「こ、これは・・・」
『うーん、どうにも手遅れっぽいですね~南無南無』
「そんな悲しい事言わないでなの~!!」
なのはとルビーが並んで見ている先はとんでもない事になっていた。
町で唯一の動物病院、槙原動物病院の一部がダンプカーのぶちかましを受けたように崩れている。
「やっぱり、あのフェレット君が原因かな?」
なのは達がここにいるのは偶然ではない。
問題のフェレットの事は、明日にでもルビーに見てもらおうという事でさあ寝ようかとしたら、二人同時にあの声を聞いたのだ。
しかもどうやらSOSっぽい状況らしいので、駆けつけてみればこの有様…明らかにフェレットのせいですありがとうございました!!
病院の先生達にはご愁傷様である。
『あっちでマトリックス避けしているのがそうじゃないですか?』
「マトリックス避け!?」
見れば、黒い毛むくじゃらから逃げている赤い玉を首輪につけたフェレットが一匹、その柔軟性を遺憾なく発揮し、のけぞったり飛んだりと機敏な動きで毛むくじゃらの触手攻撃をよけている。
その姿、まさにマトリックス!!
とはいえ、ぜんぜん余裕があるようには見えない。
むしろ現在進行形でアレは泣いていないか?
『ウム、アレこそまさに|真戸律九素(マトリックス)!!』
「ネタにネタを被せてないで助けなきゃ!!」
『なのはちゃん、突っ込みは愛ですよ~』
具体的には知っているのか雷電!?とか?
そんなのはぜんぶまるっと無視して、なのはは左手を銃の形にして構える。
「れ、霊丸!!」
ズドンな感じでなんか出た。
バスケットボールくらいの大きさの、黒くて丸い魔力の塊だ。
本当はガンドと言うらしいのだが、ルビーはあえて霊丸で一つと言っていたので霊丸で正しいのだろう。
そんな感じでドスンとか言う音と共に毛むくじゃらは弾き飛ばされた。
両者の距離が開いた所で、なのははフェレットに駆け寄る。
「来て・・・くれたの?って今の何!?デバイスも使わずに攻撃魔法!?」
「黙ってて!!」
「は、はい」
なんか小動物がしゃべっているが、おしゃべり機能なんて珍しくもないんだからかまっちゃいられない。
むしろうるさくて気が散るから黙ってろな感じだ・・・それが一般的にどうなのかは知らないが、少なくとも目の前で見事な三角飛びを決めて襲い掛かってくる毛むくじゃらの対処より必要性は高くはないだろう。
こっちはリアルに命に関わる。
このあたりの論理的な思考はルビーに実践込みで教えられた。
伊達に魔女っ娘なんてやっていないのだ。
『あはぁ~私、参上!!ルビーちゃんの強さに貴方が泣きました~!!』
そして、そんななのはを守るのは一本の杖、愉快型魔術礼装のカレイドステッキ。
『オーバー・ソウル!!宿れ、眼帯禿!!大河ーアパカ!!』
「ゴオオオオ!!」
いきなり魔力を纏ってアッパーの軌道を取ったルビーが毛むくじゃらの顎をクリーンヒットする。
『ふははは!!仮面ナルシストのひょーーは対空技の餌食になる運命なのでーす!!』
せめて技名くらいは言ってやればいいものを・・・マイナーなんで忘れたか?
「す、すごい・・・マスターの手を離れているのに魔法を発動させているインテリジェントデバイス!?」
「え?インテル入ってる?ルビーちゃんそんなに頭いいのかな?それはともかくフェレット君!?」
「は、はい?ああ、そうだ!!僕はある探し物の為に、ここではない別の世界から来ました。でも、僕一人の力では想いを遂げられないかも知れない。だ、だから・・迷惑だとは分かっているのですが、資質を持った人に協力してほしくて・・・」
フェレットは気づいていない。
なのはが笑顔で自分の胴を鷲掴みしていることを・・・。
「資質?」
「御礼はします!必ずします!僕の持っている力をあなたに使ってほしいんです!僕の力を・・・魔法の力を!・・・って何で持ち上げるんです?」
「そんな事は今はどうでもいいの」
「え?」
そのままオーバースロー気味に腕を回し。
全力全開で体のばねを使って・・・。
「え?ええ?」
「ごめんね、邪魔だから!ちょっとあっち行っててなの!!」
「なあーーー!!」
慈悲も何にもなく投げた。
足元でちょろちょろしていたら踏みつけてしまうかもしれない⇒毛むくじゃらは明らかにフェレットを狙っている⇒守りながら戦えないなら強制的に逃げてもらうしかないだろう。
この辺の割り切りは、きっちり魔術師ななのはだった
「マトリックス避けをしていたくらいだから多分大丈夫なの!!っと言う訳で問題なし!!行くよルビーちゃん!!」
『そんななのはちゃんが素敵に大好きです!!』
なのはがルビーを手に取る。
「『変身」』
そしてお約束の変身シーン、服が分解されるように消えて、新しく再構成される。
無駄にキラキラしたエフェクトが乱舞した後には、なのはの姿が一変していた。
『いよいよ格闘魔法少女デビューなのですね~』
「ル、ルビーちゃん?だからってこれはちょっと違うと思うんだけど?」
なのはの姿はチャイナ服だった。
しかも青、ご丁寧に髪は左右で団子に結ってある。
元ネタは推して知るべし。
『チャイナなのはちゃん 爆 誕!!』
「うう、恥ずかしいの・・・」
当然、横のスリットが深い。
しかも黒のストッキングに両手足首には棘の付いた腕輪に足輪。
確かに動きやすくはあるが・・・。
「も、もういいの!!早く終わらせちゃえば大丈夫!!そこの動物さん!?」
その言葉に、毛むくじゃらがびくっと身を震わせる。
なのはの殺る気・・・もといやる気におびえているのか?
それを見たなのははにっこり笑って・・・。
「誰かに見られると恥ずかしいし、ご町内の平和の為に倒すの、お話出来なさそうだから答えは聞いてないの!!」
そんな死刑宣告を聞いた毛むくじゃらは、いきなり背を向けて逃げ出した。
本能的に目の前にいるのがどれだけヤバイかを悟ったらしい。
『毛むくじゃらは逃げ出した。しかし回り込まれてしまった』
毛むくじゃらの頭を飛び越える形で、なのはが前に降り立つ。
基本的に運動が苦手ななのはだが、持ち前の強大な魔力により体に強化の魔術を付加したらプロレスラーだって真正面から力で圧倒できる膂力を発揮する。
しかも、だからどうしたというわけではないがチャイナだ。
「えい!!」
更に、急には止まれない毛むくじゃらにカウンターで距離を詰め、五指を開いた手で喉輪を決めると反動で毛むくじゃらの体となのはが浮く。
流れるように真下の地面に投げ落とした。
「ギャフー!!」
コンクリートに背中から叩きつけられた毛むくじゃらが悶絶する。
受身すらとりようがなかった。
「今時の魔女っ娘に格闘術は必須科目なの!!」
それはアカイアクマかアオイアクマ理論だ。
そんな間違った認識はルビーが教え込んだに違いない。
「ごめんなさい、でもこれって戦争なのよね」
言いつつ、開いた左手を毛むくじゃらに向けた。
その五指の指先には全て、ガンドの魔力が宿っている。
なのはは躊躇なくその全てを開放した。
高町なのは、やるときはやる女の子だ。
『・・・さて、どうしましょうかね?』
ほとんど一瞬で決着の付いた戦闘は、地面に倒れている毛むくじゃらが証明している。
だが、遠足が家に帰り着くまでと同じように、重要で面倒なのは何時でも後始末だ。
差し当たっての問題は死んではいないようだがピクピク痙攣している毛むくじゃらをどうしたもんかである。
明らかに魔力を宿した生き物なので放っては置けない。
「あ、あの~」
『「ん?」』
声に振り返れば、なのはに投げられたフェレットが戻ってきていた。
やはり無事だったらしい、マトリックス使いは伊達ではないようだ。
「そ、その生き物はジュエルシードって言うものから生み出されていて、封印しないととっても危険なんです!!」
「封印って・・・どうやって?」
「こ、これを・・・」
そう言ってフェレットは器用に前足を使って首から下げていた赤い玉をはずして差し出す。
『あれ?それって・・・』
「知っているの、ルビーちゃん?」
『昨日、夢で見ました。ああ君があの・・・』
「お、御礼は必ずしますから」
詳しく聞こうとしたなのはだが、フェレット君の必死な訴えに話がそれた。
横目で見ると、毛むくじゃらが何とか這って逃げ出そうとしていたので、なのはが無言で指差してみると死んだふりして動かなくなる。
魔力も何もこめてはいなかったが、どうやら反骨精神ごとプライドとか色々な物をへし折られているらしい。
「御礼とか、そういう問題じゃないんだけど・・・ほうっても置けないよね、どうすればいいの?」
「これを!」
フェレットがなのはの手に赤い玉を握らせた。
「それを手に、目を閉じて、心を澄ませて、僕の言うとおりに繰り返して」
なのはが、一応伺いを立てるようにルビーを見た。
それに対してルビーは頷く。
「うん、わかったの」
「ありがとう!!」
なのはは赤い玉を受け取って言われたとおりに目を閉じる。
「我、使命を受けし者なり」
「わ、我、使命を受けし者なり」
「契約の元、その力を解き放て」
「えっと、契約の元、その力を解き放て」
「風は空に、星は天に」
「風は空に、星は天に」
「そして、不屈の心は・・・」
「そして、不屈の心は・・・」
「「この胸に!」」
赤い玉から光が放たれる。
桜色に発光しているのは、なのはの魔力の迸りだ。
「「この手に魔法を!レイジングハート、セットアップ!」」
『standby ready、set up』
電子音が響いた。
同時になのはの足元に魔方陣が展開され、桜色の魔力が放出される。
夜の町を真昼のように照らす光に、他ならぬなのは自身がビックリしていた。
「な、なんて魔力だ・・・・・・・はっ、落ち着いてイメージして!君の魔法を制御する、魔法の杖の姿を!そして、君の身を護る強い衣服の姿を!」
フェレットが色々言っている。
しかし、なのはが展開に付いてこれるかどうかは別問題だ。
「そ、そんな・・急に言われても・・・・・え、えっと、え~と・・・と、取り敢えずこれで!」
どうやら服のデザインは決まったようだ。
同時に、なのはの姿が光の中に消える。
赤い玉が巨大化して、金属製のパーツが何処からともなく現れて接続される。
瞬きほどの時間ではじけたそこには、再び姿を変えたなのはがいた。
「成功だ!」
『間違っている・・・間違っているぞ、高町なのは!!』
「ええええ!?」
ルビーにゼロ風なダメだしを喰らった。
フェレットがびっくりしている。
今のなのはの姿は、通っている聖祥大附属小学校の制服・・・細部はいじってあるが、ほとんどそのまんまだ。
『違うもん違うもん!!・・・こんなの魔女っ娘じゃないもん!!もっとフリルとか、かーいいのじゃないとヤダモン!!』
「そ、そんな幼児化してまで嫌がることかな!?だ、だってとっさにこれしか思い浮かばなかったんだから仕方ないよ!!」
『魔法少女がそんなことでいいと思っているのですかなのはちゃん!?そんな大人、修正してやる!!』
思ったより、なのははルビーや桃子に毒されてはいなかったらしい。
それは多分良いことだろう。
「そ、それよりも封印を!!」
「は、ナイスフォロ-だよフェレット君!!」
『っち、余計な事をこの小動物!!せっかくなのはちゃんの再教育を強引に押し切って了承させようとしてたのに!!』
「ルビーちゃんちょっと怖いから!!」
右と左の温度差にフェレット君が涙目になっていた。
この二人は仲間じゃないの?
「ええっと、僕らの魔法は、発動体に組み込んだプログラムと呼ばれる方式です!! そして、その方式を発動させるために必要なのは術者の精神エネルギーです!!そしてあれは、忌まわしき力の元に生み出された思念体。あれを止めるには封印して元の姿に戻さなきゃいけないんです!!」
何か少しやけっぱちになったっぽいフェレット君が一気にまくしたてる。
これ以上脱線して欲しくないという思いは十分に伝わってきた。
「そんなに一杯一度に言われてもわからないよ」
「攻撃や防御などの基本魔法は心に願うだけで発動しますが、より大きな力を必要とする魔法には呪文が必要なんです!」
「呪文?」
「心を澄ませて、心の中にあなたの呪文が浮かぶはずです」
「ああ、それなら簡単だよ」
呪文なら知っている。
いつも唱えている起動キーとイメージ……それは……。
「リリカル、マジカル・・・」
なのはが呪文を唱えると、頭の中に知らない呪文が浮かんでくる。
どうも、赤い玉がなのはの頭に呪文を送り込んでいるらしい、簡単にこんなことが出来るあたり便利なものだ。
勉強の苦労が減るのではないかとちらっと考えている間に、掲げた杖に魔力がこもってゆく。
「封印すべきは忌まわしき器! ジュエルシード!・・・あ!」
「い?」
『う?』
「ギャワン!!」
杖から極太のビームがドーンと放たれ、ズキューンと来てズドンと未だに死んだふりをしていた毛むくじゃらに容赦なく命中する。
毛むくじゃらは跳ねるようにして愉快な悲鳴を上げた。
『な、なのはちゃん?さ、流石に五体投地で無抵抗の相手にこの仕打ちはドン引きですよ?』
「ち、違うの!いつもどおりにしただけなの!!」
『いつもどおりって、あの大砲の?』
「そ、そう」
『明らかにそれが原因です』
「はにゃー!!違うもん違うもん、なのはそんな外道さんじゃないもん!!」
今度はなのはが幼児化した。
「で、でも封印は出来たようです!!」
「え?」
フェレットの言葉にいやいやと頭を振っていたなのはの動きが止まる。
見れば菱形状の青い宝石のような物体がうかんでいた。
「ジュエルシードの本体です!杖で触れて封印を完了してください!!」
「わ、わかったよ。ジュエルシード!、封印!」
『sealing mode、set up』
なのはは言われた通り、ジュエルシードに杖を近づけた。
『standby、ready』
ジュエルシードにⅩⅩⅠのナンバーが浮かぶ。
「ジュエルシード! シリアル21! 封印!」
『sealing』
光と共に、杖の中にジュエルシードが吸い込まれて消えた。
どうやら無事封印が完了したらしい。
『さて、逃げましょうか?』
感慨にふけるまもなくルビーがそんな事を言った。
耳を澄ませば、遠くからサイレンの音が近づいてくるのが聞こえる。
なのははフェレットを掴むと、強化の魔術で体を強化して駆け出した。
「にゃーーーーー!!」
魔女っ娘にだって勝てない物は存在する。
国家権力とかはその最たる物だ。
「ご、ごめんなさいなのーーーー!!」
赤いイマジンっぽい、ちょっと情けない声をドップラー効果で置き去りにするほどの速度でなのはが駆ける。
その姿、まさに全力全開。
そんでもって十分後~。
『被告人、名前は?』
「ボ、ボクハユーノ・スクライアデス」
フェレット改め、ユーノ・スクライアは高町家のダイニングテーブルで、フェレットの体で器用に正座して震えてていた。
向かって右に桃子と美由希、左に思いっきり睨みを利かせつつ殺気をぶつけて来る士郎と恭也・・・そのおかげでユーノは金縛り状態で正座を崩すことも出来ない。
そして背後におろおろしているなのはと・・・。
『はい、ではこれから裁判をはじめますよぉ~』
正面で裁判官の木槌宜しく、自分の体でテーブルを叩いているルビー。
深夜にもかかわらず、高町家の居間で間違いなく人類初のフェレットを被告人にした裁判が開催された。
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リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい? あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう? だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ