No.456012

IS ――十六条の陽光――

改大和型さん

2041年夏――日米関係の歪が明らかになった頃、ある少年の両親が殺された。少年もまた、左目を失った。
幼くして両親を失った少年は遺産目当ての親戚を拒絶し、自衛官を務める小父の下に自ら赴く。

それから12年後――
少年は紆余曲折を経てIS学園へと入学する。

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2012-07-19 23:59:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:773   閲覧ユーザー数:742

序章-1 ――Xday――

 

 

 

2041年8月15日、少年は両親と手を繋ぎ、夜道を歩いていた。暗い道とは対照的な少年の笑顔が、その家族の仲の良さを表していた。

外交官を務める彼の父親は日々激務に追われ、帰りが遅いことが普通だった。

 

そんな父親が珍しく早く仕事が終わる。

 

少年の両親は、現代にしては仲の良い夫婦だった。

朝、父が起きれば母は新聞と朝食を出し、スーツや鞄を用意する。

父は父で、妻の行為に対して一々礼を言い、結婚記念日には何かをプレゼントしていた。

 

だから、久しぶりに家族揃って食事が出来ることを母が喜ぶのは当然といえた。

 

嬉々とした表情で時間を掛けながら服選びを行う姿は、まるで恋する乙女のようだった。その端正な顔にだらしの無い笑顔を浮かべ、いかに彼女が幸せであるかを体現していた。

漸く準備が整った母は待たせていた少年を連れ、スキップしそうな勢いで夕陽の差す屋外へと飛び出した。

 

 

 

父と合流した頃には日はとっくに沈み、月が西の空に見えていた。

豪奢なものはとやかく嫌う父の性格を知っている母は、こじんまりとした、それでいて良い料理を出すレストランで食事をした。

少年は夢中でカレーを食べていた。そのため、自身の父母が会話の端々に暗い顔を浮かべていたことを知ることは無かった。そしてまた、そのカレーの美味しさも一生忘れることは無かった。

 

食事を終え、家族は笑顔で家を出た。

ただ、子供は純粋な笑顔を浮かべているのに対して、両親のそれはどこかぎこちなさの残る、不自然な、無理やりな笑顔だった。

少年も、レストランの店主も、気づくことは無かった。

 

 

 

店を出て暫く、家族は暗く狭い一本道にさしかかった。

街灯が少なく、心細い道だった。

家族のその不安は、しかし現実のものとなる。

脇に機関銃を抱えた、軍服を着た十名ほどの男たちが、家族を前後から挟撃したのである。

男たちが何かを口走り、父へとその銃口を向ける。

 

――そしてその引き金を引いた。

 

連続する銃声。

父が痙攣するかのように震え、そして紅い涙を放ちながら地に伏せた。

もうピクリとも、動かなかった。

 

男たちは何かに満足したかのようにニタニタと気味の悪い笑みを浮かべ、また意味の分からぬ言葉を凄まじい勢いで怒鳴り、唾を、倒れて動かぬ父に吐き掛けた。

 

やがて、男たちはその気持ち悪い笑みを浮かべたまま、怯える少年を抱きかかえている母親の方へ近寄り始めた。

 

母は強い女だった。目の前で最愛の夫が殺されたことにショックを受けながらも、息子を逃そうと震える足で立ち、背を向けていた方へ逃げようとしたのだから。

しかし、現実は非情だった。

先ほど述べたように、男たちは狭い一本道で『挟撃』したのである。

つまり、母が逃げた方向にも別の男たちのグループが立ちはだかっていたのである。

男たちは少年を母から奪い取り、道の端へ放り投げた。

 

『何をするのっ!?』

 

叫びながら、少年に駆け寄ろうとする母を男たちは強引に捕まえ、その服を脱がし、

 

――そして、少年の意識があるのを知ってか知らずか、彼の目の前で母親を犯した。

 

投げられた時に肋骨が折れたのか、痛む胸を押さえながらも少年は立ち上がった。

そして無謀にも、母親に群がる男たちの集団へ突撃した。

 

しかし所詮は子供の体当たり。

 

いきなりのことに対応できなかった一人が倒れたが、それ以外の男たちは倒れた男に少し視線を向けるだけで、すぐに犯される母親へと顔を戻した。

倒された男も大した怪我はしていない。しかし、そんなことはいかな5歳の少年とはいえども承知していた。それでも蛮勇を奮ったのは、それだけ家族の絆が強かったからなのだろう。

やがて、起き上がった男が胸ポケットから銃を取り出し、その口を少年へと向けた。

ここでまた、訳の分からぬ言葉を、男は怒鳴るようにして吐き出した。

 

――刹那、少年の左目が猛烈な熱を発するかのように痛み出した。

 

少年は凄まじい痛みに身悶えし、いつの間にか降っていた雨に濡れている地面へ、体を打ちつけた。

男が捨て台詞のようなもの――無論少年には分からなかった――を吐き捨てて母親を囲む輪の中へ戻っていくのが気にならないほどの痛みだった。

 

やがて、少年の意識が薄れ始めた。それでも母の悲痛な叫びだけは聞こえていた。『このまま寝てはいけない』、そう思いながらも少年の足掻きは無駄に終わった。

暗闇に沈む前、少年は、自分を生み出した者の悲痛な叫びと、父を撃った機関銃の連続した射撃の音を耳にした――

 


 
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