No.461807

真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史編ノ二十三


 お待たせしました。

 今回は前回の続きとなる三羽烏の戦いと

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2012-07-29 15:08:57 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:10486   閲覧ユーザー数:7810

 

「…凪!?」

 

「…凪ちゃん!?」

 

 李典と于禁は自分達の前に現れた『北郷軍の将、岳飛』の姿を見て

 

 驚きを隠せず、呆然となっていた。

 

「何を言っている?私の名前は岳飛だ!訳の分からない事を言って私を

 

 惑わそうとしてもそうはいかないぞ!!」

 

 岳飛は攻撃の手を緩めない。

 

 二人はそれを何とかかわしながら岳飛に呼びかける。

 

「訳が分からないんはそっちやないか!何や、岳飛って!?」

 

「凪ちゃんは凪ちゃんなの~!沙和達の事を忘れたの!?」

 

 二人の必死の叫びが本心からのものだと感じたのか、岳飛は攻撃の手を

 

 止めて二人に話しかける。

 

「…どういう事だ?お前達は私を知っているのか?」

 

「知っているのかってどういう事や!」

 

「…もしかして、凪ちゃん記憶が?」

 

「ホンマか!?…お前、ウチらの事何も覚えてないんか?」

 

「…お前達の事どころか、自分が何者なのかもな」

 

 岳飛の告白に二人の動きも止まる。

 

「記憶喪失かいな…道理でいつまで経っても帰ってきいひんはずや」

 

「凪ちゃん、本当に何も覚えてないんだ…」

 

「凪…それが私の名前なのか?」

 

「ああ、そうや。お前の名前は楽進、字は文謙、真名は凪。どうや、少しは

 

 思い出せたか?」

 

「楽進…凪…私の本当の名前…」

 

「そうだよ~、そして真桜ちゃんと沙和と子供の頃からずっと一緒だったの~」

 

「真桜…沙和…ぐっ、ああああああ!」

 

 

 

 岳飛は頭を抑えてうずくまる。

 

「凪!」

 

「凪ちゃん!!」

 

 二人は岳飛に駆け寄ろうとするが…。

 

「ぐっ、うおおおおおおお!!」

 

 岳飛が呻きながらも地面に気を込めた拳を叩きつける。

 

 その衝撃で岳飛と李典達の間に大きな穴が開く。

 

「すまん、二人とも…このまま退いてくれ…」

 

「何やて!?」

 

「そんなの出来ないの~、凪ちゃんも一緒じゃなきゃダメなの~!」

 

「私は北郷軍の将、岳飛だ。主からの命に従わなくてはならない。でも、昔から

 

 の友であるお前達と戦いたくはない。だから、頼む」

 

 岳飛はそう言って頭を下げる。

 

「…凪、記憶が戻ったんか!?」

 

「完全ではない。だがお前達が昔からいつも一緒だったのは少し思い出す事が

 

 出来た」

 

「だったら何で…」

 

「さっきも言った通り、私は北郷軍の将、お前達は曹操軍の将だからだ。私は

 

 大恩ある北郷様の為に戦う。お前達は曹操殿の為に戦うのだろう?」

 

「凪!お前、北郷に騙されてるんや!!」

 

「そうなの~、北郷さんは悪逆非道の董卓と結託してるの~!!」

 

 

 

「私が騙されてる?董卓様が悪逆非道?…ふざけるな!!真実を知らないのは

 

 お前達の方だろうが!!」

 

 岳飛の叫びに二人は固まる。

 

「北郷様が如何に部下を想い、領民を想っているか私はずっとこの目で見て

 

 きた!あの方は人に騙される事があっても騙す事などしない方だ!私があの

 

 方に助けてもらった時も『記憶が戻って帰る場所を思い出したら何時でも帰って

 

 いい』って言ってくれた!お前達は北郷様の事を何も知らないくせに勝手な悪口

 

 を言うな!!

 

 そして董卓様が悪者などという話は袁紹が勝手に言いふらしただけの根も葉も

 

 無い法螺話だ!董卓様が統治するようになってから洛陽は見違えるほどに良い街

 

 になった位だ!洛陽の民は袁紹達が来たら、また以前のような腐った政が始まる

 

 であろう事を恐れて、続々と義勇軍として戦に加わろうとしている。北郷様だって

 

 董卓様がそういう方だからこそ共に戦われる事をお決めになられたんだ!そこまで

 

 慕われている方を一片の噂だけでよくも悪逆非道などと…」

 

 岳飛の叫びはまだ続いていた。しかし、それ以上は二人の耳にはもう入っていな

 

 かった。

 

(凪の言う事が正しいなら、ウチらのしてる事って何なんや!?)

 

(あの凪ちゃんがあそこまで言うなんて…それじゃ華琳様は民の為に戦っているん

 

 じゃないのかな?)

 

 二人の胸の中には自分のしている事と主に対する疑問が渦巻き始めていた。

 

 しかしそれ以上に感じたのは…。

 

 

 

「聞いてるのか!お前達!!」

 

「ああ、聞いとるで。凪の言わんとしている事はようわかった」

 

「そうか、それなら『まさか、あの凪がな~』…何がだ?」

 

 李典は意味有り気な含み笑いを浮かべて岳飛を見ている。

 

「そら、なぁ~、沙和?」

 

「そうなの!凪ちゃんも女の子だったの!!」

 

「…どういう意味だ、それは」

 

「まさか、凪が男に惚れる日が来るなんてな~」

 

「な、ななななななななななな!何を馬鹿な事を言って…そ、そんな私が北郷様に

 

 惚れるなんて…」

 

「ふふん、真桜ちゃんは『北郷さんに』なんて一度も言ってないの~!」

 

「~~~~~~~////////////////」

 

 于禁にそうツッコまれた瞬間、岳飛の顔は真っ赤になった。

 

「おおっ!凪が顔を真っ赤にしてるで~!どうやら本当に北郷に惚れとるようやな」

 

「今日は凪ちゃんの初恋記念日なの~~~!」

 

 二人は囃し立てる。

 

「お前達…ここがどういう場所がわかってるのか?」

 

 岳飛はじと目でそう呟く。

 

「ああ、わかっとるよ。ここが戦場で、凪とウチらは敵同士だっちゅう事もな」

 

「でも、それとこれとは別なの~!」

 

 三人の姦しいやり取りに周りの兵達も戦場である事も忘れたかのように動きを

 

 止めていた。

 

 

 

 

 しかし、そのような雰囲気は鈴の音と共に消え去る。

 

「お前達は曹操軍の者だな?では、ここで死ね!」

 

 紀霊の軍を撃破した甘寧が駆けつけ、李典達に刃を向ける。

 

「なっ、何やこいつ!?」

 

「我は孫策様の家臣、甘寧!岳飛殿、遅くなった。大丈夫か!?」

 

「えっ!?…ああ、はい、大丈夫ですが…」

 

「どうしたのだ?先程より何かおかしいが…」

 

「凪ちゃんは私達とお話してただけなの~!」

 

 于禁のその言葉に甘寧は懐疑的な目を向ける。

 

「…どういう事だ!?敵であるこの者達と何故…?」

 

「凪は昔からの友達だからや!!」

 

「友達…?そうなのか?」

 

「ああ、どうやらそうだったようだ。しかし、話もここまでだ」

 

 岳飛はそう言うと李典達の方へ気弾を発射する。

 

 その気弾は李典達の手前で爆発し、多量の土砂を巻き上げる。

 

「うわっ!凪、一体何を…」

 

「凪ちゃん!」

 

「二人とも、退かないのならここで死んでもらう」

 

「「えっ!」」

 

 二人は岳飛の突然の言葉に驚く。

 

「そんな事出来るかいな!ウチらに退け言うなら凪もこっちへ来い!」

 

「そうなの!三人一緒じゃなきゃ嫌なの~!」

 

「何度も言わせるな!私は…」

 

「北郷軍の将なんはわかったけど、ならこのまま、はいそうですかって素直に

 

 聞けへん!折角、凪に会えたんや、首に縄つけてでもこっちへ連れていくで!」

 

「真桜ちゃんの言う通りなの~!!」

 

 

 

 二人は岳飛の方へ詰め寄ろうとする。

 

 しかし、岳飛は次々と気弾を繰り出し二人を近づけさせない。

 

 そうこうしているうちに、甘寧や周りの兵達も攻撃を始め、李典達の陣形が

 

 崩れていく。

 

「李典様、于禁様、このままでは…退却を!」

 

 兵士達は退却を進言するが…。

 

「アホぬかせ!凪を目の前にしてこのまま退けへん!!」

 

「そうなの~!凪ちゃんも連れて帰るの~!!」

 

 二人は岳飛の方へ向かおうとする。

 

 そこへ伝令の兵が駆け込む。

 

「曹操様よりの伝言です!状況は連合に不利につき、袁術に合力する余裕無し。

 

 李典様達は即刻合流をとの事です!!」

 

「なっ…!何でや!!」

 

「北郷軍は襄陽を落とし主力が南陽へ向かっているとの事。このままでは支え

 

 きる事が出来ません!!」

 

「北郷軍の主力が!?もしかして凪ちゃんがここにいたのって…」

 

「ああ、襄陽を落とした主力が駆けつけるまでの足止めの為だ」

 

 于禁の疑問に答えたのはすぐ近くにまで迫ってきた岳飛だった。

 

「お前達は友だ。しかし私は北郷様への恩義の為、そして北郷様が目指す国造り

 

 に力を尽くす為、北郷軍の将として戦う!このまま退かないのであれば、お前

 

 達をここで討つ!!」

 

 岳飛はそう言うと同時に二人に向かって気弾を放つ。

 

 二人はその直撃を受け、吹っ飛んでいく。

 

「李典様、于禁様!」

 

 側にいた曹操軍の兵士はその様を見て、驚愕すると同時に、絶望的な顔で岳飛に

 

 剣を向ける。

 

 

 

 

 しかし、岳飛はその兵にこう声をかける。

 

「そこの兵士、今のうちに二人を連れて退け。おそらく一刻は目を覚まさないはずだ」

 

「えっ!?…良いのですか?」

 

「ああ。私の任務は南陽に迫る敵を主力の到着まで足止めする事だ。主力が来た以上、

 

 余計な戦いをする必要は無い。ただ、次に敵として会った時は容赦はしないと伝えて

 

 おいてくれ」

 

「…恩に着ます、岳飛様」

 

 その兵は仲間と共に李典・于禁を抱えるとその場から退いていった。

 

「岳飛…お前は結局、友だからという理由で敵を逃がすのか?」

 

 いつの間にか岳飛の横には甘寧がいた。

 

「すまない。北郷様にこの事を報告してくれても構わない」

 

「別にそんな事はしない。私たちの任務は敵の援軍が南陽に来ないようにするだけだ。

 

 退いていった敵をどうしようと口は挟むつもりはない」

 

「ありがとう、甘寧殿」

 

「礼を言われるような事はしていない。それよりも敵を排除した以上、一刻も早く合流

 

 せねばなるまい」

 

「そうだな」

 

 こうして敵を撃退した二人は自分達の主の軍勢と合流する為に軍を向けたのであったが…。

 

(真桜、沙和、さらばだ。出来ればもう戦場では会いたくないが…曹操の野心を考えれば

 

 おそらく北郷様といずれはぶつかる事になるのだろうな。容赦はしないと言ったが、

 

 本当にそう出来るのか?…いや、今はそれを考えるのはよそう)

 

 岳飛の頭の中には拭い去る事の出来ない迷いが残ったのであった。

 

 

 

 そして岳飛と甘寧は南陽にいる主力と合流を果たしたのだが、岳飛が先の事を全て一刀達に

 

 自ら話してしまった為、その場に沈黙が訪れる。

 

「そうか、岳飛の本当の名前は楽進というのか」

 

「はい、まさか友と敵として再会するとは思いませんでしたが…」

 

 なるほど…彼女は楽進だったわけか。うちの武官は丁奉さん以外、魏の武将ばかりだな…

 

 というのは置いといて、一部とはいえ記憶が戻った以上彼女に聞いておかなければならない

 

 事がある。

 

「岳飛…じゃなかった楽進。俺としては君はこれからどうするつもりなのかという事を知り

 

 たい。俺は君に『記憶が戻って帰る場所がわかったらいつでも言ってくれ』と言った。

 

 そして、完全でないにしろ、君は思い出す事が出来た。しかし、俺としては君にこのまま

 

 いてもらいたいと思っている。そしてそれは仲間全員が共通して持っている気持ちだ。

 

 だから、改めて問う。楽進、君はこれからどうするつもりだ?」

 

 一刀の問いに楽進は即座に答える。

 

「私は、許されるのであればこのまま北郷様の下で働きたいです」

 

「しかしそれは折角再会した友達とまた敵として戦うかもしれない事になるんだぞ?それでも

 

 俺と一緒にいてくれるのか?」

 

「その事については迷いが無いわけではありません。でも私は北郷様の目指す先に何があるのか

 

 見てみたいんです。そしてその為に微力ながら力になりたいとも思っています」

 

 楽進がそうはっきりと答えると、一刀はふうっと一つ息をつく。

 

「そう言ってくれると一安心だ。皆、今聞いた通りだ。岳飛は今日から元の名である楽進に戻る

 

 けど、俺達の仲間である事は変わらない。だから今までと変わりなく接するように」

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

「ありがとうございます。私の真名は『凪』です。これからもよろしくお願いします!」

 

 こうして岳飛は本当の名前である楽進と真名である凪を皆に告げ、改めて俺達の仲間になる

 

 選択をしたのであった。

 

 

 

「では、現在の状況を説明します」

 

 孫権さん達も交えて、南陽攻めの軍議が始まった。

 

「袁術さんから派遣された紀霊さんの軍は甘寧さんの攻撃を振り切り、生き残った兵と共に

 

 城へ駆け込んで立て籠もっています。しかし、その数は連れて来た兵の三割以下になって

 

 いますので、私達の全軍を以てすれば問題無いと思われます」

 

 朱里がそう説明し、具体的な戦術に入ろうとした時、兵が駆け込んできた。

 

「申し上げます!袁術軍が連合から離れ、建業へ向かっているとの事です!!」

 

 その内容に孫権達は浮き足立つ。

 

「何だと!穏、建業に残っているのって…」

 

「小蓮様と親衛隊だけです~。確か数は四千弱位です~」

 

 孫権の問いに陸遜がそう答えた。

 

「くっ、まさか手薄になった我らの本拠を狙うとは…蓮華様、すぐに戻りませんと!」

 

 甘寧は孫権にそう進言するが…。

 

「待ってください、甘寧さん。そのまま戻っては張勲さんの思う壺です」

 

 朱里が待ったをかける。

 

「どういう事だ?諸葛亮」

 

「おそらくこれは桂陵の戦いです」

 

「桂陵?…確かにそうかもしれませんね~」

 

 朱里の『桂陵』という言葉に陸遜は頷く。

 

「…どういう事だ、穏?」

 

 甘寧は訳がわからず陸遜に尋ねるが…。

 

「思春さんは知らないんですね~。それは…」

 

 

 

 場面は変わって、ここは南陽と建業の中間地点の辺り。

 

 袁術軍は北郷軍が襄陽を陥落させた後、南陽に攻めかけている事を聞くと一部を残し

 

 南陽へ兵を向けたのだが…。

 

「七乃~、何故こんな所で止まるのじゃ!早ようせんと北郷軍に南陽が落とされてしまう

 

 ではないか~!」

 

 張勲はこの位置で軍を止めたので、袁術は慌てた様子で張勲に問いかけていた。

 

「大丈夫ですよ、お嬢様。ここで待っていれば向こうからここにやってきてくれますから。

 

 それを撃破すればいいだけです。それから堂々と南陽に帰ればいいのです」

 

「何と、それは本当か!?さすがは七乃なのじゃ!!」

 

 袁術は張勲のその言葉を聞いてはしゃいでいたがその張勲は内心…。

 

(これで何とかうまくいけばいいのですが…しかしここまで私の思い描いていた構想を

 

 打ち破るとは…諸葛亮さんは一体どれだけの知謀を持っているというのでしょうか)

 

 元々、張勲の戦略としては劉表軍・劉璋軍で北郷軍を動けなくして紀霊の先発隊と自らの

 

 部隊とで南郷郡を攻め取って、その勢いを以て董卓軍を叩き、連合の中で袁術軍が最も

 

 勲功を挙げるという筋書きであった。その為に劉璋を脅し、劉表死後のお家騒動に介入

 

 して両軍を味方につけたのである。

 

 そして実は馬騰軍にも密書を送っており『味方につけば五胡との戦いに援軍を出す』

 

 という条件で了解を得ていたのだが、馬騰はそれに従うふりをしながら実は北郷軍と手を

 

 結んで敵方へまわっていた為、張勲の戦略は崩壊したのであった。

 

 しかも客将であった孫策までもが敵にまわった為、袁術軍の中には動揺が広がりこのまま

 

 では軍自体までもが崩壊しかねない事態にまで発展したのである。

 

 このままではいけないと判断した張勲は袁紹に願い出て南陽に戻る事にしたのだ。

 

 しかしただ戻るという事はせず、孫権が北郷軍と合流している事を知ると『袁術軍は建業

 

 を攻める』と噂を流し、慌てて孫権が建業へ向かうところで、待ち伏せして撃破するという

 

 作戦に出たのである。ちなみにこの作戦は戦国時代に斉の軍師である孫臏が魏の軍勢を破った

 

 『桂陵の戦い』に着想を得たものである。

 

「今頃、孫権さん達は慌ててこちらへ向かっているはず…今度こそは」

 

 張勲はそう一人ごちていた。

 

 

 

「まさかそんな作戦で来るとはな…このまま行っては危なかったか」

 

「ええ、もしこれで私達が負けていたら自分の先祖の作戦にひっかかったと物笑いの種に

 

 されるところだったわ」

 

 陸遜から説明を聞いた甘寧と孫権はため息をつきながらそう言った。

 

「とはいえ、このままここでこうしているわけにもいくまい。何か作戦でもあるのか?」

 

 甘寧の問いに朱里が答える。

 

「孫権さん達には張勲さんの作戦にひっかかった振りをして、建業へ向かってもらいます。

 

 そして後は…」

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 再び場面は変わり、汜水関。

 

 ここでは現在、曹操・公孫賛・劉備の軍勢による攻撃を受けていた。

 

 短期決戦を望む連合側は関の外へおびき寄せようと仕掛けてきていた。

 

 特に守将である華雄に対する罵詈雑言は激しく、最初は笑っていた華雄も段々堪えきれなく

 

 なってきていたのであった。

 

「鳳統…何故出ていってはいけないんだ!あれだけの罵詈雑言を浴びせられて黙って耐える

 

 などもう限界だ!!」

 

 華雄は雛里にそう詰め寄っていた。

 

「華雄さん、何度も申しました通り、私達はここで連合を食い止めるのが役目です。今、出て

 

 いっては連合の物量にこちらが撃破されるだけです。確かにあの罵詈雑言は武人ではない

 

 私でも聞くに耐えません。しかし、私達は相国閣下の為に戦っているのです。あなたは、

 

 武人としての矜持と董卓様とどちらが大切なのですか?」

 

 雛里にそう言われると華雄には返す言葉も無い。

 

「そうよ、華雄。言わせたい奴には言わせとけばいいのよ。お返しは後のお楽しみでね」

 

 会話に入って来たのは孫策だった。

 

「ぐっ、孫策…お前にまでそんな事を言われなくても…」

 

「わかってないでしょ?」

 

 孫策にそう言われて、華雄は忌々しげに目を背ける。

 

 実を言えば華雄は、孫家に対し良い感情を抱いていない。何故なら、前に孫家と小競り合い

 

 をした時に孫策の母である孫堅に手痛い敗北を喫していたからだ。

 

 その為か、華雄は本当は孫策と共に戦うのは嫌だったのだが、敬愛する主君である董卓の為

 

 と自分の感情を抑えて、共闘を受け入れたのだった。

 

 

 

「ならば、何時まで罵詈雑言を浴びせられたまま我慢しなくてはならないのだ!北郷軍が南陽

 

 を落としてこちらへ駆けつけるまでか!!」

 

 華雄は雛里にそう問いかけるが…。

 

「そこまで待つ必要は無いのです!!」

 

 そこへ現れたのは呂布と陳宮であった。

 

「どうしたのだ、二人とも。お前達は虎牢関の守備についているのではなかったのか?」

 

「賈駆殿の命でこちらへ来たのです。孫策殿、どうやら張勲が兵を建業へ向けたようですぞ」

 

 陳宮の言葉に孫策は驚くかと思いきや、意外と冷静にそれを受け止めていた。

 

「へえ、やっぱり…でも、多分目的は建業じゃないんでしょ?」

 

「本当にお前の勘は我らの想像を超えるな」

 

 そう言ってやってきたのは周瑜であった。

 

「雪蓮の言う通り、おそらく張勲は桂陵の戦いの再現を狙っているのだろう。おそらく蓮華様達

 

 が慌てて建業へ戻って行くところを待ち伏せしているはずだ」

 

「蓮華は大丈夫なの?あの娘の性格じゃ…」

 

「問題無い。穏もいるし、何といっても…」

 

「朱里ちゃんがいますから」

 

 そう言って雛里は微笑む。

 

「鳳統は本当に諸葛亮が好きなのだな」

 

「はい、私の目標です」

 

 華雄の問いかけに雛里は笑顔で答えた。

 

 

 

「それで?呂布達が来たって事は何かしら仕掛けるんでしょ?」

 

 孫策が聞くと、それに陳宮が答える。

 

「はい!これから孫策殿と我らとで袁術軍に奇襲をかけるのです!」

 

「へぇ~、なるほどねぇ。ここにほとんどの諸侯の軍がいるからこそ出来る策ね」

 

「ああ、そういう事だ」

 

「腕が鳴るのぉ~!」

 

 黄蓋がそう言って張り切るが…。

 

「申し訳ないですが、祭殿にはここに留まってもらいます」

 

「何じゃと!?それはどういう事じゃ!」

 

 黄蓋は周瑜に詰め寄る。

 

「それは孫策さん達がここにいると連合側に見せかける為ですね」

 

 答えたのは雛里だった。

 

「鳳統の言う通り、我らの動きを連合に知られてはならないのです。その為にも

 

 ずっと守備の陣頭に立っていた祭殿にはここに留まってもらって引き続き守備

 

 にあたっていただきたいのです」

 

 周瑜はそう言って黄蓋に頭を下げる。

 

「冥琳、わかった。わかったから頭を上げろ。そういう事ならば、儂は全力を以て

 

 守備にあたろうぞ!!」

 

 黄蓋のその言葉に皆の気勢が上がる。

 

「華雄さん、そういう事なのでもう少しだけ我慢していただけますか?」

 

「わかった、鳳統。もう少し我慢しよう」

 

 華雄はそう言って雛里に向かって微笑んだ。

 

 

 

 また場面は変わり、袁術軍が待ち伏せをしている地点なのだが…。

 

「七乃~、孫権は何時来るのじゃ~?妾は待ちくたびれたぞ~」

 

 袁術は何度目になるかわからないボヤキを呟く。

 

「孫権達はこちらへ向かっているとの報告はありますので、もう少し待ってて

 

 くださいね」

 

 張勲は袁術にそう言うが…。

 

(それにしても動きが遅いですね…孫権さんの性格ならすぐにでも来ると思ったの

 

 ですが…まさかこの策も諸葛亮さんに読まれたのでしょうか?)

 

 内心焦っていたのであった。

 

 そして何時までも敵が現れないので袁術軍は完全に緩みきっていた。

 

 それを見ていたかのように、張勲が予期せぬところから敵が現れたのである。

 

「張勲様!敵です!!」

 

「ようやく来ましたか…」

 

「い、いえ、違うんです!現れたのは…孫策です!!」

 

「…! …え、ええっ!!何でですか!!孫策さんは汜水関にいるんじゃなかった

 

 のではないのですか!?」

 

 張勲は驚きの声をあげる。さらに追い討ちをかけるように…。

 

「そして孫策と共に現れた旗印は『呂』!飛将軍呂布です!!」

 

 告げられたその名に張勲は呆然となった。

 

「えっ、……ええええええええっ!!」

 

 

 

 

 

 

                                続く! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 本当は今回、連合の動きもお送りしたかったのですが、

 

 七乃が一人でいろいろ考えてただけになってしまいました…。

 

 南陽攻略戦もまだ終わってないし…自分の文才の無さに恥じ入るばかりです。

 

 そして完全ではないですが、凪の記憶が戻ったのでこれからは楽進に戻ります。

 

 そして一応記憶が戻っても一刀の下に留まる道を選びました。というか、華琳の

 

 下へ行く選択肢は元から無いのですが…。

 

 

 それでは次回、外史編ノ二十四でお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 追伸 次回は孫策・呂布無双の予定です。

 


 
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