「マスター、私は充分休めました。そろそろ続きを話してもらっても宜しいですか?」
その声を聞いて時間を確かめてみると一時間ほどもたっていた。
私の心を落ち着かせるだけの時間はとれただろうと思ってこのタイミングで聞いてきたのだろう。
……ちょうどよかった。
私も今から話し始めようとしたところだったからだ。
「わかった。それじゃあ、聞いて」
『はい』
返事を聞くと私はまた昔のことを思い出しながら話し始めた……
私の13歳の誕生日まであと三日というところまで近づいてきた頃、両親から唐突にこんなことを言われた。
「リリスの誕生日、祝ってあげることが出来ないかもしれない」
二人は共働きでこの時期は忙しいことは知っていた。
夜遅くまで私とお姉ちゃんの二人だけで家にいることも少なくはなかった。
だからなんとなく予想はしていたが改めて聞かされると落胆はした。
それでも親に迷惑をかけたくないという気持ちから私は攻めることもせず「大丈夫だよ」と言った。
それでその話は終わるはずだったのだが、一人だけ納得できていないものがいた。
「どういうこと、それ?」
お姉ちゃんは苛立っているような口調で続けた。
「リリスの誕生日だけはこれからも絶対に祝おうって言ってたじゃない! なのに、どういうこと!!」
そんなやりとりをしていたなんて知らなかった。
私がそんなことを呑気に考えている間もお姉ちゃんの怒りは収まらない。
「リリスがどれだけ苦しい思いをしているか知らないわけじゃないでしょ。なのに、どうしてそんなこと言えるのよ!」
両親は悲しそうな表情をしながらも何も言わなかった。
私も何も言えなかった。
今のお姉ちゃんの言葉を聞いた両親が、もしかしたら予定を空けて誕生日を祝ってもらえるかもという微かな期待をしてしまったから。
一度でもそんな思いを抱いてしまった私がお姉ちゃんを止めることなんかできなかった。
「どうして、何も答えないのよ!」
お姉ちゃんはそれだけ叫ぶと自分の部屋へと戻ってしまった。
後に残された私や両親は何も話さず茫然としていた。
ほどなくして私はお父さんから一言だけこう言われた。
「すまない、リリス」
続けてお母さんからこう言われた。
「私がこんなこと言うのはおかしいかもしれなど、あの子をお願い。リリス」
私は何も言わず自分の部屋へと戻った。
その前に一度お姉ちゃんの部屋に行ったが部屋に鍵が掛かっていて入ることが出来なかった。
楽しみにしていた日がもうすぐなのに私の心は晴れなかった。
その日はそれから私は誰とも話さず気付いたら眠ってしまっていた。
次の日、私が起きた時には親は二人ともすでにいなかった。
まだ時間は六時前だというのに。
私が不思議に思っているとリビングのテーブルの上に手紙が一つあった。
そこに書かれている内容は、今日と明日は仕事の関係で家には帰れないというものだった。
それから少ししてお姉ちゃんも起きてきてその手紙を読んだが特に何も反応を示さなかった。
とりあえず私たちはすぐに朝食を用意し始めた。
親が朝早くに家を出る時は二人でこうしているのだ。
だが今日は少し違った。
お姉ちゃんが何も話さないのだ。
いつもなら私が困るぐらいに話しかけてるぐらいなのに今日に限って黙っていた。
少し気まずく思いながらも私たちは淡々と料理を作っていった。
そして出来上がり食べ始めたころにようやくお姉ちゃんは口を開いた。
「ごめんね、リリス」
「えっ?」
どうしてお姉ちゃんが謝るのかわからなかった。
「昨日いきなり怒りだしてリリスに不愉快な思いさせたかなと思って」
「気にしてないよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「そう、良かった」
お姉ちゃんは安心したのか少しほっとした表情をしていた。
それを見ていた私は悪いと思いながらも、いつもこれくらい大人しくしていたら疲れることもないんだろうなどと思った。
だが次の瞬間、そんな思いはあっさりと打ち砕かれた。
「ねえねえ、リリス! 誕生日に何か欲しいものある? それともどっか思いでになりそうな場所に行くのもいいかな? どう、リリス!!」
突然お姉ちゃんは元気になってこの場が騒がしくなった。
私は少しは落ち着いてほしいと思いながらも、やっぱりお姉ちゃんはこうやって騒がしいほうがらしいなと思った。
結局この日の朝には決まらず、また夜に話しあうことになった。
私は学校、お姉ちゃんは仕事があり、昼は話せないからだ。
そして夜に話したら話したで意見が出過ぎて決まらず、結局次の日の朝に決めることになった。
そして次の日の朝も決まらず夜に話しあい、そこでも決まらず最終的な結論が当日の気分で決めようってことになった。
いいかげんだと思うかもしれないが、決まらなかったのだからしょうがない。
それに私はお姉ちゃんと一緒に過ごせるだけで満足なのだ。
だからこの結論にも文句などはなかった。
そしてようやく迎えた私の誕生日。
私はいつものように朝早く起きていつものようにリビングに向かった。
そこにはいつものようにお父さんとお母さんがいた。
「おはよう、リリス。休みなのに早いな」
「リリスの分もあるから食べる?」
驚いていた。
今日は朝から仕事で帰ってくるのも遅いはず。
なのに二人はそこにいた。
「どうして。今日は仕事じゃないの?」
二人は微笑みながら答えた。
「仕事ならなんとか一昨日と昨日で終わらせてきたんだ」
「今日はリリスの誕生日。ちゃんとお祝いしないといけないわよね」
私はそれを聞いてまず最初に思ったことはお姉ちゃんに対する感謝の気持ちだった。
お姉ちゃんがあの時、あんなふうに言ってくれなかったら今この場に二人はいなかっただろう。
後でちゃんとお礼を言っておくべきだろうと思った。
それから少ししてお姉ちゃんも起きてきた。
最初の反応こそ私と同じで驚いていたが、すぐに切り替えてこれからどうするか話しあおうとなどど言い出した。
お父さんとお母さんはその言葉を聞いて考え始めたが私だけは違った。
家族全員がそろっているなら私は行きたいところがあるのだ。
学校行事で一度だけ行ったことがある山だ。
別にそんなに有名な場所ってわけでもないのだが、その山の山頂にちょっとした野原になっている場所がある。
そこから見た景色は私が見てきた中でも一番と言えるぐらい凄く綺麗なものだった。
だからいつか家族皆でもう一度見に行きたいと思っていたのだ。
私はそのことを他の家族に伝えるとそこに行くことがすぐに決定した。
それから私たちの行動は早かった。
すぐに色々な準備を素早くすませ、お弁当なども作ったのに自動車で家を出るまで大して時間はかからなかった。
出発してからすぐ私は今から向かってる場所がどんなに素敵な場所か細かく説明した。
それを聞いた他の皆が少し意外そうにしていたのは、普段はどちらかというと無口な私が自分からよく話しかけているからだと思う。
私はそれだけ家族皆で誕生日を過ごせることが嬉しかった。
そしてこうやって家族皆で一緒にいれるという現実が幸せだった。
……なのにどうしてなのだろう?
……どうしてこの世界は私を追い詰めるのだろう?
それは突然のことだった。
その時は少し狭い山道を走っていた。
そして何の前触れもなく巨大な岩が目の前に転がり落ちてきた。
車はそのまま、岩に――
私の記憶は何故かここで途切れている。
私が次に覚えているのは岩の上で目をさました記憶だ。
何が起きたのか私はわからなかった。
私はひとまず立ち上がろうとした。
だが突如襲った激痛によりそれはかなわなかった。
良く見れば自分の体はあちこちが傷だらけで酷い姿だった。
私はそこでなにげなく隣を見た。
倒れているこの態勢じゃよく見えないが誰か倒れていることだけは見えた。
私は痛みを我慢して今度こそなんとか立ち上がった。
そこでもう一度、同じほうを見た。
そこにはお父さんもお母さんもお姉ちゃんもいた。
みんなそこにちゃんといた。
だけど少し変だった。
どうしてちっとも動かないんだろう?
どうして傷口からたくさん赤い液体が流れているんだろう?
お姉ちゃんに至ってはどうして右腕がないんだろう?
そしてどうして私は涙を流しているんだろう。
「うそ、だよね? はやく、おきて」
皆ただ眠ってるだけ。
だから起こさないと。
私はゆっくりと近づいて、皆の胸に手を当てた。
心臓は……動いていなかった。
「いやぁぁぁぁぁぁああっっ!!」
気付いた時には叫んでいた。
喉が潰れるんじゃないかって思うぐらい叫んでいた。
「おきて! おきてよ!!」
私の叫びに反応するものはなく、家族皆は赤い液体をただ体中から流したまま動くことはなかった。
「おきて……こんな、の、嘘だって……言ってよ……」
私は徐々に声が出せなくなっていった。
私だって酷い怪我を負っている。
にもかかわらず暴れたり叫んだりしていれば、すぐに体は限界を迎えてしまうのは当たり前だった。
「ゆめ……なら、さめて……」
私はそこで倒れこんだ。
意識が徐々に無くなっていくなか、私は少女のような声を聞いた気がした……
私が次に目を覚ましたのはベッドの上でだった。
ここが何処なのかわからなかった。
とりあえず辺りを見渡そうと体を起こそうとしたが、酷く傷ついた私の体は少し動かそうとしただけで酷く痛んだ。
なんとか我慢して起きてみると、部屋の様子からここは病院とはちょっと違うような気がした。
私がそんなことを考えていると、部屋の扉が開いてそこから一人の少女が現れた。
優しそうな印象を受ける子だった。
「目が覚めたんだね。よかった」
少女は安心したような様子だった。
だがそんなことはどうでもいい。
この少女には聞きたいことがあった。
「ここは何処? どうして私はここで寝ていたの?」
少女は悲しげな表情をするだけで何も答えてくれなかった。
「どうして、何も答えてくれないの?」
少女はやはり答えてくれなかった。
私は何故か少しずつ不安を感じ始めた。
私はもう一度だけ聞いた。
「ねえ、ここは何処? どうしてここで寝ていたの? お願い、答えて!」
「覚えて、いないの?」
少女はようやく答えてくれたが、言葉の意味がよくわからなかった。
覚えていないとはどういう意味?
私は何か忘れているのだろうか?
そこまで考えた時、私は頭の中に嫌な光景が浮かんだ。
それは家族皆が傷だらけになって倒れているというものだ。
こんなのあるわけがない。
この少女に聞けばわかることだ。
だから私を希望を信じ聞いてみた。
「お父さんと、お母さんと、お姉ちゃんは、何処にいるの?」
少女は酷く辛そうな表情をして答えた。
「ごめんね……助けて、あげられなくて……」
この言葉の意味がわからないほど私は鈍感ではない。
つまりこの頭の中にうかぶ地獄のような光景は真実だということだ。
今にも叫んだり暴れだしたりしたかった。
なにもかも滅茶苦茶にしたかった。
だけどそんな思いに反発するかのように私の体は動いてはくれなかった。
……何もかもが嫌だった。
事故のことも家族のことも自分だけが生きていることでさえ嫌だった。
その時たまたま机の上にあった果物ナイフが目にとまった。
今の私にとってそれはとても魅力的なものに映った。
「ねえ、これで自分の首を切ったらどうなるかな?」
どこか他人事のような口調で私は狂ったことを口にしていた。
それを聞いた少女は当たり前のような答えを出した。
「何を言ってるの! そんなことしたら貴女が死んじゃうよ!」
少女の言葉は私にとってとても素敵な言葉に聞こえた。
だって死ねば私は皆のもとへと行くことが出来るんだから。
「……そう。だったら、迷う必要なんて、ないよね?」
私はそれだけ呟くとナイフの切っ先を自分の首に向け突き刺した。
……いや、正確には突き刺そうとした。
そのナイフは私の首に届く前に少女によって抑えられていた。
「どうして、邪魔をするの?」
「どうして、そんなことするの!?」
少女は手のひらから血を流していた。
ナイフの刃なんか握れば当然だろう。
だが少女はそんなこと気にする様子もなく必死に私に向かって呼びかけてきた。
「せっかく助かった命なんだよ! どうしてそんな簡単に捨てようとするの! そんなことしたって貴女の家族さん達は喜ばないよ!」
……この少女の言うとおりだろう。
私の家族がここにいたら同じようなことを言うと思う。
だけど私はこの現実に耐えられるほど強くない。
それを伝えたところでこの少女は納得しないだろう。
だから私は別のことを伝えた。
「そこまで言うなら、私に生きる理由をちょうだい。この苦しみから逃れられるだけの理由を……」
そんなものあるはずがない。
この場に家族の誰でもいい、たった一人でもいれば別なのかもしれないが、それは叶わぬ望み。
他に私が思いとどまる理由なんてあるはずがない。
案の定この少女は何も答えなかった。
「……ないなら、話はこれで、おしまい」
私はそれだけ告げナイフに力を入れた。
まさにその瞬間だった。
「……あるよ」
少女ははっきりとそう口にした。
「私は貴女と、友達になりたいんだ。それで貴女の苦しみも一緒に分け合っていきたいと思ってるの」
「……なにを?」
「それでいつか、私が貴女にとって大切な人になってみせる。そんな希望を信じてみれば、それが生きる理由にならないかな?」
この少女の言っていることはなんとか理解出来た。
孤独である私にとってこの提案は、悔しいが少し嬉しいと思った。
見ず知らずの相手である私に向かって、こんなことを言える人なんて多くはいないだろうから。
けれどどんなに上手いことを言っても、この少女は他人であることには変わらない。
いつか私を裏切るかもしれない。
希望はいつだって裏切られてきたから。
だから聞いてみた。
私の思っていることを……
「もしそれが、生きる理由に足らないと思ったら、貴女はどうするつもり?」
少女は今度は迷わず答えた。
「貴女のすきにしていいよ。もし命が欲しいっていうなら、少し怖いけど言うとおりにするよ」
……この少女は何を言っているのかわかっているのか?
自分の生きる権利を、私なんかに譲ってもいいなどと言ったのだ。
たかが一時間も話していない相手に。
「どう……して?」
この少女はこんなことをどうして言えるのだろう?
一度でもそう思ってしまったら、知りたいという思いが止まらなかった。
「貴女と私は何の関係もないのに、どうしてそこまで言えるの? ねえ、どうして!?」
「……孤独を知っているから、かな」
その時の少女の表情は少しだけ暗かった。
「私は家族を亡くしたことがあるわけじゃないけど、一人ぼっちの苦しみはわかっているつもりだよ。だからそんな苦しみは誰にもあじわってほしくないの」
少女は真剣に話を続けた。
「貴女を助けてあげたいの。私が出来ることならなんでもするから」
「……自分の命をかけてでも?」
「うん」
少女が頷いた時の眼は、どこまでもまっすぐだった。
迷いがなく地震に満ち溢れているような、そんな印象を受ける眼だった。
そこで私は気付いた。
この少女は最初から死ぬつもりはなかったのだろう。
私を助けだすことに絶対の自信をもっているから。
そのため迷いもなく、自分の命を渡してもいいなどと言えるのだ。
……ここまで言われて屈しない人がいたとしたら、それは心が穢れているのだろう。
生憎と私はそこまで心が穢れているわけではない。
だからもうこの少女を悲しませるような行為は出来なかった。
「……ねえ、貴女の名前は?」
「えっ?」
「名前だよ。友達になるのに、知らないって変だから」
その言葉を聞くと少女は涙ぐみながらも嬉しそうに答えた。
「私の名前は、高町なのは! なのはだよ」
「私は、リリス・フェイラーゼ」
「よろしくね、リリスちゃん!」
そう言うとなのはという少女は、左手で私の手をしっかりと握っていた。
その時、つい目に入ってしまった。
右手から血が垂れていることを。
「右手、ちょっとみせて」
私は返事を聞く前になのはの右手を見てみると、思っていたより傷口が深いのか出血が少し酷かった。
「ごめん、こんな傷を負わせて」
「気にしないで、大丈夫だから」
そうは言っても出血の量から考えて、あんまりほっとくのも良くない気がする。
「私のことはいいから、なのははその傷の手当てをしてきたほうがいい」
「でも……」
なのはは私を一人にするのが心配だと言っているような表情をしていた。
……なのはは優しすぎる。
優しいこと自体はいいしれないけど、自分のことより相手のことばかり考えるのはどうかと思う。
私のことを思ってくれるなら、自分のことを大切にしてほしい。
「えーと、リリスちゃん。気付いてる?」
「……何が?」
なのはは少し顔を赤くしながら、少し困ったような表情をしていた。
「どうしてかはわからないけど、リリスちゃん念話が使えてるの。それでね、いま考えていたことが全部伝わっちゃってるんだけど……」
「……全部?」
「……うん」
なんだろう、ものすごく恥ずかしい。
ここまで恥ずかしいと思ったことはないかもしれない。
顔も何だか赤くなってる気がする。
とりあえず、もう何も考えないようにしないと。
「リリスちゃんにこれ以上、心配掛けるのも嫌だから治療してくるね」
「わかった」
「それじゃあね。リリスちゃん」
そう言うとなのはは出て行った。
私は一人この部屋に残された。
そこで私は心の中でこう呟くことにした。
(お父さん、お母さん、お姉ちゃん。これで、良かったんだよね?)
そうだよ、そんな声が聞こえた気がした。
私はそのまま急に襲ってきた眠気に身を任せ再び眠った。
次に目覚めた時は、目の前になのはがいた。
「あっ、起きたんだね」
なのはは嬉しそうに声を出した。
「うん。おはよう」
少し寝ぼけながら私は返事をした。
もう少し寝ていたい気分だったのだが――
「ねえ、リリスちゃん。大事な話があるんだけどいいかな?」
こんなこと言われたら寝ていたいなどと言えるはずもなく、話を聞くことにした。
「話って、何?」
「リリスちゃん、私と一緒に時空管理局で働いてみない?」
あまりに唐突すぎることですぐに返事を返せなかった。
すこし時間をおくとようやく言葉の意味は理解出来たが、代わりに色々な疑問が出来た。
「……私の魔法の才能なんてないし、時空管理局って何をすればいいのかよくわからない」
なのはは私の疑問に一つ一つ細かく説明して言った。
だがおかしな点もあった。
時空管理局の仕事内容はわかった。
けれど私の魔力量がAAAランクに匹敵するほどとはどういうことだろう。
これでも魔法というものに興味はあって、個人的に魔力というのはどういうものなのかなどを調べていたことがある。
そのおかげである程度の知識はもっている。
だからこそわかる。
あくまで魔力量だけだがAAAランクと言ったら管理局でもそうはいないはず。
何故それだけの力を私は持っているのだろう。
……まあ、考えても答えは出ないだろう。
私のことなのだから私がわからなければそれまでだ。
深く考えるのはやめよう。
むしろ力があるなら、それを効率よく使うにはどうすればいいか考えよう。
「それで、どうかな?」
なのはは心配そうに聞いてきた。
私の答えはもう決まっている。
「……私で役に立つなら、いいよ」
この瞬間から私は時空管理局に所属することが決まった。
もちろんすぐにとはいかない。
まず最初に怪我を治す。
その後は時空管理局というものを知るために色々と学ばないといけないのだから。
「頑張ってね。リリスちゃん」
それからというもの月日はあっというまに過ぎて行った。
私が管理局に所属するまでなんだかんだで、半年以上もかかってしまった。
それというのも色々と覚えることが多すぎたのが原因なのだが。
それはそうとして、私は管理局で働く初日、早朝になのはに用事があると呼び出された。
言われたところに行くとそこは、メンテナンス室だった。
どうしてこんなところに呼び出されたのか不思議だったが、とりあえず私は中に入った。
そこではなのはが出迎えてくれた。
私はなのはにとりあえず気になったことを聞いてみた。
「なのは、どうしてこんなところに?」
「これを、渡すためだよ」
なのはに手渡されたのは、銀色のひし形の宝石だった。
「これは?」
「リリスちゃんのデバイスだよ」
「私の?」
「うん。後はリリスちゃんが、この子のことを決めるんだよ」
「……わかった」
私はイメージする。
形や使い方、そしてこの子の名前を。
そして私は告げる。
「エターナルパルス、セットアップ!」
その声を合図にこの子は起動した。
そしてこの後の会話は一生忘れることはないだろう。
『初めまして、マイマスター』
「こちらこそ、初めまして。エターナルパルス」
『早速なのですが、一つだけ私からお願いがあります。よろしいでしょうか?』
「いいよ。なに?」
『私は貴女のことが知りたい。ですから教えてください。これから永遠に守り続ける貴女のことを……』
「ここから先はもう話さなくても知っているはずだよ」
私はそう言うと昔話を終わらせた。
エターナルパルスは何も言わずただ黙っていた。
それを私は不思議に思った。
「どうかしたの?」
『……すみませんでした。辛い過去を思い出させてしまって』
「私は大丈夫。だって今と言う時間が幸せだから。だからエターナルパルスも気にしないで」
『……わかりました。お話頂きありがとうございます』
「どうしたしまして」
その時タイミング良く私のお腹はが鳴った。
気付けばもう夜で夕飯を食べるには少し遅いぐらいだ。
どうしようかと考えたが、今から何かを作る気にもならなかったので何か買ってくることにした。
そのついでに夜の散歩に行くのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら私はエターナルパルスを手に持って、自分の部屋を後にしたのだった……
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第十一話です。過去の話、ひとまず終了です。