No.455503

万華鏡と魔法少女 第二十三話、騎士と忍

沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男


彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。

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2012-07-19 01:00:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6092   閲覧ユーザー数:5664

人には必ず陰というものが存在する

 

 

それは、命を奪った罪悪感、それとも愛が欲しかった心の闇

 

 

希望や夢に心を馳せて追い求める末に挫折した絶望

 

 

この世にはそんなものをうちに秘める人間が五万と居る…

 

 

いや下手をすれば、それ以上…誰しもが持ち合わせているものだ

 

 

決意や希望を胸に抱き潰えることの無いものは余計にたちが悪い

 

 

何故ならそれに気づくまでの過ちを気づくまで自分が正しいと思い込んでいるからだ

 

 

気付いた時には既に遅い

 

 

自分が産まれた一族もそれを信じそして破滅していった

 

 

『…俺は己の器を知らないこの一族に失望している』

 

 

平和を乱し、他を省みない一族…

 

 

だけど、それでも俺は確かにあの一族に生きる人々の優しさ、暖かさに触れていた

 

 

何処で間違えたのだろう

 

 

なぁ…誰か…教えてくれないか…

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

うちはイタチは深夜の暗闇の中でその瞳をゆっくりと開いた

 

 

また…あの夢だ

 

 

自分が真っ赤に染まりつくあの忌まわしい悪夢、毎夜毎夜、繰り返しそれは俺を苦しめてくる

 

 

やはり、そう簡単に己の犯した罪は無くなることはないのだろう

 

 

 

 

「…俺もやきが回ったものだな…」

 

 

イタチはそう言って、自分に掛かっていた布団を剥がし、その場から起き上がる

 

当然ながら日は出ていない為、辺りは真っ暗なままだ…視界が悪く歩き回れたものではない

 

 

まぁ、別に写輪眼を使えばそんな心配は要らないのだがいちいちこんな事にイタチはチャクラを消費したくはない

 

 

ひとまず、彼は横で布団を敷いて寝ていたはやてにへと視線を向ける

 

 

いつも、何故か朝になると自分の布団に丸くなって潜り込んでくる彼女

 

 

甘えたいという願望が強いからか、それは仕方が無いといつも心の中でイタチは割り切っていた

 

 

だが、どうやら今回はいつもと違い自分の隣に珍しく彼女が寝ていない

 

 

隣に敷いてある布団に眼を向けるが同じく空である

 

 

要するに寝ているはずの彼女の姿が忽然と消えてしまっているのだ

 

イタチはとにかく彼女の事が心配になり、家の中を歩き回り探索する

 

 

すると、部屋の一角から眩い光が差し込んでいるのをイタチは見つけた

 

 

光を放ち、少し開いた扉の間から溢れ出ているそれ

 

 

そうして、それと同時にはやての悲鳴がその部屋の中から聞こえた

 

 

「…!!はやて!」

 

 

イタチは急いでその部屋の扉を開けて、中にへと無理矢理入る

 

 

そうして、はやての居るであろう部屋の中にへと駆けつけたイタチは信じられない光景に眼を見開く

 

 

そこには…

 

 

「我等、闇の書の騎士、ヴォルケンリッター…主の呼び掛けにより推参致しました」

 

 

本が光ると同時に四人の見知らぬ人間達が現れて、はやての前に立ちそう告げていたのだ

 

 

そこからのイタチの行動は実に素早く、的確なものだった

 

 

すぐさまイタチはそのヴォルケンリッターという騎士達とはやての間に立ち塞がる様に仲裁に入った

 

 

こんな急に現れたイレギュラーな人間にはやてを触れさせ危険に晒すわけにはいかない

 

 

都合のいい事に彼女は突然目の前で起こったこの出来事に驚きすぎて気絶している

 

 

場合によれば、この現れた者たちを消す算段をイタチは頭の中で既にできていた

 

 

「貴様!我等の前に立ち塞がるとは何者だ!?」

 

 

軽く桃色の様な色が掛かったヴォルケンリッターと名乗る女性の一人が仲裁に入ったイタチに怒鳴り声を上げる

 

 

当然だ、いきなり自分達が仕えるべき主のはやての前に立ちふさがる様にして矛をこちらに向けて来ているのだ

 

 

しかし、次の瞬間…

 

 

彼女は今まで感じた事の無いと背筋が凍りつく様な寒感に襲われる

 

 

「…さて、それはこちらの質問だな…」

 

 

金属が首元にある頸動脈に押しつけられている感覚

 

 

眼の前に立つ彼の三つ巴の瞳は怪しい光を放ちながら、彼女達を真っ直ぐに射抜く

 

 

…直感的にその眼を見た彼女達は死を感じた

 

 

そう金属とは苦無、常に手入れされ鋭利に尖ったそれは簡単に人の皮膚を切り裂く事が出来る

 

 

その苦無を頸動脈に押しつけられている紅色が掛かった髪の幼げのあるヴォルケンリッターの一人の少女は恐る恐る後ろに視線を向ける

 

 

すると、そこにはもう一人の同じ姿をした男の姿があった

 

 

「…な、なんだよこいつ等、みんな同じ顔してやがる」

 

 

「…俺の分身なのだから当然だ…さて、それじゃ君達には幾つか今から質問に答えてもらうとしよう」

 

 

イタチはそう言って、眼を据わらせたまま彼女達に淡々と語り出した

 

まず、この騎士と名乗る女性達がいったい何者なのか…

 

 

即刻排除ならばこの状況ですぐに己の手で下せる

 

 

だが、まずは無駄に命を刈り取る前に情報を得る事が先決だ

 

 

「…君達の背後にある書物…」

 

 

「…闇の書の事か…」

 

 

イタチの指摘する物に関してすぐに言葉を放つ騎士

 

 

彼はその答えに静かに頷くとゆっくりと彼女達の方へと近づいてゆく

 

 

「…そうだ、先ほどはやてが主…そして闇の書の騎士と言った事から推測すると君達は"アレ"に少なからず関連性があるのは間違いない…さて、それで君達はいったいあの本のなんだ?」

 

 

イタチは冷え切った氷の様な眼差し、言い表す事の出来ない威圧感を醸し出しながらそう問いかける

 

 

彼女達は瞬間、この人間が自分達が答えなければ、平然と命を刈り取る事が本気だと直感的にその眼を見て感じた

 

 

「…ひっ…」

 

 

一番か弱そうな金髪の女性は首元に押し付けられている苦無を見て顔を真っ青にしている

 

 

…恐らくは死の恐怖からだろう

 

 

そんな彼女を様子を見ていた桃色掛かった色の様な髪の騎士は観念した様に自分達の情報をイタチにへと語り始めた

 

 

自分と赤い髪…ヴィータともう一人の騎士、ザフィーラならなんとかこの状況を打破出来るだろう

 

 

だが、金髪の女性…シャマルと呼ばれている彼女は彼等の中では別だった、サポーターの彼女が自分達の様に戦闘に特化して強い訳では無い

 

 

下手を打てば確実に殺られるのは明白である

 

 

しかも、このうちはイタチの眼を見て桃色髪の騎士、シグナムは確信していた

 

 

彼が人を…何十…何百人と手を掛けて殺して来た事を…

 

 

彼女もまた震えが止まらなかったのだ、彼の醸し出すその死を司る雰囲気に…

 

 

そうして、彼女は自分達の情報をイタチにへと淡々と語り出す

 

 

闇の書…主…

 

自分達が何者なのか、名前、主と呼ばれているはやてとの関わりについて

 

 

本の守護騎士である彼女達は自分達は彼女を守る為にこの場に存在していると、そうイタチに告げた

 

 

彼女から一通り話を聞き終えたイタチはふぅ…と深いため息を吐いて軽く頭を抑える

 

 

信じろと言う方が無理な話だが、あらがち全然信じられないという話でも無い

 

 

自分の体験したあの出来事もまたそうであるように、この世界ではあり得る事なのだろう

 

 

イタチは印を軽く結び分身に掛けていたチャクラを解いて、彼女達を開放する

 

 

そうして、彼は驚いて気絶しているはやてをそっと抱きかかえた

 

 

歳相応の幼げのある可愛らしい寝顔

 

 

イタチはそっとはやての眼に掛かる髪を軽く人差し指で取り除いてやり、それを黙って見ている闇の書の騎士達の方に振り返り一言こう告げる

 

 

「…いきなり、申し訳なかったな…つい職業柄こういったものになってしまうんだ、悪く思わないでくれ…」

 

 

はやてを抱きかかえるイタチはそう言って、優しく彼女達に微笑む

 

 

それは、先程と変わり実に柔らかく温かみがあるものであった

 

 

それを見ていたもう一人の騎士、唯一の男であり同時にアルフと何処か似ている獣人であるザフィーラはそんなイタチの様子を見て何か納得した様に話し出した

 

 

彼女を抱きかかえるイタチの様子から推測出来る事

 

 

「…貴方は主の…」

 

 

「そうだ、紹介が遅れたな…うちは…いや、この場合は八神イタチだな、はやての義理の兄だ」

 

 

ザフィーラの問いに簡単に返すイタチの答えにシグナム達は唖然となる

 

 

いや、しかしながら、この状況を見て予想が出来ない方がむしろおかしいと言える…

 

 

彼女を守る様に自分達との間に割って入ってきた彼の行動

 

 

そして、彼女に危害を加えるものなら容赦無く命を奪い取る決意の籠もっていた眼差し

 

 

確かに今思い返せば思い当たる事ばかりである

 

 

シグナム達は慌てた様にはやてを抱きかかえているイタチに声を上げて謝ろうと口を開ける

 

 

ーーーーだが、しかし

 

 

トン…と何時の間にか声を上げようとしたシグナムの口元にイタチの人差し指が軽く添えられていた

 

 

シグナムは眼を思わずパチクリさせてイタチに視線を向ける

 

 

彼女の口元に人差し指を添えた彼は次にそれを自分の口元に持ってくると微笑んだまま軽く頷く

 

 

そう、要するにはやてが寝ているから声を上げないで欲しいという合図だ

 

シグナムは思わず考え足らずの行動を取ろうとした自分が恥ずかしくなり羞恥からか顔を赤くする

 

 

イタチはそんな彼女の様子にクスリと笑みを溢しこう告げる

 

 

「…はやてが寝ているし近所の迷惑になる、今は深夜だ…とりあえずリビングにでも移動してお茶でも飲みながら話そう」

 

 

イタチはそう言って、抱きかかえているはやてを寝床に持ってゆく為、シグナム達に背を向けたまま扉を開く

 

 

自分の無防備な背後を彼女達に見せる事

 

 

それは、完全に自分達に対して敵意がない事を物語っていた

 

 

 

彼女達にはイタチのとった行動の意味が彼女達には直感的に分かった

 

 

そんなはやてを抱きかかえる敵意の無い彼の後を騎士達は自分達が本の力により現れた部屋を後にする…

 

 

こうして交えた闇の書の騎士達とはやて、そしてうちはイタチとの出会い

 

 

これから闇の書を発動させた彼等の前に訪れる試練とは一体なんなのか

 

 

その日、夜の闇に部屋を差し込み一つの本を照らす月光

 

 

まだ、物語は始まりを告げたばかりである…

 

 


 
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