夏休みの登校日。
「…………」
ニンフは昼休みに食堂のテレビをつけるが、どれもやってることはオリンピックの内容だった。
「もうー、なんでどこも昼ドラやってないのよ!」
ニンフが怒りながらテレビの電源を切る。
「ニンフちゃん、こわー」
「けど、どこもオリンピックのことばかりだよな」
「ああ。俺もそのせいで深夜アニメが先延ばしにされちまったしよ」
ニンフの意見に賛同する生徒達が出てくる。
「ねえ、トモキ。帰っていい?」
「せっかくの登校日なんだから、もう少しいろよ。
それに帰ったって特にすることないだろ?
カオスの面倒を看るか?」
「カオスの相手はちょっと……」
カオスの相手をするのはなかなかに難しいので、ニンフは困りかける。
そんな時であった。
「はーはっはっは!」
突然外から大きな声がしてきた。
「この声は……」
とても高飛車な声を智樹達は聞いたことがある。
その声の主は私立空見学園の鳳凰院キング義経であった。
義経は妹の月乃と数十名の生徒を引き連れてやって来たのだ。
「まったく相変わらずこの学校は活気がないな」
「そうですわね、お兄様」
当たり前のことだが、義経達は見下していた。
「相変わらずむかつくな、あいつらは」
「だったら~、逆に見下してあげればいいのよ~」
食堂にいる美香子は智樹達に声をかけ、そして強引に智樹を連れてグラウンドに出た。
「それで~、何しに来たのかしら~」
美香子は怖い雰囲気を出しながら義経に尋ねた。
「ふ、君たちはオリンピックのことに全然関心がないと思ってね……」
「スポーツ対決に来たのよ」
『スポーツ対決?』
「そうだ。それで僕たちと君たちの実力の違いを見せつけてあげようとおもってね……」
義経の言葉を聞いた智樹も怒りの感情が湧いてくる。
「会長、やりましょう。やって、あいつらの鼻をへし折ってやりましょう!」
「ええ。会長と意見があったわね~」
こうして智樹と美香子の考えが合い、公立と私立のスポーツ対決が始まるのだった。
そらのおとしもの 輝け! 勝利(メダル)を手に!
「さあ、始まりました! 公立空見中学対私立空見学園によるスポーツ対決!
実況は私、空見中学の数学教師竹原! 解説は……」
「ニンフよ」
ニンフはとてもやる気ない状態で解説席にいた。
「なんで私がこんなところにいなきゃならないのよ」
「仕方ないだろ、家に帰ってもやることないしさ」
「……まあそうね。仕方ないから付き合ってあげるわよ」
「さあ、始めましょう! まず最初の競技は柔道です!」
すぐに柔道をするための畳が敷かれ、審判は守形がやることになった。
「では公立対私立の対決、私立側は……おおっと女子生徒のようです」
そこには黒帯を締め、柔道着を着た巨乳の女性が現れた。
「彼女は初段を取ったばかりだが、実力はオリンピック選手にも匹敵するものだ」
「…………桜井君」
「いいんすか?」
「許すわ~」
智樹は一旦その場から去る。
そして帰ってきたらトモ子になっていた。
「きゃっる~ん」
「いいのかい、彼女で?」
義経はトモ子のことを知らない。
「いいのよ~、彼女で……」
美香子の笑みには明らかに何か悪いことを企んでるものだった。
「それでは、両者位置について! 礼! はじめ!」
トモ子と私立の柔道部員と対決する。
「やあっ!」
柔道部員はすぐにトモ子の襟と袖をつかむ。
しかし……。
「きゃっ!」
案の定、トモ子は柔道部員の胸を触り、揉んでいた。
柔道部員はたまらず、手を放してしまう。
「(今だ!)いくわよーーーー!」
トモ子の手はとてもいやらしい動きをしており、トモ子の顔もHなことを企んでいる顔で、迫って来る。
「いやああああああ!!」
柔道部員は思わず思いっきり逃げ出してしまう。
「選手逃走のため、トモ子選手の勝利!」
「やった!」
「今のはありなのか!」
義経が抗議するが……。
「別に反則行為はしていない。問題はない」
「くっ……!」
「トモキらしい勝ち方ね」
「次の種目は水泳、200メートル自由形です!」
全員、プールに移動した。
「さあ、次は200メートル自由形ですが、私立の方からは……今度は男性選手のようですね」
今度は筋肉がムキムキの体をした男が競泳水着を着て、現れた。
「ちぇ、男かよ」
いつの間にかトモ子の姿から智樹に戻っている智樹。
「どうするんだ? イカロスもアストレアも泳げないだろ」
「そはらもすっよ」
「ごめんね、智ちゃん」
「いや、そはらが謝るところじゃないって……」
「それじゃあ、私が行こうかしら」
そこに水着に着替えていた美香子が現れる。
「あらあら、そんな水着いいのかしら?」
月乃が美香子の水着を見てそう言った。
美香子の着ている水着は競泳用ではなく、一般的なビキニだった。
明らかに美香子が不利であるが……。
「いいのよ~。これくらいがいいハンデなのだから……」
「言うじゃない。やっちゃいなさい!」
「はい!」
そして水泳男子と美香子はスタートに着く。
「位置について、よーい!」
そして上にピストルが鳴らされ、二人は飛び込み、スタートする。
「おおっと! やはり私立の方が有利のようです!」
水泳男子と美香子の距離は見た限りでは、2メートルも差があった。
「はっはっは! やはりあれではダメだったようだね」
「そうね、お兄様」
水泳男子が折り返し始める時もまだ美香子は距離を縮めれていなかった。
「会長……」
「大丈夫ですよ、そはらさん。師匠なら! 師匠なら絶対勝ちますって!」
アストレアは美香子の勝利を信じていた。
水泳男子が残り20メートル、美香子との距離差が約5メートルと言ったところの時であった。
「おおっと!? 五月田根選手の速度が上がっています!」
突如、美香子のスピードが上がり始めた。
「な、何が起こったんだ?」
「簡単なことだ。美香子が手を抜いていただけだ」
「手を抜いていただと?」
「そんなバカな!?」
私立勢はとても信じられないという反応する。
「仮に手を抜いていたとしても、なんでそんなことを……。
万が一に足でも攣って負けることだって……」
「会長がそんなこと気にするはずないって」
「そうだな。それに美香子は見たいんだ。
あと少しのところで負ける、敗者の姿を……」
守形の言ってることは合っていた。
水泳男子が後10メートルのところで、美香子は追いつき、そして追い越してしまった。
「ゴーーーーーール!! 勝ったのは、公立の五月田根選手!!!」
「まあ、会長なら当然の勝利よね」
ニンフはこの勝利は当たり前だという反応で、テンションは低かった。
「これが会長の実力よ~」
「くそ!」
水泳男子はとても落ち込む。
「どうかしら? 私のじ・つ・り・ょ・く♪」
美香子は落ち込む水泳男子の心を折るように言う。
そして水泳男子の心は折れた。
「さて、次の種目は砲丸投げです!」
「これなら……」
「はい」
砲丸投げはイカロスに任せ、イカロスの投げた砲丸は遥か遠くの国にまで飛んで行ったとか……。
測定不能の為にイカロスの勝利であった。
「では次の種目です!」
それから、マラソン、体操、卓球、氷柱割りとたまにオリンピックとは関係ない競技もやりつつも公立の全勝であった。
「くそ! なぜ勝てない!」
「あんな人たちに……」
義経、月乃兄妹がそうは言っても、実際公立の空見中学で出場しているのは智樹(トモ子)、そはら、守形、美香子、イカロス、アストレアの六人しか参加していなかった。
「ならばこれで最後だ!
そして条件がある!」
「条件?」
「そちらは七人しか参加してないじゃないか!
だからまったく参加していない生徒で出てもらおうじゃないか!」
「そしてその生徒の指名はこちらでするわ!」
「くっ……」
鳳凰院兄妹の言い分は滅茶苦茶だったが、既に何十人もの私立の生徒達はやられているのに対し、智樹達はいつものメンバーでやっているので力の差は歴然。
別の生徒を出せという言い分はある意味、理にかなっているとも言える。
「そうだな、最後の勝負はバトミントン。
彼女と彼女に出てもらおうか」
義経が指名した人物、それは智樹達の側にいた日和とやる気のない解説をしていたニンフだった。
「私!?」
ニンフは自分が指名されたことに少し驚いた。
「ニンフさん、頑張ろう」
日和はニンフに共に頑張ろうという。
「いいわよ、別に……」
「ニンフさん、やるからには勝とうよ……」
日和は少し寂しそうな顔をして言う。
「……わ、わかったわよ」
日和の寂しそうな顔を見て、嫌とは言い切れず、日和とペアを組んでバトミントンに挑むニンフ。
相手はやはりオリンピック選手に匹敵するほどのレベルの私立の生徒だった。
「では……はじめ!」
さすがにこのバトミントンの戦いはニンフと日和のペアではきつかった。
ニンフはともかくだが、日和の身体能力はエンジェロイドになる前と後でもあまり変わっていないために、私立チームは日和の方を狙ってくる。
ニンフはその日和のカバーをするためにもう片方をがら空きにしてしまい、それが隙となり、相手の思う壺になっていた。
「くっ……」
「ごめんなさい、ニンフさん」
「ヒヨリのせいじゃないわ」
日和は悪くないというニンフ。
しかしニンフの心には闘志が湧いていた。
「どうしたのかしら?」
「その程度?」
ニンフを挑発する私立チーム。
(あいつらには……負けたくない!)
バトミントンを始める前の無気力なニンフとは違い、今のニンフは気力溢れる、選手へとなっていた。
「これで……終わりよ!」
「させないわ!」
ニンフは自分達に向かってくるバトミントンの羽を拾うだけでなく、勢いよくラケットを振って相手が反応できないように返す。
「さあ、来なさい!」
「こうなれば、あっちを集中的に狙うぞ!」
私立チームは日和に集中攻撃を仕掛けるが……。
「その攻撃はもう見切ったわよ!」
日和に攻撃を集中させすぎたために、どうやって攻撃してくるか既に解析したニンフにはもはや通用する手ではなく、私立チームはなす術なく敗れていった。
「公立チームの勝利! よって、今回の戦いは公立空見中学の勝利だーーーーーー!!」
「くそ! 覚えてろーーーーー!!」
義経は負け惜しみの捨て台詞を言いながら、私立の生徒達と一緒に逃げて行った。
「やったな! ニンフ!」
智樹が最初にニンフの方に駆け寄り、ニンフを褒める。
「私にかかればこんなものよ」
「ありがとう、ニンフさん」
日和も礼を言う。
「別にいいわよ」
「けど、ニンフも途中から楽しかったんじゃねえのか?」
「ば、バカじゃないの!」
ニンフの顔は赤くなりながら否定する。
「素直じゃないな、ニンフは……」
そうつぶやく智樹だった。
終わり
おまけ
作者「さっそく旬なネタだ」
智樹「旬ってオリンピックネタかよ」
作者「そうだ。投稿しない手はないだろう」
智樹「そりゃあ、ないけどさ……」
作者「正直途中でネタにつまったから省略した形でこうなった」
智樹「でも俺達の全勝ってやりすぎじゃね?」
作者「美香子が納得できると思うか? あの黒く、勝利に飢えている者に……」
智樹「…………」
作者「そういうわけだ。だからカオスや俺の分身の秋山も出さなかったし、出せなかった。
まあ、今回、ここでいうことがこれ以上思いつかないからこの辺にしておこう。
それでは!」
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今回は(2012年夏の)旬なネタを題材にしました。