エステル達が城に出ると、既に夕方になっており、エステル達は最後の尋ねる場所である、リベール通信社に向かった。
~リベール通信社3階・資料室~
「あ、いたいた。お~い、ナイアル。こんにちは~。」
「あん……?なんだなんだ!お前さんたちかよ!」
資料を調べていたナイアルはエステルに話しかけられ、エステル達を見て口元に笑みを浮かべた。
「こんにちは、ナイアルさん。」
「フッ、お邪魔させてもらうよ。」
「は~、姫殿下に演奏家に『不動のジン』までいるのか。ずいぶん賑やかじゃねえか。」
エステル達の顔ぶれを見たナイアルは驚いた。
「えへへ………あの後、また色々あったのよね。ナイアルは市長選の取材、無事終わったみたいじゃない?」
「フフン、あたぼうよ。それで今日はどうした?何か美味しいネタでもあるかよ。」
エステルに尋ねられたナイアルは得意げに胸を張った後、期待した表情で尋ねた。
「いや、どちらかというとあたしたちの方が知りたくてねここに届けられた脅迫状について聞きたいことがあるんだけど……」
「なんだ、お前らもそいつを追ってやがるのか?てっきり王国軍が調べてると思ったんだが……」
エステルの話を聞いたナイアルは意外そうな表情をした。
「うん、その軍からの依頼で調査を手伝っているんだけど……。何か情報は入ってないかな?」
「うーん、俺の方も王都に戻ってきたばかりで大した情報は入ってねぇんだ。どちらかというとお前らに聞きたいくらいだぜ。」
「なんだ、使えないわね~。」
「君もマスコミの人間だろう。犯人の見当くらい付いてるんじゃないのかね?」
「ぐっ……失礼な連中だな。」
エステルとオリビエの指摘にナイアルは唸った。
「お2人とも、失礼ですよ。あの、ナイアルさん。無理を承知でお願いします。ささいな情報でも構わないので教えて頂けないでしょうか。」
「ちょ、ちょっと姫殿下!頭を下げないでくださいよ!ああもう……仕方ねえなあ。」
頭を下げるクロ―ゼを見たナイアルは慌てて話し出した。
「これはオフレコだが……脅迫状がどうやらここだけじゃないらしい。まずはレイストン要塞……そして大聖堂に飛行船公社にホテル・ローエンバウム……さらにはエレボニアとカルバードの大使館にグランセル城、エルベ離宮、そして……メンフィルの現皇帝、シルヴァン皇帝陛下宛にもう一枚、グランセル城……。全部で10箇所も届けられたらしい。」
「「「「…………………」」」」
「ん、どした?」
何の反応も示さないエステル達に首を傾げたナイアルは尋ねた。
「あの、ナイアル……。その情報ならとっくに軍の人から教えてもらったんだけど……」
「なぬ~っ!?し、仕入れたばかりの最新のネタだっつーのに……」
エステルから話を聞いたナイアルは驚いた後、肩を落とした。
「こりゃ、聞くだけ無駄か。」
「うん、他を当たった方がいいかもしれないわね……」
そしてエステル達が帰ろうとしたその時
「ちょ~っと待ったあっ!そこまでコケにされちゃあリベールきっての敏腕記者、ナイアル・バーンズの名がすたるぜ。いいだろう……現時点での俺様の推理をお前さんたちに聞かせてやるよ!」
ナイアルは慌ててエステル達を呼び止めた。
「ふーん……」
「フッ、手短に頼むよ。」
「ぐっ……いいかよく聞け。俺はな、今回の事件は愉快犯の仕業だと睨んでいる。」
あまり乗り気でないエステル達に唸った後、ナイアルは話しだした。
「うーん、それはあたしたちも考えたけど。」
「そう確信する理由を聞かせてもらいたいもんだな?」
「記者としての経験から言うと……あの脅迫状にはリアリティがないのさ。そもそも脅迫状ってのは具体的かつ現実的な要求を掲げて初めて意味があるもんだ。だが、あの脅迫状にはそれがない。」
「フム、確かにそれはそうだね。単に『災いが起こる』だけじゃ関係者としても対応しようがない。」
ナイアルの話を聞いたオリビエは頷いた。
「そういうことだ。とても本気で、条約そのものを妨害するつもりだとは思えねぇ。誰だか知らんが、世間を騒がして喜んでいるだけだと思うのさ。」
「な、なるほど……」
「一理ありそうですね。ただ、脅迫状が10箇所、それもシルヴァン皇帝陛下宛にも届いたのが気になりますけど……。どれも条約に関係している所ばかりのようですし。」
「確かに、ただの愉快犯にしちゃ事情を知りすぎているようだ。」
「うーん、それを言われると……。ただ、そうした事情ってのはその気になれば調べられるもんだ。とりあえず、俺は愉快犯の前提で情報を集めてみようと思っている。お前さんたちは、別の視点から動いてみるのもいいだろうさ。」
クロ―ゼやジンの話を聞いたナイアルは考え込んだ後、答えた。
「うん、そうね。ありがと、ナイアル。結構、貴重な意見だったかも。」
「フフン、そうだろ?まあ、何か分かったらお互い情報交換するとしようぜ。俺も不戦条約の締結までは王都に腰を据えるつもりだしな。」
「あ、そうなんだ。そういえば……ドロシーはどうしてるの?」
ナイアルの今後を聞いたエステルは社内にいなかったドロシーの事を思い出して、尋ねた。
「ああ、あいつならボースに出張中さ。ちょいと写真を撮ってきてもらいたくてな」
「特集?」
「王国軍関連の特集さ。空賊どもが使っていた中世の砦があっただろう?今、あそこは王国軍の訓練基地になっているんだ。飛行船の操縦訓練なんかが行われているらしいぜ。」
「へえ、そうなんだ。それじゃ、その基地の取材に行ってるわけね。」
「まーな。いまだに1人に任せるのはちょいと心配なんだが……」
エステルに答えたナイアルは疲労感が漂う様子で溜息を吐いた。
「うーん……確かに否定できないわね。あ、そうだ。ナイアルに聞きたいことがもう1つあるんだけど。」
「あん?」
そしてエステルは今までと同じようにレンの両親の事を尋ねた。
「クロスベルの貿易商、ハロルド・ヘイワーズ……。うーん、聞いたことねぇな。ウチの『尋ね人』欄にも載せてなかったと思うぜ。(にしても”レン”か……どっかで聞いた事があるんだがな………?)」
「そっか……」
「ま、サービスのついでだ。どうしても見つからなかったら俺の方でも力になってやるよ。『尋ね人』欄に載せるなりクロスベル方面の知り合いに聞いてみるなりできるだろ。」
「ありがと、ナイアル。えへへ、なんだか今日はいつもよりも頼もしいわねぇ。ちょっぴり見直しちゃったわ。」
「そーだろ、そーだろ。って、いつもは頼もしくないってことかよっ!?」
エステルに感心されたナイアルだったが、ある事に気付いて、突っ込んだ。
「や~ねえ。言葉のアヤだってば。」
「よし、それじゃあそろそろギルドに戻るか。アガットのやつも戻ってきてるだろう。」
「フッ、そうだね。」
「ナイアルさん。どうもありがとうございました。」
「いやいや、また来て下さいよ。」
その後エステル達は今まで手に入れた情報を報告する為に、ギルドに向かった…………
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第216話