No.463976

篠ノ之家の長男は正義の味方 第5話

優雅さん


第五話「親と子」

2012-08-02 21:01:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5039   閲覧ユーザー数:4784

 

 

 

 

 

 

 

 

side 束

 

「……ね」

 

 夢…夢を見ている…誘拐された私を、たった一人で助けに来てくれたお兄ちゃんの夢。

 

「…ばね」

 

 どこからとも無く剣を取り出し、子供とは思えない力で誘拐犯たちを退治していく正義の味方。私は、ヒーロー物は子供っぽくて好きじゃなかったけど、こんなかっこいい正義の味方なら大好きだ。

 

「た…ね!」

 

 でも、もし今見てる夢が現実じゃ無くて夢だったら?

 私はそれが怖くて、夢のまどろみの仲から抜け出せない。夢だったら、このまま夢の世界にいてもいいよね?私とお父さんとお母さんと箒ちゃんにちーちゃん…それに、お兄ちゃん。皆仲良く笑ってられる世界にいても…

 

「束!」

「わっ!?」

「やっと起きたか…おはよう、いやこんばんわだな束」

「あ……うん。おは………こんばんわ、お兄ちゃん!」

 

 眼を覚ますと、私はお兄ちゃんの背中で寝ていた。

 そっか、さっきまでのは夢じゃなくて本当にあったことだったんだ…そう思うと、さっき見た笑顔を思い出し、ついつい恥ずかしくなり背中にしがみつくように抱きついた。

 

「家に着いたぞ、束」

「あ、起こしてくれる約束だったね、ありがとう!お兄ちゃん」

「別に構わないさ。そうそう、ちゃんと父さんたちにさっきのこと話すんだぞ?」

「えっ!?どうして?」

「でなきゃ、根本的に変わらないだろ?父さんたちならきっと大丈夫だ」

「…うん!」

「さ、入るぞ」

 

 私をおんぶしたまま、お兄ちゃんが玄関の扉を開く。

 そういえば、さっきから私は降りてないなぁ~…ま、いっか!

 

「「ただいま~」」

---ガタガタガタ!

「「束!!大丈夫だったか(の)!?」」

 

 家に入ると、お父さんとお母さんが走ってきました。

 お父さんたちの眼は、真っ赤に充血していて…さっきまで泣いてたのが判ります。

 お兄ちゃんは、私を降ろしてくれました。

 降ろされた私を、お父さんとお母さんが抱きしめてくれます。…あったかい、これが…家族の愛情、なんだね。

 

「お父さん…お母さん…」

「どうしたんだ、束?もしかして何処か怪我でもしたのか!?」

「…ただいま!」

「ッ!おかえり、束ぇ~!」

 

 お父さん達の前でも、ずっと不機嫌そうな顔しかしてなかったけど…たぶん、私は笑えてると思う。

 お父さんも、お母さんも…私にとって『身内』なんかじゃなくて『両親』なんだから!

 それから、私は今まで思っていたことを全部話した。そしたら、お父さんにもお母さんにも泣きながら謝られました。お父さん達に強く抱きしめられながら、私も泣いてしまいました。

 

side out

 

 

 

 泣いてしまった柳韻、春香、束が落ち着いてから士郎たちは居間に行くことにした。

 すると、そこには千冬がテーブルに身体を預け眠っていた。

 柳韻が言うには、士郎と束が心配で篠ノ之家で待っていたそうだ。

 さすがにこのままにしておくのもまずいと思い、士郎は千冬を起こすことにした。

 

「千冬…起きろ、千冬!」

「ん…ん~、しろうさん?」

 

 まだ寝ぼけているようだが、千冬は起きたようだ。もちろん、ちゃんと頭が働くとここに士郎と束がいることに安堵し、泣いてしまっていた。千冬は、束が誘拐された事を士郎に話、その士郎にも何かあったらと考え、ずっと自分を責めていたのだ。

 

「にしても、束も士郎君も無事でよかったよ」

「あのねあのね!お兄ちゃんが、どこからともなく剣を出して私を助けてくれたんだよ!」

「剣を?束、夢を見てたんじゃないの?」

「違うよ~!本当に出してたんだよ~」

 

 束は、簡単にさっきの戦いの事を話しているが、士郎は内心冷や汗をかいていた。

 この世界が、士郎が前いた世界とは違う平行世界なのは日本に冬木市が無かった事で気付いた。だが、この世界にも魔術があるかどうかは判らない。最悪、魔術協会が存在し前世と同じように代行者たちに終われてしまう可能性だって無くは無いのだ。

 

「そ、そうだ束。お前は、寝てたから夢でも見てたんじゃないのか?」

「む~、お兄ちゃんまで…けど、甘いね!束さんにはこの小型カメラがあるからさっきの一部始終は録画済なんだよ!」

 

 終わった…、内心士郎はそう思っていた。

 柳韻は、士郎がどう助けたのか気になっており、率先してカメラをテレビのビデオに繋げていた。

 士郎は、何とか止めようとするが春香に羽交い絞めされて動けなかった。

 そして、千冬は眼を輝かせながら待っていた。千冬にとって士郎は憧れであり、目標でもある。そのため、士郎の本気を一度は見ておきたかったのだ。

 

「ちょ!ま、待ってくれ!」

「それじゃ、さいせ~♪」

 

 士郎が止めるのも虚しく、束が録画した動画を再生されてしまった。

 それから、数十分後…

 

「これはこれは…」

「本当に剣を出してるわね…」

「すごい…」

 

 束が再生した動画を見た3人は、現実とも思えない映像に呆然としていた。

 それもそうだろう、いきなり人の手から剣が出現すれば唖然とするだろう。

 士郎は、さすがにもう隠しきれないだろうと思い、せめて何とかできないか考えていた。

 

「…士郎くん、さっきのは何だったか聞いてもいいかい?」

「…それじゃあ一つだけ、条件があります」

「なんだい?」

「父さんたちが、俺と束に隠してる事を言ってくれれば話します」

「「ッ!?」」

「お父さんとお母さんが、私たちに隠してる事?」

 

 士郎にとって、これがうまくいけば話さなくてすむと考えている。

 だが、それと同時に柳韻たちが隠してる事は聞いては、後戻りできなくなるのではとも考えてしまっていた。

 

「…そうだね、いつかは士郎くんたちに言わなくては、と思ってたよ」

「柳韻さん!?」

「春香…いつかは言わなければいけないことなんだ。それが、今になっただけだよ」

「…わかったわ」

「あ、あの…」

 

 柳韻と春香は、互いに秘密にしてた事を話す覚悟をし終えると、千冬がひそひそを手を上げ始めた。

 

「私は…いない方がいいですよね?」

「いや、千冬もいてくれ。その方が、俺のことも話し易い」

「はい、わかりました。士郎さん」

「じゃあ、話してくれ。父さん」

 

 士郎も話す覚悟をし、柳韻が秘密にしていた事を聞く事にするのだった。

 柳韻は、いつになく真剣な眼で士郎たちを見る。

 

「そうだな…まずは、どこから話すか。………うん、率直に言うよ。

士郎君、君は束の兄じゃないんだ」

「「えっ!?」」

「やっぱり…ですか」

「あら!?士郎くんは知ってたの!?」

「ええ。なんとなくですが、束を呼び捨てにして俺だけ『君』付けですし。何より、束に比べると甘やかせ過ぎてる感じがしましたから…なんとなくは」

「そうか…士郎くん、君はね。束が産まれた数日後の病院の前に捨てられていたんだ」

「それを柳韻さんが見つけてね。そのまま私たちが引き取る事にしたの」

「双子って言ってたのも、医師の判断では束と同じ日に生まれ、同い年だったからなんだよ。

…これが、僕たちが二人に隠していた事だ」

「私たちにとって、士郎くんは私たちの本当の子じゃないから…本当の家族になれるように、士郎くんを甘やかしてたの。…でも、それで束のことを疎かにしちゃうなんて…駄目な親ね、私たちは…」

 

 柳韻と春香から語られる、士郎と束が本当の兄妹ではないと言う事実。

 まだ幼い束と千冬には、衝撃的な事実だった。

 

「…次は、俺の番ですね。俺は…前世の記憶を持った魔術使いです」

 

 そして、士郎も柳韻と春香が全てを語ってくれたようにすべてを話すことにした。

 衛宮(えみや) 士郎として始まった、あの大火災のこと。自分を引き取ってくれた衛宮 切嗣(きりつぐ)のこと。自分が巻き込まれた聖杯戦争のこと。そして…正義の味方として世界を回り、最終的には死んでしまったこと。さすがに、子供もいるためできるだけ危険な事を避けながらだが、その全てを話すのだった。

 

「…これが、俺という存在なんです」

 

 話し終わると、士郎を除く全員が俯いていた。士郎は、当然だろう、と考えていた。

 まさかいきなり、自分は一度死んで生き返った魔法使いです、なんて言っていたんだ。しかも、その後の話が妙にリアルで暗い話である。こうなるのは、当たり前だろう。

 士郎は、急に立ち上がり居間から出ておこうとする。

 

「…どこに行くんだい、士郎くん」

「……この家を出てきます。俺は…この家の家族では、ありませんから」

 

 士郎の言葉に息を呑む束と千冬。春香は、ただ何も喋らずに泣いているだけだった。

 士郎がドアノブに手をかけた瞬間、士郎の身体は吹き飛んだ。

 そう、柳韻が全力の力で士郎を殴り飛ばしたのだった。

 

「俺はこの家の家族じゃない?

ふざけた事を言うな!君は!士郎くんは!!僕たちの家族である、篠ノ之 士郎だ!!」

「…だけど、俺は…」

「士郎くん…あなたにとって、切嗣さんは本当の家族なんでしょ?」

「…はい。俺は…じいさんの事を、家族だと思ってます…」

「だったら問題ないわ。士郎くん…血が繋がってるか、なんて関係ないの。

士郎くんが切嗣さんを家族と思ったように、私たちとも…家族になりましょ」

「でも…」

「でもも、なんでもない!君は、僕たち篠ノ之家の一員だよ。士郎(・・)」

「ッ! ありがとう、父さん。母さん…」

 

 その日、士郎は泣いてた。

 あの大火災がってから、一度もないたことのない士郎。今までは、心が壊れロボットが人間の振りをしているようだと思われるようなだったが…まぎれもなく、壊れていた心の一部が治った瞬間であった。

 

* * *

 

「で、何で俺の布団で寝てるんだよ、二人は…」

「だって…こうでもしないと、お兄ちゃんがどっか行っちゃうんじゃないかって思ったんだも~ん」

「わ、私は…束に連れられて…」

 

 あれから、千冬はさすがに遅くなったのでこのまま篠ノ之家に泊まることになった。

 束と一緒にお風呂に入ってる間に、春香が布団などの準備をしていた。

 士郎は、あの後柳韻に連れられ刀を投影させられていた。

 剣術家でもある柳韻に、士郎の投影魔術による真剣に惹かれて色々と見せて欲しいと頼まれていたのだった。

 それも終わり、お風呂から出た士郎は自分の部屋にいくと、何故か束と千冬が士郎の布団で寝ているのだった。

 束とは、さすがに小学生になってからは別室になっているし、千冬もいるのでさすがにツッコミを入れるのだった。

 それに、今回の事はさすがに自分に非があるので、却下もできなかった。

 さすがに、同じ布団で寝るのは厳しいので、もう一組布団を持ってきて士郎を中心に3人は眠るのだった。

 ……その後、中学に入っても束は士郎の布団に入り込んできて、千冬が泊まる時は士郎も一緒になるとは知らずに。

 

 

 

 

 


 
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