第十六話「一番目のアーウェルンクス」
現在
まあ、それはいい。
「アリカはどうした?」
「現在、ヘラス帝国第三皇女、テオドラ・バシレイア・ヘラス・デ・ヴェスペリスジミアとの会談中よ。『リュビが近くにいると話がややこしくなりかねん、アランのところに行け』なんて言っていたわよ」
頭痛がしそうだ。あれは護衛のなんたるかを理解しているのか? そういった危険な時に身を守ってもらう為に護衛を雇っているのだろうが!
まあ、
「なら仕方ないな。依頼者の意向に逆らうのは禁忌だ」
今はアリカを見捨てる。生きて会えたら、その際には再び付いてやるがな。
しかし、一体どういうことだ? 今日この時間に来ることは既に通達済みなのに、マクギルも法務官も一向に姿を現さん。此処にいる
「それにしても、マクギル元老院議員は遅いな。どう思う、ガトウ?」
「う~む。昨日から準備をしているのならば、ここまで待たせるような事態にはならないはずだが……」
ガトウも同じことを疑問に思っているようだ。そしてやはり、ナギやラカンはそこまで頭は回っていないようだな。
なんて、噂をすれば影。足音が聞こえてきた。おそらくはマクギ――ん、魔力が違う? ならば法務官……いや、ならば足音が一人分である理由が分からない。
「お、遅かったな、マクギル元老院議員」
ラカンが反応する。しかし、マクギルだと? いったいどこがだ? 見た目こそまったく同じであるが、魔力も気も違う。よくよく思い返せば、足音も違った。おそらく、何者か幻術を用いて変化した姿だろうな。
「法務官はまだいらっしゃいませんか」
当然の反応だ。だがこの付近に、他者はもういない。魔法転位でもしてこない限り、此処に人が来ることはない。
「法務官は……来られぬことになった」
「は……?」
「……あれから少し考えたのだがね、せっかくの勝ち戦だ。ここにきて……慌てて水を差すのもやはりどうかと思ってね」
それは、一理ある。ここで下手な刺激をすれば、最悪は粛清の嵐が吹き荒れ、戦争以上の被害が出かねん。
「む、それもそうかもしれんな。が、それは個人判断か?」
「私の意見ではない。そう考える者も多いということだ。時期が悪い。時を待つのだ。今回は手を引いてだな……」
が、この魔力が誰であるか、
なるほど。であるならば確かに、そう考えるものが多くて当然であるな。『
「待ちな。あんた、マクギル議員じゃねぇな。何もんだ?」
「しかたあるまい……失せよ」
ナギの疑念の声にかぶってしまったが、
同時にナギの魔法により、頭が燃えていく。まあ、この程度でくたばるようであれば、その程度だったということだ。
「お、おい! 何攻撃してるんだよ、二人とも!」
「……ち、無傷か。これが貫通せんか」
「……危うく破られかけたけどね、『
煙が晴れたとき、そこにいたのは既にマクギル元老院議員ではなくなっていた。白髪の青年、『地のアーウェルンクス』。確か、『
しかし、先程の問答でもあったが、これで貫通しないとなると、奴は想像以上に固い防御を誇ることになる。なにせ、咒式に対魔・魔法障壁は通用しない。そもそも対魔障壁や魔法無効化能力とは、精霊との交信や精霊そのものを遮断することで、副次的に魔法を止め、かき消す。すなわち、精霊の関与しない咒式は、対物・魔法障壁でないと止められないことになる。
そして<
なお、咒式専門の守りである咒式干渉結界ですら、第五階位を完全無効化すれば驚愕に値する。
現状から推測――光学干渉が弱いため、電磁光学系咒式ならば貫通は容易か。
「だけど……よくわかったね。
「
「ああ、今頃はメガロ湾の底だよ」
ま、そんなところか。偽物となり替わられた本物の末路など。
「ごちゃごちゃと、うるせえ!」
ガトウは論外。攻撃力が低すぎる。リュビは……どうするか。別に行けなくはないが……
「わしだ! マクギル議員だ! スプリングフィールド、ラカン、ヴァンデンバーグ、アラン、リュビ! 奴らは帝国のスパイだった! 奴らの仲間もだ! 今も狙われている。軍に連絡を……」
「「げ!」」
「しまった……!」
「あらら」
「む、タイムオーバーか」
軍と喧嘩しようと、別に勝てないことはない。
が、そこに意味はない。逃げるか。手に炎を宿す。これは転移用のゲートとなる炎だが、普段のとは使用方法を違え……
「飛べ」
他者めがけ放射する。傍目には火炎放射に見えるが、実際は単なる転移魔法。それなりの観察眼なくして見破るのは、不可能に近い。
「さて、
「……こういう場合は、『覚えてやがれ』とかじゃないのかい?」
「それはありきたりでつまらん。ではさらばだ」
置き土産に電磁光学系咒式第四階位<
が、穿った奴が水に変わるとは……くくく、既に逃げた後だったか。強かな奴だ。
さて、
「回収完了」
「え、何するんですか!?」
「ちょ、どうしたんですか!?」
タカミチとクルトの背後に転移し、問答無用で二人を抱えあげたら、何故か怒鳴られた。
しかたあるまい。簡潔かつ分かりやすく説明するか。
「
「「!?」」
納得したか、驚愕しすぎたか、動きが停止する。さて、隠れ家に飛ぶか。
「で、アリカは捕まったと。ナギ、回収して来い」
「はぁ!?」
ものすごく意外そうな返答が来たが、惚れた弱みがあるだろ。逝ってこい。
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完全なる世界に与するものがいた。その罪を裁かんがため、マクギル議員に法務官を要請したが……