モルガンと竜の事を話し合い始めたエステル達はモルガンから予想外の事を言われて、信じられない表情をした。
~廃坑・露天掘り場所~
「―――ちょ、ちょっと待ってよ!手を引けってどういうこと!?将軍ってば、また遊撃士(あたし)たちを目のカタキにしているわけ!?」
モルガンの話を聞いたエステルはモルガンを睨んで怒鳴った。
「そうは言っておらん。だが、警備艇の導力砲ですら傷付けることが困難な魔獣だ。おぬしらにいったい何ができる?」
「そ、それは……!!さっきの巨大な獣――カファルーはあたしの仲間よ!後、さっき現れた怪獣はプリネが召喚したから、プリネの使い魔――仲間よ!それにそこの娘は”竜”よ!後、この場にはいないけど、もう一人”竜”がいるわ!さっきのカファルーとツーヤ、そして怪獣の攻撃を見たでしょう!?2人の攻撃でダメージを与えたんだから!」
モルガンの説明を聞いたエステルは唇を噛んだが、ある事を思い出して言った。
「……………確かに先ほどの獣達の攻撃は効いていたようだが、どうやって竜を見つける気だ?仮に竜を見つけても、どう対処する気だ?もし、上空を飛んでいたら対処はできまい。」
エステルの話を聞いたモルガンは頷いたがある事を指摘した。
「………そうね。確かに、警備艇を持たないあたしたちには捜索ができない。」
モルガンの指摘を聞いたシェラザードは静かに頷いた。
「エステルさん………ここで言うのも辛いのですが、言っておきます。………あたしは”水竜”なので空を飛べません。それにマスターの使い魔――パラスケヴァスは湖に住んでいた幻獣だそうですから、飛行手段を持っていません。……付け加えて言うならあたしと違って”竜化”して飛べるミントちゃんも”成長”して日も浅いですから、長時間の飛行………ましてや上空での戦いなんて無理と思います。」
「だ、だったら、カファルーなら!」
辛そうな表情をして答えたツーヤの言葉を聞いたエステルはカファルーの事を出した。
「………エステルさん。竜と魔神が戦えば、周りの被害がすざましい事になります。上空での戦いとなると飛びながらの戦いになるでしょうから、戦っていたらいつの間にかボースどころか他の都市の上空で戦っている事も考えられますから、その案もやめた方がいいです。万が一、カファルーが圧していても、先ほどのように竜を吹き飛ばした時、吹き飛ばした先が都市という事やカファルーと竜の攻撃が流れ弾として都市に降ってくるという事もありうるのですから…………」
「………………………」
しかしプリネの説明を聞いたエステルは何も言えなかった。
「………プリネ姫。例えあなたの頼みでもさすがにこればかりは譲れませぬぞ。”この件”は現状、リベールの問題です。プリネ姫もボースやラヴェンヌ村の被害をご覧になったでしょう。これは最早、戦争と言っても過言ではありますまい。現在は先ほどジークより来たクローディア姫の緊急の連絡――イーリュン教の信者達と彼らを守るメンフィル兵の受け入れ、そして復興の為のメンフィル兵の派遣の受け入れしかできません。」
「………そうですね。 クローディア姫とは竜の対処に関してはまだ話し合っていませんし、将軍のおっしゃる通り現在はリベール国内の問題ですし、さすがに竜が相手となると本格的な”軍団”を出撃させる必要がありますから、私には”軍団”を出撃させる権限はありませんから、権限を持つお父様かシルヴァンお兄様がアリシア女王と話し合う必要がありますね。」
モルガンに言われたプリネは静かに頷いて答えた。
「餅は餅屋とも言う。戦争ならば我々プロに任せておくがいい。お前たちは、そうだな……『身喰らう蛇』の拠点捜索に集中してもらうと助かる。」
「で、でも……!」
「……ざけんな………」
モルガンの言葉にエステルが反論しようとしたその時、怪我の手当てをされていたアガットが足を引きずりながらモルガンに近づいて来た。
「アガット……!?」
「ア、アガットさん!手当てしたばかりだから無理しちゃダメですよ~!」
アガットを見たエステルは驚き、手当てをしていたティータは慌ててアガットに駆け寄った。
「………………………………」
「……おぬしは……『重剣』のアガットと言ったか。威勢のいい若手遊撃士だとカシウスから聞いたことがある。」
アガットの睨みを気にせず、モルガンは言った。
「オッサンの事はどうでもいい……。なあ……将軍閣下よ……。餅は餅屋……戦争はプロに任せろだと……?そりゃ……本気で言ってんのか?」
「……無論、本気だが。人を守るだけの遊撃士と違って我々は国を守らねばならん。この場合、国とは民と国土の両方を指している。それができるのは軍だけだ。」
「クク……民と国土を守るか……」
モルガンの話を聞いたアガットは低い声で笑った後、そして!
「笑わせるんじゃねええッ!!!」
「ぐっ……」
突如、モルガンの襟首を掴み、怒鳴った!
「ちょ、ちょっと!?」
「ア、アガットさん!?」
「いつもいつも!てめえらは間に合わねえ!でかい図体を素早く動かせず!足並みを揃えることばかり考えて!命令なしじゃあ何もできず!守れるはずのものを守れねえ!今回も!10年前の戦争でもなあッ!!」
慌てているエステル達を気にせず、アガットは怒鳴った。
「!!もしやおぬし、あの時の……」
アガットの言葉を聞いたモルガンは驚きの表情でアガットを見た。
「テメエらもだ!何が”聖女”、”大陸最強”だ!肝心な時にはその”力”を使わない上、間に合わず、結局人を死なせているじゃねえか!」
「(10年前の戦争………”百日戦役”ね…………もしかしてアガットさんは……)……アガットさん、もしかして貴方は10年前の戦争で大切な人を…………?」
さらにアガットはプリネを睨んで叫び、睨まれたプリネはアガットから目を逸らさず、静かに問いかけた。
「ケッ……誰がてめえらだけに任せておけるかってんだ……。今度は……今度こそは……。俺は……この手で……ミーシャを守らなくちゃ……」
問いかけられたアガットは答えず、自分に言い聞かせるように呟いた後、地面に崩れ落ちた。
「アガットさんっ!?」
「ちょ、ちょっと!?」
崩れ落ちたアガットを見たティータとエステルは慌てた。
「……ふむ、傷口が開いたということはなさそうだ。気力と体力が尽きて気絶しただけのようだな。」
「……アガットさん……」
「ま、まったくもう、人騒がせなんだから……」
アガットの状態を調べて言ったモルガンの答えを聞いたティータは心配そうな表情で倒れているアガットを見つめ続け、エステルは安堵の溜息を吐いた。
「とりあえず、きちんとしたベッドに寝かせた方がよかろう。こやつの家もあることだし、ラヴェンヌ村まで送るとするか。」
「あ、うん、お願いします。………………………………。って、どうしてラヴェンヌ村にアガットの家があることを知ってるの?」
モルガンの提案に頷いたエステルだったが、ある事に気づき、モルガンに尋ねた。
「……こやつに一度だけ会っていたのを思い出してな。あの時の少年が……ずいぶんと大きくなったものだ。」
「あの時?」
「『百日戦役』が終わった直後……。こやつの妹と村人たちの墓碑が建てられた時のことだ。」
「!!!」
モルガンの説明を聞いたエステルは信じられない表情をした。その後エステル達はモルガンと付き添いの兵士と共にアガットをラヴェンヌ村にあるアガットの家に運んだ後、アガットの看病はティータに任せ、村長の家に向かって村長に事情を説明した。
~ラヴェンヌ村・村長宅・夕方~
「なるほど……。そんな事があったのか。エステル殿、将軍閣下。色々と面倒をかけたのう。」
「ううん……。結局、竜の暴走を食い止められなかったし……。あんまりお役に立てなくて申しわけないんだけど……」
エステル達の説明を聞いた村長はエステル達に謝罪し、謝罪されたエステルは申し訳なさそうな表情をした。
「まあ、そう気落ちするな。結果はどうあれ、おぬしらが早めに動いてくれたのは助かった。ボース市の消火活動やマーケットでの人命救助といい、果樹園での消火活動といい、な。」
「あ、あはは……。将軍さんに誉められると何だかこそばゆいわね。それに消火活動はプリネ達のお蔭だし。」
モルガンの賞賛に照れたエステルはプリネとツーヤを見た。
「フフ……私ができたのは火の勢いを少しだけ弱めただけで、本格的な消火をしたのはツーヤ達ですよ。」
「そ、そんな…………恐れ多いです。」
プリネに微笑まれたツーヤは顔を赤らめた。
「あはは……それはともかく…………アガットのことなんだけど。妹のミーシャさんって本当に10年前の戦争で……?」
2人の様子を見たエステルは苦笑した後、村長にある事を尋ねた。
「うむ……。帝国軍と王国軍の戦闘が村の近郊であってな……。その時、帝国軍の焼夷弾(しょういだん)がいくつか村に届いたのじゃ。」
エステルに尋ねられた村長は重苦しい表情で当時の様子を語り始めた。
「その結果、民家が焼かれ犠牲者を出すこととなった。ミーシャもその1人じゃ。」
「………………………………」
村長の話を聞いたエステルは悲痛そうな表情で黙っていた。
「実はあたしも、少し事情を知っていたんだけどね………アガットが言いたくない様子だったから黙ってたの。」
「そうだったんだ…………」
シェラザードがアガットの事情を知っていた事にエステルは意外そうな表情で答えた。そしてモルガンが話を続けた。
「……それはある意味、我々王国軍の失態でもあった。村を守るための防衛線が帝国軍の苛烈な攻撃を招き……結果的に甚大な被害をもたらしたのだからな。」
「あ……」
「そして、その防衛線の構築はわしの指示によるものだった。全てはわしの責任と言えるのだ。」
「……将軍閣下。あまりご自分を責めなさるな。あの時、王国軍はあくまで使命を果たしただけじゃった。結局、幾つかの偶然が重なって起きた被害でしかないんじゃよ。」
「いや、どうか庇ってくれるな。肉親を亡くした者にそのような理屈は通用しない。あの赤毛の若者のようにな。」
「……それは……」
自分を責めているモルガンを自分達は恨んでいないことを伝えようとした村長だったが、アガットの事を出されて、言葉を失くした。
「それにこの犠牲は………我々王国軍………いや、リベール王国がメンフィル帝国のせっかくの好意を断った我々の責任だ………」
「…………………………」
「え………それってどういう事…………?」
モルガンの話を聞いたプリネは両目を閉じて静かに黙り、エステルは驚いて尋ねた。
「………当事者のお主も知っていると思うが、”百日戦役”の当時のロレントはエレボニア帝国の襲撃の際、突如現れたリウイ皇帝陛下率いるメンフィル帝国軍によって、エレボニア兵は殲滅され、そしてロレントはメンフィル帝国軍によって”保護”された。」
「あ、うん。それは勿論知っているけど………」
モルガンの説明を聞いたエステルは目を閉じて黙っているプリネをチラリと見た後、言った。
「それを知った女王陛下はリウイ陛下に何の為にロレントの”保護”をし、そしてロレントを”返還”して頂く為にわしやカシウスと僅かな護衛兵と共に陸路でロレントのメンフィル帝国軍の本陣にいるリウイ陛下と会談した。」
「え………ロレントの”返還”ってどういう事………?」
モルガンの話を聞いたエステルは驚いて尋ねた。そして目を閉じていたプリネは目を開いて静かな口調で答えた。
「………エステルさん。普通、”保護”をした時点で”保護”を行った国の領となる………つまり、あの時点のロレントは”メンフィル保護領”――リベール王国ではなく、メンフィル帝国の領地だったんです。」
「!!」
プリネの説明を聞いたエステルは驚いた表情をして、プリネを見た。
「……実はあたしも師匠からその事は聞かされていてね………ロレントがメンフィル領だった時期は僅かな時期だったから、言う必要はないと思って今まで黙っていたのよ………」
「そうだったんだ…………」
シェラザードも知っていた事にエステルは驚いた後、シェラザードを見た。そしてモルガンは説明を続けた。
「………”ロレント返還”の条件は予想していたよりも大した条件はなく、特に問題はなかった。そしてその際、リウイ陛下は我々リベールにある提案をした。」
「ある提案??」
「……”友好の証”として当時エレボニア軍に占領されている他の都市の解放を手伝う事………それがリウイ陛下の提案だった。」
「それって………」
「………リベールへの援軍……ね。当時戦時中のリベールにとって、魅力的な提案だけど………デメリットとして、将来のメンフィルとの駆け引きでその事を持ち上げられる可能性があるわね。」
モルガンの話を聞いたエステルが言いかけた事をシェラザードが続けた。
「………そうだ。その可能性も考えられたからこそ、女王陛下はリウイ陛下の提案を断った。………だが、女王陛下はラヴェンヌ村の犠牲者を知り、あの時受けるべきだったと後悔していらした………もし、あの時リウイ陛下の提案を受けていれば、村を襲うエレボニア軍をメンフィル軍が圧倒的な戦闘力で反撃も許さず電光石火で殲滅し………そして万が一、村民から重傷者が出ても”闇の聖女”殿が治癒し、犠牲になった者が今でも生きている可能性はあっただろうしな………」
「………………………ねえ、プリネ。もし将軍さんの言うとおり、女王様がリウイの提案を受けたら、アガットの妹は………」
モルガンの説明を辛そうな表情で聞いていたエステルはプリネを見て尋ねた。
「………”もし”の話なので、実際どうなったかはわかりませんが…………もし、アリシア女王がお父様の提案を受けていたらアガットさんの妹さんが生きていた可能性はあると思います。……”百日戦役”の際、メンフィルが制圧した領をエレボニアが制圧された領を奪還するために何度か防衛戦があったと聞きますが………その際、流れ弾が都市に落ちないように、魔道軍団の一部隊が魔術による防衛結界を都市に貼って、一般市民に被害が受けないようにしたと聞いています。」
「そっか…………」
プリネの推測を聞いたエステルは複雑そうな表情をした。そしてモルガンは話を戻して続けた。
「村の犠牲者の葬儀が行われた時、わしは軍の代表として出席したが……。その時会った、赤毛の少年の目を今でもはっきりと覚えておる。底知れぬ哀しみを、怒りでねじ伏せるような……そんな痛々しい眼差しをな。そんな目をさせたのは……やはり、わしなのだろう。」
語り終えたモルガンは目を伏せた。
「……いや。そうではないのじゃ。アガットが本当に責めていたのは帝国軍でも、ましてや閣下でもない。他ならぬ自分自身だったのじゃ。」
「……?」
「ど、どういうこと?」
しかし村長の話を聞いたモルガンは伏せていた目を開いて村長を見て、エステルは首を傾げた。
「詳しいことは話せぬが……。アガットは、ミーシャの死を自分の責任のように感じていた。決してそんな事はないんじゃが、そう思い込んでしまったんじゃな。そして激しく自分を責めた挙句、村から飛び出してしまった。どうすればミーシャに償えるか、その答えを探すために。おそらくルーアンで荒れた日々を過ごしていたのも、その答えが見つからなかったからじゃろう。」
「………………………………」
「その後、良い導きがあって遊撃士の道を志したようじゃが……。どうやら未だ、あやつは答えを見つけてはおらぬらしい。10年前と同じように深い哀しみと、自分への怒りに囚われてしまっておるようじゃ。」
「……やり切れぬ話だ。」
村長の話を聞いたモルガンは目を伏せた。
「……ねえ、将軍さん……。やっぱりあたしたちも、竜対策に協力させてくれない?」
「なに……?」
「遊撃士(あたしたち)には軍にはない強みが確実にある。フットワークの軽さとか、市民との距離の近さとか……。軍人さんが普段入らないような奥地にも出かけたりするしね。きっとお役に立ってみせるから。」
「だが……」
「アガットが遊撃士になったのはそうした所に可能性を感じたからじゃないかと思うの。どうしたら妹さんに償えるか、その答えを見つける可能性を……。……その意味では、アガットが父さんに誘われて遊撃士になったのはすごく納得できると思う。父さんは、お母さんやあたしを守れなかった事がきっかけで遊撃士になったから……」
「………………………………」
エステルの提案と説明をモルガンは何も言わず黙って聞いていた。
「遊撃士の可能性をもう一度、確かめるためにも……。何よりも、目の前で困っている人たちの力になるためにも……。あたしは、今の自分にできる精一杯のことはしておきたい。だから……どうか協力させてください。」
「「エステルさん………」」
「ふふ、よく言ったわね。」
エステルの話を聞いたプリネとツーヤ、シェラザードは感心した様子でエステルを見つめた。
「………………………………。10年前、ボース地方にも遊撃士がいればあるいは……」
「へ?」
「いや……何でもない。多忙なカシウスに代わって今回の竜対策の指揮はわしが行うことになった。そろそろハーケン門に戻って軍議を始めなくてはならん。おぬしの提案はその時に検討させてもらおう。」
「そ、それじゃあ……!」
モルガンの答えを聞いたエステルは期待した表情になった。
「早とちりするでない。あくまで検討するだけだ。今夜中に、軍議の結果をボース支部に連絡しよう。約束できるのはそのくらいだ。」
「……うん、わかりました。」
「連絡、お待ちしているわ。」
モルガンの説明を聞いたエステルとシェラザードは頷いた。
「それではわしはこれで失礼させてもらおう。村長殿、お邪魔したな。」
「いやいや。また来てくだされよ。」
そしてモルガンは控えていた兵士と共に退席した。
その後アガットの状態を見るためにエステル達は一端アガットの家に行き、アガットの介抱をしているティータに今後の事を説明し、その際のティータの希望により、ティータは引き続きアガットの看病に残る事になったので、アガットを看病するティータを残して、報告の為にエステル達はギルドに戻った…………
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第266話