武蔵王ヨシナオの登場でまたしても場の空気が変わった。
相対戦の延長が決まり、相手は彼が連れてきた本田・二代、彼女に勝てなければ武蔵の道は閉ざされてしまう。
そんな二代の相手に出てきたのは喜美であった。
喜美の戦術は極めて簡単、「高嶺舞」の術式による防御。そして二代は得意の加速術式「翔翼」と蜻蛉切による連続攻撃だ。
だがどんなに二代が攻撃しても、かすりこそすれ致命打には程遠いものでった。そんな二人を見ているとオリオトライが
「ねえ小狼、あんたなら喜美の「高嶺舞」どうやって攻略する?」
と聞いてきた。
「Jud、攻略なんてありませんよ」
「えっ、そうなんですか?」
と三要が加わってきた。
「さきほど喜美が「あなたなら枯らされてもいいと認められた者が触れられる」言っていましたね、だからそのまんまです。
喜美に認めてもらうまで何十回、何百回、何千回叩きこめばいい、ただそれだけですよ」
と小狼の説明に二人が納得していると、
「あっ、始まりましたよ。喜美のお説教が」
と見てみると、喜美が二代を叱っていた。
「お前らは出来る。ーー出来ねえ俺が、保障するさ」
小狼はそんないつも通りの口調で言ったトーリに近づき、小狼もいつも通りの立ち位置についた。
「言っただろ小狼。お前がいなくてもやれるって」
そんなトーリに
「俺も言ったぞ。俺がいなくても平気だと」
と小狼は返した。
「でもいいのかよ、これは俺のわがままなんだぜ」
その言葉に小狼は
「取り戻したいものがあるだけだ。だからこれも俺のわがままだ」
「そっか、・・なら取り戻しに行くか!」
といつも通りの会話をしているとトーリのもとに皆が集まってきた。
トーリは、皆とともに歩き、後悔通りに踏み込んだ。
恐れも、怯えも、緊張も何もなく、トーリは通りを歩き、石碑の前を行き、こう言った。
「どうってことねえじゃん、俺の後悔なんて。今の有難さに比べたらさ」
皆が背後に付いてくる足音が聞こえる。その音に背を押されるようにして、
「ネシンバラ、オマエ、警護隊と連携して作戦とか立ててくれ、それとーー、本田・二代」
「ーーー何用だ?」
背後から聞こえる声と、装甲の触れあう音に、しかしトーリは振り向かず、
「オマエ、うちのガッコに入れよ。ーーー副長やってくんね?臨時副長ってことで、今、助けてくれ」
「拙者・・・サムライゆえ、貴様ではなく、君主であるホライゾン様に仕える所存に御座るがそれで良いというならば」
「ホライゾンのことを思ってくれるならそれでいい。ーーということだ小狼、手続き頼むわ」
「Jud、もうやり終わったぞトーリ。では俺は副長補佐の役職で問題ないな、トーリ?」
「Jud」
と返事がきた。そして小狼は二代のもとへ行き、
「武蔵副長、君の補佐役の小狼だ。これからよろしく頼む」
「Jud。そういえば小狼殿、預かり物で御座る」
と二代が背負っていた長刀を小狼に渡した。
「これは?」
「うむ、父上の蜻蛉切を受け取る時にそなた宛てにいっしょに渡されたら物らしく、拙者が預かっていた」
見た目は刀というより中華刀に近い作りで、鞘付きの物だった。
小狼が刀を鞘から抜こうとすると、
「あれっ、抜けないんだが?」
抜けなかった。
皆が覚悟を決めている中、一人だけ締まらない小狼であった。
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8話です