「まったく、なんであたしたちが突然こんな警備を管理局に頼むんだ?」
「私に聞かれても分からない。昨日の夜に突然命令が下って、私たちはそれに従っただけなのだが……」
第12管理世界にある研究所の付近で、その研究所からの依頼で警備を頼まれたヴィータとシグナムはこの任務に少し不満があった。
それ以前にこの任務で警備を担当するようにされた人間自体が全員不思議に思っていた。
なぜなら――この任務を任された人間はある部隊が担当しているわけではなく、全ての部隊から選りすぐりの人間だけを集めた異例中の異例だったのだ。しかも魔導師ランクが最低AAA以上というのに、出力リミッターが何故か掛けられていないという事も異例だった。
もちろん、この任務の内容に不思議と思っているのはヴィータとシグナム以外も気づいていた。ヴィータとシグナムを合わせて16人全員が、こんな任務にどうして選りすぐりを集められていたのかと、誰もがが疑問に思っていた。
「そうだろうけど、この研究所と提携していた研究所が崩壊されたからと言ってこんなに選りすぐりの人間を集めるか?」
「第26管理世界で起こった、沢山の研究員を殺して、研究所を再起不能にまでさせた事件の犯人か……」
シグナムの言葉にヴィータは目つきを少し悪くする。その研究所の犯人というのは、高町なのはなのだから――
なのはが起こした事件については昨日の夜にはやてから全て聞いている。なのはが大量に人を殺し、結果一人の重症者だけでそれ以外は殺されたという事を。
この事件を聞いたときのヴィータは冗談だと思っていた。しかしはやての冗談な顔ではないのを見て本当だと分かり、どうしてなのはがそんな事をしたのかと思った。これはヴィータに限らず、なのはの知り合いだった人間が誰も思っていた事であった。はやての家で集まった時に居なかったヴィータ以外のシャマル、ティアナ、ユーノにもその事を聞かされた時に三人ともが驚いたほどであった。
「どうしてなのははあんな殺人なんかをしたんだよ!!」
「それは私でも分からない。なのは本人に聞かなければな」
ヴィータは思わず舌打ちをする。なのはに対する苛立ちが溜まっていく一方だった。
この苛立ちはなのはにあった時に発散しようと思っていると、一人の管理局員が何かに気づく。
「高魔力反応をかなり遠方から探知!! 方角は南方!!」
その言葉に、この場に居た人間の全員に緊張が走る。
この研究所は四方八方が森に覆われており、上空からの監視は見通し良いが、地上からの攻撃はどう考えたって分が悪かった。近距離戦を得意とする魔導師のならば、近くまで来なければならないが、遠距離戦を得意とする魔導師ならば姿を見せずに攻撃する事が出来るような場所であった。先ほどの管理局員の言葉を聞けばかなり遠方、かなり不利な状況であった。
全体的に研究所から南方側に管理局員が集まる感じとなり、シグナムとヴィータもそちら側へと移動する。
「シグナム、あたしは少し上空から見てくる」
「…………」
「シグナム?」
ヴィータは上空から確認してくるとシグナムに言うが、シグナムはヴィータの言葉が全く聞いておらず、何か考えているいた。
それから数十秒後、シグナムは真剣な眼差しでヴィータに言う。
「ヴィータは北側の方に戻っておいてくれないか?」
「どうして北側なんだ? 南側から魔力反応があったというのに」
ヴィータの疑問には当然だった。どうして反対側で警備するようにシグナムが言った事に疑問に思った。しかしシグナムの真面目な顔を見て何かあるのだろうとは察していた。
「ただの感なんだが、なんか胸騒ぎがする。それに、わざわざ高魔力反応を敵側が残るなんて何かおかしい気がするんだ」
「確かに一理ありだな。分かった。あたしは北側で警備する。シグナムは?」
「このまま南側で見張っている。何かあったらすぐに駆けつけるつもりだ」
「了解だ」
ヴィータはシグナムに言われた通りに研究所から見て南側へと向かう。シグナムも周りを注意しながら辺りを見渡す。
ヴィータもシグナムに言われた位置の付近に着き、辺りを見渡す。
いつ砲撃が来てもおかしくない。この付近は森林で覆われており、近くに町などは一つも存在せず、空で移動し無ければ迷うような場所であった。それほどまでに翠色の森が広がっており、逆に違和感を覚えるのはこの研究所くらいだった。
風によって揺れる森。周りの空気とは違って森は穏やかだった――
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その研究所からかなり離れた森の中、二人の少女がバリアジャケットを羽織って立っていた。
「これで、向こうは少し南側に警戒心を持っている筈」
「っていうか、ここにきて初めて使う魔法を良く使おうとするわね」
その二人、高町なのはとアリシア・テスタロッサはそれぞれ微笑み、片や溜め息吐いて呆れていた。
そう、なのはは先ほど考え付いた魔法を即興で使ったのだ。先ほどまで二人は研究所から見て南側の森の中にいて、そこでなのはがディバインバスター・エクステンションを放つように溜めていたのだ。しかし今までならそこですぐに放つのが今までのやり方だが、すぐに放つわけではなくてレイジングハートに蓄えるという新たな方法である。それを利用し、その後アリシアに頼んで研究所の反対側へと転移して反対側から放つという攻撃方法だった。
レイジングハートのモードはブラスターモードでブラスター3まで解放しており、カートリッジを4つ使用。しかも殺傷設定で、一発で終わらせる気でいた。
「それにしても、まさかあんなにも管理局員を待機させておくなんてね」
「多分、なのはが崩壊させた研究所と関係あると思うよ。今回の研究所はフィルノが居た研究所と提携していたらしいからね」
「次に狙われるのはここかもしれないと思って、管理局員を付けたというのね……」
だが、なのはに迷いはなかった。それならそれでその管理局員も倒すまでだと思っていた。
この手はもう血で汚してしまっている。後戻りなんてできない事なんてとっくに自覚していた。
「それと、今回は関係ない管理局員だっているかもしれない。それでも殺傷設定のままにするの?」
「それは私でも分かっているよ。けど、そんな事で手加減していたら負ける可能性だってあるでしょ? だからこのままでいく。たとえ無関係の管理局員を殺す事になっても、その罪は私が償えばいいだけなのだから。残酷な人間でもいい。それで世界が変わるのならば――」
今回の管理局員は関係ない人物もいる可能性だってある。しかしそれでも気にせずに殺傷設定にしていたのだ。それによって殺されてしまったら仕方ない事。そう自分に思い込んで。
アリシアはそのなのはの言葉に驚いていた。一体何が彼女をふっ切らせたのかと思うくらい、昨日までの彼女とは全く違ったのだ。今のなのははフィルノの為に動いているのではない。世界を良い方に変えるためにも、犠牲は付き物だと思っているような感じであった。アリシアも人を何人も殺してきたが、なのは以上に自分から残酷な人間になろうとは思っていなかった。だからなのはの言葉には驚いたのだ。
しかしなのははあの管理局員の中にヴィータとシグナムが居る事を知らなかった。知っていたら多分殺傷設定にしていたかは悩んでいただろう。だが知らないのだ。
「カートリッジはあと6つ残っているから、もし一発で終わらなくても大丈夫かな?」
ヴィータとシグナムが居る事を全く知らないなのはは、そう言いながらなのはは研究所がある方へと構える。アリシアはそれを聞いてなのはから少し離れ、遠目でなのはの様子を確認することにしていた。
そしてレイジングハートに蓄えていた魔法を、一気に放つのだった。
「ディバインバスター・エクステンションっ!!!!」
その言葉を言うと同時に、研究所へと放てるのだった――
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J・S事件から八年後、高町なのははある青年に会った。
その青年はなのはに関わりがある人物だった。
だがなのはにはその記憶が消されていた。
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