No.455502

万華鏡と魔法少女、第二十二話、月夜と忍





沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男

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2012-07-19 00:56:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:8147   閲覧ユーザー数:7607

戦争、

 

 

それは、ただの殺し合いが織り成される血みどろに塗れた醜悪の出来事

 

 

人が死ぬたびに憎しみが増え、そして、悲しみもまた増える

 

 

数多の惨劇や悲劇は止む事はない、その戦争の中で生まれ出る

 

 

 

 

 

俺はその悲しみも憎しみも悲惨さも全て目の当たりにしてきた

 

 

沢山の人間の血を戦場で散らし、この世から抹殺した

 

 

それはまさに地獄の光景、堪え難く醜い鮮明な死のビジョン

 

 

怖かった…あの場にいた自分が

 

 

恐ろしかった…自分が殺すたびに上がる彼等の断末魔が

 

 

俺は怖い、怖くなったあの戦争の様に木の葉の人達の幾多の命がまた目の前で失われると考えると

 

 

だから…俺は…

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

とある日の晴れた昼下がり、

 

 

うちはイタチと八神はやては図書館で本を借りていた

 

 

イタチはこの場所の歴史、地理、そして、これからはやてに作るであろう為の料理の本

 

 

彼女は色んな童話や物語、芥川龍之介の地獄変、夏目漱石が著者の『こころ』等なこの年頃の少女が見るには難しそうな文学作品を手に取っていた

 

 

この世界の文学作品、

 

 

イタチはなんだか、はやてが借りるそれを見て若干、興味が湧いた

 

 

この世界で有名な作者達はどの様な本を残しているのだろうと

 

 

すると、はやては自分の借りる本に興味深そうに視線を向けてくるイタチに声を掛ける

 

 

「イタ兄もこんな本に興味があるん?」

 

 

「…あぁ、多少は…この世界の文学作品には正直、どういったものか気にはなるな…」

 

 

イタチは本を抱える彼女の問いかけに肯定する様に頷く

 

 

そう、イタチがいた忍の国にも本は確かに存在していた

 

 

英雄譚や有名な忍の豪傑物語、そして木の葉の里ができるまでの創設の歴史

 

 

一度、そういったものを眼に通した事はあるが実にどれも興味深いものがあった

 

 

「しかし、はやての持ってるそれはこのどれも、難しそうな文学小説ばかりだと思うが…?」

 

 

「…あぁ、コレ? 暇やから、色んな本に片っ端から手を出してるだけやで? まぁ、難しそうな言葉は勉強にもなるし、辞書で調べながら読んだりしてるんやけど、イタ兄が興味あるなら一冊貸して上げるわ!」

 

 

はやてはそう言って、抱えていた本の内、イタチに一冊の本を手渡した

 

 

イタチが彼女から貸して貰った本、題名は『人間失格』

 

 

早速、はやての家に帰ってきた彼は彼女から、貸して貰ったその一冊に静かに眼を通す

 

 

その中で、彼の眼を引いた言葉がこれだった

 

 

『恥の多い生涯を送って来ました』

 

 

何故かこの言葉が一番この時のイタチの心を揺さぶった

 

 

恥の多い生涯…とはいったいなんなのだろうと、

 

 

イタチの歩んできた人生は恥の無い生涯とは決して言い難い

 

 

イタチは淡々とページをめくり、物語を読み続ける

 

 

彼から見た、この『人間失格』に描かれた主人公は酷いものがあった

 

 

人として違う感覚を持ち、それに対して混乱発狂しそうになる彼

 

 

まともに人間と会話が出来ない彼は人間に対する最後の求愛として道化を演じる事になる

 

 

彼の本性は女中や下男に犯されるという、大人たちの残酷な犯罪を語らず、力なく笑っている人間であるという

 

 

結果的に彼は欺き合う人間達に対する難解さの果てに孤独を選んだ

 

 

 

人を欺き合う忍の世界で生きてきたイタチにとって、それは実に共感できるものがあった

 

 

絶望した、死にたいとも何度も思った

 

 

生きた仮面を付けた、道化を演じた事など数えきれない程ある

 

 

しかし、自分にはこの作品に生きる彼とは違い使命があったのだ

 

 

誇り高い一族に産まれた故に成さねばならない宿命、

 

 

これも、所詮はフィクションの話ではあるが…

 

 

しかし、イタチが見た小説の作品でかなり面白いと感じられるものなのは間違いなかった

 

本を読み続ける内に、人間達の卑しい部分から抜け出したくなる主人公の彼は色んなものに手を出し始める

 

 

酒、煙草、淫売婦、左翼思想

 

 

この時にイタチは既に本の中の彼が辿るであろう末路はだいたい予想が出来た

 

 

忍の三禁というものがある

 

 

女、金、酒…これら三つの内に溺れると己を破滅させると言われている

 

 

まぁ、例外もいる訳だが、(白髪の大蝦蟇仙人等)

 

 

大抵の人間は共通してそうして、身を滅ぼしてゆく

 

 

この作品の主人公はそういった破滅の予兆をイタチに感じさせるモノが存在していた

 

案の定、それからの彼の人生は破滅の一途を辿る

 

 

心中未遂、高等学校からの放校、最後に求めた人間が奪われる絶望、薬による中毒

 

 

最終的に彼は脳病院に連れて行かれ、狂人のレッテルを貼られる

 

 

最早、それは同時に彼自身が人間を失格したのだと確信するのに至るのだった…

 

 

最後は不幸も幸福も無く、ただ時間が過ぎていくだけなのだと最後に語り自白は終わる…

 

 

そうして、イタチは静かに読み終えた本を閉じる

 

 

人間としての人生は儚く、時に人の酷く醜い部分に直面する

 

 

裏切り、欲望、惨劇、憎悪、嫉妬

 

 

大勢の血を流してきた自分はもしかすると、この作品に出てくる彼よりも人間失格かもしれない、

 

 

最終的に作品中の彼は破滅の道を辿ってはいたが、その手を人の赤い血では染めていなかったのだから

 

イタチは読み終えた本をそっと机の上に置いて椅子から立ち上がる

 

 

 

窓の外を見て見ると、日はくれて空には星が出ている

 

 

そろそろ、はやてに夕飯を作ってやらなければ成らない

 

 

イタチは台所にへと向かいエプロンを腰に装着し、早速、今日借りてきた本を見ながら調理に取りかかる

 

 

丁度、その時だった、タイミング良く台所に車椅子に乗ったはやてが姿を現す

 

 

「…あれ!?イタ兄、なんで台所におるん?」

 

 

台所に入って来た彼女の第一声がそれだった

 

 

いつも一人だった彼女は自分が自炊して料理をしている為、まさか台所にイタチがいるとは考えていなかったのだ

 

 

だが、エプロンを既に身につけ、調理に取りかかろうとしているイタチはそんな彼女に振り返ると微笑みこう語る

 

 

「…いや、丁度、今日調理に関する本を図書館から借りて来ていてな…早速、試してみようと思って台所を貸して貰った…時間が時間だけに、はやてもお腹を空かしていると思ってたんだが…?」

 

 

そう言って、エプロン姿のイタチは淡々と料理をし始める

 

 

イタチが料理を作ろうとした動機は車椅子の筈のはやてがいつも自炊していると聞いて、少しでも力に成りたいと思ったからだ

 

 

これからは彼女にあまり無理はさせたくは無い、動ける自分が家事や家の事を担当する

 

 

今のイタチにはそういった勝手な自負があった

 

 

しかし、はやてはそんなイタチの行動を寧ろ喜んでいるようで

 

 

「それじゃ今日はイタ兄が料理作ってくれるん!? うわぁ、楽しみやわぁ!」

 

 

はしゃぎながら、そう言ってエプロン装着姿のイタチの服を掴むはやて

 

 

イタチが料理を作ると聞いた彼女はとても嬉しそうに笑っていた

 

 

やはり、この本を図書館から借りて来て正解だった様だ

 

 

少しの間でもいい、

 

 

彼女が喜んでくれるのなら、それでイタチは満足だった

 

 

「よーし、なら私もイタ兄を手伝うわ! 一人でやるより二人でやった方が効率がいいってもんやし!」

 

 

「…そうか、なら、野菜を切るのをはやてに頼もうか」

 

 

そう言ってはやてはイタチの隣に並び、共に食事を作り始める

 

 

玉ねぎや人参などの野菜を手渡すイタチ

 

 

彼女はそれを受け取り、手馴れた手つきて包丁を扱いそれを食べやすいモノに変えてゆく

 

 

流石、今まで一人だけでなんでもやりきってきた筈だ…はやてが扱うどの野菜も崩れず綺麗な形に切られていた

 

 

イタチはそんな彼女の包丁捌きに感心しながらフライパンを棚から取り出して、火にかける

 

 

と、そこで隣で野菜を切っていた筈の彼女から声が上がる

 

 

「うわぁ…眼に玉ねぎはやっぱしきついわぁ涙が止まらへん」

 

 

そう呟いて、彼女は眼から出る涙を右手で擦りながら、包丁に手を掛けて淡々と切る

 

 

はやてを横目に見ていたイタチも一度経験した事があるが、あれは結構キツイ

 

 

玉ねぎに含まれる何かしらの成分によるものだろう

 

 

イタチはすかさず、ハンカチをエプロンのポケットから取り出して

 

 

玉ねぎにより、彼女の眼から出てくる涙をそっと拭ってやる

 

 

 

「ほら、これで少しはマシになっただろ? 眼に涙が溜まっている状態だと指を切るかもしれない」

 

 

イタチははやての涙をそっと拭き取り、取り出していたハンカチをポケットに直すと笑みを溢し彼女にそう告げた

 

 

一方、はやてはイタチからハンカチで目元をいきなり拭かれキョトンと眼を丸くしている

 

 

そうして、暫くして羞恥心からか、それとも自分の涙を拭き取ったイタチの優しい笑顔に当てられたせいか、彼女は顔が林檎のように真っ赤になった

 

 

「…い、イタ兄! んな事せんでも玉ねぎぐらい私、切れるし、こっちが恥ずかしくなるからやめてぇな!」

 

 

そう言って、イタチに顔を真っ赤にして恥ずかしそうに告げるはやて

 

 

しかし、イタチはそんなはやての言葉にクスクスと口元を抑え笑いを溢す

 

それはやはり、彼女が子供だから甘く見ているという変な勘違いして意地を張っているというのがイタチにはわかったからだろう

 

 

「あ、イタ兄!今笑ってたやろ! もう!」

 

 

そう言って、口元を抑えて笑うイタチに怒った様に声を上げるはやて

 

 

はやてはそんな口元を抑えて笑みを溢しているイタチに顔を真っ赤にしたまま、むす とイタチからそっぽを向いて拗ねた様な表情を浮かべている

 

 

そんな彼女にイタチは優しく包み込む様にそっと頭に右手を置く

 

 

彼はそうして優しく何度も何度も、拗ねたはやての頭を撫でながら淡々と語り始めた

 

 

「…いや、今、俺が笑っていたのは、はやてとこうやってしていると少しだけ懐かしく感じてしまってな、悪気があった訳じゃ無い」

 

はやての頭を静かに撫でるイタチはそう付け加える様に彼女にへと謝る

 

そう、昔にあった自分と弟との二人だけの時間

 

 

忙しい父の代わりに自分が遊び相手になってやらなければ成らなかった

 

 

…楽しかった、そして嬉しかった

 

 

よく自分の背中について来るあの弟の姿は本当に今でも忘れられない

 

 

そんな弟は先程のはやての様に直ぐに拗ねた

 

 

だからだろうか、そんな昔の弟と、意地を張るはやてを重ねてしまい、懐かしくなってついイタチは笑みを溢してしまったのだ

 

 

はやてはそう言って撫でてくるイタチの優しい微笑みにそれ以上、拗ねる事はなかった

 

 

寧ろ、イタチの手が心地良かったらしく黙って撫でられながら嬉しそうに微笑んでいた

 

 

(…イタ兄の手…暖かい…)

 

 

今まで充てられた事の無い慈愛からか、兄妹としての愛情か…

 

 

はやてはいままで一人だけだった孤独から確かに少しずつ開放されていた

 

 

そうして、時は過ぎて作っていた料理は出来上がり彼女とイタチは綺麗にそれをテーブルにへと並べる

 

 

イタチとはやてはそれぞれ席について、行儀良く両手を合わせて合掌した

 

 

礼儀作法が厳しい父がいつも言っていた、モノ(命)を頂くという意味でのコレを決して怠る事はしてはいけないと…

 

 

ある意味、命のやりとりが数多く行われる忍の世界だったからこそ命を繋ぐ食べ物に感謝しなければならないのは当たり前の事だ

 

 

それは、今、イタチのいるこの平和な世界でも一緒

 

 

貧困で苦しんでいる人や食事にありつけない人々などこの世界にも大勢いる

 

 

そういった人々に対しての御礼、謝罪の意味もこの儀には備わっているのだ

 

 

いままで、戦争を経験した事のあるイタチは少なくともそう思っていた

 

 

そうして、彼等は作り終えた食事にへと箸を伸ばし食べ始める

 

 

その味は…いうまでも無い、美味だった

 

 

やはり、本のレシピ通り誠実に作ったせいか、本当に満足の出来る味だった

 

 

食事に箸を付けて、それを口に運んだはやては思わず声を溢す

 

 

「…美味い! めちゃめちゃ美味いでコレ! イタ兄の料理の腕は一流や!」

 

 

イタチが作った料理をべた褒め大絶賛のはやて

 

 

彼はそんな彼女の様子に安堵した様に思わず笑みを溢す

 

 

「そうか、はやての口に合って良かった…正直、不安だったんだが」

 

 

そう言ってイタチは素直にはやての高評価を喜んでいた

 

いつも、料理は彼女自身が作っていたのでイタチは味の方が少しだけ不安であったがこれなら作った甲斐があったというものだ

 

 

はやては安堵しているイタチに満面の笑みでこう語り始める

 

 

「何言うてるん、寧ろこんな食事作れるイタ兄と結婚したいくらいや!」

 

 

「…ふふ、ありがとうはやて」

 

 

そう一言、料理を褒めてくれるはやてに感謝の言葉を述べて微笑むイタチ

 

 

お世話でも、そう言って貰えるだけでイタチはとても嬉しかった

 

 

以前、義妹のフェイトやアルフの食事を作っていた事がどうやら幸いしたからかもしれない

 

 

そして、暫くしてイタチは嬉しそうに食事を食べているはやてにある話を持ち掛ける

 

 

「なぁ、はやてこの後少しだけ時間、空いていないか?」

 

 

「…どうしたん急に?別に空いてるけど…」

 

 

イタチの問いかけにそう言って箸を口に咥えながら答えるはやて

 

 

別にこんな時間帯にはやては特にする事は無い、

 

 

今日借りた図書館の本もいいところで区切っていて、また明日続きを読むつもりだった

 

 

だから、彼女にはこれといって大事な予定は入っていなかった

 

 

彼はそんな彼女の反応にわかったと一言だけ頷くと優しく微笑みこう告げた

 

 

「この後、ちょっとだけ出掛けようと思っていてな…はやてについて来て欲しいんだ」

 

 

「ええよ?まぁ、それならとりあえず、ご飯食べ終えてからやな」

 

 

こうして、了承した様に頷いたはやてはこうしてイタチに食事を取るように促す

 

 

イタチとはやてはそれぞれ食事に箸を伸ばしその手を進めてゆく

 

 

暫くして、食事を終えたイタチとはやては綺麗に食器を台所にへと片付けた

 

そして、食器を台所に片付けたはやては食事中の話通り、イタチと共に出掛ける為服を着替える

 

 

イタチが一時期、彼女の着替えを手伝おうかと思っていたが流石に女の子である自分の肌を見られるのに抵抗のあるはやてが断るだろうと踏んでそれはしようとはしなかった

 

 

無理に強いて、不快な思いを彼女にさせるのは当然気が引ける

 

 

数分の時間を掛けて着替え終えたはやては既に準備を終えているイタチの所にへと車椅子を転がす

 

 

「着替え終わったよ、イタ兄!」

 

 

「…そうか、なら行くとしよう」

 

 

そうして、彼女が着替え終えた事を確認したイタチはゆっくりと車椅子に座る彼女にへと近づく

 

 

そして、彼ははやてを車椅子から両手に力を込めて優しく抱き上げた

 

 

所謂、お姫様抱っこというものである

 

 

イタチの突然の行動に抱き上げられたはやては顔を真っ赤にして恥ずかしそうにこう声を上げた

 

 

「ちょ! イタ兄!何してるん!」

 

 

しかし、はやてを抱き上げているイタチは優しく微笑んだまま、そのまま玄関の扉を開ける

 

 

はやてにはイタチの意図がわからないまま、只々、顔を紅くして俯いているだけ

 

 

そして、彼ははやてをしっかりと抱き上げながらこう告げる

 

 

「…しっかりと捕まっていろ、はやて」

 

 

「…え?それってどういう…ーーーーー」

 

 

そこで、はやての言葉は途切れてしまった、

 

 

何故なら抱き上げられている彼女の身体は既にイタチと共に宙を舞い民家の屋根の上にあったからだ

 

 

イタチは自分の服を掴んだまま、唖然としているはやてに心配そうに訪ねる

 

 

「大丈夫か?はやて?」

 

 

「…あ、うん…」

 

 

イタチの問いかけに某然と放心したまま頷くはやて

 

 

確かに抱き上げていた事に恥ずかしがっていたら、次は何時の間にか民家の屋根の上に移動していたのだそうなるのも無理は無い

 

はやてがいままでに体験した事の無い出来事

 

 

いったいこのうちはイタチという人物は何者なのか、はやては無性に知りたくなった

 

 

「イタ兄って…一体…」

 

 

「ーーーただの死に損ないの忍だ、さて、移動するぞちゃんと捕まっていろ」

 

 

そう言って、イタチははやてを抱き上げたまま目に見えないような速さで民家の屋根から移動しはじめる

 

 

頬に拭き当たる風が気持ちが良い

 

 

眼に映る周りの景色が霞がかった様に通り過ぎてゆく

 

 

イタチはそんな眼を輝かせているはやてを抱きかかえたまま、

 

暫くして目的の場所まで辿り着く

 

 

「さて…着いたか…」

 

 

イタチははやてを抱きかかえたまま、その足を止めてそう呟く

 

 

雲が月に少しだけかかり、満天の夜空に輝く星々

 

そこは、海鳴町を一望出来る夜の丘…

 

 

「うわぁ…綺麗……!」

 

 

イタチに連れられて抱きかかえられていたはやてはその光景に心奪われた

 

 

絶景と言われるであろうイタチが連れて来たその場所はまさにそれだけのモノがあったのだ

 

 

…海鳴町の夜空を彩る夜天に輝く星々…

 

 

イタチはそんな星々を見上げながら、はやてにこんな話をしはじめた

 

 

「…はやて、夜天を彩るのは確かに夜空に輝く星々達だ…それは間違いないだろう」

 

 

当然だ、星々が彩る星空こそ美しいモノは無い

 

 

この丘で綺麗な夜空を目の当たりにしていたはやてはイタチの言葉に抱きかかえられ、星空を見上げたまま肯定する様にうなずく

 

 

そうして、イタチはそんな抱きかかえている彼女に付け足す様に話を紡ぎ始めた

 

 

「…だが、そんな夜天を彩る星々が輝いていない時にでも…唯一、夜空に輝くモノがある、なんだか分かるか?…」

 

 

「…え?」

 

 

夜空についての唐突なイタチの問いかけ、

 

 

はやてはいきなりのその問答に混乱し、イタチの腕の中で真剣に頭を捻り答えを模索する

 

 

星が出ていない時でも輝くモノ?

 

 

暫く考え込んでいたはやては思いついた様にあっ! と声を上げる

 

 

それを見ていたイタチは思いついた様に声を上げ、こちらに視線を向けてくるはやてに静かに頷く

 

「…そう月だ…いつも夜天に寄り添い、輝きを放つ月…、」

 

 

イタチは月を見上げ、はやてにそう告げる

 

 

星が出ていない空にも必ずそれは存在する、まるで夜空に寄り添うようにだ

 

 

つまり、イタチははやてにこう告げたかったのだ

 

 

「…俺はお前を照らす月になれているか分からない…だが、言わせてくれ、君の周りに彩る星がもし、無くなったとしても、俺はあの夜天に寄り添う輝く月の様に、はやての側に寄り添っていたいと思っている これからもな、だから…もう一人で孤独を感じる必要はない…今日はそれが言いたくてここに連れてきた」

 

 

イタチは優しく微笑みながら綺麗な夜空に輝く月を真っ直ぐに見ている

 

 

抱きかかえられているはやてはそんなイタチの横顔を静かに視線を向けていた

 

 

その顔はどこか、寂しげでそれでいて悲しみを感じさせるもの

 

 

だが、それでも優しく微笑む彼の横顔は慈愛に溢れた暖かさも同時に持っていた

 

 

はやては純粋に嬉しかった、この場所まで連れてきてくれた事も夜天と月の話しをしてくれたのも

 

 

今日の出来事を決して忘れはしないだろう…

 

 

兄と呼んだイタチとの大事な思い出を…

 

 

 

 

夜天の元に寄り添う兄妹

 

 

血の繋がりは無いがそこに絆は確かに存在していた

 

 

しかし、この時は予想もしていなかったであろう

 

 

目の前に訪れる事件に…

 

 

兄妹が辿る末路は喜劇かそれとも破滅か

 

 

それはまだ誰にも分からない…

 

 

 


 
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