「ふぅ……」
幹継は召喚が成功したことに安堵してため息を吐いた。
結果は上々だ。
あのレベルの英霊を呼べるマスターなど他にはいないだろう。
召喚した幹継でさえ狡いと呼べる位に強力なのである。
これなら、妻と子も家に置いておいても構わなかったかもしれない。
「アーチャー」
幹継がそう呼ぶと、突然幹継の眼前に巨躯が現れた。
おおよそ人間と呼ぶには大きすぎる、実在した人物とは到底思えない。
さながら、お伽話に出てくるような巨人であった。
「いかがなされたかマスター」
その巨人は恭しく頭を垂れる。
普通の人間であればこれほどの巨人を意のままという事実だけで昂ぶってしまうだろう。
しかし、遠坂幹継という男は眉根一つ動かさなかった。
幹継は仮にどのような英霊であれ、マスターとサーヴァントなのであり特別な感情を抱く必要もな
いと感じていた。
「この屋敷の周辺に不審な奴はいたのか?」
「委細な……」
く。とアーチャーが呟こうとした瞬間に屋敷全体が大きく揺れた。
「ふむ。何者かが早速訪れたようだな」
出るぞアーチャー。そう言うと幹継は庭先を見に行くような様子で椅子を立つ。
「宝石及びその他の準備は十全だ。この遠坂の敷地内で戦うことを後悔するがいい」
幹継が庭先に出ると、そこには黒い何かがいた。
アーチャーに比べれば小人のような体躯である。
いや、幹継と比べても小さい。
童女のような身長だった。
顔まで伺い知ることは出来ないがゆらゆらと揺れ、腕が体の割に長い印象を受けた。
「マスターあれはいかほどのサーヴァントでしょうか?」
アーチャーは実体化すると、隣にいた幹継に問う。
「ふむ……そこまで強くなさそうだ」
一応能力を読んだが幹継にはどうにもこのアーチャーが負けるほどの能力はないと感じた。
尤も、幹継は読まなくてもそう思っていたのだが。
「アーチャー。私は後ろでマスターからの攻撃に備える。お前はサーヴァントと戦え」
幹継は一歩下がると辺りに気を配り始めた。
敵対するサーヴァントは恐らくバーサーカー。
霊器盤のエラーを引き起こした存在で間違いないだろう。
それもアインツベルンか間桐のどちらかのサーヴァントに違いない。
これは勘ではあるがこの早い時期に攻めてくるマスターは間違いなく冬木の地理に詳しいはずだか
らである。
幹継は辺りに気を配りながらも、目の前で起きている闘いからも目を離さなかった。
「ふっ!」
アーチャーにしては珍しく剣のようなものでバーサーカーに襲いかかる。
ような物というのは明確な形容が難しいのだ。
剣だと思ったら、別の何かに変化する。
とにかく掴みどころのない得物だ。
幹継は自分のサーヴァントの宝具の特異性を見て驚く。
向こうは武器の様なものを持っている気配はない。
「最高の展開はこのまま決着か…」
ここで決まってしまうか。そうであれば随分と呆気ない幕引きだ。
勿論幹継も言葉には出しているがそんなことは微塵も思っていなかった。
「――ッ!!」
アーチャーの得物は手ごたえを感じることはなかった。
避けられた。
逃がした敵の気配を探ろうと辺りに意識を張り巡らせる。
しかし、意識を張り巡らせる必要もなかったのだ。
いる。
先ほどの場所に敵は間違いなくいた。
同じように揺れている。
不穏な空気を感じたアーチャーは剣を矢に変えてソレを打つ。
放たれた矢は寸分違うことなく突き刺さる。
そのはずだった。
「む?」
確かにゆらゆらと揺れていた敵サーヴァントは消えた。
気配も感じられない。
「やったのかアーチャー」
幹継からの問いにアーチャーは判然としないような表情で恐らくと答える。
「マスターが言うように奴がバーサーカーでしたら間違いなく殺すことが出来ました」
「随分と奥歯にものが引っかかる言い方だな」
「僭越ながら。マスターも不思議に思いませんか?バーサーカーにしてはこちらに攻撃を加えるこ
ともなくただ立っているということなど」
ふむ。顎に手を当てながら幹継は思案する。
「確かに、一理あるな。まぁ今夜は侵入者を撃退出来たのだからそれで良しとしよう」
アーチャー、外の監視を頼むと言い残すと、幹継は屋敷の中に入っていった。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
御三家の一人遠坂家当主は果たして何を召喚せしめたのだろうか。
遠坂は優雅であることができるのだろうか。
それとも……