どうしたものだろうか。
それは当人を前にして口にするものではないのだろうが、母は容赦ない。
「氏康……また貴女は」
「うう……申し訳ありません」
扇子を閉じて顎の下に持っていく、実に見目麗しい女性。彼女がこうして扇子を顎の下に持ってきたときは、たいてい何か策を巡らすといった思案に耽ったときに見せるものだ。そして次に彼女が口を開いたとき、余人には到底思いもつかない時に大胆にして時に緻密な案が飛び出てくる。それは河越夜戦において如何なく発揮され、若武者も嫌と言うほどそれを思い知らされた。今となっては彼にとって崇拝にも似た対象ともなっている。
女の身1つで下剋上を成し、相模を拠点に関東にその名を知らしめ、今や日ノ本でも有数の大家を一代にして築き上げた北条家当主。最初期から仕える家臣たちによれば、彼女はその頃から全くその美貌変わらずなのだと言う。美貌を維持している以前に、歳を取っていないのではないかとさえ言われるほど。あくまで比喩的な表現なのだろうと思っていたものだが、今となっては頷かざるを得ない。実際、仕えて何年にもなるが、彼女は全く、それこそ皺1つとさえ増えていないようにしか見えない。
海の向こうの大陸では自らの美貌を維持するがために一国を滅ぼした妃もいたと伝え聞くのに、この女性はいったい何者なのか。滅ぼすどころか、領民には四公六民の税制を始めとする善政で愛され、河越夜戦のように家臣や兵を見捨てない姿勢は家臣団や兵の士気を上げ、美貌はこれらの要素をさらに上乗せさせる。『美しさは罪である』という言葉があるが、若武者は本当にその通りだと思う。美に憑りつかれた女は国を滅ぼすこともあり、逆に美しさが優秀な当主をより引き立てることもある。美しさとは、いい意味でも悪い意味でも人を惑わす。
そんな人が自分の義母なのだと思うと誇らしい反面、獣に化かされているのではないかと疑ってしまう。それは主君に対して大変失礼なことではあるとわかっているが、さすがにこれくらいは見逃してほしい。
さて、このようにある意味で規格外な彼女ではあるが……そんな彼女を以ってしても策が出てこないということはやはりあるもので。
それが、今なのである。
「……ふう」
「あうう……綱成ぇ~」
策は出ず、出るのはただ溜息だけ。それもとても重く、向けられている少女に対して全く躊躇のない呆れがこれ見よがしに込められているわけで。
母譲りの艶やかな少女の髪は長く、どこか気が強そうな印象を受ける目。だが一度穏やかな笑顔を浮かべれば、とても柔和に優しげなそれに変わるのを綱成と呼ばれた若武者は知っている。鮮やかな桜色を基調とする着物に身を包み、防具としては少々心許ない軽装備の胸当てや籠手を着けている。股下数寸という短い着物では到底隠しきれないスラリとした長い足は膝上まである長い靴下で覆われていた。
当主たる女性の呆れ果てたという態度は、少女にとって無言の責め苦である。涙が目の端に浮かんでおり、その目で見られては若武者も黙っているわけにもいかなくなる。正直なところ、この話に関しては無関係を貫きたいのだが、だいたい少女は実弟か義弟を巻き込んでくれるときている。若武者は後者、義弟に当たる。今回は実弟の方は武蔵に赴いて上野の山内上杉の警戒に当たっていておらず、義弟は実弟に恨み言を呟きつつ、少女に引っ張られてこの場にあると言うわけだ。
「……え~、ゴホン。御本城様、その……お気持ちはお察しいたしますが、無理に縁談を組んでももはやどうにもならないことかと」
「わかっています。わかっているのですよ、綱成。ええもう、嫌というほど」
「……そうですよね」
「綱成!」
「あ、義姉上、申し訳ありません。しかしさすがに俺も援護しかねます……と言うか、援護しようがないのは毎度のことなんですから、もう巻き込むのをやめて頂けませんか?」
「ううううう……氏綱も綱成もなんて冷たいの……!」
そうは言われてもどうしようもないのは事実なのだから。目の前で女子に泣かれて放置できるほど綱成も男を捨てた気はないが、こうも毎度毎度同じことでこの場に付き合わされるのは勘弁してほしい。
だいたい自分は訓練の最中であって、端々に黄色を取り入れた鎧に身を包んでいて、そばには刃が北条の家紋を髣髴とさせる三角のギザギザの形となっている変形の槍を置いてある。この格好になると気が引き締まる思いであり、せっかく訓練前に「勝った勝った!」といつものように気合を入れていたのに台無しなのだ。せめて一言くらい文句も言わせてもらいたいものである。
「はあ……こんなことなら綱成を養子ではなく、婿として迎えればよかったのやもしれませんね」
「ご冗談を」
「綱成? それってどういう意味?」
「え? あ、ああいや、別に他意はないんですよ!? 義姉上は御本城様に似て実に美しいですし」
嘘を付いているつもりはない。実際、義姉たる少女は母の女性に似て本当に綺麗だ。可愛いと言ってもいい。綺麗と可愛いがまさに一緒になっているような、実に今が一番と言うべきだ。食物に例えればまさに旬。食べ頃である。
(……と言ったら殺されかねないな)
もちろんそんな例え方は女性にするものではないとわかっている綱成である。この姉は今でこそ丁寧な口調であるが、いったん母がいなくなると途端に本来の活発さが前面に出て、いろいろと宥めるのに苦労することになるのである。まったくを以って面倒な姉であった。
とは言え、公の場では実に頼りになるのも事実だ。
綱成のような武勇こそまだないが、戦場では決して物怖じせずに前に出て指揮を執り、兵を鼓舞し、平時も母と遜色ない、いやむしろ母を超えるのではないかというほどの内政手腕を振るう。
――関東の雄、北条早雲に氏康あり。彼の者こそ相模の子虎なり。
子虎などと言われているが、それは将来に大きく成長するという意味が込められている。兵からも領民からも慕われ、北条の信条である『愛民』の精神を体現する存在とも言えよう。
それが私の場面では問題児ときたものだ。こんな姿、領民や兵が見たら何とするだろうか。
(……意外と受ける気もするな)
完璧に見える次期当主の茶目っ気として映るだろうか。
しかしそれならそれで綱成は一言申したい――茶目っ気で済ますな、と。毎度縁談やら男関係やらになると面倒事を起こしてくれる問題児なんだぞと。
「ただ義姉上、いくら男嫌いとは言え縁談の相手を睨み、何かにつけて蔑み、馬鹿にするのは……」
「だ、だって! 誰も彼も下心丸出しなんだもの! 男のくせに母上ほどの頼り甲斐もないし! 男なんてほんといらない」
「そう言われると同じ男として悲しくなるんですが……」
「え、あ、違うわよ!? 別に綱成と氏綱はそんなことないからね!?」
「……ふむ。綱成、本当に一度養子縁組を解消して氏康の婿に――」
「御本城様。それは本気でやめて頂けますか?」
「……やっぱり嫌がってるようにしか見えないんだけど」
「いや、それはそうでしょう。義姉上を義姉上と仰ぐようになってからどれだけ経っていると思っておられますか」
今更1人の女として見ろと言われてもそりゃ無理があるというもの。むしろここで1人の女として見られたなら、それは少々問題な気もする。実際の血の繋がりはないわけだから可能と言えば可能なのだが、残念ながら綱成は氏康に恋心はない。親愛の情はあるが恋慕の情はない。
半目で冷たい視線を放ってくる氏康に、綱成は溜息を吐きながら返した。すると氏康は綱成にまで呆れられたと肩を落とす。それを見て女性――早雲もまた溜息を吐くのである。前後から溜息で責められ、氏康はただただ小さくなるばかりだ。
「――ん?」
そんなときだ。綱成はふと何かを感じて庭へと目をやった。すると――
「早雲様」
開いたままの障子の先、広がる庭の奥に1人の男が跪いていた。
感じたのはこの男の気配だったらしい。毎度の如く、綱成は大したものだと感心する。これほど近くに来られるまで気配を感じることができないときたものだ。これが戦場や闇夜であれば、と恐ろしくなる。
男は明らかな忍び装束に身を包み、顔も見えているのは目だけという徹底ぶり。
北条家お抱えの忍び集団、風魔衆。その中でも特に早雲が全幅の信頼を寄せるほどの1人であるのがこの男――風魔小太郎。
その名前が本物かどうかはわからない。忍びゆえに偽名である可能性も多分にあった。それを調べる方法もない。何せこの男、必要なこと以外はまず喋らないのだ。最初は綱成もこの男への接し方に悩んだものだが、今となっては無理に声をかける必要はないと悟っている。信頼していないのではなく、言葉を用いるだけが信頼の証というわけではないことを、この男と接していてわかったのだ。今では目で応え合うだけで通じていると実感できることも多い。
「…………」
「……うむ」
互いに頷く。それは何かの合図にも、単なる会釈程度にも見える一瞬の『会話』。それだけで綱成は充分であり、小太郎もまたすぐに視線を早雲へと戻した。
そんな2人を、早雲は扇子を開いては閉じ開いては閉じながら面白そうに眺め、一方で氏康は訝しそうに両人を見回すのである。これだから男はよくわからない、とでも言いたげ。
「早かったですね」
「……甲斐は現在、内憂外患。武田家当主、武田信虎への反感は膨れ上がる一方にて、長子信繁が活発に動き回っている由」
「そうですか。傲慢な親を持つと子も苦労しますね。私はそうならないように気をつけるといたしましょう」
早雲があの武田信虎のような人物になるはずはないが。それは氏康も綱成も絶対の自信を以って言えること。
小太郎が言うには、噂でも聞くように信虎は何人もの家臣を誅殺し、その家臣の領地では一族郎党を始め領民までもが信虎に反感を抱いているらしい。今のところは長子の信繁や次子の信玄が上手く彼らを抑えているようだが、ひとたび彼らに何かあれば不満は爆発するほどのようで。
小太郎は事実だけを述べ、自身の主観による推論などは挟まない。噂もあくまで噂であることを明らかにしてから述べる。その彼が『ようで』などという伝聞や推測のような言葉を使うのだから、もはや確実と見て間違いないだろう。
「しかし武田家臣団の結束がこれほどまでに固いとは思いませんでしたね。私の推測ではもうそろそろ反乱の1つも起きていい頃合いだったのですが」
甲斐の国人衆は独立意識が強い。内乱も度々のこと。
一度武田家当主が間違いを犯せば、すぐに離反しかねないのに。4人もの重臣が誅殺されながら今回は反乱が起きない。気配こそあれど、ギリギリで持ち堪えている様子。
「その信繁という人物、なかなかの大器なのかもしれませんね」
「所詮は男。武田家臣団にも忠義の者はいるでしょうし、そのおかげなのでは?」
「氏康。男だからと言ってそのような判断を下さないようにと何度言わせるのですか?」
「も、申し訳ありません、母上……」
小太郎の前でまで叱られ、氏康は顔を赤くして縮こまった。もちろん小太郎はそれに対して全く反応しないが。侮蔑もしなければ慰めもしない。こういう男なのだ。だからまあ、こういう時に慰めるのは必然的に綱成か氏綱というわけで。綱成は姉のそばに座って咳払い。すると氏康は涙目で見上げてきて、小さな声で礼を口にした。
その間にも早雲と小太郎の問答は続いた。
「……ふむ。単に能力がないだけか、当主になる覚悟がないのか、はたまた能ある鷹は爪を隠すということなのでしょうか」
信繁という人物の人となりを聞くと、綱成はどうにもうだつの上がらない人物だなという印象が先にきた。
長子でありながら何かと前に出過ぎないように動き、戦でも果敢に攻めるより、誰かの支援に回ることが多い。平時でも政務をすでに任されているようだが、大きな成果を上げるには至っておらず、これまた武田の政治最高職たる『職』、甘利虎泰と板垣信方の補佐役のような役回り。まだ若いのだから、という理由で事足りるのかもしれないが、どうも次期当主としては足りないと感じられた。何しろ氏康は次期当主として意識しており、河越夜戦を始め戦場では果敢に前に出て戦って手柄を上げ、政務でも早雲と共にその手腕を如何なく発揮しているのだから、これに比すれば信繁の行動が足りなく感じるのもやむをえまい。
(補佐役……そうか。補佐役としてなら優秀なのだな、その男)
当主というよりはそれを支える副将。それなら確かにこの男は優秀なのかもしれない。
早雲の言葉もそれなら頷ける部分が多い。おそらく彼女もそう考えているのだろうと綱成は彼女を見上げた。
扇子が顎の下にある。
それを見て、綱成も氏康も小太郎も、何も言わずに彼女の言葉を待った。
「……小太郎、確か次子の信玄という女子は出家した身でしたね?」
「如何にも」
「そして信虎殿は信玄殿を後継者にしたがっていると」
「あくまで領民や兵の噂でございますが」
「貴方が報告するだけの噂なら、それなりの真実味があるということなのでしょう」
「…………」
小太郎の目を、小太郎の耳を、信じているがゆえの早雲の言葉。小太郎は目を閉じて何も答えない。身じろぎもしない。
早雲たちはその反応を肯定と受け取った。
「氏康。確か以前、こちらに士官したいとやってきた男がおりましたが……名は何と言いましたか?」
氏康はどの人物を指しているのかに迷った。何しろ北条に士官を願う者は多い。その全員を記憶しておくのは難儀というものである。
だが早雲からその人物の外見を口にされると、その特徴に該当する男は確かに記憶にあった。思い出した途端、顔が強張ってしまう。何しろその男にいい印象というものがないのだ。
「山本勘助、でしょうか。何と言うか、見た目が随分と家中でも不評でしたが……」
男だからというのも理由の1つなのだが、同じ男でも勘助の外見にはやや引くものがあるのは家中の男たちの反応から見ても確かだ。今川でも外見を理由に断られていると聞く。今川は京の都の公家たちとの関係も深く、義元自身が公家の格好をするなどしているほどであるため、外見の悪さは今川の名を汚しかねないとでも思ったのだろう。その点で言えば北条は外見などに囚われた人事はしないのだが、北条が勘助を受け入れなかったのは勘助の態度にあった。
「横柄すぎるのです! ホント、これだから男は……!」
氏康が腕を組んで肩を怒らせる。
早雲も綱成も彼女の言葉を否定することはなかった。こればかりは否定できないところがあるからだ。
勘助が北条に士官を願ってきたのは河越夜戦の直前。早雲たちも少しでも使える人間が欲しかったところなので、今こそ名を上げる機会と多くの者が士官を願っては小田原城に詰めかけてきており、勘助もその1人だった。ところが勘助の態度は家中でも尊大に受け取られ、早雲や氏康たちに情報が上がる前に家臣たちの判断で不合格とされた。それも致し方ない。すべてを早雲たちに通していたら早雲たちはそちらに忙殺されてしまう。ただでさえ河越夜戦の直前。やるべきことは多く、なのに時間はない。そんなときに士官したいと願う者たちすべての相手などしていられるわけがないのだ。ある程度、家臣たちによって選別させておくのは当然のことであろう。
ただ氏康は偶然にも勘助を一目見る機会があった。面談の場に居合わせたわけではないが。その際に聞こえてきた内容に、氏康はたまらなく横柄さを感じたのだと言う。
「しかしその勘助とやらが提案した策は面白いものでした。河越夜戦においては、彼の案を一部使っていますしね」
「惜しい男を逃した、とお思いですか?」
「まだそこまで評価しているわけではありませんよ、綱成。けだし面白い策ではありましたが、人柄も能力もそれだけでは推し量れないのです」
早雲が直々に面会していたら、その辺りを測ろうと言葉を交わしたかもしれないということだろう。綱成はそう解釈した。
「その勘助という男、今は信玄殿のそばに置かれているという話でしたね、小太郎?」
「は」
「あの信虎殿が勘助を受け入れるとは思えませんが、誰が召し抱えようとしたのです?」
「長子信繁による登用にて候」
「……なるほど」
綱成はそう零して早雲を見上げる。すると早雲は満足げに頷いた。
「少なくともその信繁殿は信虎殿と違い、人を見る目があるのでしょう。そして彼が補佐に徹するのも、そのあたりにあるのやもしれません」
「すると信繁殿も信玄殿に当主の座をお譲りになられるおつもりと?」
「その可能性があるという話です。その信玄という女子、家臣団からもずいぶん評価が高いようですが、特にこれと言って今のところ目立った功績もありませんからね。ただ……海野口城での戦いを聞くに、無視はできない能力とも言えるでしょう」
海野口城は信州の南佐久郡にある。甲斐の武田が信濃を攻略しようとする上でまず落とさねばならない城の1つである。
信玄にとっての初陣が、この海野口城攻めであった。八千の兵力を以って信虎は侵攻、これを包囲したが、敵将平賀源心は名将であった。陥落敵わず、信虎は兵を退いたのだが、信玄が殿を訴え出て、僅か三百の兵を以って取って返し、完全に油断していた源心を討ち取り、海野口城を奪取することに成功したのだ。
力攻めの信虎に対し、信玄は兵法を知っている。聞けば大陸の孫武や孔子の教えに熱心とのこと。相手にすれば厄介なことになるかもしれない。
「ただ、彼女の目立った功績と言えばそれくらい。彼女もまた、すべてを推し量るには足りません。しかし信繁殿……彼については別でしょう」
「随分信繁殿を評価されておられますね」
「当主としては物足りないところがあるのは事実です。しかし副将として考えれば彼はなかなかに厄介ですよ、綱成」
やはり早雲も綱成の予想通り、信繁の能力を副将として捉えていたらしい。
「海野口城を落としたのは大したものですが、問題は三百の兵では城を守るに不充分であるということです」
信玄が率いた三百の兵で奇襲には成功したが、その後、その城を武田軍が維持するにはあまりに心許ない。
ところが海野口城はその後しばらく、武田のものであった。それはつまり、武田が海野口城を維持し、敵勢から城を守り切っていたということ。
「海野口城を落とした直後、海野口城に少なくとも一千の兵が入ったという話でしたね、小太郎?」
「如何にも。戦の終結より一刻と経っておりませなんだ」
「一千もの兵を奪取直後に入城させるなど、始めから用意されていたとしか思えません」
信玄が殿を訴えたときに、信繁には話を通していたというのだろうか。しかし信虎でさえ、このことは知らなかったという……当主でさえ知らされなかったことを、信繁には通されていたというのは考え難い。作戦は奇襲であり、信玄も最初から海野口城を落とすつもりであったわけではなく、海野口城の様子を逐一斥候に伝えさせていて、そうして得た情報により海野口城と源心たちが油断していることを知って突如引き返したのだ。
信玄にとっては初陣であるし、総大将は信虎だ。一千もの兵を動かすのは、総大将の許しなしにできることではない。信虎は力押しにこだわり、策というものを好まない。甲州の武士というものは往々にしてその傾向が強い。信虎もその例に漏れない人物だ。その信虎がこんな奇襲策を許可するとは考え難いのだ。それも自身が後継者に据えたい娘を、そんな危険な作戦に投入しようとするのも不可解だ。
これを支援した者がいる。
「小太郎。この一千を率いた将は?」
「長子信繁」
それが答えというかのように、早雲は氏康と綱成を見下ろして微笑んだ。その微笑は優しさではなく、自らの教えに対する答えを待つ師としての厳しさも湛えていて。
氏康も綱成も静かに頭を垂れる。
「この兄妹、力が合わされば、話に聞く毛利や島津のようになるやもしれませんね」
どちらも兄妹や一門の力が強く、当主である毛利元就と島津貴久は元より、彼らの息子・娘である兄弟姉妹の実力が非常に高いことで有名だ。
もし武田もこうなれば、隣国に彼らを控える北条としては心休まることはないだろう。特に敵対関係に近い現状となれば。
本当に信繁が信玄に当主の座を譲るつもりなのか、信玄にそれだけの能力があるのかは、まだまだ確定はできない。とは言え、無視できない要素が揃っているのもまた事実である。
「母上、だからこその小山田の懐柔策ではないですか」
氏康が割り入るように口を開いた。早雲は気を害した様子もなく、氏康へと目を向ける。
「今の武田にとって小山田の力は無視できません。武田の力を削ぐことができます」
信繁や信玄を侮っているわけではないのだろう。ただ氏康には同じ次期当主としての立場にあるがゆえに、信繁と信玄を高く評価している節がある早雲に対して不満があるのかもしれない。突き詰めていけば、それは負けず嫌い。母たる早雲を尊敬する――少々度が過ぎていて、早雲を絶対視している傾向にあるが――氏康にとって、早雲が自分より他人を褒めているのは我慢ならないという感情ゆえか。
綱成は少々ムキになっている氏康の様子に、気づかれないように笑い、小太郎へと視線をやった。やはり彼は綱成と僅かに目を合わせただけでそれ以上の反応を見せはしなかったけれども。
「綱成」
「はっ」
「小山田は従順な飼い犬となるでしょうか?」
氏康には即答せず、早雲は扇子を弄りながら庭へと振り向く。庭を見ているわけではないのだろう。彼女の視線の方角は――甲斐だ。
「……現状ではまだ何とも。私見を述べさせて頂くのなら、彼らが従順になるとは思えません」
「理由は?」
「はい。元々甲斐は国人衆の独立意識が強く、小山田はその筆頭とも言えます。郡内地方を長らく治めてきた小山田にとって、北条であろうと武田であろうと、郡内に干渉する勢力に変わりはなく、相応の権利を主張してくるでしょう」
小山田氏は郡内地方より外に勢力を広げようとする意思はあまり見られないが、郡内地方での支配に関しては他者の干渉を殊更嫌う傾向がある。実際、武田との長きに亘る戦いも、武田が甲斐守護として小山田氏を従えさせようとして仕掛けたことであるし、現在も武田に臣従という形を取りつつも郡内ではある種の独立した状態を維持し続けており、信虎が小山田の支配力を弱めようと経済的な圧力をかけたことに対して態度を硬化しているらしい。現在、信虎への甲斐の民の不満はたまっており、小山田としてもその信虎に臣従を続けることは領民の不興を買うことになりかねない。そうなれば小山田としては武田に従い続ける利は少なく、そこへ早雲が働きかけたことで小山田としては領民からの支持が高い北条と組んだ方が利もあると考えたのだろう。
綱成の意見に、早雲は頷いた。氏康とてこのくらいのことがわからないわけではない。それでも彼女は反論しようとする。
「武田や小山田は民を見ていません! 例え小山田が北条に従順にならなくても、民を味方につければ彼らとて無視はできません!」
「氏康……貴女は武田や小山田を倒せと言いたいのですか?」
「母上。北条の信条は『愛民』。民を軽く見ている武田や小山田との下手な外交関係は、民の北条への不信に変わりかねないと考えます」
氏康の言も理は通っている。そして北条の信条であるということは、すなわち早雲の信条であることと同義。その信条を傷つけるが如き行いは、母を尊敬する氏康だからこそ許せないのだろう。
殊に氏康は武田に対して辛辣なところがある。小山田はともかく、信虎の行いは氏康だけでなく、北条の信条にとって正反対とも言えるからだ。勘気に触れたというだけで家臣を誅殺し、民や兵の状態も考えずに戦を始め……しかも北条と今川の間にあった同盟関係を壊したのも元を糺せば武田に原因がある。綱成でさえ、信虎の行いに対しては許容できない。私の感情に従って北条を動かすなど、大恩ある早雲と北条家に対してあまりにも失礼とわかっているし、将としての身であるからこそ抑えてはいるが。
「義姉上。御本城様が『愛民』の信条を忘れておられるはずがございません」
「綱成、でも――!」
「しかし、現状で武田と真っ向からぶつかるのは得策とは言えません。義姉上もおわかりでしょう? 北条は現在、北に上杉、西に今川、東には佐竹・里見・結城・小田……これだけの敵を抱えているのです。この上、武田も敵に回すことは、それこそ民への負担となりましょう」
「…………」
河越夜戦以前から北条と上杉の関係は悪い。関東管領職を代々継いできた上杉は、それゆえに関東に対してはこだわりがあり、関東を我が物とせんとする勢いの北条は相容れぬ敵なのだ。今川とは親密関係にあったが、現当主である義元が家督争いにおいて信虎が支援したために和解して同盟を組んだため、共に武田を攻撃していた北条は今川が裏切ったとして関係を切った。佐竹や里見たちは表向き上杉に従っているが、裏では虎視眈々と関東の覇権を狙っている。この上、武田まで敵に回すのは避けたいというのが本音だ。河越城の合戦の際、武田・今川と和議を結んだのは、偏に河越城の方に戦力を集めるためであるが、決してそれだけのつもりで結んだわけではない。
……それに正直なところを言えば、今川との決裂は早雲にとって決して悪いことだけでもなかった。
今川には北条のことを決してよく思わない輩も多い。早雲は元々大名どころか大層な家柄の出というわけでもない。さらには下剋上で成り上がった身だ。歴史のある今川にしてみれば、ぽっと出の北条との同盟に対して反対する者も多かった。
そして相模と駿河は隣り合っており、小田原からの距離も近い。
こうしたことを考えれば、今川との関係が悪化し、北条が駿河の富士川以東――河東一帯を手に入れることができたのは、本国防衛という点からも大きな意味を持っている。
「氏康。貴方の言うこともわからないわけではないのです」
悔しそうに黙り込む氏康に、早雲は彼女の方を見ずに言った。
「綱成の言う通り、民の負担は減らさねばなりません。しかし現在の信虎殿の方策に対して甲斐の民が苦しんでいるのは事実。実際、甲斐との国境には日々甲斐からの難民が訪れているとのことですからね」
信虎の治世に対して不満を持つ民は多い。信虎によって粛清された家臣は多く、その家臣が治めていた領民たちは信虎を恐れて逃げる。そんな民たちが頼るのは北条だけではないが、領民から高い支持を受ける北条の領内に向かう民はやはり多かった。北条としても『愛民』の信条から見捨てるわけにもいかないので可能な限り受け入れているが、限度というものがある。領民と難民の間での諍い、難民たちの土地の確保、そのための治水開墾……資金や人員は無限ではない。それに、難民に紛れて敵国の間者がいないとも限らない。そのあたりは風魔衆を始めとした諜報部門に対処に当たらせているとは言え、すべてに対処しきれるわけがないのだ。
小山田の懐柔策はそうした事情により決まったことだ。
甲斐に戦を仕掛けることはできずとも、何らかの対策を講じる必要はある。そう考えれば内部の切り崩しを狙い、力を削ぎ、内応した者を背後から支えることで難民の問題も甲斐国内で解決させようとするのはいい手だ。
そして、小山田の懐柔に成功すれば、武田との間の楯とすることができる。
この地、相模の小田原を拠点とする北条にとって、本国防衛のためには敵の脅威を本国から遠ざけることが肝要。そのために武蔵や駿河へ侵攻したのだ。河越城の合戦に勝ち、そして駿河も河東一帯を勢力圏にした今、本国に最も近いのは甲斐の武田。郡内地方を治める小山田氏をこちらに付かせれば、相模の楯とすることができる。
「我が北条が民に負担を強いてまで直接甲斐に兵を進めるには、まだもっともな理由がないのですよ」
戦極の世において大義名分など建前でしかない。領土拡大の意思を明確にして侵攻する者とていれば、下剋上を実行する者とている。他の誰でもない、早雲自身がその体現者。
それでも大義名分があった方が都合もいい。民にも理解が得られやすい。兵とて正義のため信念のためという理由があった方が士気も上がるだろう。
甲斐へ侵攻するに当たっては『愛民』を理由にするのはいい。信虎の武略一辺倒な方策に苦しむ甲斐の民を救うという理由は受け入れられるだろうし、北条の領民にとっても戦を仕掛けてくるかもしれない脅威が遠ざかるのならその方がいいだろう。
しかしである。
難民は確かにいるとは言え、武田の治世は崩れ去ったわけではない。武田家臣団の結束は綻びも見られるがまだまだ保たれている。
信虎ではない。
件の信繁や信玄、そして家臣団によって、甲斐と武田は保たれているのだ。
ギリギリとは言えど、一線を守り通している。
「甲斐の国人衆の独立意識の強さ、これがいい意味で作用しましたね。彼らの独立意識の強さが、領民に対する施しに独自の対処を行わせた。ただ主家に忠義を誓うだけの者ならば主家の意に反した施しなどできません」
武田家に愛想が尽きていても、家臣団に対してまでそうとは限らない。その家臣団が一致団結すれば、北条の進攻は侵略にしかならない。
北条が兵を進める。つまり、『愛民』が北条の領民に負担を強いることを許さないか、負担を強いても甲斐の民を救う方がより『愛民』を具現化していると見なせるか……そのギリギリのあたりで『愛民』を前者の方に押し留めている。
「武田信繁、武田信玄、そして武田家臣団……やはり、大したものですね」
「御本城様の御慧眼にはいつもながら恐れ入りましてございます」
「……同意」
「母上だもの。当たり前です」
感心するしかない綱成と小太郎に、誇らしげな氏康。そんな氏康に綱成は笑うしかない。相も変わらずこの義姉上は早雲贔屓なことだと。
しかしその一線も、信繁と信玄在ればこそである。
事態は、その一線を崩す。
「御本城様!」
男が1人、廊下の角を曲がって向かってくる。口調に少し慌てた節が見られ、進む足も速い。
早雲が下剋上を起こしたころからの、言わば北条の最古参の将――松田憲秀だ。
口の周囲が完全に髭で覆われ、顔の輪郭に沿って髭はもみ上げの奥にまで達している。年季の入ったその髭はまだまだ黒々としており、憲秀の歳を感じさせない。
「早馬からの報告でございます」
庭に小太郎がいることに気づいて一瞥してから、憲秀は持っていた書状を早雲に差し出す。
早雲は1つ頷いてすぐに書状を開き、一言も発さないままに読み進めていく。
その顔に変化はない。綱成も氏康も読み取ることはできず、次の彼女の言葉を待つ。
最後まで読み終えた早雲は、落ち着いたままで書状を閉じていく。
「……どうやら、綱渡りはこれまでのようですね」
早雲は一言そう呟いてから憲秀に向き直った。
「兵を集めなさい。甲斐へ出陣します。あと、武蔵の氏綱に警戒を厳にと伝えなさい」
「はっ! 仰せの通りに!」
憲秀は一礼してからすぐに背を向けてきた道を戻っていく。
ただならぬ事態に、綱成も氏康も早雲を見上げながら説明を求めた。
「信州勢が動きました。小笠原・諏訪が連合軍を組み、甲斐へ侵攻したとのことです」
それ自体は驚くべきことではない。信虎も度々信濃へ出兵しているし、逆に信濃の諸将が甲斐や武田の領土へ侵攻することもある。獲った盗られたの繰り返し。日ノ本のどこでも行われていることであるが、特に甲斐と信濃の争いは顕著である。
この機に乗じて、とは誰でも考えることであろう。しかし北条は『愛民』を掲げる家である。領土拡大の意思はあれど、領民のことを考えない出兵は絶好の機会と言えどもできるわけがない。
「それだけではありません。甲斐国内で一揆です。信虎殿に誅殺された家の一族郎党と領民が結託しているようなので、むしろ反乱と言っていいかもしれませんね」
「とうとう起きましたか。御本城様の予想された通りですね」
これならば北条の動く理由としては充分だと綱成は思った。甲斐の民が苦しみを爆発させたとなれば、『愛民』の北条として彼らを助ける理由は立つ。もちろん、一揆勢との連携は不可欠にもなるだろうけれど。
しかしそうなると疑問がある。
これまで一揆が起こらなかったのは、ギリギリで信繁や信玄たちが抑えてきたからだ。彼らはどうしたのだろうか。早雲が綱渡りはこれまでと言ったのは、彼らの身に何かあったということではないのか。
綱成が信繁と信玄のことを問うと、早雲は信虎の正気はすでにないのかもしれないと零してから続けた。
「信繁殿は謀反の罪で捕えられたとのことですよ。傅役の飯富殿と共に」
「……活発に動いていたとの小太郎の報告は、こういうことだったのですか」
「一線を支えていた信繁殿がいなくなればこうなるのはもはや必然でしょう」
「長子信繁は誅殺された家臣の一族郎党に厚い信頼があった模様」
「となれば、尚更その信繁殿が捕まったとあっては、反乱も起きましょう」
書状には連合軍の兵力は八千、一揆勢はおおよそ五千に上ると報告されていたらしい。今の武田にその両方を力尽くで抑え込める力はあるまい。
武田がどう動くかは想像もつきやすい。信虎のこと、何としても抑えようとするだろう。一揆勢と対話で収めようなどという考えは彼の者にあるとは思えない。綱成と氏康は目を合わせて頷き合う。『愛民』のためにも、甲斐の民たちを見捨てるわけにはいかないと。
ところが、すぐさま自分たちも準備をしようと立ち上がった2人を、早雲は引き止めた。
「貴方たちにはまだ伝えておくことがあります」
「何でしょうか、母上?」
「上杉にも動きがあるようです」
「上杉が?」
甲斐に攻め込むつもりか、それとも武蔵の奪還にきたのかは定かではないが、かなりの数の軍勢が南進しているという。上杉軍を率いるのは当主の憲政でもなければ長野業正でもないようだ。2人とも姿が見られず、おそらくは此度の出兵には参陣していないのだろう。早雲は業正がいないあたり、おそらくは北条に向けての出兵ではないと読んでいた。あの憲政が上杉のみで北条に挑もうとするとは思えないからだ。河越夜戦において、上杉軍は足利やもう1つの上杉家である扇谷上杉とも連携していながら負けたのだ。その負の記憶がある彼に、単身北条に挑もうとする気概が残っているとは考え難い。
とは言え、無視はできない。
武蔵の奪還に来たのならすでに氏綱を大将として部隊を配置してある。むしろこれに呼応して佐竹や里見が動かないかどうかの方が気がかりだ。
そして甲斐に侵攻するつもりなら、すぐには北条に問題があるわけではないが、後々に大きな脅威となりかねない。
「武蔵のほとんどを我が北条が抑えましたが、上杉が甲斐を手に入れたとすれば、上杉は甲斐を通って相模に侵攻できるようになります。そして今川と上杉が再び結びつけば、これは本国防衛において由々しき事態……何としても上杉に甲斐を手に入れられることは避けねばなりません」
上杉に取られるくらいならば動くべきだ。本当ならば自身が指揮したいところだが、早雲はこの度の出陣は自分も出ずに小田原に残ることを伝えた。
「今川がどう出るかもわかりませんからね。上杉の動きに不可解なところもありますし、私は残って情報を統合し、逐次指示を送ります」
「そうなると此度の総大将は?」
「氏康。貴女が指揮を取りなさい」
「え、わ、私がですか!?」
氏康が指揮をしたことがないわけではない。初陣もとうに済んでいるし、河越夜戦でも早雲指揮下の下、氏康も一軍を指揮した。ただ総大将となるとまだ経験がないため、突然の抜擢に驚きと不安を隠せないようだ。もちろん早雲もいきなりの無茶であることは承知していた。
「副将には憲秀、そして綱成も付けます。いいですね、綱成?」
「御意」
綱成が共に行くとなれば早雲も安心できるし、憲秀も特別何かに優れるというわけではないが、代わりに何においてもそつなくこなせるし、何と言っても信頼できる。氏康も綱成と憲秀ならばと安堵するとともに、綱成に「よろしくね」と頼もしそうに声をかけた。
「氏康は憲秀と共に上野原から、綱成は山中からそれぞれ甲斐へ進攻しなさい。郡内の小山田には使者を送り、その旨を伝えておきます。その使者が戻り次第、甲斐へ踏み込むのです」
「承知しました!」
「直ちに準備にかかります!」
今度こそ2人は共に走り出す。
目指すは甲斐の地。武田の領土へ。
その2人の背中を見送りながら、ややあって早雲は庭へと視線を戻す。
「……しかし、早いですね。小笠原に諏訪然り、上杉然り。まるでこうなることがわかっていたような……さて、誰だかは知りませんが、私たち北条の動きも計算の内ですか?」
誰にともなく、早雲は呟くのだった。
翌朝、小田原城より進発した氏康・綱成たちは道中で兵員を増やしながら進軍する。
膨れ上がる北条軍。その数、八千。
――続く――
【後書き】
今回は北条視点から進めました。拙作においては北条と上杉が重要な勢力になってきますので。上杉はもちろん憲政のことじゃないんですけどね……まあ、別の意味で重要っちゃ重要ですが。
綱成は好きなキャラです。3に登場する綱成がベースになっています。
綱成が早雲を『御本城様』と呼んでいますが、これは戦極姫3にて上杉景勝が謙信のことを『御実城様』と呼んでいるのと同じ理由です。ちなみに景勝も『御中城様』と呼ばれていた時代があったようですが。
『愛民』という信条を北条が掲げていたというのは拙作における独自の設定です。史実において後北条氏がそんな信条を掲げていたかはわかりません。これは『上杉謙信 最強軍団を率いた越後の龍』という本にあったものです。著者は著書にて、後北条氏は『愛民』、上杉氏を『義』、武田氏を『王道』という言葉で示しています。私はこれに頷けるところが多々あったため、拙作においてそのテーマを基に各氏の構想を練りました。四公六民の税制、代替わりの政令、検地の実施、官僚機構の創設……後北条氏の内政手腕は当時をして間違いなく最高クラスにありました。『愛民』の旗を掲げていてもおかしくはないと皆様は思われませんでしょうか?
河東の乱は史実にある通りですが、河東というのは本来の地名ではないようですね。武田と今川の同盟に端を発する北条と今川の河東での争いは、河越城を包囲した上杉軍たちによってやむなく北条が今川に河東の一部を譲り渡し、後に甲相駿三国同盟が結ばれたことで終結します。拙作ではすでに河越城の合戦が終わっているため、河東の乱の方にも影響が出ています。なので今も両氏は河東を巡って争っている状態です。
小笠原・諏訪連合軍八千、一揆勢五千、北条軍八千。このすべてを信繁たちは対処しきらねばならないことになりました。上杉軍のこともありますね。小山田も北条方に靡いている状態で信繁たちをどう動かしていくか……私自身、楽しんで書いています。
できるだけ地名は戦国時代のものを調べていますが、なかなか難しいものですね。現代の地図を見ながらああでもないこうでもない、ここで迎え撃つか、どういう布陣で臨ませるか……軍師でもない私が軍師のように悩んでいることに自分で笑いつつ、せめてそれらしく描けるように頑張ります。
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戦極甲州物語の10話目です。
前話でのコメントを頂けた4名の方、ありがとうございます。信虎のことについては過ぎたところもありますが、彼も甲斐を統一させたことは功績なわけですから、ちゃんと非情な点以外もきっちり描いていけるように努めます。