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IS インフィニット・ストラトス ~転入生は女嫌い!?~ 第二十八話 ~生命の価値~

Granteedさん

第二十八話です。

2012-07-14 20:49:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:9096   閲覧ユーザー数:8623

~翌日・放課後~

 

クロウ、一夏、箒、シャルルは教室にいた。授業が終わったら、特訓に行くのが常なのだが、今日は掃除をしていて遅れてしまった。ちなみにシャルはまだ男装を続けており、女子だと明かす気は無いらしい。

 

「やっと終わった~。早く特訓に行こうぜ」

 

「うむ、そうだな」

 

「あれ?鈴とセシリアは?」

 

「ああ、鈴はクラスが違うし、セシリアは今日の掃除当番じゃないからな、先にアリーナに行って今日のメニューをやってるってよ」

 

一夏、箒、シャルル、クロウの順に喋りながら教室を出ていく四人。廊下に出てみると妙に騒がしい。

 

「?何かあったのか?」

 

「なあ、聞いてもいいか?」

 

一夏が廊下にいる女子生徒を一人捕まえて話しかける。

 

「うん、何かな?」

 

「何でこんなに騒がしいんだ?」

 

「今代表候補生同士がアリーナでも模擬戦しているらしいんだよ。もういいかな?」

 

「ああ、ありがとう」

 

そういうと、女子生徒は走り去っていった。四人は顔を見合わせ、全員が抱いている疑問を口にする。

 

「代表候補生同士の模擬戦?」

 

「鈴とセシリアの事じゃない?」

 

「だが、あいつらの今日のメニューには模擬戦なんてないぞ?」

 

特訓の内容を作っているのはクロウなので、今日のセシリアと鈴の分の特訓内容も把握している。

 

「この学校での他の代表候補生と言えば・・」

 

「そういえば、ラウラってやつ、ドイツの代表候補生だったっけ?」

 

箒が疑問を口にすると、一夏が思い出したかの様にシャルルに問う。

 

「そうだね、となると戦っているのは・・」

 

「あの女とセシリア達だってのか」

 

「・・急いで行った方がよさそうだな」

 

事態を完全に理解した面々は箒の考えに同調する。

 

「ああ、みんな、走るぞ!」

 

クロウ達は、アリーナに向かって駆け出していった。

 

~アリーナ・観客席~

 

クロウ達は観客席にいた。シャルルが先に観客席で状況の確認をしたほうがいい、と提案したので、一同は観客席に移動したのだが、そこで見た光景は信じられないものだった。

 

「何だよ、これ・・・」

 

そこで展開されていたのは、ラウラによる一方的な蹂躙劇だった。鈴とセシリアの二人をワイヤーブレードで捕獲し、ただ殴る、蹴るの繰り返し。やられている二人にはもう反撃できるだけの余力はない様だった。その証拠に、二人は武装は一つも展開しておらず、ただやられるだけの状態だった。

 

「これは・・・」

 

「ひどい、あれじゃあもう二人の命が!」

 

クロウがその言葉に素早く反応する。静かな声で一夏に語りかける。

 

「・・一夏、シャルル、ISを展開しろ」

 

「え、ここでか?」

 

一夏の疑問はもっともだった。観客席には、不可視のシールドが張られており、直接アリーナへは行けない構造になっている。しかし、アリーナの出入口に行っている猶予は既に無かった。

 

「ああ、シールドは俺がぶち抜くから、シャルルと一夏はセシリアと鈴を助け出す準備を。箒は万が一に備えてストレッチャーを二人分用意しておいてくれ。多分医務室にあるだろう」

 

「・・・わかった」

 

そういうと、箒は観客席の出口へと駆け出す。

 

「さあ、行くぞ、準備はいいな?」

 

~セシリアside~

 

「きゃああ!!!」

 

「くうううう!!!」

 

先程から、一方的な蹂躙が続いていました。私と鈴さんのS・E(シールド・エネルギー)はもうゼロに近く、ISを展開するのがやっとの状態、目の前のコンソールには操縦者生命危険域(デッドゾーン)と表示されています。

 

「もう終わりかしら・・・」

 

ここで終わる、そんな考えが頭の中をよぎりました。最後に浮かんできたのは思い人の顔。

 

「クロウさん・・・」

 

その時、観客席から声が聞こえ、前に一度見たことのあるレーザーが飛んで来ました。

 

「VXブレイザー、ぶち抜け!!」

 

ズドオオオオオン!!

 

その瞬間、私と鈴さんの拘束が解けました。声のした方向を見れば、そこには銀色に光輝くISが一機、こちらに向かって来ていました。

 

「セシリア、鈴、大丈夫か!!」

 

~クロウside~

 

クロウはVXブレイザーでアリーナのシールドを破壊すると、加速してワイヤーブレードをバンカーで切りつけて拘束を解き、すぐにセシリアの隣に降り立つ。鈴の方は一夏に、ラウラの警戒はシャルルに頼んである。

 

「セシリア、大丈夫か!?」

 

クロウが問いかけるがその声にはいつもの元気がない。セシリアはしゃべるのも辛そうな顔で返答する。その声は、今にも気絶しそうな程弱々しいものだった。

 

「無様な姿を・・・お見せしましたわね・・・」

 

「んな事はないさ。生きていてくれて良かった」

 

「そう・・ですか・・・すみません・・・」

 

そういうと気を失うセシリア。同時にISが強制解除され、クロウはセシリアを抱きかかえて一夏に声を掛ける。

 

「一夏!鈴は大丈夫か!?」

 

一夏もクロウと同じく、鈴を抱えている。鈴もセシリアと同じくISは解除されており、救出に来なかったら、と思うとクロウはゾッとした。

 

「ああ、気を失ってるだけみたいだ!」

 

「シャルル、こっちに来てくれ!」

 

クロウが呼びかけると、シャルルはラウラの方に、煙幕を張り、クロウ達の方へと来た。

 

「何、クロウ?」

 

「セシリアを頼む。二人は下がっていてくれ。俺はちょっとあいつにお灸を据えてくる」

 

「「(ビクッ!!)」」

 

その時のクロウは、顔は平常どおりでも、出している雰囲気はキレた時と同じだった。二人はその雰囲気に気圧されながらも、クロウの指示に従う。

 

「う、うん。分かった」

 

「じゃあ、行ってくる」

 

クロウはシャルルにセシリアを預けると、煙幕に包まれているラウラに接近する。

 

「なあ、お前。まさかあの二人を殺そうとしたのか?」

 

クロウが静かにラウラに向けて問いかける。煙幕は既に晴れており、ラウラからもクロウが見えている状態だった。

 

「ふん、そんな事か。仮にあいつらが死んでも、私には何の影響も無いからな。そんな事はどうでもいい」

 

「・・・もう一度言ってみろ」

 

「っ!!!」

 

クロウからは、以前と同じ雰囲気が発せられていた。しかし今回は逆鱗にも触れていないし、自分の意見を言っただけ。ラウラは状況が理解出来なかった。その間にも、クロウから発せられるプレッシャーは増大していく。

 

「人が死んでも構わないだと?・・ふざけた事言ってんじゃねえ!!」

 

「!!(何だ、このプレッシャーは!?本国の軍でもこれほどの人間はいなかった!)」

 

ラウラが驚いている間にも、クロウは言葉を続ける。その言葉は先日とは違い、感情に溢れていた。

 

生命(いのち)ってのは、一度失ったら、どれだけ金を積んでも帰ってこねえんだ!!俺の仲間は生命(いのち)を懸けて、何かをやろうとしていた!俺の前で生命(いのち)を軽く見ることは許さねえ!!」

 

「ふ、ふん!だったらどうだというのだ!!」

 

ラウラが去勢を張り、戦闘体勢に入る。クロウも呼応するようにバンカーを構え、EAGLEを右手に展開するが、

 

「そこまでだ!!!」

 

千冬の怒号によって、その空気が壊される。いつの間にか、千冬はアリーナの出入口の所に立っていた。二人の方に歩きながら、話しかける。

 

「教官・・・」

 

「アリーナのシールドまで破壊されては、教師として黙認しかねる。この決着は一ヶ月後の学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

「・・教官がそうおっしゃるなら」

 

その言葉と共に、ラウラはISを解除する。

 

「ブルーストもそれでいいか?」

 

「・・はい。わかりました」

 

クロウもブラスタを解除する。千冬は手を叩いてアリーナの全生徒に通達する。

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁じる。解散!!」

 

~医務室~

 

あの後、箒が準備してくれたストレッチャーに二人を乗せ、医務室まで運んだ。幸いセシリアと鈴の怪我はISの絶対防御のおかげで、打撲程度ですんだようだった。今は二人とも並んでベッドに横になっており、その脇に一夏とクロウが椅子に座って様子を見ている。何故か二人は妙に機嫌が悪い。

 

「全く、お前らは無茶しやがって」

 

「ふんっ。前科がある奴にに言われたくないわよ」

 

「そうですわ、スフィアとかいう能力

ちから

で体をボロボロにしてしまうクロウさんに言われたくありませんわね」

 

「まあまあ、二人とも。怪我が少なくて良かったじゃないか。でもなんで戦っていたんだ?」

 

と一夏が当たり前の質問をする。クロウも同じような疑問を持っていたので、一夏に続いて聞いてみる。

 

「そうだな、何であんな殺し合い紛いの事をやっていたんだ?」

 

その言葉を聞くと、二人がいきなり慌て出す。

 

「そ、それはなんというか、その・・・」

 

「乙女のプライドを傷つけられたというか・・・」

 

二人はしどろもどろに話すがなぜか歯切れが悪い。そこに、飲み物を持ってきたシャルルが一言、

 

「二人とも好きな人にかっこ悪い所を見られたから恥ずかしいんだよね」

 

と爆弾発言をする。一夏はいつもどおりで意味が分からない、といった顔をしているが、クロウ達は、

 

「なななにをいっているのかぜんぜんわからないわね!!」

 

「べべべつにわたくしはそんなつもりはもうとうないですわ!!」

 

「(鈴の好きな奴ってのは一夏だろ?じゃあセシリアの好きな奴って誰だ?)」

 

と図星をつかれた、といった感じの二人を横目にクロウも鈍感スキルを発揮する。

 

「ふふっ。とりあえずはい、飲み物。二人とも少し落ち着いたら?」

 

と言いつつ、クロウたちに飲み物を配るシャルル。

 

「すまんな、シャルル」

 

「ううん、気にしないで、クロウ」

 

と飲み物が回った事により部屋が静かになる。しばらくするとおもむろにクロウが口を開く。

 

「なあ、二人とも。ラウラに何をされた?」

 

「えっ、何がって何?」

 

「いくら相手が軍人で強いとはいえ、二人がかりであそこまでやられるなんてどう考えてもおかしいだろう。何かあったと思うのが普通だ」

 

「・・・クロウさんの思っている通りですわ。ボーデヴィッヒさんのISにはAIC(アクティブイナーシャルキャンセラー)が搭載されていましたの」

 

AIC(アクティブイナーシャルキャンセラー)?何だそれは?」

 

とクロウが疑問を口にするとシャルルが解説してくれた。

 

「AIC、慣性停止結界とも言ってね、目標の動きを完全に止められるのが特徴だね」

 

「じゃあなんだ、それに捕まっちまうと、動けなくなるって事か?」

 

「そういう事になるね。人間だけじゃなくて弾丸やビームも止められるんだ。つまり一対一ならほぼ無敵なんだよ」

 

「その能力でやられてね、手も足も出なかったって訳よ」

 

やられている場面を思い出したのか、鈴は苦い顔をする。

 

「じゃあどうやって勝てばいいんだ?」

 

一夏は八方塞がり、といった表情をするがクロウは対照的に自信満々、といった顔で一夏に言う。

 

「なら、これからの特訓にそのAICとやらの対策も入れておこう。とりあえず来月の学年別トーナメントでは勝てる様に特訓してやる。戦い方はもう考えているしな」

 

「本当か!頼むぜ、クロウ!!俺も教えて欲しい事とかあるからさ!!」

 

そのまま五人が次の戦いに向けての会話を続けていると遠くから地響きが。

 

『ズドドドドドドドド!!!』

 

次の瞬間、医務室の扉が勢い良く開き、大勢の生徒がなだれ込む。

 

「なんだなんだ!?!?」

 

「「「織斑君!」」」

「「「デュノア君!!」」」

 

と女子生徒が我先にと、手に持った紙を一夏とシャルルに渡そうとしてくる。

 

「待て待て待て!!まず事情を説明しろ!!」

 

とクロウが兄貴分としての一言を放つ。それは千冬ほどではないものの、ある程度の強制力があり、集団は一時停止した。クロウは女子生徒の持っている紙を一枚受け取り、読み上げる。

 

「なになに?『来月の学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦を行うため、二人一組での参加とする。ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた者と組んでもらう』・・・そういうことか」

 

クロウ達はやっと得心がいった、という顔をして、互いの顔を見る。要するに二人一組のペアを作って参加しろ、という事だろう。こいつらは唯一の男であるクロウ達の所へ来た、という訳だ。まあ純粋に専用機持ちと組めば勝てる、という考えもあるのかもしれないが。

 

「「「だから私と組もう織斑君!!」」」

 

「「「私と組んでデュノア君!!」」」

 

「(シャルルはまずいんじゃないのか?)」

 

そう、まだここでシャルルが女と言う事実は知られてはいけないのだ。シャルルがどう出るのか、クロウが心配していると、シャルルが口を開く。

 

「ご、ごめんね、みんな。僕はクロウと組むから・・」

 

とその言葉を聞いた瞬間、全員の手が一夏の方を向き、

 

「「「「私と組んで!!」」」」

 

と大勢の生徒が騒ぎ出す。一夏は少し考えるが、顔を上げるとはっきりと言う。

 

「ごめん、俺は鈴と組むから諦めてくれ!!」

 

「えっ!わ、私!?」

 

名指しされた鈴はいきなりの指名に動揺を隠せない。その言葉を聞くと、女子生徒はそれぞれの愚痴をこぼしながら、医務室から出ていく。全員が出ていったところでクロウが口を開く。

 

「一夏、本気か?」

 

「ああ、クロウ。当たり前だろ?」

 

「ほ、本当なの一夏!嘘じゃないでしょうね!?」

 

鈴が信じられない、と言った様子で一夏に食ってかかる。

 

「あ、ああ。何でそんなに怒るんだ?俺なんかおかしい事言ったか??」

 

どうやら一夏には、鈴は怒っている、と見えるらしい。クロウは理解していたが。

 

「(馬鹿な奴だ。実際にはものすごく喜んでるって言うのによ・・)」

 

そこで今まで黙っていたセシリアがいきなり、ベッドから飛び起きてクロウに言い放つ。

 

「ク、クロウさん、クラスメイトとして私と組んで下さいません!?」

 

「残念ながら、オルコットさんはトーナメントには出場できません」

 

その時、タイミング良く山田 麻耶が入ってきた。片手には何かのレポートらしき物を持っている。その顔にはいつものほんわかとした雰囲気は無く、普段見せない教師としての顔だった。

 

「お二人のISの状態を確認しましたが、鳳さんのISはダメージレベルがB、オルコットさんはCを超えています。セシリアさんのISはとても試合が出来るコンディションじゃありません」

 

「そ、そんな・・・」

 

麻耶は報告だけして、部屋から出ていく。セシリアはこの世が終わった様な顔をしていた。

 

「おいおいセシリア、いくら何でもそこまで・・」

 

「クロウさんはあの事を知らないから!! 「セシリア、ストップ!!」 ・・・」

 

「?何なんだ??」

 

セシリアの言葉を鈴がいきなり遮る。クロウは訳が分からなかった。

 

「あはは、何でもないわよ、あはははは・・」

 

「??じゃあ俺たちは行くぞ。医者に聞いたら明日には授業に出られるそうだからな」

 

「じゃあな二人とも、明日にはクラスに来いよ」

 

「じゃ、じゃあお大事に・・」

 

そう言うと三人は医務室から出ていった。


 
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