No.463507

超次元ゲイムネプテューヌXWorld 第三話 【獣の選択】

一話と組み合わせて読んでもらうと分かりやすいと思います。

P.S.この古城とギャザリング城とは一切関係ございません。
分かりずらくてすいません……。

2012-08-01 22:04:18 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1305   閲覧ユーザー数:1206

 

現在プラネテューヌバーチャフォレスト

 

プラネテューヌから離れて1時間あまり、氷室たち4人はプラネテューヌ郊外のバーチャフォレストの森林の中にいた。

4人の視界には15分ほど前からこの薄暗い林の風景しか映ってはいなかった。

見渡す限りの生い茂る木々は4人の目にはもはや飽き飽きしていた。

ここにいたる途中まで、氷室達は何処を目指すわけでもなく、ただ勘を頼りに歩き続けていた。

途中何度かモンスターと出くわすこともあったが、氷室達は集る虫を叩き落とすかのごとく、歩く途中に無造作に斬り捨てていった。

 

ライ(勘だけでこっちに来たけど……っと、出口か!?)

 

ライの心配をよそに森の道無き道は終わりを告げ、4人の目の前に一筋の光が差し込んだ。

暗がりに慣れた目に入り込んだ突如とした日の光に4人は目を細めながらも目の前を見張った。

光に慣れ始めた目にうっすらと飛び込んできた光景は4人の予想のどれとも当てはまらない物だった。

 

レオン「こいつは……城か?」

 

思わず声を上げたレオンの目の前にそびえ立っているのはレンガで構築されたどこかに中世の面影を残す小さめの古風な城だった。

4人がたどり着いたのは森の出口ではなく、森の中にぽかんと開いたエアポケットのような空間だった。

独特の円錐状の屋根を空に向け、森に囲まれた空間にその姿を隠すかのようにそびえ立つ古城は所々が崩れ落ちており、敷地内の開けた空間には雑草が生え放題となっていた。

城の外見に目を奪われながらも4人は真正面に存在する無駄に大きな扉を目の前にし、無造作にその扉を押し開けた。

 

氷室「ゴホッ……随分使われてなかったみたいだな……。」

 

扉を開けた瞬間に舞い上がった埃に咳き込みながらも、氷室は城の中にずかずかと入り込んでいった。

3人も氷室に続く形で中に入って行き、同時に城の中をきょろきょろと見回し始めた。

4人が現在いる空間は居間の様な場所であり、中央には埃の積もった大きめのソファーと木製のローテーブルを囲むように置かれた椅子が6つ、少し離れた位置に暖炉という構造だった。

そこから元々は誰かが住んでいたことが容易に連想できたが城内は少々荒れており、あちこちに埃が溜まっていることを見ると今は無人であることも同時に想像がつく。

一通り辺りを見回した後、レオンは3人に目配せをしながら静かに口を開いた。

 

レオン「誰もいないみてぇだし、当分はここを寝床にさせてもらうか。とりあえず、俺と氷室で城内の清掃、ライは敷地の清掃、エスターはその血に汚れた髪とスーツ洗ってプラネテューヌに食料の買い出しに行って来い。」

エスター「何で俺だけ別行動な上にそんなめんどくさい事しなきゃなんないんですかい?」

レオン「お前がこうなる元凶を作ったからに決まってんだろうが! つべこべ言わずにさっさと行け!!」

 

エスターのいい加減な態度にレオンの怒号が静寂に包まれている古城の広間に反響して響き渡った。

怒号に耳を押さえながらエスターは心底面倒くさそうな表情で大きくため息を吐くと3人に背を向けて扉の方へと歩き出した。

 

氷室「1人だ。」

エスター「?」

 

扉に手を掛けようとしたエスターを氷室の突然の言葉が止めさせた。

エスターは顔だけを氷室の方へ向き、首を傾げていた。

 

エスター「そりゃどういう意味ですかい?」

氷室「半分勘だが……さっき居たプラネテューヌで人外の気配が1つあった。恐らくは女神関連だろう……。気に留めておけ。」

 

エスターの問いに氷室は両手をポケットに突っ込んだ状態でエスターを横目に見ながら答えた。

その横目は鋭くエスターの両眼を捉えており、対するエスターは半分だらけた目つきで氷室を視界に捉えていた。

しばらく無言で氷室を見つめたエスターは、物言わぬまま視線を扉に戻し、そのまま扉を押し開けて3人の視界から消えていった。

 

レオン「氷室、そいつは俺達と同じように平行世界から飛ばされた奴ってことか?」

 

部屋からエスターが出て行ったのを確認してレオンが氷室に問いかけた。

声は何時に無く冷淡であり、鋭ささえも帯びていた。

 

氷室「そこまでは……だが、そうだとしても当分はここからは動かないのが一番だろう。」

 

無感情な声で氷室が淡々と答えると自分の仕事に戻るためにレオンに背を向けて歩き出した。

ライもレオンに一声掛けると同時に出入り口の無駄に大きい両開きの扉を押し開けて敷地の中へと消えた。

 

レオン(となると……氷室の言うとおり、当分はそういう奴との接触を避けるためにここに留まるべきか……。)

 

静寂の戻った広間の中に1人残されたレオンは腕を組みながら考えを巡らせていた。

だがこの考えを巡らせている最中、1人のトラブルメイカーがレオンの考えと正反対の行動を取っていることをレオンは知る由も無かった。

 

 

 

 

現在プラネテューヌ上空

 

目前に広がる科学都市を下目に見ながらエスターはそれなりの速度でプラネテューヌの上空を滑空していた。

血に汚れていた髪は城の敷地に存在する井戸の水で大まかに洗われ、ほとんど元の栗色の髪を取り戻していた。

ただし、スーツだけは濡れたまま着るわけにはいかないので、今のエスターはスーツを着用せずに白シャツに黒のズボン、黒ネクタイ、白いマフラーというスタイルになっている。

 

エスター「ふわああぁぁぁあああっ……。」(やっぱ昼に行動なんて性に合わないでさァ。眠い……。)

 

辺りの建物二つ分ほどの高度を滑空しながら、エスターは口に手を当てながら大あくびを1つ吐いた。

心底退屈そうに食料品を取り扱っていそうな店を上空からキョロキョロと見回すうちに、エスターの背筋辺りに違和感が走った。

殺気の類ではなく、もっと別の何かを肌で感じ取ったエスターはその違和感の出所に視線を向けた。

上空からはそこに何が居るのかは確認することは出来なかったが、エスターの本能が確かにそこに生物の類が居ることを告げていた。

 

エスター(氷室が言ってた女神関連の……となりゃ!)

 

心の中でエスターの合点がいくと、エスターは発生させていた前方への気流と風を消し、上空に留まる形でしばらく静止すると両手から風を発生させ、その風から身の丈ほどもある大鎌を実体化させた。

一呼吸置いてエスターが真下の違和感の出所に再び視線を向けると鎌を肩に添えて構えたまま、垂直方向に急速落下し始めた。

 

エスター(しっかりと挨拶しないとでさァ!!!)

 

落下速度を保ったまま、エスターは鎌を大きく斜めに振り抜き、気配目掛けて斬撃を放った。

鎌の放物線から放たれた斬撃は気配のすぐそばの地面に吸い込まれ、砂煙を巻き上げながらアスファルトを抉った。

 

「なんだってんだ……ッ!」

 

斬撃の到達点からすぐそばの地面から男の声が上がった。

エスター自身も手ごたえの無さから期待はしていなかったが、どうやらエスターの攻撃は避けられたようだ。

だがそこはエスターに眠る半鳥人の本能なのだろうか。

獲物が手強ければ手強いほどその血は沸き立ち、エスターの狩猟本能を覚醒させた。

エスターは残念がるよりもむしろ恍惚とした笑みを浮かべ、獲物と認めたそれへ向けてゆっくりと降下し、軽快に声を上げた。

 

エスター「お? 避けましたねェ。」

 

この一言が一話での戦闘の幕開けだった。

 

 

 

  ◆◆◆

 

 

 

エスター(なかなか面白かったでさァ。もしあの2人が全力で向かってきてたら……多少やばかったかもしれねぇでさァ。)

 

自身の発生させた超速の風に身を任せながらエスターは先ほどの戦闘を振り返り、ぼんやりと考え事をしていた。

流れる髪をうっとおし気にかきあげながらエスターは目の前に広がる平原に視線を移した。

目前に広がる平原の中に、中規模の木々の群生が目に映った。

来るときは1時間もかかった道のりも、いざ空を高速で滑空してしまえばものの5分足らずで済んでしまった。

徐々に速度を落としながら多少高度を上げて元の古城を捜そうとした瞬間、エスターは何かを思い出したかのように首をひねった。

 

エスター(ありィ? 何か忘れてるような気が……ま、どうせ大したことじゃないでさァ。)

 

心に灯った1つの疑念をエスターは軽く見過ごした。

 

――この後、エスターが古城に着いた後、自分のこれからの対策をまるで無視されたレオンと食料を心待ちにしながら腹を空かせていた氷室によってエスターが半殺しの目にあったのはまた別の話である。

 

 

 

現在プラネテューヌバーチャフォレスト

 

「ふふふっ、やっぱり期待通りに動いてくれてる……♪」

 

氷室達の仮住まいである古城がようやく確認できるほどの位置の森林に1人の少女が木に背を預けながら静かに呟いていた。

 

「4匹の獣……女神と人間を憎む獰猛な獣……彼らは大事な私の駒…。」

 

少女は4人が自らの意思に沿わずとも、自身のために働く駒として動くことを見通していた。

よってこの4人は他と隔離し、どう動くかを見る必要があったのだ。

だからこそ、少女は4人をこの場所に来るように誘導したのだ。

そして少女の期待通り、4人はすぐにその牙を獲物目掛けて突き立てたのだ。

 

「もうすぐだよ……もう少しで彼は私の……ふふっ♪」

 

少女は不気味な笑みを見せると、薄暗い森の中へとその姿を落としていった。

すでに少女の姿は見えず、森の木々を吹き抜ける風のみがそこに残されていた。

 

 

 

 


 
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