フェイトの我が儘『1週間フェイト以外の女性と話すの禁止』これを無事に終えて何ヵ月かたったある日のこと。
「クリスマス?」
俺はフェイトから聞かされた謎の単語を口にする。
フェイトはそれを聞き首を大きく縦に振る。
「……初めて聞くな」
「ミッドには知られてないからね」
そう言うフェイトからクリスマスに関する説明を聞く。
……なるほど
「つまり、カップルが何時も以上に楽しく過ごす1日ということか」
「そうだよ。クリスマスには、プレゼントを交換したりするの」
嬉しそうに話す彼女の顔を見る。
つまり、このクリスマスとやらをすればいいのかな。
「クリスマスは何時なんだ?」
「ちょうど1週間後だよ」
……1週間か
ミッドにはクリスマスなんて風習ないし、デートプランだったら簡単に出来るな。
ただ、問題は――――
「なぁ、フェイト――――」
「あんたらバカップルは勤務中に何やっとんのかな?」
俺に被せるように誰かが言う。
「あっ、どうしたの、はやて?」
フェイトは彼女――――俯いて肩を軽く震わせているはやてさんに言った。
「仕事しろ!!!」
そんなはやてさんの叫びを聞いて、俺とフェイトは慌てて仕事に戻った。
―――――
……困ったな
ため息を吐きながら、俺は六課の階段を歩く。
俺が現在大いに悩んでいるのはクリスマスという行事に関わることだ。
デートプランに関しては大丈夫であろうが、それ以上の問題が1つある。
「……プレゼントどうしよう」
プレゼント交換
フェイトは確かにそう言った。
「フェイトの欲しいものか……」
手を顎に当てて考える。
フェイトはエリートで俺は凡人だ。
給料だってフェイトの方が遥かに高い。
そんなフェイトが喜ぶ物……
相手が普通の主婦だったら悩むことはない。
ブランド品でも買ってプレゼントすれば相手は喜んでくれるだろう。
だが、フェイトは違う
それこそ、俺が金を貯めてブランド品を買ってもフェイトは貯めずともそれを買える。
つまり、ブランド品は効果が薄いと……
はー、エリートの恋人は大変だ。
「どうしたの?ため息なんて吐いて」
俺は声がした方を見る
「珍しいね」
軽く笑みを浮かべながら言うなのはさんがそこにはいた。
なのはさんに聞いてみようかな。
「なのはさん、少しいいですか」
俺が言うと彼女は「どうしたの?」と聞いてくる。
「なのはさんは異性に貰って嬉しいプレゼントとかありますか?」
なのはさんはそれを聞くと人差し指を口にあて「うーん」と呻き声を上げる。
「わたしは貰えたら何でも嬉しいな」
……フェイトもきっと、そう言うんだろうな。
「フェイトちゃんもきっと、君から貰うプレゼントなら何でも喜ぶよ」
「わかってますけど……」
フェイトはきっと、俺からのプレゼントなら何だって喜んでくれるだろう。
……でも、それじゃ駄目だ。
「何というか……俺からじゃなくても喜ぶ、本当にそのプレゼント単体で彼女に喜んでほしいんです」
俺が挙げたプレゼントが彼女にとっていらないものだったら?
きっと、彼女は笑みを浮かべて喜んでくれるだろう。
……嫌だ
彼女に無理をさせるみたいで、それだけは避けなければならない。
「……そっか」
なのはさんは何か納得したような顔をする。
「だったら、明日探しにいこ」
なのはさんは俺に言う。
「明日2人で、フェイトちゃんが喜ぶプレゼントを探しにいこうよ」
……2人で
「2人で探したら、きっといいプレゼントが見つかるよ」
なのはさんは俺を元気付けるように言う。
……そうかもな
「お願いします!」
俺はなのはさんに言う。
……2人で探せば、フェイトが喜ぶプレゼントも見つかるよな。
そう思いながら。
―――――
次の日、俺は六課から少し離れた場所で待ち合わせしたなのはさんと合流した。
「おはようございます、なのはさん」
「おはよう」
俺に返事を返してくれる彼女の姿は普段見ない私服姿だ。
「フェイトちゃんは今日の外出許してくれたの?」
「はい、時間は掛かりましたけど……」
俺が言うとなのはさんは苦笑いを浮かべる。
「それじゃ、行きましょうか」
俺が言うとなのはさんは首を縦に振る。
……どんなのが売ってるかな。
彼女に渡すプレゼントを考えながら歩きだした。
―――――
「たくさんあるねー」
なのはさんは周りを見渡しながら言う。
今俺となのはさんはデパートにいる。
「どの店に行きましょうか?」
俺が言うとなのはさんは唇に手をあてる。
「服……はダメかな?となると、アクセサリーとかかな?」
服はダメなんだ。
アクセサリーか……
でも、フェイトが好んでアクセサリーとかを身に付けるかな?
「結婚指輪とか!」
「はあぁ!!?」
突然言い出した彼女に場所を考えずに叫んでしまった。
「でも、君からの結婚指輪ならフェイトちゃん絶対喜ぶよ」
「ですけど、そんな物用意する金ないし……」
どうする?
玩具の指輪を買って本物は何時か買うとか……
いや、ダメだろ!
「とにかく、指輪はダメで――――」
俺が言い終わる前に、携帯から電話が掛かってきた。
……フェイト?
携帯に表示されている名前を見てすぐに電話に出る。
「どうし――――」
「今何処にいるの?」
「デパートだよ、クリスマスの準備に」
フェイトには今日の外出をクリスマスの準備のためとしか伝えていない。
「……そっか
約束通り1人だよね」
「……うん」
フェイトはこの外出に条件を出してきた。
『1人で外出すること』
それが条件だ。
だが、この外出はなのはさんと行くのが前提になっている。
「ねぇ、嘘ついた時の条件覚えてる?」
「……手錠だろ」
俺がこの条件を破った場合1週間の間俺はフェイトと手錠で結ばれることになる。
……愛が重い
「うん、覚えてるならそれでいいんだ。
あなたが覚えていて、その約束を守ってくれるなら問題ないよ。
それとね、これも覚えておいてね」
そう言うと、フェイトは一端間を置く。
「あなたが私から離れたら、私死んじゃうからね」
そう言うと、フェイトは電話を切った。
……愛が重い
いや、ここまで行くと愛かどうかすら悩ましいぞ。
とりあえず、買い物を早く終わらせてフェイトの元に戻ろう。
俺がそう決意すると、なのはさんがある店を指差した。
「あの店はどうかな?」
なのはさんが指差したのは見た感じ男子禁制と言わんばかりの店だ。
「あそこならフェイトちゃんが気に入りそうな物もあるんじゃないかな」
……行くしかないよな
俺はなのはさんと共にその店に入った。
―――――
店の中には女性向の小物やアクセサリーが沢山置いてあった。
……どれにしようか
「ぬいぐるみとかどうかな?」
ぬいぐるみか……
「子供っぽくないですか?」
「でも、わたしなら喜ぶよ」
「……そうですか」
もうすぐ二十代になる女性がぬいぐるみを受け取って喜ぶのもどうかと思う。
「フェイトちゃんはいいなー」
プレゼントを探しているとなのはさんは急にそんなことを言いだす。
「君みたいな素敵な彼氏と出会えて」
……素敵なのかな
自信がない。
「わたしも君みたいな優しくて、恋人のことを何時でも考えてくれる人と付き合いたいな」
「付き合えますよ」
俺が言うとなのはさんは首を傾げる。
「なのはさん見たいな美人を放置する彼氏なんて居ませんよ」
俺が言うとなのはさんは顔を少し赤らめて言う。
「もう、既に彼女がいるからって……」
そうぶつぶつ言う彼女を放置しとくと、俺はある物を見つける。
「……あっ」
店の小物が並ぶテーブルの上の端っこに置いてあった『それ』を見る。
なのはさんも『それ』を見るとすぐに笑みを浮かべる。
「プレゼント決まったね」
「はい!」
俺はそれを手に取る。
――――これだったら、喜んでくれるよな
―――――
六課に帰ってきて直ぐにフェイトに会いにいった。
プレゼントはポケットの中にしまっている。
フェイトと少し話したあと自室に戻ったらプレゼントは置いておこう。
「フェイト」
「あっ、早かったんだね」
そう言うとフェイトは近づいてくる。
ガシャ
……えっ?
フェイトは俺の右手を手錠で拘束した。
「もう、怪我してないか心配したんだよ」
そう言いながら、片方を使い自分の左手を拘束する。
「でも、これでずっと一緒だね」
えっ!何で!?
「もう、あなたが私に嘘をついてまでなのはと買い物に出かけるのが悪いんだよ。
私があなたのことを心配してついていったら、なのはと買い物に出かけちゃったんだもん。
ショックだったんだよ。
私を置いて、他の女と買い物に出かけるもんね。
何で私じゃなかったのかな?
私とは出かけたくない?
私じゃなくて、なのはと出かけた理由はなに?」
フェイトは顔を近付けると首を傾げながら訪ねてくる。
プレゼントのことを言う……でも、それは――――
「……言ったよね、あなたが私から離れたら私は死んじゃうって」
そう言うと、フェイトは俺を押し倒す。
右手が不自由ということもあり、上手く受け身をとれず勢い良く押し倒された。
「本当はね、こんなことしたくなかったんだよ。
でもね、こうしてあなたと手錠で繋がれていると安心するんだ。
あなたは私のモノで私はあなたのモノ。
それを実感出来るの。
お互いの自由をお互いが握ってるって感じがするの」
フェイトは恍惚とした表情で俺と手錠を交互に見る。
「手錠で繋いでおけば、あなたは私の傍から離れないよね」
――――フェイトはまだ、何処かで俺のことを疑ってるのかもな。
「安心して、フェイト」
俺は彼女の頭を軽く撫でる。
「安心なんてできない!!
だって、あなたが私の傍から離れるかもしれないんだよ!?
……そんなの嫌だよ。
安心出来ないよ。
あなたが私の傍から離れるかもしれないなんて……」
――――フェイトはまだ、俺が自身の元から離れると思ってるのかもな
「離れないから」
俺は優しく言う。
「フェイトの傍から離れないから」
――――離れるわけにはいかないよ
「だから、フェイトも俺の傍から離れないでね」
――――愛しい彼女を死なせるわけにはいかないからな
俺はフェイトの頭を撫でるのを止めて、ポケットからプレゼントを取り出す。
「少し早いけど……」
俺はプレゼントを差し出す。
押し倒された時のせいか、少し箱が凹んでいる。
フェイトはそれを受け取る。
「本当に……プレゼントを選んでたの?」
フェイトは驚きながらプレゼントを開ける。
「フェイトのことでは、俺は嘘を言わないよ」
フェイトに優しく言う。
「――――あっ」
彼女の短く驚きの声をあげるとプレゼントを手にする。
「リボン……?」
フェイトが手にしたのは、黒色のリボンだ。
「リボンだったら、フェイト使うだろ。だから、喜んでくれるかなって……」
リボンだったら喜んで……くれるよな。
フェイトは立ち上がると、手錠に引っ張られる形で俺も立ち上がる。
彼女は自身が付けていたリボンを解くと、俺がプレゼントしたリボンを差し出してくる。
「あなたが付けてくれるかな」
俺は無言でリボンを受け取ると彼女の髪に結び始める。
「……このプレゼントはなのはが選んだの?」
「プレゼントは結局俺が選んだ。店はなのはさんだけどね」
「……そっか」
「出来たよ」
俺が言うとフェイトは自身の髪を見る。
「ごめんね」
フェイトは顔を俯きながら俺に言う。
「私ね、不安だったの。
あなたが私から離れてなのはの傍に行くんじゃないかって……
あなたのこと全然信用してなかった。
そして、これからもあなたのことを信用しないと思う。
きっと私は、あなたの自由を奪う」
「今みたいにね」と、手錠を見ながら呟く。
「それでも――――
私はきっと悪いとは思わない。
あなたが私の傍から離れないようにするためなら、私は何だって平然とやってみせる。
あなたの四肢を切り落として、あなたの自由を奪ってでも
あなたを殺して、あなたの自由を奪ってでも
私はあなたの傍に居続けたい!
――――ずっと、あなたの傍にいたい」
――――ダメなんだろうな。
「大丈夫だよ、フェイト」
――――恋人にこんなことを言わせる俺はダメなんだろう
「俺は何があっても、フェイトの行動に文句を言わない」
――――だから
「だから、そんな悲しい顔をしないで」
フェイトは今にも泣きだしそうな顔で俺を見る。
「――――フェイト」
ゆっくりと彼女に顔を近付けて、俺は彼女とキスをした。
「……悲しくなんか無いよ」
か細い声で彼女は言うと、離れた俺に再度キスをする。
「だって私は、素敵な彼を愛して――――愛されて幸せなんだもん」
幸せそうに言う彼女の笑みを見ながら1人思う。
――――他人からしたら、俺と彼女は狂ってるのかもしれない
――――それでもいい
――――それでも
――――俺達恋人同士は、幸せなんだから
―――――
後日談というか、クリスマスと、その前日の話
俺とフェイトは2人でプレゼントを買いにいった。
勿論、手錠はしてたよ。
互いに互いの欲しい物を買ってクリスマスにプレゼント交換をした。
俺が貰ったのは、白色のペンダントだ
彼女にあげたのは、黒色のペンダント。
同じペンダントと色違いだ。
そして、このペンダントはパズルの形をしてて、互いのペンダントを1つの形に合わさることも出来るんだ。
――――可笑しな形だけど、2つ合わさると綺麗な形になるペンダント
2つ合わさることに意味があるペンダント
そして、何時までも傍にいる関係にある俺達
――――このプレゼントは、そんな俺達に向いてるんじゃないかな?
俺は未だに手錠で結ばれている彼女を見る
――――そう思わない、フェイト
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病みつきシリーズ第12弾!!
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