~聖side~
寿春に滞在して早いもので一年経つ。この間にも漢王朝の滅亡のカウントダウンは止まらない。来るべきに備えて準備を整えなければ…。
場所は城門。
「じゃあ蓮音様、今までお世話になりました。」
「あぁ。別れは寂しいが、友の旅立ちだ。笑って見送ってやるさ。」
「ありがとうございます。僕らもその方が辛くなくていいです。」
「聖、元気でね!!」
「雪蓮も元気でな!!」
「お前たちが抜けた分、仕事が大変だな。」
「そんな事言わないでよ冥琳…。」
「ふっ、今さらこんなことを言ったところで、どうしようもないことくらい分かっているさ。」
「雪蓮と一緒に頑張ってよ。」
「そうだな。雪蓮にはしっかりと机仕事に励んでもらうとしよう。」
「えぇ~!? そういうのは冥琳の仕事でしょ!!」
「ただでさえ人手が足りないんだから、つべこべ言わずに働いて頂戴。」
「ぶぅ~。」
「ははっ、相変わらず仲が良さそうで何よりだよ。」
「徳種。またお主と一緒に調練が出来るのを楽しみにしてるぞ。」
「そうだね、祭さん。また遠当てで勝負しようか。」
「あぁ、次は負けんぞ。」
「期待してるね。」
「先生…。」
「橙里、ゴメンな。もう勉強教えれなくなっちゃって…。」
「いいえ、良いんです…。 …先生が決めたことならしょうがないのです。」
「また帰ってきたらその時に…な!!」
「…はいです。その時までしっかりと勉強しとくのです。」
「あぁ、その時には俺が色々と橙里から教わるよ。」
「ふふっ、しょうがないから教えてやるのです。」
「さて、じゃあね皆。帰ってきて、また会うそのときまで。」
「「「「御武運を…。」」」」
~橙里side~
先生たちは寿春を出て行きました…。
私は、その後姿をずっと眺めていました。
出来るなら、私も先生たちと一緒に行きたかったです。
でも私は呉の将…呉の王に忠誠を誓った身。
その私が国を捨てていいはずが無い。呉の将になった以上、呉の民が私の家族、呉の国が私の故郷なのだから…。
それに、先生とは、またいずれどこかで会える。
…確かにこの大陸を一周するとしたら数十年はかかるだろうが、でもそれだけ待てばまた会えるのだ…。
そう…私が我慢さえすれば……でも先生は、数十年経っても私のことを覚えていてくれるかな…。
「さて、皆帰ろうか。仕事はまだ残ってるし、しっかりやらないと、聖たちが帰って来た時に、見せれない様な国になるよ!!」
「「「はい!!」」」
そう言って城門から城へと帰っていく皆さん。
私はまだ、先生たちが去った方を眺めていました。
城門からの帰り道。そんな私に孫堅様は声をかけてくれました。
「良かったの?あなたはこれで。」
「…どういう意味ですか?」
「聖たちと一緒に行かなくて良かったのかって聞いてるのよ。」
「…。」
「まぁ、あなたが決めたことに、私はどうこういう気はないけど…。」
「…私は…。」
「んっ??」
「…私はもう呉の将です…。呉の将になった以上、呉の王に忠誠を誓うのは当然至極です。私にとっては呉の民が家族、呉の国が故郷なのです…。そんな私がこの国を抜け出すなんて…そんなこと、出来ません…です…。」
「…それはあなたの本心なのね…。」
「…。」
「呉の将としては、その回答は満点の回答ね…。国のことを第一に考え、国のために命をかける…。それが呉の将の心得…。」
「…はい…なのです。」
「…でもね…。時にはその考えを改めなおしてもいいと思うの…。」
「えっ!?」
「私は呉の将にこの考えを強要してきたわ…。でもね、私自身が一度だけそれを破ったの…。たった一度だけ国のことを二番目において第一に夫のことを考えた…。」
「そうなのですか…。」
「でも後悔はしてないわ。私は判断を間違ったと思って無いから。…だって、私だって女だし、それに子供たちにも恵まれて…幸せだったから。もし、あの決断をしなければ、今のような私ではいられなかったわ…。」
「……。」
「私はね、諸葛瑾。呉の民も呉の将も家族だと思ってるの。だからこそ、民も将も幸せであって欲しい。後悔やらなんやらはして欲しくないのよ…。」
「…孫堅様はそれで良いのですか?」
「なにが…?」
「文官が一人消えることになるかもしれないんですよ…。」
「ならば、私が人一倍頑張れば良いだけでしょ♪ ほんの少しのことで家族が一人幸せになるってことなら、やるしかないでしょ!!」
「…でも…。」
「よく聞いて!! 私としては、少しでも、聖と居たい気持ちを持ちながら、呉で仕事をされても迷惑なの!!」
「っ!!」
「それに…私はあなたを、正式に呉の将にしたことは無かったはずよ。」
「…そういえば…。」
「だから真名だって預けてないでしょ…。」
「……。」
「あなたは、今を持って自由の身よ…。やりたいようにすれば良いわ。」
「私の…やりたいように…。」
「あぁ~もうじれったい!! 聖たちと行きたいならさっさと行きなさい!!!」
「えっ!!」
「さもないと合流できなくなるわよ!!
「…はいなのです!!」
厩へと足を向ける。が、一旦立ち止まって孫堅様に向き直る。
「これまでありがとうございましたです…。これまでのご恩は忘れないのです…。」
「あれっ?? 私は何かしたっけな…。」
「ぐすっ…。失礼しますです孫堅s『蓮音よ』…えっ!?」
「同盟相手には、真名を預けることにしてるの♪」
「…ポロッ…ポロポロ…。ぐすっ、私は…橙里です…“蓮音様”。」
「えぇ、橙里。また会いましょう…。」
私は、蓮音様に更に一礼した後、部屋に向かい、準備をして厩に向かった。厩では蓮音様から話が通っていて、馬を一頭用意してくれていた。なにからなにまで、蓮音様に助けられてばかりなのです…。
「行っちゃったわね母様…。」
「そうね、行っちゃったわね…。」
「良かったのですか?蓮音様。わが国の将不足は、極めて深刻な問題なんですよ?」
「良いのよ…。恋する乙女を、無理やり引き止めるような悪代官なんて、私には似合わないもの…。」
「まるで昔の自分でも見てるよう…かの??」
「そうね…。 …ふぅ~、あの子に自分を重ねてたのかしらね…。」
――――――
私は馬に跨り、果て無き荒野を駆けていく。彼らが駆けて行った方角へ…。
しかし、彼らの姿は見当たらない。それどころか人影すらない…。
これでは情報も何も無い…。このままでは…。
すると、一理ほど先に、商隊と思しき一団が砂塵を上げながら、移動しているのが見える。あの人たちに聞けば何か分かるかもしれない…。
「すいませんです。実は、人を探してるんですが、三人組みで、馬に乗った人たちを見かけなかったでしょうか?」
私はその人たちを、商人だと決め付けて無警戒で話しかけた。本当のこの人たちを知らずに…。
「三人組…?? はて~見たかな~…。」
そう言いながら、男たちは、私を嘗め回すように、上から下へと視線を移し、ひそひそと話し合っている。
「そうですか…。分かりました、ありがとうなのです。」
「あっ!!あいつらかな??そういえばこの先の村で見た気がするぞ。」
「本当ですか!?その人たちは赤い馬、白い馬、黒い馬に乗っていましたか?」
「あぁ。そんな感じの馬に乗ってた気がするぜ。」
「じゃあ、その村に案内してもらえますか!!?」
「あぁ、勿論だとも(ニヤッ)」
私は、その男たちと一緒に先の村に行きました。
村の入り口が見えると、私はいてもたってもいられなくなって、馬で先行しました。
村に一歩入れば、そこには、無残な死体が多く転がる、まさに地獄絵図。
女は服を剥ぎ取られ、強姦され、男たちは一刀の下、切り伏せられて絶命…。子供にいたっては、多くが黒く焦げていて一塊になっている。
「こっ…これは…一体…。」
「へへへっ。そいつらは俺たちがやったのさ。」
「!!!!」
「俺たちは黄巾賊。村を襲い、女を嬲り、金品・食料を奪って村に火をつける!! それが正義!! それが俺たちだ!!」
「…ギリッ…下郎が…。」
「へっ、ねーちゃん諦めな。すでにあんたは篭の中の鳥。逃げられはしないんだよ。」
見ると、私を囲むように男たちが迫ってくる。
嫌だ!! 助けて!! …お願い、傍に居てくれるんですよね!?
「先生!!!助けて~~!!」
「へっ、誰だかしらねぇが、そんな奴来ねぇよ!!」
「先生!!! 私を一人にしないで!!!」
怖い、怖い怖い!! 体の震えが止まらない…。
でも心は、来るはずのない彼を思い、不思議と暖かい…。あぁ~こんなにも私は彼のことが好きなんだ…。
穢れた私でも…あなたは愛してくれますか…??
「…ば~か。言ったろ? 一人じゃない!! 仲間が必ず傍に居てくれるって!!」
「「「「「何!!! 誰だ!!!!!!」」」」」
その声は、聞きたかったその声。その顔は、見たくて仕方なかったその顔。
心に思い浮かべていた、その人の存在が確かにわかる…。
「さてお前ら!! 俺の仲間に手を出すとはいい度胸してるじゃねぇか!! 更にはこの村の人たちに…。お前らは生かしておく価値も無い!!! 死して尚その罪を償わせてやる!!!」
彼は…先生はそう言うと、刀を片手に突っ込んで来ました。
普通、人というのは、その身に持つ力によって物体を動かすものですが、眼前には、ありえない光景が浮かんでいました。
「人が…宙を舞ってるのです…。」
「おらおら!! 邪魔立てする奴は容赦しないぜ!!!」
「ぎゃあああ!!!」
「ひっひぃいいい~…。」
「化け物だ…。」
先生は単騎で、私の周りに居る賊を切り伏せていきます。
その姿は、まさに修羅の如く。しかし、それでいて繊細で流麗。まるで、劇での一節でも見ているかのようでした。
賊はその姿を見て、蜘蛛の子を散らすように逃げていきます。まぁ、それが得策でしょうね…。
「ふぅ、とりあえず片付いたかな…。」
「先生!! 先生!!!」
「おっと!!!」
私は、先生の胸に飛び込みました。
その胸は大きくて男らしくて…。私を暖かい気持ちにしてくれる…。
「大丈夫だったかい、橙里。」
「はい…おかげさまで大丈夫です…。」
「それにしても、こんなところで一人でどうした? こんなところは一人で来るところじゃないぞ。」
「そっ…それは…。」
「はぁ~…。 聖様それ本気で言ってます??」
後ろから、遅れて馬で駆けつけた、徐庶さんと凌統さんがやってきました。
「ん?? それはどういうことだ、芽衣?」
「普通、こんなところまで、武に自信の無い娘が、一人で来ないってことだよ。“何かしら”の訳があるんだろうね。」
「そうなのか??」
「そっ…その…実は…。」
なかなか切り出せない。
だって…もし断られたら…もう、一生立ち直れないような気がするから…。
「早く帰らないと、日暮れまでに寿春に帰れないぞ。蓮音様に迷惑かけたら悪いだろ。」
「…実は、蓮音様の所を辞めさせられました。」
「何でまた!!」
「私は客将でしかないですから…。」
「そんな…。あれだけ良くしてくれたのに。」
「良いんです。確かに正式に呉の将にしてもらったわけでは無かったですし…。」
「でもそんn『それに。』…。」
「私には…お仕えしたい人が新たに出来ましたから…。」
「それは一体d」
「はぁ~~~…。ひ・じ・り・さ・ま!! 確か、聖様は前に、内政が忙しいって言ってましたよね!? そうですよね!?」
「あぁ、確かに。今は、俺と芽衣の二人だけだからな…。」
「それじゃあ、“誰か”内政の出来て、しかも無所属で、私たちと面識のある人が居てくれたら、是非とも仲間に加えますよね!?」
徐庶さんが、私に目配せをする。私は意図を理解して決心する。
「先生!!! 私を配下に置いて欲しいのです!! 私は…あなたの下で働きたいのです!!!」
先生は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしました。
しばらくそんな状態が続いた後、真剣な面持ちで口を開き。
「…駄目だ…。」
「「「えっ…。」」」
帰ってきた返事は、拒否…。
覚悟はしてましたけど…でも…悲しい…。溢れてくる涙が止まらない…。
「わがりましだ…。ぐすっ…。」
「聖様!!! 一体どうして!!!」
「そうだよ、お頭!!! 何で一緒に行っちゃ駄目なんだよ!!!」
「えっ!!! いやいやっ、俺は一緒に行くのを駄目とは言ってないぞ!!」
「「「はっ…??」」」
「あくまで、俺たちは仲間なんだ。そこにある主従の関係は形だけ…。だから俺の“配下”には出来ないよ。ただし“仲間”としてなら…大歓迎だ!!! ちょっとややこしかったかな…。」
「ぐすっ…ポロポロ…。」
「まったく…聖様は…。」
「まぁ、お頭らしいっちゃ、お頭らしいか…。」
「さて、橙里。君にとっては、これからの旅は過酷なものになるかもしれない…。もしかすると、俺たちと居たら今以上に不幸になるかもしれない…。それでも…俺たちと一緒に来るかい??」
「はいです!!! 私の人生をあなたに捧げるのです。」
「じゃあ橙里、これからもよろしくね。」
「はいです!!!」
私の顔は自然に笑顔になっていた。だって…願いが叶って嬉しいのだから…。
私はその後、芽衣と奏と真名を交換した。
二人は、「橙里も直ぐに当番表入りかしら(かな)…。」と言っていて、何のことか聞いてみたら。
…そそっ…そんなこと…。で…でも、先生なら…良いかな…??
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どうも、作者のkikkomanです。
これにて、第二章終幕です。
第二章ではまた色々ありましたね…。勿論第三章でも色々ありますからお楽しみに。
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