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IS インフィニット・ストラトス ~転入生は女嫌い!?~ 第二十七話 ~家族の絆~

Granteedさん

第二十七話です。

2012-07-14 20:45:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:9190   閲覧ユーザー数:8762

「シャルロット、いきなりだけど戻って来ないかい?」

 

「え?」

 

カルロスにいきなり提案され、シャルルは意味がわからない、といった様だ。

 

「もう、エーデルもいない。刑に服しているからね。当分出てくる事はなさそうなんだ。つまり君はもう自由なんだ。だから、その・・」

 

カルロスは次の言葉を探しているかに様に、言いよどむ。

 

「そ、それって」

 

「家族として生活していこう、と言う意味だろう。それはともかく、カルロス。会社の方は大丈夫なのか?」

 

千冬が質問する。アクシオンの社会的信用は今や地に落ちている。デュノア社も全く関係ないとは言い切れなかった。

 

「ああ、それは大丈夫だよ。デュノア社とアクシオンの関係は今やほとんどないからね。影響もあまりないんだよ」

 

カルロスが軽く答える。その間にも、シャルルは先程の質問の回答を考えているようで、黙り込んでいた。

 

「ク、クロウはどう思う?」

 

シャルルは自分では答えは見つからないのか、クロウに助け舟を求める。対してクロウの返答は、

 

「お前自身はどうしたいんだ、シャルル」

 

至極そっけないものだった。

 

「え?」

 

「これからもそうやって、誰かに助けを求めるのか?違うだろ、お前はもう子供じゃないんだ。自分の事位は自分で決めろ」

 

「・・・」

 

「全く他人に頼るな、とは言わない。だが一番大切なのはお前自身がどうしたいか、だ。もう一度聞く、お前はどうしたいんだ?」

 

クロウに叱咤され、シャルルが口を開く。静かに、少しずつではあるが自分の思いを口にする。

 

「僕は、僕は、まだ、ここにいたい・・」

 

小さい声でありながらも、自分の意見を言うシャルル。それはクロウが初めて聞いたシャルルの心からの声であった。

 

「OKだ、シャルル。と言う訳だ、デュノアさん。これでいいな?」

 

カルロスは若干残念そうな顔をしつつも、その返答に不満は無い様で、最後の確認とばかりにシャルロットに質問する。

 

「・・ああ。シャルロット、まだそこでやりたい事があるのかい?」

 

「・・はい」

 

「じゃあ、僕から言うことは何もない。だけどせめて休暇ではこちらに帰ってきなさい」

 

「・・・はい!」

 

そう答えるシャルルの顔は喜びに満ち溢れていた。

 

「さて、俺は部屋に戻るぜ。じゃあな」

 

と言って会議室から出ていくクロウ。それにつられて千冬も、

 

「それでは私も失礼しよう。まだ二人で話すのだろう?ここは開けたままにしておく」

 

扉からでていってしまった。後に残ったのはシャルルとカルロスのみ。しばらく無言が続くと、唐突にカルロスが話しかける。

 

「一つ聞いていいかい?シャルロット」

 

「なんですか?」

 

「君がIS学園に残る理由、それはあのブルースト君にあるのかな?」

 

カルロスが意地の悪い顔をシャルルに向ける。

 

「えっ!そ、それは・・」

 

そういうとシャルルは顔を赤くしてうつむいてしまう。どうやら図星だった様で、カルロスは静かに笑い出す。

 

「はっはっは。いや何、僕の勘は当たったという訳かな?」

 

「も、もう。お父さんってば・・」

 

「だが彼は女嫌いの上に、ライバルがいるぞ?相手はあの織斑 千冬だ、どうする?」

 

「大丈夫。女嫌いは僕が治すし、織斑先生にも負けないよ!」

 

シャルロットはキラキラとした笑顔で言う。その口は、シャルルがIS学園に来て、初めて自分からやりたい事を雄弁に語っていた。

 

「ははっ、そうかそうか。私も応援しているよ」

 

会議室で笑いあう二人。その顔からは晴れやかな感情だけが見て取れる。それはお互いにとっての初めての親子の会話だった。

 

~廊下~

 

杖を突きながら部屋に戻るクロウ。その隣には、千冬がゆっくりとクロウのペースに合わせて歩いている。

 

「あれでよかったのか?」

 

「ん?何がだ?」

 

「あの二人だ。これからどうなると思う?」

 

「あの二人だったら問題はないだろう。これからは仲良くやっていくさ」

 

「そうだな、問題はないだろう」

 

そんな他愛のないことを話していると、正面から山田 麻耶の姿が。

 

「おう、山田。どうしたんだ?」

 

「あ、やっと見つけました、ブルーストさん。お知らせがあります」

 

「お知らせ?一体なんだ?」

 

「はい、今日から男子も週に二回、大浴場が使えるようになりました!」

 

「そうか、そいつはいいことだ」

 

麻耶はその答えに肩透かしを食らったようで、問い返してくる。

 

「あ、あれ?織斑君はもっと喜んでいたんですけど・・」

 

「悪いな、山田。一応喜んでいるから大丈夫だ」

 

「あ、あとデュノア君がどこにいるか知りませんか?教えてあげないと」

 

クロウと千冬はその瞬間、まずいと悟った。まだシャルルは会議室で話しているだろう、その邪魔をさせるわけにはいかない。

 

「あ、ああ、あいつには俺から言っておいてやるよ。あいつと同室だしな」

 

「そ、そろそろ職員室に戻りたまえ、山田先生」

 

と二人が麻耶を止めると、彼女は何の疑いもなく、その言葉に従った。

 

「そうですか?それではよろしくお願いしますね」

 

麻耶は最後にあいさつしていくと、その場を去った。そして二人はまた歩き出す。そしてクロウの部屋の前までつくとクロウが一言。

 

「なあ、千冬。お前どこまでついてくるつもりだ?」

 

「え?あ、ああ、お前のけがが心配だからな、看病でもしてやろうかと・・・」

 

「その心遣いはありがたいんだが・・」

 

クロウとしては千冬と一緒に部屋にいることがほかの人間に知られたら、非常にまずかった。ただでさえ、前にあらぬ噂が流れているのだ。まああの噂はあながち間違いではなかったが。二人が部屋の前で止まっていると、一夏の部屋のほうから声が聞こえてきた。

 

「来月の学年別トーナメントで、わ、私が優勝したら・・」

 

その方向をみると、一夏の部屋の前で、一夏と箒がなにやら話をしていた。

 

「つ、付き合ってもらう!!」

 

その言葉を言い終えるとともに、箒はクロウ達のいる方とは逆方向に立ち去ってしまう。

 

「若いねぇ~あの二人は」

 

「老人みたいな事を言うな。お前は今、15歳のガキだぞ?」

 

「まあ精神年齢だけは変わってないからな。それで、どうするんだ?」

 

「え、な、何を?」

 

「結局俺の部屋にまで、ついてくるのか?」

 

クロウにとっては当たり前の質問を千冬に投げかけると、千冬は不安げな顔を作り、逆に聞いてきた。

 

「め、迷惑、か・・?」

 

上目遣いで逆に聞いてくる千冬。さすがのクロウもそんな事をいわれてはさすがに無碍にはできないのか、しぶしぶと承諾した。

 

「あー、まあいいが、シャルルが帰って来るまでだぞ?」

 

そういうと、千冬の表情は180度変わり、うれしそうに聞き返してくる。

 

「本当か!?」

 

「あ、ああ。とにかく入れよ」

 

「う、うむ。それでは」

 

なぜか千冬はかしこまり、部屋に入る。クロウも後に続いて入っていった。

 

この後、シャルルが部屋に帰ってきて、一波乱あったのは、また別の話・・・

 

~夜・大浴場~

 

かぽ~ん。

 

そんな音が聞こえそうな大浴場。クロウはたった一人でその大浴場を使っており、久しぶりの風呂を堪能していた。

今までは部屋に備え付けのシャワーで我慢していたので、この処置は素直にありがたかった。

 

「こうして浸かっていると、前の世界の温泉を思い出すな・・」

 

そうやって物思いにふけっていると、出入口から物音が。

 

「(ん?一夏かな?)」

 

そんな事を考えていると、そこから出てきた人物はクロウが予想だにしなかった人物だった。

 

「お、おじゃまします・・」

 

「シャ、シャルル!?!?」

 

クロウは驚いたまま、シャルルを凝視してしまう。一糸纏わぬ姿か!?と思ったら正確には体にタオルを巻いており、ある程度体は隠していた。しかし肌が見えていることには変わりなく、クロウはパニックに陥る。

 

「何で!?さっき時間帯決めたよな!?お前は後に入るはず!?」

 

そう、先ほどシャルルが部屋に帰ってきた時に大浴場が使用できる旨を伝え、入る時間帯をふたりで決めた。それなのに何故。クロウはシャルルを直視することができず、逆方向を向いていた。

 

「あ、あのさクロウ。少し話したいことがあるんだけど・・」

 

「そ、それは部屋じゃだめなのかい!?」

 

クロウはパニックになりすぎて、口調まで変わってしまった。前の世界でもここまでの苦境はついぞお目にかかったこともない。

 

「うん、ここで今聞いてほしいんだ」

 

そういうとシャルルはクロウと背中合わせに湯船に浸かる。シャルルの真面目な声色にクロウも冷静になる。

 

「まずは、ありがとう」

 

「・・何がだ?」

 

「クロウの言葉で僕は一歩前に踏み出せた気がするんだ。お父さんとのことも、これからの事も」

 

「ああ、あの言葉か?あれはただ年長者としてアドバイスしただけだ。実際に決めたのはシャルル、お前だ」

 

「それでもだよ。あの言葉で僕は変われた気がする。だから、ありがとう」

 

「そんなに感謝されることじゃない。それで、話は終わりか?」

 

「ああ、あと一つあるんだけど・・」

 

シャルルが言いにくそうに口を閉ざす。そのうち決心したのか、再びしゃべりだした。

 

「あのね、クロウ。これから、二人きりの時だけでいいから“シャルロット”って呼んでくれないかな」

 

「・・お前の本当の名前か」

 

「うん、お母さんにもらった本当の僕の名前。呼んでくれる?」

 

「かまわないが、少し長いな・・。“シャル”でどうだ?」

 

「えっ!そ、そんな・・いいの?」

 

「そのセリフはむしろ俺が言うものだぜ?それでいいか、シャル?」

 

「う、うん!いい、すごくいい!!」

 

「そ、そこまで喜ぶのか・・」

 

シャルのはしゃぎように少し押されるクロウ。そこまで喜ばれるとは思っていなかったらしい。

 

「あ、あとね、聞いてもらっていいかな?」

 

「ん?何だ?」

 

「今回の事で僕も一つ決心してね、決めたんだ。学年別トーナメントが終わったら、あることをやるよ」

 

「そのあることってのは一体なんだ?」

 

「ふふっ、秘密。でもクロウに聞いてもらえば決心が揺るがないと思ってね」

 

「まあ、いいさ。お前がそれで納得するならな。ああそれと、今回の事は一夏達には秘密にしておいてくれ」

 

「いいけど、どうして?」

 

「あいつらにこんな裏社会の事は知らせるわけにはいかないし、余計な気苦労を掛ける必要もないからな。そういうのは俺だけで十分だ」

 

「クロウも少しは自分を大事にして欲しいんだけど・・わかったよ」

 

「ありがとな、シャル」

 

そこまで話すと、二人は静かになってしまった。そのうちクロウが耐え切れなくなったようで、腰にタオルを当て、外に出ていく。

 

「じゃ、じゃあなシャル!先に出るぜ!!」

 

シャルロットが止める間もなく、クロウは外へと出て行ってしまった。湯船にはシャルロットただ一人。

 

「ふふ、ありがとう、クロウ」

 

そういって湯船に体を沈める。次に口から出た言葉は誰に言うのでもなく、自分自身に言っているようだった。

 

「織斑先生には負けられないな・・」


 
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