ギルドに戻ったエステル達はラヴェンヌ村であった経緯をルグランや、またラヴェンヌ村の事を聞きに来たメイベルに説明した。
~遊撃士協会・ボース支部・夜~
「いやはや……本当にご苦労じゃったのう。しかし、アガットのやつにそんな過去があったとは……」
「そうですわね……。お話を聞いてようやく合点がいきましたわ。あの時、アガットさんがどんな気持ちでいたのかを……」
ルグランが呟いた言葉にメイベルは辛そうな表情で頷いた。
「あの時?」
「10年前……『百日戦役』が終わった直後に、アガットさんが、わたくしの家を訪ねてきたことがあったのです。」
「ええっ!?」
「メイベルさんのお宅に、ですか?」
メイベルの話を聞いたエステルは驚き、プリネは尋ねた。
「ええ、当時市長だった父に凄い剣幕で喰ってかかったのです。ボース市長は、地方全体を総括する責任を兼ね備えている……。なのにどうしてラヴェンヌ村を見捨てたのかと。」
「あ……」
「まだ子供だったわたくしは父を責めるアガットさんの顔を見てとても頭に来てしまって……。それでつい飛び出していって平手打ちをしてしまったのです。」
「あちゃあ~……」
「ま、不幸な事件だったわけね。」
メイベルの話を聞いたエステルとシェラザードは苦笑した。
「ええ……。結局、父はアガットさんの問いに答えることはできませんでした。代わりに、復興のための援助金を村に贈るつもりだと説明したんです。それを聞いたアガットさんは父に向かって拳を振り上げて……。……でも、結局振り下ろせずにそのまま走り去ってしまいました。」
「そんな事があったんだ……。だからアガットさんと市長さん、お互い妙な雰囲気だったわけね。」
メイベルの説明を聞いたエステルはアガットとメイベルの様子を思い出して納得した。
「……お互い、あの時のわだかまりがあるのでしょう。でも、アガットさんの妹さんが戦争で亡くなっていたなんて……。わたくし……あの方を誤解していたようですわ。」
「まあ、それについては言わなかった本人の責任もあるし。市長さんが気にする必要ないってば。」
罪悪感を感じているメイベルにエステルは気にしないよう言った。
「そう……ですわね。……アガットさんのケガはどの程度のものなのですか?」
「あ、うん、心配しないで。2,3日もすれば動けるようになると思うわ。」
「ふむ……不幸中の幸いと言うべきか。」
「ええ……大事に至らなくてよかった。………………………………」
エステルの説明を聞いたルグランは安堵の溜息を吐き、メイベルも安堵の溜息を吐いた後、ある人物の事を思い出して、辛そうな表情で黙った。
「そういえば………リラさんの具合はどうなの?」
メイベルの様子を見て察したエステルは尋ねた。
「……それが……。エステルさんのお仲間さんのお蔭で傷は跡形もなく治っているのにまだ目を覚ましてくれなくて……」
「そっか…………」
「………心配ですね。早く起きてくればいいのですが………」
メイベルの話を聞いたエステルは辛そうな表情をし、プリネは頷いた。
「………リラが起きたら、みなさんにもお伝えしますわ。それにしても……モルガン将軍の話は僥倖(ぎょうこう)でしたわね。軍とギルドが互いに協力できたらこれほど心強いことはありませんもの。」
「まだ決定したわけじゃないから安請け合いはできないけれど……。できる限りのことはさせてもらうつもりよ。」
メイベルの言葉にエステルが答えたその時、通信器が鳴った。そしてルグランは通信器をとって話し始めた。
「こちら遊撃士協会、ボース支部じゃが……。おお、将軍閣下。お待ちしておりましたぞ。」
(来た来た。)
(さて……どうなったかしらね。)
「ふむふむ……ほうほう。おお、そんな事になったとは!なるほど……明朝10時、国際空港で。あい分かった。しかと伝えておきましょう。」
「どうだった!?」
通信を終えたルグランにエステルは慌てた様子で尋ねた。
「王国軍は明日、飛行艦隊を使った竜の捕獲作戦を決行するらしい。お前さんたちもオブザーバーとして軍艦に乗ってもらいたいそうじゃ。」
「飛行艦隊を使った捕獲作戦!?」
「さすがに竜が相手となると出し惜しみはしないようですね………。王国軍の最精鋭を出すとは。」
「はい。一体どれだけの警備艇が出撃するんでしょうね……?」
ルグランの説明を聞いたエステルは驚き、プリネは納得し、ツーヤは頷いた後考えた。
「オブザーバーということは実際には何もできないけれど……。近くで竜の様子が観察できるのは正直ありがたいわね。」
「うーん……。気が抜けないことになりそうね。」
「ふふ……。光明が見えてきましたね。…………あ……………………」
エステル達が明るい表情で話し合っている中、メイベルは微笑んだ後、身体をよろけさせた。
「ど、どうしたの、市長さん?」
「いえ……何でもありませんわ。」
「………立ちくらみですね。相当、疲れていますね。」
エステルに尋ねられたメイベルだったが自分の状態を誤魔化そうとしたが、プリネが指摘した。
「………………………」
「色々と大変なのはわかりますけど、無理のしすぎは良くありませんよ。」
「そうね。今大変なこの時期に市長さんが倒れてはいけないわ。」
プリネの指摘に黙っているメイベルにツーヤとシェラザードは言った。
「フフ……無理などしてませんわ。『百日戦役』の時、父はあらゆる手段を用いてボース市民を守り抜きました。時には、エレボニア軍を騙すような危険な取引も行ったそうです。その時と較べたら……大したことはしてませんから。」
「市長さん……」
メイベルの決意を知ったエステルは尊敬した様子でメイベルを見続けた。
「エステルさん、皆さん。どうかよろしくお願いします。ボース市民とラヴェンヌ村の方々の不安を取り除いてあげてください。」
「うん……まかせて!」
メイベルに頼まれたエステルは首を縦に振って頷いた。
「ただいま~!」
その時ロレントに向かったミント達がギルドに戻って来た。
「あ、ミント。それにみんなも!お帰りなさい!」
「イーリュンの信者達の護衛は無事、終えたのかの?」
戻って来たミント達を見てルグランは尋ねた。
「……はい。皆さんのお蔭で、私を含めたイーリュンの信徒の方達は無事、ボースに到着しました。」
その時、ミント達の後ろからティアが姿を現した。
「ティアさん!」
「フフ……こんなにも早く再会するとは思いませんでした。エステルさん。」
ティアの登場にエステルは声を上げ、ティアは微笑んでエステルを見た後、ルグランやメイベルを見て会釈した。
「………初めまして。ゼムリア大陸でのイーリュン教の神官長を務めさせて頂いている、ティア・M・パリエと申します。」
「なっ!?い、”癒しの聖女”………!こ、これはご丁寧に………遊撃士協会・ボース支部の受付のルグランと申します。まさか”癒しの聖女”殿に会えるとは思いもしませんでした。」
「………ボース市長、メイベルと申します。……この度はお忙しい中、ボースの傷ついた市民達の為に来ていただき、真にありがとうございます、”聖女”様。」
ティアに会釈されたルグランはティアの名前を聞いた後、恐縮した様子で会釈をし、メイベルは貴族に対する上品な作法で会釈した。
「………傷ついた方達を癒すのが私達の役目ですから、気にしないで下さい。………それと、できれば”聖女”ではなく、どうか気軽に”ティア”とお呼び下さい。………正直、”聖女”という呼び名は私にとっては恐れ多く、今でも慣れていない呼び名ですので………」
メイベルに答えたティアは恥ずかしそうな表情で微笑みながら言った。
「フフ……それならお言葉に甘えて、今後は名前で呼ばさせていただきますわ。」
ティアの頼みを聞いたメイベルは上品に笑って頷いた。
「………現在、信徒の方達は東ボース街道にて野営の準備をしている最中です。………今のボースの状況ですと、宿泊施設は勿論の事、イーリュン教の教会も火事になった方達の避難場所になっているでしょうから………」
「……はい。おっしゃる通り、ホテルもそうですが、各宗教の教会施設――七曜、イーリュン、アーライナ教会にも家を焼かれた市民がいる状態です。」
ティアの説明を聞いたメイベルは真剣な表情で頷いて答えた。
「今日はもう遅いですし、ロレントからはるばる歩いて疲れていらっしゃいますでしょうから、今日はお休みになって、明日からお願いいたします。」
「……私達の方は構いませんが………命に関わるような傷を負っている方達はいらっしゃいますか?もしいらっしゃったら、今から私が治療しますが………」
「………いえ。ボース市民、ラヴェンヌ村民共に命に関わるような怪我は負っていませんので、大丈夫です。」
「………そうですか。それはよかったです………」
メイベルの説明を聞いたティアは安堵の溜息を吐いた。
「それより先ほど、街道で野営の準備をしているとおっしゃったが……大丈夫ですかいの?よければ、エステル達を夜の警護に当たらせますが。」
「そうね。ティアさんやイーリュンの人達は戦えないものね。」
「この人数ならさっきの手配魔獣を倒すときみたいに、何チームかに分けての仮眠を取っての交代も可能だし、大丈夫よ。」
ルグランの提案にエステルは頷き、シェラザードは具体的な提案を言った。
「ハハ、爺さん達の心配は無用だぜ。」
「フフ、そうですね。」
「ジンさんと姫殿下の言うとおり、わざわざボク達が警護する必要はないよ♪なんたって、エステル君とミント君がいるんだから♪」
それを聞いたジンは笑い、クローゼは微笑み、オリビエは頷いた。
「へ?それってどういう事………?ミント、オリビエの言っている事ってどういう意味かわかる??」
「え、え~と…………ミント達と一緒に来たらわかるよ、ママ。」
「??あれ………そういえばミント。なんで今、そのマントを付けているの?」
ミントの言葉に首を傾げたエステルはミントが羽織っている”ルーハンス”家の紋章が描かれた白銀のマントを見て尋ねた。
「フフ………実際に街道に行ったらわかるよ、エステル。」
訳がわからない様子のエステルにリタは微笑んで言った。
「あ、それとママ。一応、ママもアリアさん達から貰ったマントや髪飾りを付けてね。」
「なんで??」
「あ、あはは………行ったら、わかるよ………」
エステルに尋ねられたミントは引きつった笑みを浮かべて答えた。
そしてエステルはミントの言うとおり”ファラ・サウリン”家の紋章が描かれたマントを荷物から出して羽織り、またグラザからもらった髪飾りも付け、仲間達と共に東ボース街道に向かうと驚くべき光景を目にすることになった………………
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第267話