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IS インフィニット・ストラトス ~転入生は女嫌い!?~ 第二十九話 ~学年別トーナメント~

Granteedさん

第二十九話です。

2012-07-14 20:53:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:9108   閲覧ユーザー数:8666

~夕方・外~

 

クロウは今、寮へと続く道を歩いていた。あの後、シャルルがシャワーを浴びたいと言うので、クロウは外にでて時間を潰していた。そろそろ時間だな、と思いつつ自分の部屋への道を歩く。しかし、道の先から声が聞こえてきた。

 

「・・・なぜこんな所で教師など!!」

 

「(ん?誰の声だ?)」

 

「何度も言わせるな。今の私は教師だ。私には私の役目がある。それだけの事だ」

 

物陰に隠れ、声のする方向を見る。そこにはラウラ・ボーデヴィッヒと織斑 千冬の姿があった。クロウはそのまま物陰に隠れ、聞き耳を立てる。

 

「この様な極東の地で何をすると言うのですか!!」

 

ラウラは怒声まじりに食ってかかる。しかし千冬の方はどこ吹く風と言った様に無視を決め込んでいる。

 

「お願いです教官、わがドイツで再びご指導を。大体この学園の生徒など、教官が教えるにたる者どもではありません!」

 

「ほう?理由を聞かせてもらおうか」

 

「意識が低く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低い 「いい加減にしろよ、小娘」 っ!」

 

千冬がドスのきいた声を出す。その迫力にラウラは完全に気圧されている様だった。

 

「十五歳でもう選ばれた人間気取りか?思いあがりも甚だしいな」

 

「わ、私は・・・」

 

そこまで言うとラウラは言葉に詰まってしまい、俯く。その言葉に乗っている感情は紛れもない“恐怖”だった。

 

「もう遅い時間だ。部屋に戻れ」

 

その言葉を聞くと、ラウラは早足で立ち去ってしまい、後には千冬一人が残された。

 

「・・・千冬」

 

「ひゃっ!・・いたのか、クロウ。見苦しい所を見せてしまったな」

 

突然のクロウの出現に驚いている様で、千冬は学園内では見せない普通の女性としての表情をクロウに向けている。

 

「ああ、あいつは前に話してくれたドイツの?」

 

「ああ、その時の教え子だ。私の事を神様か何かと勘違いしていてな、ほとほと手を焼いている」

 

「実はそんな風に扱われてまんざらでもないんじゃないか?」

 

とクロウが茶化すと千冬はため息をつき、言葉を続ける。

 

「茶化すな、結構本気で悩んでいるんだ。今のあいつは私以外には心を開かん、どうしたものか・・・」

 

「一夏に任せておけば問題ないんじゃないのか?」

 

というと、千冬は驚いた様な顔をして、クロウを問いただす。

 

「ほう、その心は?」

 

「織斑 一夏、あいつは人の心に入り込むのがうまいからな。打算とか計算なんか考えずに人と接する。そんな人間に優しくされちゃ、いくらラウラでも憎み続けるのは無理だろう」

 

「お前じゃダメなのか、クロウ?」

 

「俺はあいつに対していろいろやっているからな。ボコボコにされた相手に向けるのは敵意しかない。ましてやいい感情なんて持たれる訳がないだろう。学年別トーナメントとやらが終わるまでは待ってみたらどうだ?」

 

「そうか・・それではしばらく様子をみてみよう」

 

と千冬が結論を下す。提案したクロウも満足気な顔をしている。気づくと陽は落ち始めていた。

 

「じゃあ俺は部屋に戻るぜ。千冬もなるべく早く戻れよ」

 

と言いつつクロウはその場を後にする。千冬の別れの言葉を口にして、まだ仕事が残っているのか、校舎への道を歩いていった。

 

~寮・部屋~

 

クロウは千冬と別れた後、まっすぐ部屋に戻った。部屋に戻ると、シャルルは風呂から上がっていて、髪を湿らせ、顔にほんのりと赤みがさしていた。

 

「ああ、おかえりクロウ。ごめんね、僕の都合で外に出てもらっていて」

 

「いや、構わないさ。シャル、ちょっと知っていたら教えて欲しい事があるんだが」

 

クロウとシャルルは互いのベッドに腰を下ろし、ちょうどお互いが正面になるように座る。

 

「いいよ、何?」

 

「さっき医務室でセシリアが言いかけた事なんだが、シャル、お前何か知らないか?」

 

「ああ、それは例の噂だと思うよ?」

 

クロウはそんな噂は聞いた事がないので、首をかしげる。

 

「例の噂?」

 

「うん、来月の学年別トーナメントで優勝したら、男の子の誰かと付き合えるって噂」

 

「はあ?それは箒が言っていた・・・」

 

「え?なになに?クロウは何か知ってるの?」

 

シャルルはいきなり食いついてくる。シャルルもやはり女の子、恋の話には興味があるようだ。

 

「ああ、この間な、箒が一夏に学年別トーナメントで優勝したら付き合ってもらうって言ってたんでな」

 

「本当!?箒も大胆だねえ~」

 

「ああ、おそらくその事がどっかで捻じ曲がって伝わったんだろうな。箒にとっては最悪だな。一時的にとはいえ、ライバルが学年全員になるとは」

 

「まあ、一夏が普通に箒の気持ちに気づくなんてことは下手したら一生ないからね。その位しないと、関係が発展しないかもね」

 

「ああ、あいつの鈍さには俺もほとほと手を焼いていてな・・」

 

クロウは頭を抱える。この学園にきてからというもの、クロウは間近で一夏の行動を見てきた。その上で思っていることなのだが、一夏はとにかく女関係に鈍い。何とかしてその辺りを改善してやりたいとクロウは考えていた。まあちょいちょいアドバイス等をしているのだが・・

 

「・・クロウも人の事は言えないと思うけど・・」

 

とシャルルがクロウに聞こえない様な小さな声で呟く。

 

「ん、シャル何か言ったか?」

 

「何でもないよ・・」

 

「??じゃあ俺は寝るぞ。おやすみ」

 

「うん、おやすみなさい」

 

そして二人はベッドでそれぞれ眠りにつく・・

 

~一ヶ月後~

 

クロウとシャルル、一夏は男子用の更衣室にいた。この一ヶ月間、一夏達はクロウの指導の元、ラウラのAIC対策はもちろんの事、特訓をつんで実力は格段に上がった。

 

「でも、凄い人だかりだな」

 

クロウが更衣室の中のモニターを見ながら呟く。そこにはアリーナの様子が映し出されていた。ぱっと見ただけでも、どこぞの大統領やら、企業の重鎮やら、テレビで顔を見たことのあるような人間ばかりだった。

 

「三年生にはスカウトの人たち、二年生には今までの成果の確認に沢山の人が来ているからね。普通は一年生の試合にはそれほど人は来ないらしいんだけど・・・」

 

「一夏と俺の事を見にきたんだろうなあ・・・。特に俺は今一夏より注目されているらしいからな」

 

クロウはため息と共に私見を言う。そう、一夏は世界で初の男のIS操縦者であり、その付加価値は計り知れない。あわよくば、今のうちにコネを作っておきたいと言うのがここにいる人間の素直な気持ちであろう。クロウの方はいささか事情が違うが。

 

「?何でクロウが一夏より注目されているの?」

 

とシャルルが当然の疑問をぶつけてくる。一夏は質問の意味が分からずに首をかしげている。

 

「この間の戦闘なんだけどな。あれ、他の国に知られちまったんだよ」

 

「え?そ、それ本当?」

 

「ああ、だからこの大人達のなかには、俺っていう人間を見に来ているのもいるだろうな」

 

先程からちらほらとモニターに映る人間。一般人にはわからないかもしれないが、どう見ても堅気の者とは思えない目付きをした人間がいた。おそらくクロウの実力を間近でみたいとかそんな理由だろう、とクロウは踏んでいたが。まああれだけの大立ち回りをした以上、この位は当たり前なのかもしれない。何しろ千冬もいたとはいえ、ほぼ一機でISの二個小隊を撃退してしまったと言うのだから。

 

「ね、ねえクロウ。それって相当危ないんじゃない?クロウは元々この世界の人じゃないんだから」

 

「ああ、いくら千冬が俺の身元を偽造してくれているとはいえ、詳しく調べられたらアウトだろう」

 

「へえ~、それってヤバイな・・ってクロウ!?シャルルは!!」

 

と一夏は慌てる。一夏はまだシャルルはクロウの事情を知らない、と思っているのだ。クロウが苦笑して声を掛けてやる。

 

「ああ、大丈夫だ一夏。シャルルは俺の事情をもう知っているからな」

 

「へ?そうなのかシャルル?」

 

「うん、クロウの事はもう全部知っているよ!」

 

その言葉に、若干の戦慄を覚えたクロウだったが気を取り直して話題を変える。

 

「そ、そろそろトーナメントの抽選が発表されるんじゃないのか?」

 

トーナメント表がモニターへと映し出される。その表示を見た瞬間、三人の顔は驚きに包まれた。

 

「・・・これって」

 

「マジかよ・・・」

 

「はあ、これはまた・・・」

 

そのトーナメント表の一回戦に書いてある名前は

 

「織斑 一夏&鳳 鈴音 VS ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之 箒」

 

~アリーナ・一夏side~

 

アリーナには一夏、鈴、箒、ラウラと全員が戦闘体勢で試合開始のサイレンを今か今かと待っている状態だった。一夏は鈴に秘匿回線

プライベート・チャネル

を繋ぎ、試合前の最後の確認をする。

 

≪いいか鈴、お前は箒を頼む。俺はボーデヴィッヒと戦う≫

 

≪いいけど、あんた一人で持つの?相手はAICであんたの動きを止められるのよ?≫

 

≪その辺はこの一ヶ月間クロウにみっちり鍛えて貰ったからな。まあ何とかするさ≫

 

≪だったらいいけど。すぐに落とされるなんて事だけはやめてね!!≫

 

≪おう!お前も頑張れよ!!≫

 

会話が終わる瞬間、試合開始のカウントダウンが始まる。その時、相手から通信が入った。

 

≪ふん、まさか一回戦から当たるとはな。待つ手間が省けたと言うものだ≫

 

≪そりゃあ何よりだ。こっちも同じ気持ちだぜ≫

 

≪こちらとしては、貴様だけにかまってもいられないのでな。一瞬で蹴りをつけてやる≫

 

≪残念だが、クロウとは戦えないぜ。お前は俺が倒す!≫

 

その間にもカウントダウンは続く。5,4,3,2,1。試合開始の直前、奇しくも二人から放たれた言葉は一致していた。

 

「「叩きのめす!!」」

 

次の瞬間、四つの影が交差する。

 

~箒side~

 

箒のやる気は始まる前から底をついていた。一夏とペアになれなかった事に加えて、今現在隣にいるのはラウラ・ボーデヴィッヒ。鈴とセシリアを傷つけ、一夏を目の敵にしている女。そんな人間とペアを組む、という事実が箒のやる気を削いでいた。

 

「はぁ・・・≪ピピッ≫(ん?通信だと?)」

 

目の前の打鉄のコンソールに表示されている通信の相手はラウラ・ボーデヴィッヒ。箒は警戒しながらも通信をつなぐ。

 

≪・・・何の用だ≫

 

≪一つだけ言っておく。お前は手を出すな。邪魔にならなければいい≫

 

その言葉に、箒は返答せず沈黙を返した。そして試合開始のブザーが鳴る。

 

「(とにかく私は全力を尽くすだけだ!!)」

 

そう決心をして、箒も戦場へと突撃する。

 

~一夏side~

 

「うおおおお!!!」

 

試合開始と同時に、一夏はラウラへの特攻を仕掛ける。しかしラウラはその行動を読んでいたのか、右手を上げただけで対応する。

 

「!!危ねっ!!」

 

右手からAICが放たれる直前、一夏はスラスターを逆方向に噴射。ラウラから距離をとる。

その間にも、鈴と箒は戦っていた。視界の端に映るのは、鈴が一方的に箒を攻撃している光景。やはり箒と鈴ではISの性能はもとより、実力が違いすぎていた。決着がつくのはすぐに見えたので、一夏はラウラに向けてのフェイントで時間を稼ぐ。

 

「ふ、最初の威勢は何処にいった?」

 

「言ってろ!お前には負けない!!」

 

「ふん、ならば私から仕掛けよう」

 

と言いつつラウラは肩のレールガンを起動し、砲身の狙いを一夏に向ける。

 

「では───消えろ」

 

その瞬間、レールガンが吠えた。

 

~鈴side~

 

あたしは箒の相手をしていた。ラウラ・ボーデヴィッヒの方はは一夏が任せろって言ってたから、先に箒を倒しておこう、と思ってね。今は分割状態の双天牙月で近接攻撃中、箒は受けるのが精一杯みたい。

 

「ほらほらほら!!」

 

ガキッ!ガキンッ!ガキンッ!

 

「くっ!このっ!」

 

と箒が一瞬の隙をついて、打鉄の武装である日本刀を横薙ぎに振ってくる。

 

「そんなものっ!!」

 

私は双天牙月を振り、箒の手から日本刀を弾き飛ばす。そして箒の腹部に蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

「くうっ!!」

 

箒はアリーナの端の方にまで飛ばされて、片膝をついていた。私はここぞとばかりに追撃をする。

 

「これで終わりよ!!」

 

両肩の龍砲を放ち、連続で箒に攻撃を加える。その内にS・E(シールド・エネルギー)がゼロになったみたいで、動けなくなった。

 

「ごめんね、これも勝負だから」

 

「・・・くっ」

 

私は一夏の援護に向かうために加速した。

 

~一夏side~

 

「なぜだ、なぜ当たらん!?」

 

先程から続けているレールガンによる攻撃、しかし一夏はその全てを見事に避け切っていた。今はラウラを中心に周囲を回りつつ、砲撃を回避している。

 

「クロウとの特訓の成果だ!!」

 

そう、この一ヶ月間、一夏はラウラに勝つための対策として、この戦法を練習してきた。つまるところ、”勝ちに行く戦い”ではなく”負けないための戦い”である。今までは一夏は相手との距離を詰めるための特訓を中心にしていた。しかしラウラと戦うにあたって近距離戦用の武装しか持たない一夏は、一対一で勝つ事は難しい。例え距離を詰めても、AICで動きを止められたらその時点でアウトだからだ。しかし今回のトーナメントは二人一組。一人で勝てないのなら、二人で勝てばいいだけの話である。そのため、パートナーが来るまで決してやられない、そのための回避技術であり、その戦い方をたった今、一夏は実践していた。その内、ラウラのレールガンの砲身が焼け付く寸前までになり、射撃は一時中断、一夏も回避行動をやめた。

 

「どうした、もう終わりか?」

 

「・・・」

 

「ならこっちから行かせてもらうぜ!!鈴!!」

 

「何っ!!」

 

ラウラが後ろを振り向くと、そこには双天牙月を連結させ、振りかぶっている鈴の姿があった。

 

「わかってるわよ!!」

 

「さあ、ここから反撃だ!!」


 
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