千冬(織斑にそう呼べと言われた)の苛めが無くなり、2年が経ち幼稚園児から小学生になった。
あの一件以来、千冬に対する苛めは見なくなった。そして、土日は柳韻さんから剣道を習うようになった。なんでも、あの時の俺を見て強くなりたい、と思ったのだと。俺には才能が無いんだがな…それで、俺に追いつきたいのか、月に一度俺と剣道の模擬戦を行なってる。正直、千冬の才能がはんぱ無い。いくら俺が才能無いからって、まさか同い年の子に剣道で少し苦戦するとは思わなかった…
「さて、これで完成だ!」
俺が何をしてるのか?ただ、朝ご飯を作ってただけだ。
本当なら、春香さんの役目なんだが…春香さんは、数週間前から病院にいる。別に病気や怪我をした訳じゃない。春香さんのお腹の中には、赤ん坊がいる。俺と束の弟、もしくは妹が産まれそうなんだ。
そんな中、柳韻さんと束は料理が作れないので、俺が作ることになっている。
そう言えば、早ければ今日には産まれるって言っていたな。
束は、ずっと楽しみにしてたが、俺も楽しみだ。
そうそう、束と言えば、アイツは俺の料理をちゃんと食べてくれている。
初めて食べるとき何て、嫌々食べてたのに食たときは笑顔でなってくれてる。初めて食べたとき、口にした瞬間に笑顔になってたのが印象的だったな。
しかも、「…ご飯に罪は無いから」なんて言いながら頬を赤くしてそっぽ向いて食べてたのは、可愛かったな。
千冬にも何度か作ったことはあったな。一口食べただけで、笑顔になってくれたのが嬉しかったな。そういえば「私も頑張らなきゃ」なんて言ってたけど何のことだ?
---ガチャ
「お?今日もおいしそうだね、士郎君」
「父さん。ああ、今日のも自信作だよ」
「はは、春香も可哀そうだな。士郎君のご飯を食べれないなんてな」
「大丈夫だよ、父さん。母さんが元気になった後も、作るつもりだから」
「それなら、春香も安心だよ。あんなに悔しがってる春香を見るのは、始めてだったからな」
確かに、初めて作ったときは春香さんが食べれなくて悔しがってたからな。
---ガチャ
次に入ってきたのは、何時も通り不機嫌な顔をしてる束だ。
何故だろう、最近は束の足取りが今までよりも軽くなってる気もする。
「「おはよう、束」」
「………おはよう」
束も席に着き、今はいない春香さんを除いた篠ノ之家が揃ったことだし、食べるとするか。
「「いただきます」」
「………いただきます」
束もちゃんと俺が注意しなくても、「いただきます」を言うようになった。
俺からすれば、嬉しい限りだ。ちゃんと、食材への感謝を忘れずにいてくれてるしな。
今日の朝食は、自作の食パンをスクランブルエッグにサラダという簡単なメニューだ。さすがに、朝からがっつりした物は、料理人として食べさせる訳には行かないからな。
さて、俺も朝食を食べるとするか。
*****
「「「ごちそうさま」」」
あれから、30分経ち俺たちは朝食を食べ終わった。
「今日もおいしかったよ、士郎君。これで一日、頑張れるよ!」
「ありがとう、父さん。束はどうだった?」
「………べ、別においしくなんてなかった」
などと、束はそっぽ向きながら言ってるが終始笑顔で食べてたから別に評価を聞くまでじゃなかった。
やれやれ、束も素直じゃないな。
「それじゃ、父さん。俺たちは、小学校に行ってくるよ」
「ああ、いってらっしゃい」
「…いってきます」
*****
「ただいま」
あれから数日たった。春香さんは、結局あの日の内に出産し、女の子が産まれた。
そして、今日妹の|箒(ほうき)を連れて帰ってくる予定だが、俺は今日は忙しかった。緊急で生徒会のほうや先生方から修理する必要がある物を直してから、家へ帰宅する嵌めになったんだ。生徒会に所属してる俺の友達の|柳洞一成(りゅうどういっせい)が申し訳なさそうにしてたな。
ってあれ、何か家の中が騒がしいな?
(春香さん達が帰ってきたのか?)と思いながら、声がする居間の扉を開いた。
---ガチャ
「ほーきちゃ~~~~ん♪」
---ガチャ
扉を閉めた。
何と言うか、色々といいたい事があった。束が、いつものローテンションと違いかなりのハイテンションだった。そう言えば、束の相手をしてた千冬が時々疲れたような表情をしてたのはこれが原因なのか?
そして、柳韻さんに春香さんはそれを笑顔で見つめてたし…なんと言うか、また一段と篠ノ之家が賑やかになりそうだな。
*****
箒が生まれ、春香さんと共に篠ノ之家に来てから一週間が経った。
あれからも、束の箒への熱は冷めることを知らなかった。千冬が、「今まで以上に騒々しくなった…」って愚痴っていた…すまん、千冬。今度俺が、何かデザートを作ってやるよ。
家族の仲で、一番箒の面倒を見てるのが束だ。次に、春香さんで柳韻さん、そして俺の順番だ。
ちなみに、俺が一番面倒を見てない理由は束にある。
俺が、箒の面倒を見ようとすると決まって邪魔してくる。…まったく、なんでさ?
そんなこんなで、篠ノ之家は予想通りに今まで以上に賑やかになっていた。俺は、この家族を守って行かなきゃな。
「士郎さん!!」
放課後の、それも殆どの生徒が帰っていったグランドに切羽詰った声が響いた。
いきなりの事で、急いで声のほうに振り向くと、そこには息を荒げている千冬がいた。
「千冬?いったい、どうしたんだ?」
「束が…束が!」
「束が何かしたのか?いったん、落ち着けって」
「落ち着けません!束が、大変なんです!」
千冬の焦りようから、束がかなり危険な事になっているがわかった。
千冬は、普段はクールな分あまり驚いたり、焦ったりはしない。その千冬が、これほど焦ってるからな。
「束が、誘拐されたんです!!」
それは、俺が予想していた以上の最悪な現実だった。
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第3話「日常。そして…」