No.449827

超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 第27話

ME-GAさん

27話です。最近スランプ脱し気味です。

2012-07-09 17:13:11 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1332   閲覧ユーザー数:1286

その者達は、幻の日常を愉しんでいた。

鏡に映る幻想に身を委ねながら、広がる虚無の繋がりを信じ、互いを思い、生きていく。

その繋がりはより深きモノへと変貌していく。

決して解かれることのないと思われた、深い深い絆へ――

 

 

 

「テーラ♪」

割と大きめの天蓋の付いたベッドの上で未だ眠りの世界に落ちていたテラの名を呼びながらご機嫌な様子でネプテューヌはその上にのし掛かった。

「ぐぇっ」

テラは驚きと衝撃のあまり蟇蛙が潰されたときのような声を上げた。

あるいはテラ自身が蟇蛙である可能性がないわけでもない。

数分、衝撃で悶えていたテラが億劫そうに上体を起こして寝癖の残る頭を押さえながら寝惚け眼でネプテューヌを凝視する。

「ネプ……?」

「うんっ♪」

名付けておいて何だが、テラはネプテューヌのことを『ネプ』と呼称する。

大して気にした感じもなく、寧ろ嬉しそうにネプテューヌは返事をする。

「おはよう……」

「おはよー」

テラは目をしょぼしょぼとさせて寝起き声で挨拶した。

ごしごしと目元を擦って小さく欠伸を起こしてからテラはもぞもぞとベッドの端に寄る。

しかし、ネプテューヌはそれを留めてテラをベッドの中央に押し戻す。

「ネプ……?」

「もうちょっと寝てようよー」

寝起きで力の入らないテラ諸共ベッドにダイブする勢いでネプテューヌは押し倒す。

テラはもう一度「ぐぇっ」とか驚きと衝撃のあまり蟇蛙が潰されたときのような声を上げた。

あるいはテラ自身が蟇蛙である可能性がないわけでもない。

まあいいか……と寝起きで働かない頭でテラは思い、ふっと目を閉じる。

 

 

しかし――

「起きろ――ッ!!」

額に怒りマークを浮かべて入り口のドアをけたたましく開くノワールがそう叫んだ。

だが、そんなコトにも屈しない鋼の意志を持つネプテューヌは意地でも眠っている。

「起きなさい! 朝食よ!」

ネプテューヌの寝間着の首根っこを掴んでノワールは大声で怒鳴る。

テラは小さく呻きながらもぞもぞとベッドの端から降り立ち、ぐいっと伸びをしてほうと息を吐く。

「おはよう……」

「おはよ。それより早く身だしなみ整えなさいよ。だらしないわよ?」

ノワールにそう言われてテラは鏡をのぞき込む。

「別におかしくないと思うけど」

「もう!」

ノワールはネプテューヌをたたき起こしてそれからテラに歩み寄り、鏡の前の椅子に座らせる。

ボサボサになった髪をとき、いつものようにテラの髪型を作り上げる。

「ありがと」

「別にいいわよ、これくらい」

ノワールは櫛を置いてテラに着替えを押しつけてネプテューヌを引き連れて早々に退室していった。

ぽつんと残されたテラは兎にも角にもと思い、ノワールが押しつけた着替えに手を伸ばした――。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「おはよう」

テラは食堂の扉に手を掛けてそれを押し、顔を覗かせて声を上げる。

既に集合していた他の者はテラを見つけて口々に挨拶する。

「おはようございます」

「……おはよう」

「おはようございます。ゆっくり眠れましたか?」

「うん」

テラはアプリコの問いにそう答えて自分の指定席に腰を下ろす。

ベールが用意してくれたモーニングティーを喉に通しながら軽く食堂内を見回す。

 

今までの自分の中になかった光景。

ここ数日経っても、未だに違和感を感じる状況。

それでも、何処か心地よい雰囲気。

 

そんな感じに身を委ねながら、目の前に置かれた朝食に手をつける。

口の中に広がる甘い風味がそんな思考をより強めた。

口の中でそれを噛み砕いていくと共に、思考の中に落ちていくテラの口の端に付いたソースを拭い取ってくれるベールや食事をする一同に視線を向けながらテラは思った。

 

――自分がずっと求めていたモノだ、と。

 

ゆったりとした雰囲気の中に、戦いとは縁遠いような安穏とした空気。

時折、心配になってしまうほどに気を抜いてしまいそうになる。

それでも、嬉しかったのだ。

 

 

「ごちそうさま」

手を合わせてそう告げる。

目の前の空になった食器を重ねて洗い場へと送る。

「……ごちそうさま」

ブランもちょうど食べ終わったようで、小柄な体躯にしては危なっかしいように食器を持ってこちらに向かってくる。

見かねたテラは彼女に声を掛ける。

「大丈夫? 持とうか?」

「だい、じょうぶ……!」

とは言うものの、ヨロヨロと蛇行歩行で見るからに危なっかしい。

見ていられなくなり、テラは半ば無理矢理に彼女の手の内から食器を受け取った。

「割れたりしたら怪我するし、俺が持つよ」

ニコッと微笑をブランに向ける。

一瞬だけ表情を紅くさせて、ブランは顔を背ける。

「……ありがと」

小さく、鈴のような声で彼女は告げた。

彼女は机上に置きっぱなしにしてあったハードカバーを抱いて、足早にその場を去ろうとした。

「何処か行くのか?」

「……書庫」

テラの問いに、ブランはまたしても小さな声で答えた。

ここ数日でだいぶ屋敷の内部も分かってきたのだが、書庫は足を踏み入れたコトのない場所であったためにテラは少し興味を惹かれた。

「俺も行っていい?」

「……うん」

顔を背けながら、ブランは了承した。

 

 *

 

窓の近くの日当たりのよい位置に配置されている椅子に腰掛けて幾つか運んできた本をテーブルに積み上げた。

ブランの方はまだ本を選んでいるのかと、何気なくテラは彼女の元に視線を向けた。

やはり、というか案の定、というか彼女の体格に見合わぬ量の本を抱えながら、よろよろとこちらに向かって歩いてきている。

テラは小さく溜息を吐いて、彼女の元に歩み寄りその手の内から本を抜き取った。

「危ないから。何かあるなら俺に言えよな」

「……だって」

「だって、も何もないだろ? 持ちつ持たれつだろ」

この場合は本当に持っているのだが、といったどうでもいいことは言わないでおく。

ブランは顔を俯かせて、きゅっと口をつぐんだ。

ばさばさと少し荒く、数冊の本をテーブルに積み上げる。

ブランはよいしょ、とその身体を椅子の上に持ち上げて、積まれている本の上の方から一冊抜き取り、黙々とページを捲っていく。

そんな彼女を暫く見つめた後、奇異の視線を送られて仕方なくテラも取ってきた本に視線を移した。

 

 

「ん、結構読み込んじゃったな」

テラは窓から覗く夕焼けにそんなことを漏らす。

先程まで昼食を食べていたばかりなのに……とテラは思い、積んであった本を抱えて元の位置に戻していく。

ブランも読み終わったのか、本を脇に抱えてヨロヨロと位置へ戻している。

小分けにして持っていくつもりだったか、机の上に置かれていた残り数冊の本を抱えてテラは元の位置に本を戻していく。

「そろそろ夕飯だろうし、戻るか」

「うん……」

ブランは小さく返事をして、きゅっとテラの左手を握った。

「?」

「……ダメ?」

上目遣いでブランは彼の顔を覗く。

柔らかな笑みを浮かべてテラはブランに返答する。

「ん、いいよ。気にしてないから」

「……うん」

ブランは視線を前に戻してテラに引きつられるようにして書庫を後にした……。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

『いただきます』

「どうぞ、召し上がってください」

アプリコの言葉で一行は箸をとる。

今晩のメニュー、和食。

黙々と繰り広げられる食卓にテラは少し寂しい気持ちが起きないでもない。

(も少し会話とかあってもな……)

しかしながら、その場を盛り上げられるような会話の内容をテラが持ち合わせているわけでもなく、そうして刻々と時間は過ぎていくのである。

気まずい時間の中で、テラはぱくりと白飯を頬張る。

「はぁー……お腹いっぱい……♪」

ネプテューヌはいち早く食べ終わったらしく、だらしなく腰をもたれ掛からせて腹をさすって満足そうな表情を浮かべる。

テラはチラッと彼女を見てぼそっと呟いた。

「米粒ついてる」

「ぇえ、どこ?」

ネプテューヌはぺたぺたと口の周りを触りまくるがものの見事に的を外しまくっている。

見かねたテラはネプテューヌの頬に手を当てて米粒を取っていく。

「おっけー」

「ありがとー」

テラは椅子に座り直して取った米粒を口の中に放り込む。

「……間接キス」

「ぶっは!」

ブランの言葉にテラは吹き出す。

「ちょ……きたなっ……!」

「ゴメン」

被害にあったノワールはゲシゲシとテラに攻撃を浴びせる。

「そもそも間接キスって何?」

ネプテューヌはこくんと首を傾げる。

 

「「「……知らない」」」

 

何故テラまでそう答えたのかは謎だが。

ブランは懐から一冊の本を取り出す。

「間接キス、一般に直接ではなく、間接的に唇が重なること……。リコーダーやスプーンなどが一般的……」

「……???」

果たしてその説明で分かるのか、そもそもこれはいったい何の講義なのかとノワールは疑問に思ったが敢えて質問しなかった。

アプリコは傍らで何とも言えない苦笑を浮かべていたが。

 

 *

 

『ご馳走様』

「はい、お粗末様でした」

食事を終えて、各々部屋を出て行く。

別段、何かするわけでもないがとりあえず動いておかないと落ち着かない年頃なのである。

何か鮫みたいだな。

そんなコトはさておき、テラは何気なしに屋敷内を闊歩していた。

食後の軽めの運動ということでウォーキングでも、ということである。

「ふぅ……」

最近は暑くなってきたな、とでも言いたげな表情でテラは汗を拭う。

ここは次元の狭間、もっとも世界を映し、基準となる世界。

四季が訪れるのは当然のことでもあったらしい。

「そろそろ別の服でも欲しいかな……」

テラは忌々しそうに自分の着用している長袖の黒いシャツを睨んだ。

再度額ににじんだ汗を袖で拭い、汗でも流そうと入浴を思い、自室に着替えを取りに足を向けた。

 

 

「♪~♪♪~~♪」

テラはタオルと着替えを抱えて浴場に向かっていた。

入浴は不思議と気分を落ち着かせてくれるのでテラは嫌いじゃなかった。

だからこそ、こうして鼻歌交じりに上機嫌なのであるが。

「♪~……って、ノワ?」

「あら、テラ。テラもお風呂?」

「そうだけど、ってノワが入るの?」

「いや、私だけじゃなくて一応みんな入るけど」

ノワールは背後に視線を向けてテラに苦笑を見せた。

テラは一瞬だけ悩んだような表情を映してくるりと踵を帰した。

「じゃ、じゃあ……俺は後で入るわ」

「あ、テラだぁ。お風呂?」

「……ぐっどたいみんぐ」

「テラ、一緒にお風呂行かない?」

しかし、幼さ故か全く羞恥心を持ち合わせていない彼女たちは事も無げにテラにそう投げかける。

一瞬で顔を紅潮させるテラを余所目にネプテューヌはグイと彼の腕を引っ張った。

「さ、行こう行こう!」

「んなっ!? ちょ、俺は行かな――!!」

しかし、そんな彼の抵抗虚しく、連行されていくのである……。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「テラの髪はさらさらで綺麗ね」

「っ~~~~!」

テラは変わらずに顔面を、いやより一層紅くさせて俯き加減を更に大きくさせていた。

そんな彼に気付かないベールは彼の濡れた髪をタオルで拭っていた。

「はふ~~……気持ちよかったぁ」

ネプテューヌは漫画みたいに牛乳を一気飲みしてプハァと一息ついたがテラにはそれどころではなかった。

異性、それどころか他人に対して免疫のないテラにとってこの体験は非常に刺激の強いというか、とにかくそんな感じなのである。

「……またみんなで入る」

「っ!」

「アハハ……」

無神経にそう発言するブランとそれに更に動揺を走らせるテラに、何となくテラの事情を理解できるノワールは苦笑を漏らした。

 

 

 

こうした何気ない日常は、その中に身を置いている間にはその幸せに気付かない。

すべては鏡に映る虚無が作りし幻想。

それをあたかも現実のように身を委ねて嘘の幸せの中に微睡んでいた少年はそんな日常の中で息づいていた。

それでも、徐々に心を開いていく。

虚偽の絆は確かなものへ、嘘の絆は本当のものへと

 

 

 

――変わっていくように思えた。

 

 

 

 

幻の絆へと変わりゆくと思われた思いは、やがて解かれぬ完全な繋がりへと変貌する。

憧れ、望み、そういったものであったかもしれない。

それでも、彼らはそれを受け入れた。

受け入れたことによって……彼に何をもたらしたのか。

誰も、知らない――。

 

 

 

日柄の良い、雲一つ無い晴天の元にその屋敷は変わった姿を見せることなく、いつものように厳格な雰囲気を漂わせて聳えていた。

いつ、誰が、なんて疑問を浮かばせるほどに手入れの施された青々とした芝が茂るその庭園は何者に侵されることのない神秘の領域とも思わせる――と思いきや、それを躊躇いもなく踏みしめる少女がいた。

「へいへいゴー♪」

――ネプテューヌである。

極めて摩訶不思議な掛け声と共にずかずかと無遠慮に芝を蹴り上げて何処そこに走り回っている。

それを追いかけるノワールと、そんな二人を木陰で見据えるテラ、ベール、ブランの三人の姿は極めて日常通りのモノだ。

テラはふいと頭上、晴天の空を一瞥して「ふぁああ……」と声を上げて欠伸を一つ。

陽気のいい昼下がりと言うこともあり、徐々に彼の心に睡魔が押しかけつつあった。

そんな中で走り疲れたのか、ネプテューヌとノワールの二人がこぞって木陰に押しかける。

「ふぃー、疲れたぁ」

「暑い……」

各々、そんなことを言いながらぽふんと地面に腰を置く。

テラは無言で何処ぞに所持していたのか、二枚のタオルを用意して二人の頬やら髪やらに映る汗をそっと拭ってやる。

「確かに最近暑いもんなぁ。倒れないように気をつけろよ」

「熱中症……」

ブランはペラと本のページを一枚捲ってボソリと呟く。

 

そんないつも通りの風景の中で、そんな彼らを無言で見つめていたベールが呟いた。

「家族、ですわ」

そんな彼女の呟きに、一同は耳を疑う。

「……家族?」

テラは怪訝な声と視線をベールに向けて問い掛けた。

恐らく、彼らにとって縁のない言葉No.10くらいにランクインされていたのであろう言葉を差し出されて対応に困ったのだろうか、そんな困惑の表情を向けた。

家族。

彼らの見解としては、家族とは『血の繋がった者達』というシステムがインプットされているために、それは自分達にとって縁のない言葉だと認識しているのである。

しかし、それでもベールはそう告げた。

「どういうこと?」

ノワールが半ば呆れたような表情のまま、ベールに問うた。しかし、何故か対するベールは嬉しそうな、満足そうな表情を浮かべて両手を胸の前で合わせて答えた。

「私達よ。こうやっているとまるで家族のようじゃない?」

ニコッと微笑を携えて周囲を見回すのだが、彼女以外のメンバーは頭上に疑問符を浮かべたまま、変わらずの困惑の表情で互いに視線を送っている。

数秒の後、それに気付いたベールが何やら不服そうな表情で声を漏らした。

「なぁに、その顔?」

「だって、な……」

テラは自身の頬を掻きながら冷や汗を垂らした。

「……家族、一般的に住居を共にする親族、血縁関係を指す。私達じゃ当てはまらない」

ブランは間髪入れずに本から顔を上げることもなく呟いた。

「そうね。まあ、住居を共にって合っていると思うけど流石に血縁はね……」

ノワールもそれに同意するように意見を述べる。

そんな三人は何やら否定のような色を見せている。

そんな三人を一瞥してベールはジト目になってブツブツと文句を垂れる。

「いいじゃない、きっと凄く楽しいわよ? だから、ね?」

一体なにが「ね?」なのかと、テラは思う。

ノワールとブランも同じ事を思ったらしく、テラと視線を交わして何とも言えないようなそんな曖昧な表情を浮かべている。

テラは小さく溜息を吐いて後頭部を掻く。

 

5人が出会ってはや5日。

5日にしては随分と仲を深めたものではあるが、しかし未だに他人に対して抵抗のあるような彼らにとって、家族というのは近しい者、距離のない者という印象が強く、それに少しばかり嫌悪感を抱いてしまうこともあるのだろう。

 

しかし――

「下界には『養子』っていうシステムもあるし、当てはまらないこともないんじゃない?」

と、ネプテューヌが意見する。

それを聞いてテラ、ノワール、ブランの三人は「ゲッ!」というような表情で彼女に視線を向ける。

そしてそれと同時に「余計なことを!」とか内心で毒づいた。

「ほら! やっぱり私たちも当てはまるわ! 家族……いいわね」

何かトリップしている彼女を妙なものを見る目で一行は見つめた。

一体何が彼女をそこまで奮い立たせるモノがあるのかとイマイチ理解できないテラがおずおずと彼女に質問した。

「そもそも、何でベールは家族なんてモノに憧れてんの?」

テラの意見にもっともという風に頷く。

それを聞いてベールはまるで狐につままれたような表情を見せた。

その後に、きょとんとした表情でゆっくりと口を開く。

「だって素晴らしいじゃない?」

「何が?」

「家族」

「どこら辺?」

「全て」

「「「……」」」

一同は「ダメだコイツ……」とか思った。

それと同時に「早く何とかしないと……」とかいう言葉が浮かんできたが、別に何とかしなければならないようなことでもないのでそれは掻き消した。

「でもいいねー、家族。私も憧れるなぁ」

ネプテューヌがふとそう漏らしたが、それに対しても三人は「余計なことを!」とか内心で毒づいた。

「あら、ネプテューヌもそう思う?」

「うんうん♪ なんかワクワクしてー、フワフワしてー、楽しそうだよねぇ!」

何かそんな感じでふたりはプリk……じゃなくてノリノリで誰にも立ち入ることの出来ないお気楽領域が形成されてテラ、ノワール、ブランの三人は心の中で「orz」のポーズを取っていた。

「ベールはオトナっぽいし、やっぱりおねーさんかなぁ?」

「あら、私がお姉さん?」

ベールは頬に手を当てて驚いた風な、それでいて何処か嬉しそうな感じであった。

「ああ……もう止められない」と言った風に三人が盛大な溜息を吐く。

というか、ネプテューヌが絡んできた時点でもう止められない事態だと言うことは分かりきっていたと思うのだが。

しかし、そんな彼らの心配というか不安というかそういった類はガン無視にネプテューヌはつらつらと強引に話を進める。

「それで、私が次のお姉さん」

「「ソレは聞き捨てならない(わ)!!」」

乗り気ではないと言っても、ネプテューヌの言葉に不満を表したテラとノワールが同時に叫んだ。

ちょっとその剣幕に度肝を抜かれつつも、ベールはうんうんと頷きながら二人の意見を聞く。

「頼むからコイツの下だけは止めてくれ!!」

「ネプより私の方がお姉さんよ! 絶対!!」

こうやってベールに意見する辺り、既にお姉さんと認めて居るんじゃないかとブランは内心で感じたが、口にするのも何だと思い黙殺した。

「なら、間を取って三つ子ってコトにすればいいんじゃない?」

「「「マジで!?」」」

三つ子と聞いてかなり壮大なイメージをわかせた三人が揃って衝撃を受けた。

あと、このリアクションを見て完璧に三つ子決定だと傍らで見ていたブランは本から顔も上げずにそう思い、冷や汗を垂らした。

色々ともめたが、最終的に丸め込まれて三つ子と言うことになり、ベールがそっとブランの頭を撫でながら

「で、ブランが一番下の妹ね」

と言った。

「……妹?」

コクリと首を傾げてブランはそう返す。

プライドの高い彼女にとって何かの下というのはそれなりに屈辱的なことだったのだろう、少し表情を歪めるがすぐにそれを戻して本のページを捲った。

そのリアクションに満足したかのようにベールは何度も小さく頷く。

「ほら、これで丸く収まったわね」

「「何にも収まってないよ!!」」

比較的常識的というか、正常な判断機能を有するテラとノワールは同時に叫んだ。

「あれ? 私も叫んだ方が良かった?」

「ややこしくなるから黙ってろ!」

空気を読まないネプテューヌがそんな発言をしたが、テラは額に青筋を浮かべてネプテューヌに叫ぶ。

そんな二人にキョトンとした表情で同じくキョトンとした声でベールは問う。

「二人ともどうしたの? いきなり大きな声出して」

「だから何にも収まってないんだってば!」

「今の状況で何処をどう見たら収まったって言えるの!?」

てな感じのことを二人は矢継ぎ早に浴びせる。

しかし、それをサイドで見ていたネプテューヌが「にゃー!」とか奇声を発して二人を押し倒す。

「ってーな! 何すんだ!」

「そうよ! いきなり飛びついてきて何するの!?」

「ダメだよ、お姉さんのベールに我が儘言ったら!!」

既に受け入れている……とブランはネプテューヌの適応能力の高さに思わず感心した。

ぎゃあぎゃあと啀み合う三人を見掛けたパルコルがゆっくりとこちらに歩み寄る――。

 

 

 

「家族?」

経緯を説明した後に、アプリコはそんな声を漏らした。

「ええ♪ 私の提案なのですが、ダメですか?」

ベールはそう問い掛ける。

面食らったような表情を見せつつも、アプリコはゆっくりと頷く。

「え、ええ。私は構いませんが……」

ほとんど動揺を見せない彼女でもここまで驚いているのだから、やはり自分達のしていることは相当おかしいことなんだなと今更ながらに悟ったテラであったが、しかしパルコルはすぐに微笑を浮かべて呟く。

「ふふ……確かに、あなた方には必要なことかもしれないですね……」

「?」

果たして彼女の言い分に何を意味しているのか、この時テラは分からなかった。

それと同時に、いままで感じなかったあらゆる疑問が胸の内で渦巻いていた。

自分は何なのか。

彼女たちは何なのか。

果たしてここはそんな優しい世界なのか――。

ありとあらゆる疑問が次から次へと浮かんでいった。

まあ、そんな疑問も波乱の騒ぎに掻き消されて消えていくのだが――。

 

 

「はい、ブラン。せーの――」

「ぅ、ぐ……」

ブランはテラと向き合うような形となって、赤面して俯いている。

そしてその間に立ってベールがニコニコと微笑のままで何事かを促しているのが見て取れる。

「あ、あのさぁ……もういいんじゃない?」

テラが遠慮がちにベールに意見する。

しかしベールはブンブンと首を横に振り、否定の色を際だたせた。

「ダメよ、甘やかしていくと一気に我が儘になっちゃうんだから!」

「だからってこれはちょっと……」

テラは気の毒そうに正面のブランに視線を移す。

色白の肌は羞恥の朱に染まり、遂には目元に涙まで見せる始末だ。

「ブラン? もういいからさ、戻ってお菓子でも食おうか?」

と、テラは促すがそれは伏兵によって阻まれる。

「私だけに恥ずかしい思いをさせようって言ったってそうはいかないわよ、たっぷりこの羞恥心を味わって貰わないとねぇ……ブランにも、テラにもね」

と、背後から真っ黒なオーラを漂わせるノワールが虚無的な笑みで立ちはだかっていた。

そんな彼女の勢いを見てテラまでもが泣きそうになったのは秘密だ。

「お、お……」

ブランが、最後まで立ち止まろうと努力していたモノの、最終的には折れてその言葉を口にした。

 

 

「お、お兄ちゃん……」

 

 

「!?」

テラの心情背景に電撃が迸る(画像はイメージです)。

オマケにうっすらと涙目、上目遣いに不安げなボイスと驚異の武器が揃っていたためにテラの心臓は早鐘の如くに鼓動を刻んでいった。

「やったー、呼んだ呼んだー♪」

ネプテューヌが自分のことでもないのにまるで初めて子供に「パパ」と呼んで貰えた父親のように手放しで喜んでいた。

何を思ったか姉弟、兄妹間で「お姉ちゃん」「お兄ちゃん」と呼んでみよう的なことが開催され(発案者:ネプテューヌ)、こうしてノワールは既に洗礼を浴びてネプテューヌ、ベール側に付いてしまっていた。

「よく言ったわね、ブラン♪ テラも嬉しかったでしょ?」

「ぅえ!? えぇと、その……あの……」

イキナリ話を振られて動揺を隠せないテラがブランに負けず劣らず赤面して妙な手振りと言葉であたふたと暴れている。

ひとしきり間をおいた後に、ブランは顔を俯かせてトボトボと隅の方に向かい、腰を落とした。

それを横目に見ていたテラであったが、視線を戻すとベールが思ったよりも近くにいて少し身を引く。

「な、何? ベール」

「ベールじゃなくて――……お姉ちゃん、よ?」

「絶対イヤだ!」

テラは顔を真っ赤にして否定した。

異性、というか他人に対して免疫があるわけでないテラはそういう近しい表現を出されて俯き加減と赤面加減を更に大きくさせた。

「んもー、テラってば連れないわね……」

「だって……」

テラはもじもじと両手の人差し指を付いたり離したりを繰り返す。

その仕草を見て残る4人は『可愛い』と思ったらしい……。

というか、この時点でテラの性格が幼児退行していなくもないことに一行は気付かないのであった。

「他のみんなは呼んだのよ? お姉ちゃんって呼んでくれたのよ?」

「でも……」

どちらかといえば無理矢理呼ばされた形に近くもないと思ったのだが、姉に逆らうのもどうかと思ったので三人は黙した。

恐ろしい形相で睨まれ続けたテラが遂に折れて小さく呟いた。

「ぉ、ぉ姉ちゃん……」

途端にベールは瞳をハートマークにさせてテラに飛びついた。

「はぁい、お姉ちゃんよ~♪」

この瞬間に、『この人は一体何がしたいんだろう……』と彼女の行動に疑問を覚えた4人はしばらくの間、彼女と距離を置いたというがそれはまた別のお話――。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「疲れた……」

散々昼に振り回されたテラはふらふらになって自室のベッドにダイブした。

先程までは今にも眠れそうなほどに眠気が襲いかかっていたのだが、いざベッドに身を置いてみれば目はどんどん冴えてくる。

まだ、半分濡れている髪をかき上げて溜息を吐いた。

「家族、か……」

こうして一日、『家族ごっこ』として生活をしてみたはいいがイマイチ実感を持てずに今日という日が過ぎようとしていた。

右手を掲げるようにして空気を包むように拳を握る。

その手を投げ出してまた一息吐く。

 

ドアをノックする音が部屋の中に響く。

テラはそれを聞きつけて上体を起こして返事をする。

「どうぞー」

「……テラ?」

遠慮がちに顔を覗かせたのはベールだ。

テラは少し意外そうな表情で彼女を見る。

「少し入ってもいい?」

「うん。いいよ」

テラはベッドに腰掛けて自分の傍らを軽く叩く。

ベールはそこに腰掛けてテラの頭を軽く撫でてから申し訳なさそうに口を開いた。

「ごめんなさいね」

「何が?」

いきなりの言葉で現状を把握できないテラはそう声を上げた。

「昼間、私、少し悪のりし過ぎちゃったかも、ってね」

「ああ……」

テラは思い出したようにそう漏らす。

確かに彼女に振り回されて(まあ大半はネプテューヌであったが)相当気力を削ったとは言え、それでもテラには彼女を咎める気は起きなかった。

「いいよ。俺も、楽しかったし……」

目を伏せてテラはそう呟く。

満更でもなかった、と言われれば頷いたかもしれない。

楽しかった、と言われれば同意したかもしれない。

きっと己の中にもそんな願望があったからだと、テラは思った。

「だから、ベールがあんなこと言ってくれたのはイヤじゃなかったと思う」

「テラ……」

「そう思ってたのは俺だけじゃなかったって思えたから」

そう言ってテラは穏やかな笑顔を彼女に向けた。

自分だけが信じていたのかもしれない。

彼女たちは何も思っていなかったのかもしれない。

幼いながらに、彼の胸の内にはそんな思いがあったのだ。

「だから、『姉貴』が気に病むようなコトじゃないよ」

テラは、そう微笑んで彼女を見た。

「そう……。ありがとう、テラ」

ベールも、安心したのか柔らかな笑みを浮かべてもう一度、テラの頭を撫でた。

くすぐったそうに目を閉じるテラを見て、ベールはクスリと声を漏らした。

「こういうのも、嫌いじゃないし……」

テラは目線を外しつつ、ボソリと漏らした。

「ふふ……じゃあ毎日してあげるわね♪」

「そ、それは勘弁!!」

再び赤面してテラはそっぽを向いた。

 

 

 

家族。

それは、より深き絆。受け入れた彼には、絶望が待ち受けていたのだろう――。

しかし、その運命は生まれたばかりの少年少女にはあまりに残酷すぎるシナリオ。

家族と信じ、愛した彼らにとって、それはあまりに悲しすぎる結末――。

 


 
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