No.450393 恋姫外伝~修羅と恋姫たち 八の刻南斗星さん 2012-07-10 14:53:41 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:4526 閲覧ユーザー数:4220 |
【八の刻 常山の龍】
疾風が紫苑達と出会ってから十日余り立っていたが、疾風は今だ長沙に留まっていた。
璃々を助けた礼をされた後、疾風に特に行く当てがある訳でないと知った紫苑に、暫く当家に留まる様進められそれを受けて客分のような形で世話になっていたのである。
まあ正確には疾風と別れることを渋った璃々に泣き付かれた為という事情があったが…。
どうやら疾風も泣く子には少々弱いようであった。
さて、そんな昼下がり特にすることもなく暇を持余していた疾風は、仕事で出ている紫苑に代わり璃々の面倒を買って出ていた。
面倒を見るというよりも、璃々と共に遊び歩くといった方が正確だが。
その日も璃々と仲良く街中を出歩いていたのだが、疾風にとってこの街は中々興味を引かれるようだった。この大陸に流れ着いてからという物これほど大きな街に来たのは初めてのことだった。
無論中央と比較するまでもないのだが、それでも疾風にとっては目新しい発見があり何かを見つけては璃々に嬉々として聞いて回るのだった。
そんな疾風に璃々が楽しそうに説明していく、その様はまるで仲の良い兄弟のようだった。
ただし兄と妹の立場が逆だったが…。
しばらく街中を散策してたニ人だが、小腹が空いたと疾風が璃々を茶店にと誘った。
程なくして仲良く茶店に腰掛けたニ人だったが、一瞬疾風が面白い物でも見かけたような視線を店の奥へと送った。その視線の先には三人の女性客らしき者たちがいるだけだったが…。
「…む!」
一方視線の先では三人の女性がこの店の自慢の胡麻団子をいただいていたが、そのうちの一人、白い浴衣のような物を着た武人らしき女性がなにやら声を漏らしていた。
「どうしたのですか星ちゃん?」
そんな女性を不審に思ったか、隣に座った金髪で頭に奇妙なオブジェを乗せた小柄な女の子が声をかける。
「いや何、今一瞬強い視線のようなものを感じたのだが…。」
気のせいだったかと茶を啜る女性に、先程の女の子が冷やかし混じりに言う。
「おやおや星ちゃんも隅に置けませんね。どこぞの男性に懸想でもされましたか~。」
すると星と呼ばれた女性は肩を竦める様にしながら、
「それだったら女として満更でもないのだがな」
冗談のように返しながら胡麻団子を口に放り込んだ。
「とすると武人としての勘というやつですか?」
もう一人のニ人の対極に座った眼鏡をかけた冷静そうな女性が問いかける。
「ふむ、まあそうだが私の気のせいだったかも知れん…。さほど気にすることもあるまい。」
もう一度茶を啜りながら星は殊更気にしてないと答える。
「さてそろそろ出るとしようか。」
団子を食べ終わり茶の最後の一口を飲んでから星はニ人に告げた。
ニ人も頷き席を立とうとした時、店先でなにやら騒動が起きたようだった。
「お客様、後生ですからご無体はお止めくださりませ。」
「うるせい引っ込んでろ爺!この俺様にこんな不味いもん食わせやがって」
「やめてお爺ちゃんに乱暴しないで!?」
「やかましいぞこの小娘、兄貴に逆らうのか!!」
騒ぎの方を見れば、店主らしきご老人を五人もの男達が囲んで狼藉を働こうとしてるようだ。
「まったく何処にでもこういう馬鹿どもがいるもんだな」
せっかくうまい茶と団子で至福の時間とすごしたというに、これでは台無しではないかと星は眉を顰める。
「てめえ、この落とし前はどうつけるつもりなんだ?ああん」
「兄貴、この小娘に責任をとって貰いやしょうや」
下卑た笑みを浮かべ、嫌がる娘を引き寄せる男達。
「いやあ、放して…た、助けてお、お爺ちゃん!!」
「うるせい!!静かにしろ」
パアン
「止めてくだせい、孫娘にだけは手を出さねえでくだせい。」
嫌がる娘に手を挙げる男達。
「もはや黙って見ておれぬな」
怒りを露にしながら、自分の武器であろう槍を手にする星。
「星ちゃん殺しちゃ駄目ですよ~。」
するととオブジェを乗せた金髪の子が事も無げに言う。
相手は大の大人が五人もいるというに、止めるどころか相手の心配をする始末だ。
見れば眼鏡の娘も心配など無用とばかりに見守っている。
「判っている半殺しにしとくさ。」
にやりと口元を歪め星は一歩踏み出そうとしたが、それより早く他の客の連れらしき小さな女の子が男達の前に立ちふさがった。
「おじちゃんたち悪いことしたら、め~だよ!!」
星は勇気ある子供だと歓心しかけたが、男の一人が腰の刀に手をあてるのを見てまずい!と思い駆けつけようとした。
「引っ込んでろ糞餓鬼!!」
しかし振り下ろされた刀を止めたのは、星の槍ではなく女の子の連れらしい男の手だった。
「て、手前、何しやがる放しやがれ!」
疾風に手を掴まれた小悪党は、威勢よく反対の手で殴りかかったが掴まれた手を疾風が軽く捻ると体が一瞬にして宙に浮き、次の瞬間地面に叩きつけられていた。
「野郎なにしやがる!!」
疾風に仲間をやられた男たちは怒気をあらわにし、武器を抜き次々襲い掛かって行った。
だが、怒り任せに振るわれた武器が疾風に掠ることもなく、全員が軽くのされていく。
最後の一人が打ちのめされたあと、疾風は店主のところに近づき
「大丈夫かおっちゃん?」
と声をかけた。
「ええ、大丈夫でございます。危ないとこをお助けいただいて…「野郎!!」…ひい」
と店主のお礼を遮って小悪党一人が立ち上がり再び襲い掛かってくる。
だが疾風は振り向きもせず男の武器を掴むと、男の顔を覗き込み
「金払って失せな」
と短く言った。
その言葉に男たちは威圧されたかのように顔を青くし、我先にと金を置いて逃げ出していった。
その金を拾って店主に渡したあと、自分の懐からも代金を払って璃々の手を引き出て行く疾風。
すると一人の女性が疾風たちに近づいてきた。
「見事な腕前ですな、貴殿宜しければお名前を伺えませんかな?」
疾風が振り返るとそこには、白銀に輝く槍を持ち口元に挑発的な笑みを浮かべた女性がこちらを興味深げに眺めていた。
「申し遅れましたが、某は姓を趙、名を雲、字を子龍と申す。」
とその女性は高らかに名乗った。
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