~ル=ロックル・宿舎~
「さてと、演習と言うからには一通りの装備が必要になりそうね。実戦と同じで何が起こるか分からないし……ミントは大丈夫かしら?」
「うん!剣やオーブメントもバッチリだよ!」
「そう。…………」
ミントの言葉に頷いたエステルはベッドの上に置いてある鞄からハーモニカを取り出した。
「………………………………。うん、今日も頑張らなくちゃ!」
ハーモニカを見て気合を入れたエステルは装備を確認した。
「これでよし。……それじゃあ、玄関に行くとしますか!」
「はーい!」
そして2人は部屋を出た。
エステルとミントが1階に降りると食事をしたテーブルにアネラスとクルツが座っていた。
「来たか、エステル君、ミント君。向かいの席についてくれ。」
クルツに言われたエステルとミントは空いている席に座った。
「本日の演習は遺跡探索だ。この宿舎の西にある『バルスタール水道』に入ってもらう。」
「『バルスタール水道』……。古めかしい名前だけどやっぱり訓練用の施設なの?」
「ああ。中世の遺跡を改築した施設でね。昔の仕掛けも残っているし、危険な魔獣も多く徘徊している。」
「ねえねえ、クルツさん。ミントはどうすればいいの?」
訓練の内容をエステルとアネラスに説明するクルツにミントは首を可愛らしく傾げて尋ねた。
「ミント君もエステル君達と同じ演習を受けてもらう。だから、説明をしっかり聞いていてくれ。」
「はーい!」
クルツに言われたミントは元気良く返事をした。
「フフ……ミントちゃんも一緒に受けれるなんて今日はついているわ♪それじゃあ早速、その水道に出発するんですか?」
ミントが自分達と同じ訓練に参加する事を嬉しく思ったアネラスはクルツに尋ねた。
「いや、その前に……。3人とも、これを見てくれ。」
そしてクルツは見慣れぬ戦術オーブメントをテーブルに置いた。
「あれ、これって……」
「もしかして……戦術オーブメントですか?」
「ああ、その通りだ。導力魔法の使用を可能にする戦術オーブメントを造っているのは『エプスタイン財団』というが……。これは先月、財団から納入されたばかりの新型でね。スロットの数は1つ増えて7つ。今までのアーツに加えて新型のアーツも組むことができる。」
「へ~、凄いじゃない!」
「わあ………クオーツも前より一つ多くつけれるし、使えるアーツも増えるから、お得だね!」
クルツから新たな戦術オーブメントについての説明を聞いたエステルとミントははしゃいだ。
「うんうん!かなり期待できそうだね。で、クルツ先輩。私たちも貰えるんですか?」
「ああ、希望するならギルドから無償で提供される。ただし……」
アネラスの言葉に頷いたクルツは、一端言葉を切り、そして以外な事実を言った。
「難点が一つあってね。新型は、基本的アーキテクチャが大幅に変更されてしまったんだ。だから、互換性の問題で以前のクオーツが装着できない。新規格のクオーツが必要になる。」
「ええ~っ!?そ、それってつまり……」
「今まで合成したクオーツが無駄になるってことですかっ!?」
「最初から一杯クオーツを付ける事ができないんだ…………」
新しい戦術オーブメントの欠点を聞いたエステルやアネラスは驚き、ミントは残念そうな表情をした。
「残念ながらそうだ。面倒だろうが、また最初から1つずつ揃えてもらうしかないな。」
「そ、そりゃないわよ~。」
「ママ、元気出して!」
今まで苦労して集めたクオーツが無駄になった事にエステルは肩を落とし、その様子を見たミントが慰めた。
「うーん……。確かに迷っちゃうよね。このまま今のオーブメントを使い続けたらダメなんですか?」
「ダメじゃないが、推奨はしない。新型オーブメントは、全ての面で以前のものより性能が高いんだ。最大EPも大幅にアップするし、最新型のクオーツにも対応できる。将来的には、さらなる身体能力の向上が期待できるということだ。それに何と言っても以前のオーブメントになかった新しいアーツが組めるのが大きい。……エステル君、ミント君。ロランス少尉を覚えているか?」
アネラスの質問に難しそうな表情で答えたクルツは意外な人物の名前を出した。
「え!?」
「ふえ!?」
クルツの口から出た以外な人物の名前を聞いたエステルとミントは驚いて声を出した。
「う、うん。忘れるなんて出来っこない相手だけど……」
「そうだよ~。ミント、あの人の事、絶対忘れられないもん!」
「シェラ君から聞いたが、彼は未知のアーツを使ったそうだな。複数の相手を一度に攻撃しながら混乱効果を与える上位アーツ……。実は、新型オーブメントではそのアーツを組むことも可能なんだ。名前を『シルバーソーン』という。」
「『シルバーソーン』……」
「あ……そういえば、そんな名前でいっていたね………」
「そ、それじゃあ……。あの赤い隊長さんは新型を使っていたんですね!?」
クルツの説明を聞いたアネラスは驚いて尋ねた。
「その可能性は高そうだ。さて、君たちはどうする?」
アネラスの質問に真剣な表情で頷いたクルツはエステル達に尋ねた。
「………………………………。あたしは……新型を使いこなしてみたいな。」
少しの間だけ考えたエステルだったが、すぐに答えを出した。
「え?」
「ママ?」
短時間で答えを出したエステルを見てアネラスとミントは驚いた。
「あの時、あたしはあの銀髪男に全く歯が立たなかった。カーリアンのお陰で勝てたようなものだし………オーブメントを変えたからって自分が強くなるわけじゃないけど……。それでもあたし、より大きな力を使いこなせるようになってみたい。だから……」
「エステルちゃん……。……うん、確かにそうだね。クルツ先輩。私も新型、使わせてください!」
「ミントもお願いします!」
エステルの言葉に頷いたアネラスとミントは自分達の答えを出した。
「いいだろう。それでは受け取ってくれ。」
そしてクルツは3人にそれぞれ、戦術オーブメントを渡した。
「あと、これを渡しておこう。」
また、各属性のセピスも渡した。
「それだけあれば基本的なクオーツは揃うだろう。演習に行く前に、そこの工房でロベルト君に合成してもらうといい。新しい結晶回路(クオーツ)と導力魔法(オーバルアーツ)のリストはブレイサー手帳に追加しておいた。工房に行くときは自分たちで確認しておくように。」
「うん、了解です。」
「はーい!」
クルツの言葉にエステルとミントは頷いた。
「さらに……。今日の演習は長丁場になるはずだ。いざという時に備えて、食料も用意した方がいいだろう」
「うーん、食料ですか……。それはフィリスさんにお願いすればOKですよね?」
「ああ、そうだな。ロベルト君とフィリス管理人……2人に相談して準備を整えるように。………それでは自分は宿舎の出口で待っている。準備が終わったら来てくれ。」
アネラスに尋ねられ、答えたクルツは立ち上がって先に外に出て行った。
「それじゃあ、エステルちゃん、ミントちゃん。早速、演習の準備を始めようか。」
「うん、フィリスさんとロベルトさんの所に行って話を聞いてみなくちゃね。」
「うん!」
そしてエステル達は準備を始めた………
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第179話