丑三つ時という時間がある。
妖怪、魑魅魍魎が最も活発に動き出す時間と言われている。
そして呪いをかけるのに最も適した時間だとも…。
「レイジングハート、セットアップ!!」
『なのは様の仰せのままに』
そんな深い闇を切り裂くように、桜色の光を纏った少女が駆ける。
奇跡を起こす力の名は魔法、白き衣を身に纏い、少女は戦場に立つ。
対するはこの世の常ならざる法則によって生まれ出た存在…ジュエルシードの怪物。
「速攻で決めるよ、レイジングハート!!」
『承知しました』
白き衣に身を包み、赤き玉を内包した鋼の杖を構える少女。
魔力の光が杖に集まり、半透明の白い翼が展開される。
怪物はその姿に恐れを抱いたのか、後ずさりして逃げ出そうとした。
「ジュエルシード、封印!!」
背中を向けた怪物に向けて魔力が開放され…ズドンとやたら腹に響く大きな音を立てた後に残ったのはジュエルシードだ。
なのはがレイジングハートを近づけると、例の如く数字が刻印されて封印される。
「ご苦労様なのは」
『お見事でしたよなのはちゃん』
「流石なのはだな」
全てが終わり、なのはをねぎらうユーノとルビーと士郎…走りながら…周囲の家々は真夜中だと言うのに明かりがつき始めていた。
明らかになのはがジュエルシードを封印した時の爆発音のせいだ。
「ご、ごめんなさい~」
なのははそう言うしかない。
ここ数日、なのははジュエルシードを封印したら逃げ出すということを繰り返していた。
『なのはちゃん、なのはちゃん?』
「何?ルビーちゃん?」
『右手の張り紙をご覧ください』
言われた瞬間、なのはは高速で顔を左に逸らした。
だが、振り向いた方向にも同じ張り紙がしてあって、どの道見るはめになってしまう。
【最近、真夜中に爆音を立てる愉快犯が出没して皆さんの安眠を妨害しています。悪質なのでそれらしい人を見かけたらすぐに警察にご連絡ください。】
それが張り紙の内容だ。
情報提供を求める同じ張り紙が数メートルおきに貼ってあった。
『正義の魔法少女が愉快犯扱いになっていますね?ジュエルシードより先に騒ぎを起こしてどうするんです?』
「ハニャー!!」
あれだけ派手にやっていて騒ぎにならない方がおかしい。
ショックを受けたなのはのツインテールが感電したかのようにビーンと立った。
あの髪はなのはの感情に反応するのか?
『申し訳ありませんなのはさま』
「え、いや…レイジングハートのせいじゃないよ」
実は…最初の封印のときのあの砲撃封印がデフォになってしまって変更が効かなくなったのだ。
その為、封印作業はいつも破壊音が伴うようになってしまった。
おかげで夜の封印の度にご近所さんの安眠妨害しまくりである。
「ごめんねなのは、僕の魔力がもう少し回復すれば…」
ユーノの魔力が回復すれば、防音結界位は張れるらしいのだが、わずか数日ではそこまでの回復は出来ないらしい。
一応、ルビーが人払いの結界を張ってはいるが、ダイナマイト並みの破壊音と、撒き散らされるなのはの魔力の前では在って無きが如くであった。
『まったく、マスコット失格ですよなのはちゃんのエロカッケー姿を想像して欲情する淫獣』
「がは!!」
「ルビーちゃん、ちょっと厳しすぎ!!」
ユーノが吐血してなのはが突っ込む。
しかし、なのはも否定していないので結局フォローにはなっていないことには気づいていないのか?
それとも解ってやっているのかは悩みどころだ。
士郎はそんな子供達をやれやれと言う風に見ている。
なのは、ルビー、レイジングハート、そしてユーノの4人が当面のジュエルシード探索班だ。
付き添いは士郎、美由希、恭也の三人でローテーションが組まれている。
ジュエルシードのモンスターはなのはにしか封印できない為、護衛と言う形でなのはをフォローしているのだ。
本当は常に三人でなのはをサポートしたいのだが、世知辛い事に正義の味方とはいえ現実の生活をないがしろには出来ない。
特に士郎は喫茶店のマスターという仕事といういかんともしがたいものがあった…ちなみに、夜遅くなるときは士郎か恭也の二択だ。
女子高生であるところの美由希は、どちらかといえば保護される側の人間なので夜に出歩いているとなのは共々補導されてしまう。
「ほら、なのは?」
「え?うん」
気が付けば、士郎がなのはに背中を向けて腰をかがめている。
親子のスキンシップカモンな士郎の意図を察したなのはは、喜んでその背中に飛びついておんぶされた。
「えへへ~お父さ~ん」
「はは、なのはも少し重く「えい!」ぐお!!」
おんぶされたなのはが士郎の後頭部に魔術で強化した拳を叩き込んだ。
笑顔で…。
「でりかしーがないのはお父さんでも許さないの!!」
「イエス、マム!しかしなのは?お話より先に肉体言語を使うのは父さん感心しないな~」
はははっと笑いながら、士郎の足は千鳥になっていた。
後頭部は人体の急所の一つです。
良い子も悪い子もまねしちゃメ!!
「そういえばなのは、今回ので何個目だったかな?」
「6個目だよ」
最初っから波乱万丈に始まったジュエルシード回収だったが、ユーノあたりの不安をよそに成果は順調に上がっていた。
神社?
犬?
そんなもん速攻でフルボッコにして封印しましたが何か?
あまりに一方的すぎて、とってもいじめっぽくなってしまったので、描写すると倫理的に問題ありそうですが何か?
「お父さんのおかげだよ。ありがとう」
しかも内一つはなのはではなく士郎が見つけてきた。
なんでも指導しているサッカークラブの一人が見つけたらしい。
拾った本人は、マネージャーの子にプレゼントするつもりだったらしいが、そこを頼み込んで譲ってもらったらしい。
おかげで、代替品のために士郎の財布が相当に軽くなったらしいが、愛娘のためならえーんやこらだそうな…この親ばかめ!!
『今時のマスコットは可愛いだけじゃ駄目なんですよ。可愛いだけじゃ!!』
「申し訳ありません…って僕はマスコットになりたいわけじゃないですから!!残念!!」
『今の貴方にそれ以上の何があるっていうんです?』
「うう…魔力さえ回復すれば…」
そんなアットホームな士郎となのはの後ろではルビーがユーノに未だお説教している。
ユーノも反論しているようだが、言い負かされてへこんでいた…内容がとんでもなくあれなんだが、実際役に立っていないのでユーノも反論できない。
内心でなのはを巻き込んでしまった罪悪感があるので小さくなりっぱなしだ。
これで必死で魔力回復に努めるだろう。
ルビーがそれを見越して、あえてつらく当たっているとは全然思わないが…あれはいびって楽しんでいるだけだ。
「ところでなのは?」
「はにゃ?」
「明日…やっぱり話すのか?」
「…うん」
その一言で、なのはが静かになる。
士郎からは見えないが、父は娘がどんな顔をしているかわかるような気がした。
「うん…やっぱりなのはだけが知っているのは良くないと思うの」
「そうか…」
それがいいかどうかは自分で決めることだろう。
8歳児とか、そういう問題ではない。
心の問題なのだ。
『ふむ、友情のためですか』
隣を飛んでいたルビーはなのはの答えに首をかしげるような仕草をする。
それを見るなのはは悲壮な覚悟を決めていた。
「すずかちゃんとはお友達でいたいの…だからお願いルビーちゃん!」
魔術を家族以外にばらすのは初めてだ。
一応の師匠であるルビーがそれをどう思うか…。
『まあそれじゃ仕方ないですよね~』
「え?いいの?」
『良いも何も、別に問題はないでしょう?相手が信じてくれるかどうかは解りませんけど~おこじょ妖精にでもなると思っていたんですか?ねぎマじゃあるまいし』
あっけらかんと言ってくれるルビーに、なのはだけでなくユーノも意表を突かれている様だ。
さっきまでの覚悟は何?
色々説得の言葉を考えていた努力は?
「も、問題がないって…だってルビーちゃん他の人に話したらフフフって悪人笑いしてたじゃない」
『悪人とは失敬な、なのはちゃんが勝手に勘違いしただけでしょう?』
「納得いかないの!!!!」
「「「「「「「「「「やかましい!!」」」」」」」」」」
「「「『『ごめんなさい!!」」」』』
最近、海鳴の夜は騒がしい。
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翌日、なのはは友人であるすずかの家にお邪魔していた。
ソファーの隣には兄の恭也、向かいのソファーにはすずかと恭也の恋人でありすずかの姉である忍が座っている。
部屋の中にはあと2人、メイドのノエルとファリンが目立たないように控えていた。
「どうしたの恭也?お茶会の前に改めてお話があるなんて、珍しいわね?」
「ああ、今回は俺じゃなくてなのはの話なんだ」
「なのはちゃんの?」
忍が問いかけ、恭也が答え、視線がなのはに集まる。
「う、うん…すずかちゃん。あのね…なのは…こんなことが出来るんだよ」
言うなり、なのはが見えやすいように掲げた手の中に火が宿る。
小さなライターくらいの大きさの火だ。
それを見たなのはと恭也以外の全員が目を丸くする。
「すごい、なのはちゃんこんな手品が出来るなんて、何時覚えたの?」
「忍、なのはのこれは…手品じゃないんだ」
「え?」
目を輝かせて感心していた忍の間違いを、恭也が指摘する。
忍だけでなく、すずかやメイド二人もその意味を理解できずに?マークを浮かべていた。
「なのはは…魔術師なんだ」
「魔術師って…御伽噺の?」
「そうだ。忍たちと同じ御伽噺の中の存在だ」
「っつ、恭也!!」
思わずと言う風に忍がソファーから腰を上げ、ノエルとファリンが立ち位置を移動する。
忍とすずかを庇う位置に…。
「恭也…いくらなのはちゃんとは言え…契約違反よ?」
「解っている。しかし知られてしまったんだ」
「すずかちゃん!?」
場の緊張の全てを無視して、なのはがすずかに声をかけた。
真っ青になってブルブル震えていたすずかが反応して顔を上げると、涙の雫がその頬を伝った。
きっと知られてしまったことに恐怖しているのだろう。
彼女は誰より、アリサと…なのはには知られたくなかったはずだから…。
「ごめんねすずかちゃん、今まで黙っていて」
「なのはちゃん…」
「でもね、なのは…すずかちゃんとお友達でいたいの…だから…」
それを聞いて、事前に話をしていた恭也以外の大人達はやっとなのはの行動の意味を悟った。
魔術を見せて自分の秘密を打ち明けたのは、一方的に秘密を知ってしまったなのはが、すずかと対等になるためだ。
友達でいたいから…唯それだけのために、なのはは自分の秘密を明かしたのか?
「わ、私もなのはちゃんと友達でいたい…」
沈黙はすずかの泣き声で壊れた。
しかし、硬直までは解けない…この場の誰も声をかけることさえ出来なかった。
金縛りになったように固まっている。
「だったら、友達でいようよ」
「で、でも私…は…」
「大丈夫、ルビーちゃんに聞いたもん!すずかちゃんは普通の人間とほとんど変わらないって!!それにすずかちゃんを信じてるから!!」
「なのは…ちゃん」
「吸血鬼なんてルビーちゃんに比べたら全然大した事ないよ!!」
思わずと言う風に、すずかが駆け出していた。
その勢いのまま、なのはの腕の中に飛び込んでくる。
なのははそれをやさしく受け止めた。
…後は、すずかの泣き声だけが部屋の中を満たしている。
それは親友にも話せなかった自分の秘密を理解してくれた喜びゆえの涙だろうか?
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「…何って言うか、なのはとすずかに良いとこもってかれたわね?」
「ああ、そうだな」
ソファーに座りなおした忍と恭也が苦笑した。
「よかったね、すずかちゃん!」
感極まったファリンがすずか以上に泣きながら二人まとめて抱きしめ、その胸が圧力でフニュンと形を変えるのを見た恭也が眼を奪われるが、とっさに視線を逸らす。
しかし遅い…ばっちり見ていた忍は、にこやかに笑っているのに目のハイライトが消えていた。
ノエルはいつの間にか音も立てずに忍の後ろに移動して控えている。
良く見ればその口元は笑みの形になっていた。
「ねえ恭也?」
「なんだい?」
「ひょっとして私達、貴方を悩ませてた?」
今まで、恋人である忍にもなのはの事を明かさなかったことを、忍は裏切りとはおもっていない。
吸血鬼とくらべてどうかはわからないが、魔術師という秘密とその異能は十分に秘匿されてしかるべき物だ。
ばれたら自分達同様、誰かに狙われるかもしれない。
恭也がなのはの告白を止めるどころか説明したところを見ると、なのはの意思だろう。
すずかはよい友達にめぐり合えたと思う。
これが恭也本人の事だったならすぐにでも打ち明けてくれたかもしれないが、事は彼本人ではなく妹だ。
そのジレンマが恭也を悩ませていたのではないかと…そんな忍の内心を察した恭也が首を横に振った事に、忍はほっとする。
「それにしても、恭也がこんなに口が軽かったなんて…ちょっとショックだったわね~って何で項垂れるの?」
仲直りに、からかいを含んだ言葉をかけるが、反応は忍の予想を超えたものだった。
あの恭也ががっくりと疲れた風に影を背負っている…何か悪いことでも聞いてしまったのだろうか?
「だから違うんだよ。何度も言うけど俺が喋ったんじゃなく、知られてしまったんだ」
「知られてしまった?誰に…って何で目を逸らすのかしら?恭也…なのはちゃんまで?」
恭也もなのはも、とっても言いずらそうに目を逸らしている。
それを見た忍たちは互いに顔を見合わせた。
二人の反応が理解できない。
「…知っていると思うけど、私達のことを知られた以上は口止めをしないと」
「それは心配ない。あいつそのものが吸血鬼なんか問題にならないくらいふざけた存在だからな」
「は?…そういえば、そもそもどうやってその人は私達のことを知ったの?」
「感覚の眼で見たらわかったといっていた」
感覚の眼とはなんぞや?
忍は?マークを浮かべたままファリンを振り返る。
しかし、彼女も困惑しているらしく答えは期待できそうにない…相手のことを説明されているはずなのに、なおのこと解らなくなるとはこれ如何に?
「その…見抜いたのはルビーだ」
「ルビー?すずかから聞いているわ、何でもなのはちゃんを困らせている人でしょ?」
「なのはだけじゃなく一家揃って被害を受けている。どんな人って言うか…むしろどんな物?」
「何それ?って何!?」
いきなり真っ暗になった。
しかも窓もふさがれているのか、外の光も見えない。
『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン』
そして始まるオンステージ。
何処からともなく軽快なロックが流れ、スポットライトが放たれる。
丸い光が一箇所に集まるそこにいたのは…。
「「「「杖?」」」」
忍達の声が重なった。
ルビーを初めて見た人間は、大抵同じ反応をする。
『そうです。私がルビーちゃんです!!』
ドドンとルビーの背後で七色の花火が上がった。
部屋を真っ暗にした上にこの演出…おかげですずかがビビッてなのはを更に強く抱きしめている。
「人様の家で何って事してんだ!?」
恭也の怒声、プライスレス。
「な、なのはちゃん?」
「大丈夫だよすずかちゃん。あれがルビーちゃんなの」
「あ、あの杖が?」
確かに、喋って空中浮遊をし、さらには人様の家の中で花火まであげる常識はずれに比べれば、大抵の事は受け入れることが出来るかもしれないというのは、すずか達4人の共通した感想だった。
…………・・そんで持って説明中。
………・・説明中。
……・説明中。
…説明中
「…なるほど、魔術に魔法に礼装ね」
やっと全てを説明し終わると、忍はしきりに頷いて納得してくれた。
吸血鬼という生まれだけに、常識外れな物に対する適応力は高いようだ。
普通でないものは何時でも鏡を見ればそこにいる。
「所ですずか?」
「何、お姉ちゃん?」
「幸せそうね?」
「うん、とっても」
なのはの隣ですずかが微笑んでいる。
おかげで余裕のあったソファーは三人がけで少し窮屈になっていた。
「にゃははは~」
対してなのはは困った顔だ。
その理由は二人の距離にある。
近い…いや、これでは語弊があるか…なのはの腕にすずかが自分の手を絡めているのだから、近いというより密着していると描写するべきだろう。
頬摺りまでしているし…。
なのはがすずかの秘密を受け入れて、本当の親友になったことがかなり嬉しいらしい。
『スールですね、わかります』
そしてとっくになじんでいるルビー…いきなりどうやって室内を真っ暗にしたのかと思えば、窓に暗幕が貼ってあった。
あの一瞬でどうやってと追求したいが、結局ルビーだからというところに落ち着くのだろう。
ちなみに、花火そのものは魔術の演出で何も残らず問題ないが、暗幕の片付けはノエルとファリンに丸投げという面の皮の厚さだ…ルビーのどこが顔に当たるのかすらわからないが。
『姉さん、なのは様だと|白薔薇(ロサ・ギガンティア)が色的に相応かと思われますが』
『すずかちゃんは|白薔薇のつぼみ(ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトン)ですか?じゃあ、アリサちゃんが|紅薔薇(ロサ・キネンシス)で』
『はやて様が|黄薔薇(ロサ・フェティダ)ということで』
「そこ、リアル(?)姉妹で勝手な事言わないでなの!!」
さすがになのはも色々な危険を感じたようだ。
なのははすずかとお友達でいたいのであって、ユリユリな関係になりたいわけではない。
「なのはちゃん?」
「し、忍さん?」
気が付けば忍がとってもいい笑顔をしていた。
ファリンは赤くなった頬に手をあてて目をキラキラさせている。
ノエルは…無言で頷かれた後に親指を立てられた。
「私の事はお姉さんって呼んでね」
「忍さん!!ち、ちょっと待ってなの、それって恭ちゃんと結婚するからって言う意味ですよね!?」
「すずか、幸せにね」
「ありがとうおねえちゃん」
「なのはの話を聞いてなの!!」
ファイヤーでボンバーに訴えたが、なのはの言葉は誰にも届かなかった。
やはりGNフィールドでも使わなければ、人は本当に分かり合えないのかもしれない…いっそ、人類補完計画でも起こすか?
「所で…」
なのはを無視した忍はルビーを見た。
気配と空気を察したルビーが向き合い、二人の間に雷に似た緊張が走る。
「事情は理解しました。しかし、月村家の当主としてそれだけで貴方を信用することは出来ません」
『ほう…ではどうすると?』
忍とルビーの間で、何か決定的なものにヒビが入る音が聞こえた気がする。
「…貴方に聞きたい事があります」
『どうぞ』
「では…」
口頭による口撃…表面的には穏やかだが、有無を言わせない圧力と冗談を許さない威圧感がある。
先に言葉を発したのは、やはり忍だった。
「分解させてくれないかしら?」
『ヤです』
一瞬で訳のわからない鳥肌が立った…今、何が起こった?
「え~ちょっと中身を見せて欲しいだけなのに~」
『そんな~ルビーちゃんの人に見せたことのない場所を見せるなんて。恥ずかちぃ~ですよ』
「じゃあ私も脱ぐわ、恭也の前で」
『それは恭也さんへのご褒美でしょう?』
「解る?」
『わからいでかぁ~ってなもんですよ』
忍が…あのルビーと…真正面から渡り合っている?
忍が言っている事も大概無茶が過ぎるが、ルビーも何時もの様子で一歩も引かない。
そんな事が出来るのは桃子くらいだと思っていたなのはと恭也が一番驚いていた…真の強者はこんな所にもいたのだ!!
「忍…俺をまきこまないでくれ」
恭也が羞恥でHPが0になっていた。
今すぐにでも窓を破って逃げ出したいところだろう。
「まったく、恭也ったら何でもっと早くルビーちゃんを紹介してくれなかったの?」
『そうですよ恭也さん、こんなに話の会う人なんてそうはいませんよ?』
夢に裏切られた様に項垂れる恭也に声をかけて慰めてやれる強者はいなかった。
|部屋の角(コーナーポスト)で真っ白な灰になっている。
きっと会わせなきゃ良かったと思っているに違いない。
恋人の新たな一面を発見してしまった恭也は、その日一日燃え尽きて役にはたたなかった。
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