No.463983

篠ノ之家の長男は正義の味方 第6話

優雅さん


第六話「何気ない日常」

2012-08-02 21:09:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:8527   閲覧ユーザー数:8004

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うにゅ…すやすや…」

 

 耳元から、聞きなれた声が聞こえ、意識が覚醒する。やれやれ…またなのか?

 中学生になった俺は、身体を起こすと同時に、二人分くらいに膨らんでいる布団の中を見てみると、予想通りの人物がその中にいた。

 

「はぁ…なんでさ?」

 

 中で寝ていたのは、ふわふわとしたファンシーなパジャマを見に纏い、俺に抱きついてきている束だった。抱きついてるせいで、束の中学生にしては豊満な胸が俺に密着してるが何時ものことなので、とりあえず無視しておく。

 

「起きろ束。もう朝だぞ?」

「ん~……おはよー、お兄ちゃん」

「まったく…一体何時の間に忍び込んだんだ?寝てるとはいえ、気配を感じなかったぞ?」

 

 束は、俺を『兄』として認めてくれた日以来、よく俺と寝ている。

 さすがに、中学生になってからは止めようとしているが、今日みたいに忍び込んでくる日がしばしばある。

 始めの頃は、束が近づいてくれば気配で起きれたのだが、最近になっては束の隠密スキルが上がったせいか、起きるまで気付かない事がある。

 

「ふっふっふ…今回はこれ!束さん特製の『気配を消せる君3号』を使ったのだよ!これで、お兄ちゃんが寝ちゃった後に入り込んだんだー♪」

 

 束が取り出したのは、首にかけていた小さなペンダントだった。

 ってか、そんな物で俺が気付かないほどに気配が消せるって…束は、どんだけ天才なんだよ…

 ちなみに、何故あのペンダントが3号かというと…今まで束が俺に使ってきて、ペンダント型は1,2号は俺が気が付いた為、改良を加えたていったらしい。なので、3台目なので3号らしい。

 

「はぁ…仕方ない。早く着替えて、父さんたちのところに行くぞ」

「えー、お兄ちゃん連れてってー」

「ったく…仕方ない」

 

 束は、実は結構頑固な面があり、一度決めた事はなかなか折れてくれない。さらに、飽きやすいからなおたちが悪いのは、ここ数年でよーく理解している。

 なので、無駄な抵抗はせずに束の眼の前で、しゃがんでやる。

 

「ありがと!さすが、お兄ちゃん♪こんなに優しい義兄がいて束さんは嬉しいよ」

「はいはい。とりあえず、束の部屋まで送ってやるよ」

 

 束を背に乗せて、束の部屋まで歩き出す。部屋まで送った後は、また部屋に戻って着替えをしてから、下の部屋のリビングに向かう。

 リビングにつくと、既に父さんと母さん、束、箒が席に着いていた。

 どうやら、俺を待ってたみたいだな。

 

「おはよう、皆」

「「おはよう士郎(くん)」」

「おっはよー!お兄ちゃん」

「おはよう、おにいちゃん」

 

 挨拶が終わってからは、皆で談笑しながら朝食を取る。これが、篠ノ之家の朝だ。

[ピンポーン]

 朝食を食べ終わり、身だしなみを整えていると家のチャイムが鳴る。

 ああ、もうそんな時間か…

 

「束。箒、行くぞ」

「うん。それじゃ、いこー」

「はい。おにいちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お早うございます、士郎さん。おはよう、束。それに箒」

「おはよー、ほうき!しろう!たばねさん!」

 

 玄関には、何時も通り千冬とその弟の一夏(いちか)が立っていた。

 一夏が俺を呼び捨てにしてるのは、初めて会った時からそうだ。千冬にその事で叱られていたが、俺としては呼び捨てのほうがいいので、一夏には呼び捨てで呼んでもらっている。

 一夏も家の門下生で、父さんから剣道を教わっている。

 

「それじゃ、行くとしますか」

「「はい」」「「うん!」」

 

 俺と束、千冬が通う中学はちょうど前に通っていた小学校の前を通る。箒と一夏は、俺たちが通っていた小学校に通っているので、登校時は小学校の前まで一緒だ。

 箒は一度、あの小学校でイジメられていたことがある。箒は、俺たちに迷惑をかけたくないから、と言ってずっと黙っていた。それを救ったのが、一夏だった。それ以降、一夏と箒の仲は進展していたのだ。

 っと、もう小学校の校門前についたか。

 

「それじゃ、頑張って行って来いよ、二人とも」

「一夏。あんまり箒に迷惑かけるなよ?」

「行ってくるねー、箒ちゃ~ん♪」

「「いってきまーす!」」

 

 二人と別れ、俺たちも中学校に向かって歩き始める。

 

「そういえば、士郎さんは今日は弓道部のほうに行くんですよね?」

「ああ。さすがに、幽霊部員になる訳には行かないからな」

「束さんは、それを見学するんだよー」

 

 この会話通り、俺は弓道部に入部している。前世の頃、弓道部だった名残かつい つい入ってしまった。…もっとも、学校の備品の修理などをこなしているせいか、最近は顔出し忘れていたな。

 ちなみに、千冬は剣道部で束は帰宅部だ。千冬の剣道の腕前は、最近では俺をも超え、向かうとこ敵なしの状態だ。…この前、剣道の全国大会を圧倒的な実力で優勝してたしな…

 

「でしたら、一緒に帰りませんか?」

「そうだな。弓道部と剣道部は、何故か終了する時刻が同じだしな」

「もちろん、束さんも一緒だよ!」

 

 そんな会話を繰り返していたら、中学校に着いてしまった。

 この中で、千冬と束は一緒のクラスだが俺だけは別のクラスだ。…前、その事に文句を言っていた束が学校のパソコン内にハッキングしてデータを書き換えようとしてたっけな…

 

「それじゃ、また後でな、二人とも」

「はい。それでは、また後で」

「お昼になったら行くからねー、お兄ちゃん♪」

 

 束と千冬と別れると、不意に殺気を感じ、俺は走り出した。

 

「「「「待てぇ~、篠ノ之!!!」」」」

「だぁ~もう、またかよ~!!」

 

 実は、束と千冬はこの学校のアイドル的な存在でもある。…二人とも美人なせいで、その中にいる俺をよく男子が追いかけて来るんだよな…基本的に、束たちと一緒にいるときは襲ってこないけど、別れた瞬間に襲い掛かってくるから性質が悪いんだよな…

 逃げ回っていると、ようやくチャイムが鳴る。

 

「「「「チッ…また逃したか」」」」

 

 襲ってくる男子達は、チャイムが鳴ると大急ぎで教室に戻る。男子達は、束たちと同じクラスの連中が多く、さらにクラス委員長は千冬だ。千冬は、遅刻してくる連中には容赦なく竹刀を打ち込んでくるからなぁ…そのおかげだ。

 

「ふぅ…やっと落ち着けた」

「やれやれ、今日も追われてたのか篠ノ之?」

「ああ、一成。まぁ、もう慣れちまったからな…」

 

 朝っぱらからの全力疾走により、疲れて机に体を預けていると俺のクラスメイトの一成が声をかけてくる。

 

「まったく、あの女兎に女虎め…士郎にここまで苦労をかけるとは」

「はは…別に、束たちの性じゃ無いさ」

 

 一成の言う、女兎と女虎は束と千冬のことだ。兎は束のことで、最近は自家製のうさ耳のカチューシャを付けているからだと思う。それで、女虎とは千冬のことで、千冬は学校では孤高というか何と言うか…誇りの高い虎とかのイメージが強いらしいからだと言っていた。

 一成と束たちははっきり言って仲が悪い。前世で言うと、一成(前世の時の)と遠坂くらいだ。

 さて、授業が始まる時間だ。

 

* * *

 

「お昼に来たよ~、お兄ちゃ~ん!」

「五月蝿いぞ、束」

 

昼休みに、束と千冬が俺のクラスにやってきた。

それと同時に、クラスの雰囲気が変わった気がする…

 

「ほぉ…また来たのか、女兎に女虎」

「はぁ?また君かい?束さんは、お兄ちゃんとお昼を食べに来たんだよ?少しは空気を読んだらどうなの、KY?まったく…これだから、KYは困るよ」

「まったくだな。今回だけは、同意するぞ束…私たちは、士郎さんとともに昼食をとりに此処にきている。貴様に用があるわけではないぞ、柳洞」

 

互いに牽制しあっているこの状況…一体、どうすればいいんだ?

始まりは、束が誘拐された次の日からだ。

束に一緒に帰ろうと言われたが、ちょうど一成とも一緒に帰ろうとも言われていた。

それを知った束は、一成に文句を言い、一成も一成で言い返し始めて…後は、売り言葉に買い言葉。途中から、千冬も加わり今みたいな関係になったんだ。

 俺としては、仲良くしてほしいんだがな…

 それから、俺と束、千冬、一成で昼食を食べたのだが…雰囲気は、相変わらず悪いままだった。

 

* * *

 

 放課後、俺と束は弓道部に顔を出している。

 俺が弓道部に行くときは、毎回束が見学しに来る。

 時々、束が俺を真似て弓道衣を着る事もあるけどな…

 さて、そろそろ俺も射るか。

 的の前に立ち、俺は矢を持ち弦と共に引っ張り、狙いを定め放つ。

 矢はそのまま真っ直ぐ飛んでいき、的の中心に当たる。もちろん、残心は忘れずに行なう。

 

「………ふぅ」

---パチパチパチ!!!

「さっすがお兄ちゃん!カッコイイよ!」

「はは、社交辞令でもありがとな、束」

 

 毎度ながら、何故か俺が矢を放つとこう拍手されるんだよな…なんでさ?

 そして、束も毎回俺に抱きついてくるし。

 

「ふっふっふ、解らないか我が弓道部のエース篠ノ之君よ」

「部長?」

「君の射法八節は、全て上級者を越えている。いや、プロでもここまでうまい者はそう多くないだろうな。そんな君の射を見て、なんとも思わない者がいると思うか?」

「ふふん~、私のお兄ちゃんだもん。当然だよ!」

 

 俺たちの前に立って来たこの人は、弓道部の部長だ。

 腕前は、いい方で全国に通じるレベルでもある。ちなみに言うと、俺の射を社交辞令とはいえ褒めてくれるおかげか、束の評価は周りの人と比べると高いんだ。

 

「やはり、その射の秘訣は集中力か?確かに、篠ノ之君の集中力は周りの部員や私と比べると高過ぎる…だが、それだけがあの射の秘訣とは言い切れない…では、いったい何故---」

「あ~…皆?部長はこうなると長いから、気にせず続けててくれ。俺は今のうちに、的を張っとくから」

『ありがとよ(ね)、篠ノ之(君)』

 

* * *

 

 あれから、俺はずっと的を張っていた。その際に、束も付き合ってくれたから助かった。

 束は、頭がいいだけじゃなく手先も器用な分、こういった事が得意でだった。……ただ、途中で的をメカニックにしようとしないでくれ…

 

「士郎さん?どうかしたんですか」

「ああ、千冬。大丈夫だ。ただの考え事だ」

 

 既に、弓道部の部活が終わり帰路についている。

 束がスキップしながら先行し、その後ろを俺と千冬が付いて行っている。

 

「あっ!そうだそうだ、お兄ちゃん!ちーちゃん!」

 

 不意に、束がスキップするのをやめてこっちに振り返ってくる。

 その顔は、普段見せる笑顔とは違い真剣な顔をしていた。

 

「二人に…ううん、みんなに見て欲しいものがあるんだ」

 

 何か、嫌な気がしてきたな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
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