ、その呼び方はやめてよ!」

 

鈴は声を荒げるが、布仏さんはまるでのれんに腕押し、ぬかに釘といったようすだ。こんなところは旭に似てるな。

 

「まあ、鈴。落ち着けって。別に四人で食べてもいいだろ?」

 

「よくないけど・・・いいわよ」

 

よくないのかいいのかはっきりしない返事を返す鈴。まぁ彼女にとっては俺と布仏さんはお邪魔虫といったところか。

 

「あー、一夏。俺は布仏さんと朝飯食べるわ。お前は鈴と食べてこい」

 

「どうしてだ? みんなで食べたほうがおいしいぞ?」

 

「いや、ほら。朝の食堂は人多いし、別れたほうが座りやすいだろう」

 

「んー。確かにそうだな」

 

よし、もうひと押しだ。

 

「あー、あと俺部屋に忘れ物したからとりに行ってくる。先行っといてくれ」

 

「そ、それはしょうがないわね! じゃあ一夏、先に行きましょうか!」

 

俺の意図に気付いたのか、鈴も援護射撃。

 

「そうか。じゃあ、またあとでな」

 

「ああ、行け行け」

 

俺が促すと二人が並んで歩きだした。

 

『鈴。これで貸し一つな』

 

『・・・夕飯おごるってことでいい?』

 

『わかった』

 

プライベート・チャネルで薄暗い取引が行われていたのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂に着くと、俺たちは食券を買い、食堂のおばさんから食事を受け取る。俺は和風定食をえらび、布仏さんは・・・何かいろいろトッピングを頼んでいたのは覚えてる。

適当にあいている席に着くと、なんだか周りの女子が噂話をしているようだった。

 

「女の子って噂話好きだよな」

 

「そーかなー。私はそうでもないけどなー」

 

確かに布仏さんはそういうことに疎そうな気がする。普段の行動も普通の人より遅いし。

 

「まぁ、それはおいといて・・・。それ、なに?」

 

先ほどから布仏さんがすごい音を立てて食べているもの。彼女が持っているどんぶりの中にはご飯が入ってた気がするが、明らかにご飯を食べている音ではない。

 

「ふっふっふ。これは本音スペシャル・朝ご飯バージョンなのだよ」

 

彼女の話を聞く限り、ご飯の上に複数頼んだトッピングを乗せ、テーブルの上にある調味料で味付けして、かき混ぜたものらしい。

 

「まかせーも一口食べるー?」

 

テーブルの上に常備してあるレンゲでその本音スペシャルを一口分すくうと、俺の前に差し出してくる。先ほどからどんぶりの中を見るのが怖くて覗いてなかったが、案の定レンゲの上には何かよくわからない物体が乗っていた。

 

(これ、ほんとに食べれるのか・・・?)

 

丁重にお断りしようかと思ったが、もし食べなかった時の彼女の落胆した顔がふと思い浮かんだ。捨てられた、子犬のような顔。それを想像しただけでも俺の良心は傷んでしまう。

 

(ええい、ままよ――)

 

俺は意を決してそれを口に入れた。

 

「・・・おいしい」

 

「でしょー。これは自信作だからねー」

 

さっきと同じようにおいしそうに食べている彼女。なるほど、見た目はどうであれ、美味しいかどうかは食べてみないとわからないということか。

 

「まかせー、茶碗蒸しひとくちちょうだーい」

 

「ああ、いいよ。具とかほしいのある?」

 

「じゃあ銀杏ー」

 

他に色々あるだろうに銀杏を欲しがるのか。やっぱりどこか変わってるな、この子。俺は埋まってる銀杏を探し当てると、茶碗蒸しと一緒にスプーンに乗っけて差し出した。

 

「はい、あーん」

 

「あーん」

 

パクリとおいしそうに口に含む様子を見ると、昔動物園か何かで小動物に餌付けしたのを思い出し、なんだか微笑ましくなってきた。

 

「うん、うまーい」

 

「それはよかった」

 

「そ、奏羅さん!?」

 

俺が布仏さんの餌付けを楽しんでると、後ろから洋風定食を持ったセシリアに話しかけられた。

 

「な、何をしていらっしゃるんですか!」

 

「いや、えっと・・・」

 

さすがに餌付けしてたとはいえないよなぁ・・・。

 

「お互いの朝ご飯を交換してたんだよー」

 

おお、布仏さんナイス。そうそう、そういうことにしておこう。

 

「で、では、わたくしとも朝ご飯を交換させてください」

 

そう言いながら俺の隣の席へと座る彼女。

 

「えっ、別にいいけど・・・。何が欲しいんだ?」

 

「さっきそちらの方に差し上げたものと同じものを」

 

銀杏か・・・? でもこれって結構好き嫌いが分かれるものなんだけどな。

 

「おー、銀杏をチョイスするとはせっしーも通だねー」

 

「せ、せっしー?」

 

「愛称だよ愛称。じゃあセシリア、あーん」

 

俺は先ほどと同じように銀杏と茶碗蒸しをスプーンに載せ、セシリアに差し出した。

 

「あ、あーん」

 

パクリと一口。口を動かすにつれて、セシリアの表情が微妙なものへと変わっていく。

 

「な、なんですの、これ・・・」

 

「やっぱり食べたことなかったか。好き嫌いが分かれる食べ物だけど、セシリアは嫌いみたいだな」

 

「じゃあ、次は本音スペシャルをあげるー」

 

布仏さんが例の物体をセシリアの前に差し出した。

 

「あ、あなた・・・。こんなものをわたくしに食べさせるつもりですの・・・!?」

 

「まかせーはおいしいって言ってくれたよー」

 

「そうそう、だまされたと思って食べてみろよ。おいしいからさ、な?」

 

俺と布仏さんでレンゲを近づけていく。セシリアの口まであと一センチ。

 

「ちょ、ちょっと・・・。い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

朝の食堂にセシリアの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、ふざけるのもいいかげんにしてください!」

 

「まぁ、おいしかったんだからいいだろ、別に」

 

「そ、それは・・・。とにかく、あんな悪ふざけはもうやめてください!」

 

あの後結局一口食べたセシリアは、味には納得したようなのだが、どうも機嫌を損ねてしまったようだ。教室に着いてからずっと、俺に文句を言っている。

 

「諸君、おはよう」

 

「お、おはようございます!」

 

気がつくと、休み時間も残り少なくなっており、織斑先生と山田先生が教室に入ってきていた。しかし、織斑先生が現れただけで今まで騒がしかった教室の空気が一変、クラス全員が軍隊のように礼儀正しくなるのは、この一カ月足らずで先生の怖さを思い知ったからだろう。

 

「今日からは本格的な実践訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校 指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まぁ下着で構わないだろう」

 

いや、構うと思うんですが。たぶんこの考えは大半の女子と同じ考えだろう。さすがに俺と一夏がいるので下着はまずいんじゃないだろうか。

 

「では山田先生、ホームルームを」

 

「は、はいっ!」

 

連絡事項を言い終えた織斑先生は山田先生にバトンタッチする。ちょうど眼鏡を拭いていたようで、あわてたように返事をした。

 

「ええとですね、今日は何と転校生を紹介します! しかも二名です!」

 

「え・・・・・・」

 

「「「えええええええええええええええっ!?」」」

 

山田先生のまさかの発言。うわさ好きの女子たちの情報網をかいくぐって、ふたりも転校生が現れたのだからそれは驚くに決まっている。

 

(なんで二人ともこのクラスなんだろうか? 一人は三組とか、四組でいいと思うのに)

 

そんなことを考えているとクラスの扉が開く。

 

「失礼します」

 

「・・・・・・」

 

クラスに入って来た二人の転校生を見て、ざわめきが止まる。それもそのはず、入って来た転校生の一人が男子だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

転校生の一人である男子がにこやかな顔で自己紹介する。その姿にあっけにとられたのは俺だけではないはずだ。

 

「お、男・・・?」

 

クラスの誰かがそうつぶやく。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を――」

 

「きゃ・・・」

 

「はい?」

 

「きゃあああああああああああああああああああああっ!」

 

まるで共振するかのようにクラスの中心から発生した歓喜の叫びは一瞬で教室の隅から隅までに伝播する。

 

「男子! 三人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれてよかった~~~~~~~~~~~~~~!」

 

いやはや、うちのクラスは今日も元気だ。いきなりこんな反応をされる転校生君も災難だろう。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

面倒くさそうにぼやく織斑先生。今日もお仕事お疲れ様です。

 

「み、みなさんお静かに。まだ自己紹介がおわってませんから~!」

 

男子が転校していたということで注目がそれていたが、もう片方の転校生。デュノアを『貴公子』と例えるなら、彼女は『軍人』といった感じだ。与える印象も対照的で、彼の温和な印象に対し、彼女は冷徹な印象を受ける。

 

「・・・・・・」

 

しかし、当の本人はいまだに口を開かず、腕組みをした状態で教室の様子をくだらなそうに見ていた。しかし、それもわずかなこと。今は織斑先生にだけ視線を向けている。

 

「・・・挨拶をしろ。ラウラ」

 

「はい、教官」

 

織斑先生の言葉にすぐさま反応し、佇まいを直して返事をする彼女をみていると、本当に軍人なんじゃないだろうか。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

そう答えると彼女は見事な敬礼を織斑先生に向けた。一夏から聞いた話だが、織斑先生はドイツで軍隊教官として勤めていたことがあったらしい。つまり彼女はドイツ出身の軍人なのかもしれない。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「・・・・・・」

 

クラスメイトたちの沈黙。続く言葉を待っているのだが、名前を口にしただけで彼女はまた口を閉ざしたままだった。

 

「あ、あの、以上・・・ですか?」

 

「以上だ」

 

どこかで聞いたことのあるような自己紹介だが、今回は雰囲気がまるで違う。

この空気にいたたまれなくなった山田先生が精一杯の笑顔でボーデヴィッヒさんに話しかけるが、ことごとく一蹴されてしまう。あっ、先生泣きそうになってる・・・。

 

(なんだか、いろんな意味で厄介な転校生達が入って来たな・・・)

 

いつもの癖で、これから先のことを考えていると急にものすごい音がし、俺は我に返った。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

どうやら今のはボーデヴィッヒさんが一夏をたたいた音らしいが・・・。二人に何かあったのだろうか?

 

(でも今の言葉を聞く限り、どうやら彼女が一方的に怒っているようなんだけどな)

 

クラス中の視線を集めていることに気付いているのかいないのか、彼女はそのまま空いている席に座ると、そのまま腕組みをして微動だにしなくなった。

 

「あー・・・ゴホンゴホン! ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

織斑先生が皆を促すように手をたたく。いろいろ考えていたことがあったが、とりあえず移動しなければ女子がここで着替え始めてしまう。

 

「織斑と天加瀬はデュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

確かにそうなるな。このまま取り残していくとどうなるか分からない。

 

「君たちがIS学園にいる男の子なんだね。初めまして。僕は――」

 

「ああ、いいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始める」

 

一夏が説明すると同時に動き出す。よくわかってないような彼を置いていかないように、俺はシャルルの手をとるとそのまま教室をでた。

 

「とりあえず男子は空いてるアリーナの更衣室で着替え。これから実習のたびにこの移動だから、はやめに慣れてくれ。奏羅、今日はどこがあいてるんだっけ?」

 

「今日は第二アリーナだ」

 

しかし、彼は先ほどと違って、なんだか落ち着かなそうだった。

 

「悪いな、転校早々こんな感じになって」

 

「えっ? ああ、大丈夫だよ」

 

「そうか、まだ序の口なんだけどなっ!」

 

とりあえず階段を下って一階に下りる。しかし俺も一夏もスピードを落とさない。なぜなら――

 

「ああっ! 転校生発見!」

 

「しかも織斑君と天加瀬君も一緒!」

 

そう、HRが終わったのだ。各学年から情報収集のために選抜されたプロフェッショナルがかけだしてきている。これに捕まれば質問攻めの挙句遅刻し、鬼教官からの特別カリキュラムという地獄のフルコースだ。絶対に逃げ切らなければ。

 

「いたっ! こっちよ!」

 

「者ども出会え出会え!」

 

まるで時代劇の様なセリフの後、続々と追跡者の人数が増えていく。

 

「な、なに? なんでみんな騒いでるの?」

 

状況が飲み込めないのか、デュノアは困惑顔で聞いてくる。

 

「そりゃ男子が俺たちだけだからさ」

 

「・・・・・・?」

 

「いや、どう考えても珍しいだろ。ISが操縦できる男って、今のところ俺たちしかいないんだろ?」

 

「あっ! ああ、うん。そうだね」

 

ほんとに大丈夫かな、この子。

 

「ま、何にしてもこれからよろしくな。俺は天加瀬奏羅。奏羅って呼んでくれ」

 

「俺は織斑一夏。俺も一夏って呼んでくれ」

 

「うん。よろしく奏羅、一夏。僕のこともシャルルでいいよ」

 

「わかった。シャルル」

 

しかし、今にも後ろの集団は俺たちに追いついてきそうだ。

 

「一夏、いい作戦がある。この状況を最小限の被害で抜け出せる、最善の策だ」

 

「さすが奏羅! で、その作戦って?」

 

「おう、それはな」

 

俺はスピードを上げて一夏を追い越すと、一夏の足を引っ掛けて転ばせた。

 

「んなっ!?」

 

「おとり作戦だ。悪いな一夏」

 

「う、うわああああああああああああああああっ!」

 

「えっと・・・」

 

「ああ、一夏なら大丈夫。アイツおとりになるのがうまいんだ」

 

俺は茫然としているシャルルの手を引き、また走り出す。一夏は非常に残念ながら逃げ切れず、後ろの大波にのみこまれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、ついた・・・」

 

更衣室に着くころには逆に俺はシャルルに引っ張られるような形で走っていた。

転校生に早々と醜態を晒してしまうとは・・・。

 

「大丈夫、奏羅・・・?」

 

「あ、ああ、問題ない問題ない、早く着替えよう・・・」

 

ぜえぜえ言いながら制服のボタンを上だけ外し、Tシャツと同じ要領で脱ぎ捨てる。

 

「わあっ! ちょ、ちょっと待って」

 

「ど、どうした?」

 

「あ、えっと、着替えるときは、あっち向いてて・・・・・・ね?」

 

「いや、別にじろじろ見ないけどさ・・・」

 

なんだそんなことか。まぁ、男同士でも見られたら恥ずかしいもんな。そう思いながら服を脱いでいく。

 

「シャルル」

 

「えっ? な、何かな?」

 

「俺のほう見てない?」

 

「み、見てないよ!」

 

そうか、ならいいんだが。じゃあ先ほど感じた視線は気のせいだったのだろう。

 

「あ、ISスーツ着てたんだ・・・」

 

「えっ? 普通だろう、これくらい」

 

「あ、そ、そうだね。普通だよね」

 

そして沈黙。・・・なんだかさっきの声が残念そうに聞こえたんだが、もしかしてシャルルってそっちのほうの人なのか・・・?

 

「え、えーっと。そ、そのスーツ動きやすそうだな。どこのやつ?」

 

なんだか変なことを考えてしまいそうなので、適当に思いついた話題を口に出す。

 

「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー製」

 

「デュノアって、そういやシャルルの名字もデュノアだったな。もしかして――」

 

「うん。僕の家だよ。父がね、社長をしてるんだ。一応フランスで一番大きいIS関係の企業だと思う」

 

なるほど、現在第二世代機として有名なリヴァイヴを生みだしたあのデュノア社か。そういえば昔、一回だけだけどマリア先生の研究所で企業の人にあったことがある。

 

「なるほど、なんか気品とかに満ちてると思ったけど、いいところの育ちってやつだったのか」

 

「いいところ・・・ね」

 

その言葉にシャルルが視線をそらす。何か事情があるのだろうか?

 

「あ、悪い。聞いちゃいけないことだったかな?」

 

「あ、ううん。そういうことじゃないんだ。だから気にしないで」

 

その時突然ドアが開く。そこにはあの大波から命からがら逃げ切ったであろう一夏の姿があった。

 

「い、一夏、大丈夫?」

 

「お、おう、シャルル。なんとかな・・・。奏羅、お前俺を殺す気か?」

 

「は、ははは。悪かったよ・・・」

 

後日、一夏に昼飯を奢ることになったのは言うまでもなかった。

 


 
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