周りには何もない。
ただ白い世界が広がっている。
私が今いるのはそんな場所だ。
そして私は気づいている。
これは夢なんだと……
――お前は愚かな選択をした。
何の前触れもなく頭に不快な声が響いた。
この声は聞き覚えがある。
全く感情がこもっていないこの声は昨日の夢でのものと同じだ。
――お前は自分の罪を認めることとなる道を選択した。
「何を言っているの……?」
――いつまで気づかぬふりをするつもりだ?
私の問いに応えることはなく、声は反対に問い返してきた。
「気づかないふり?」
――どれだけの時間を過ごそうがお前が罪を犯したことは変わらない。
「私は、罪なんか!」
――ならば何故、お前は震えている?
「なんの、こと?」
――お前自身のことだ。気づかないはずがない。お前の心は恐怖に震えている。
「そんなこと、ない……」
――いくら強く振る舞おうとしても無駄だ。
何故なのだろう?
この声を聞いていると酷く恐怖を感じる。
これ以上は聞きたくない。
――お前は弱い。この程度で心が壊れそうになるぐらい。
「やめて……」
聞けば聞くほど怖くなる。
この声はそれをわかってて言っているみたいで、やめる様子はない。
もう、やめてほしいのに……
――まだ抗うか? 認めれば楽になるというのに……
「もう、やめて。誰か、助けて!」
私は叫んだ。
誰もいない夢の中で、誰にも届くはずのない悲痛の叫びを……
だけど……
「リ……ちゃん」
私には聞こえた。
かすかに‘あの子’の声が……
「リリスちゃん! リリスちゃん!!
私は私を呼ぶ声に引っ張られるように目を覚ました。
目の前には必死に呼びかけていてくれたなのはが心配そうな表情をして立っていた。
「よかった。目が覚めたんだね。すごく苦しそうにうなされていたから心配したんだよ」
ただ目を覚ましただけなのに、なのははかなり安心した様子だ。
つまリ私はそれほど酷くうなされていたのだろう。
「ごめん……」
「ほえ? どうして謝るの?」
「心配、かけたみたいだから……」
「私のことは気にしなくていいよ」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
私は夢を見ていた先程までとは違って不思議と心は落ち着いていた。
むしろあの夢の中の私は何故あんなにも心が震えていたのかがわからなかった。
そんな考え込んでいる私の隣でなのはは何故か気まずそうにしていた。
「なのは。どうかした?」
「えーと、リリスちゃん。聞きづらいんだけど、今って何時か知ってる?」
「時間?」
私は携帯電話の時間を見た。
十時ちょうど。
今日はなのは達に九時に訓練場に集合するよう言われていた。
つまり……
「ね、寝坊!!??」
私はベッドから飛び起きて急いで身支度をし始めた。
いつもの私からは想像できないぐらい今の私は慌てていた。
しかしそれも仕方のないことだ。
十分、二十分程度の遅刻や寝坊ならまだともかく、一時間なんて洒落にならない。
なのはがここにいる理由だって約束の時間をとっくに過ぎているのにもかかわらず、私が来ないから様子を見に来たのだろう。
「急いで用意するから、先に言ってて!」
「うん、わかったよ……」
少し困ったような返事をしてなのはは部屋から出て行った。
「急がないと……」
『さすがに彼女たちでもこれ以上はよろしくないですね』
少し他人事のような声が聞こえた
「…………一つ聞いていい?」
私は動きを止めてその声に向かって話しかけた。
急いでいたはずなのだが、これを聞かないと気が済まなかった。
『何でしょう?』
「どうして起こしてくれなかったの?」
『私生活ではあまり私に頼らないようにする、とマスターがおっしゃたからです』
「……あまり頼らないというのは、絶対に頼らないって意味じゃない」
『その通りですが今回の場合は私が関与するほどのことではないと判断しました』
「…………」
確かに寝坊したことは私の責任。
この程度でデバイスに頼るのは間違っているというのもわかる。
なのにどうしてこうも納得いかない気がするのだろう?
「マスター。これ以上私との雑談で時間を潰すのはどうかと思います』
「……うん、わかってる」
このもやもやとした気分はとりあえず無視するようにしよう。
今は急いで準備して急いで行く。
それだけを考えよう。
……じゃないと自分が悪いのだが、誰かにおもいっきり八つ当たりしてしまいそうだから。
私が集合場所にたどり着いたのはなのはが部屋を出てからそれから十分ほどだった。
誰かしらは不機嫌になっているかもしれないと思ったのだがそんなことはなかった。
むしろそこにいた人たちは何故か私をみた途端おかしな態度になっていた。
ヴィータもそこにいたのだが、そのヴィータでさえでさえ、
「す、少し遅えけど……なんか、あ、あったのか?」
驚くぐらいたどたどしい口調だった。
とりあえず素直に寝坊というのもまずいかと思い少しごまかすように言うことにした。
「何でもない。遅くなったのは謝るから、気にしないで……」
悪いことをしたという気持ちと、あとうまく表しづらい気持ちがあって声が暗くなってしまった。
「そ、そうか」
だがヴィータ本人はあまり気にしていなさそうだったので、私も気にしないことにした。
「そ、それじゃリリス。これ以上他のみんなを待たせるのは悪いから始めてもいい?」
みんなという言葉に反応して周りを見てみると確かに思ったより人がいた。
なのは、フェイト、はやての三人がいるのは予想通りだった。
だけどシグナムさん、ヴィータ、ザフィーラさん、それにシャマルさんやクロノさんまでいた。
シャマルさんもシグナムさんたちと同じはやての守護騎士の一人だ。
はやての騎士は全部で四人。
つまりここに騎士全員が集まっていることになる。
さらに執務官という立場の人間もここにいる。
正直ここまでの人が一斉に集まるとは意外だった。
そこまで考えてふと思ったことがある。
今フェイトは始めてもいいかと聞いた。
ここで何かが始まるなんて聞いてない。
「始まるって何が?」
「えっ? 昨日はやてから聞いてない?」
「あっ! そうやった。昨日は集まるようにしか伝えておらんかった」
「……はやて。僕はこういうことはしっかりと伝えるべきだと思うのだが?」
「ごめんな、リリスちゃん。それでないきなりやけど、今からリリスちゃんにしてもらうことはなのはちゃんとの模擬戦や」
「模擬戦……? 昨日言ってた?」
「そうや。あと昨日は正確な動きができるか知りたいとか言うたけど、難しいことは考えんでいいで。全力でなのはちゃんとやってみてや」
昨日の話は新部隊のこと以外はあまり覚えてはいないけど、なのはと模擬戦をしてほしいとは確かに言っていた気がする。
「はやてちゃん。さすがに昨日伝えていなかったのに今日いきなりなんて無理がないかな?」
「うーん、それもそうやな」
「……私は構わない」
迷っていた二人は驚いた表情をしていた。
「急いでやる必要はないんだよ?」
「なのは、大丈夫。いつかやるなら今やったって同じ」
「そうかもしれんけど……」
「はやても心配いらない。心構えとかならできてる。それに私もなのはとどこまでやれるのか知りたいから。だから……」
――なのはも全力でやってほしい。
そう続くはずだった言葉を飲み込んだ。
「……やっぱりなんでもない」
「そう?」
「何か言いたいことがあるんなら言っていいんやで?」
「なんでもないから。気にしないで」
なのはとはやては不思議そうにはしていたがそれ以上は何も言ってはこなかった。
だが、私は知っていた。
何か言いかけたとしても二人は深く問い詰めるようなことはしないと。
だからつい口を滑らせてしまった時も私は焦ったりはしなかった。
そもそも私が思いを口にださなっかたのは理由がある。
もしなのは本人に向かって思いを言えばなのはは全力で私と戦ってくれるだろう。
なのははそういう性格だし、私にとってそれは望むこと。
だけどそれとは別な思いも私の中にはあった。
全力で戦えば今の私では完璧に負けてしまうだろう。
私はそれが嫌だった。
負けてしまうのは当然、魔法に対する知識も経験もなにもかも相手のほうが上なのだから。
それでも嫌だった。
理由は簡単、悔しいからだ。
自分より圧倒的な存在感を持っているような人に負けるならまだ納得できる。
けれど自分と年も変わらなければ、見た目だって普通の少女と変わらない。
言っては悪いけど威厳なんてものを感じるわけでもない。
どこにでも当たり前のようにいそうな、なのはという少女に完璧に負けるのは悔しい。
子供みたいな理由かもしれないが、こんな思いが存在するのだから仕方がない。
私はなのはに負けたくない。いや、勝ちたい。
なら勝つにはどうすればいいのか?
全力で向かってこられたら勝てる可能性など皆無だろう。
しかし力量を図るために向かってくるというなら話は別だ。
なのはにしてみれば相手の力量を図りたいのだから全力で潰しに行っては意味がない。
もし全力でいって私が何もできずに終わってしまえば、私の実力はどの程度かわかるだけだ。
私が副隊長としての力があるかどうかはわからず終わる。
それでは意味がないはずだ。
これらの理由からなのはは全力ではこない。
全力でこないなら隙が生まれる可能性は高くなる。
もしくは不意打ちなんてものも効果をなすかもしれない。
つまりなのはに勝てるかもしれないのだ。
勝てるかもしれないから、なのはに思いを言わなかった。
なのはに全力で戦ってほしい、けれど負けたくないから全力で戦ってほしくない。
これら二つは相反する思い。どちらかを選ばざる得ない。
そして私が選んだのは後者だった。
そして選んだのなら迷いを抱いたりするわけにはいかない。
なのはが全力ではこないという確信があるのだから、それを精一杯に利用するだけだ。
「ほんならお二人さん。私らが指定する場所にそれぞれ待機してもらえるか? あと始まりの合図は魔力弾を打ち上げるわ」
今回の模擬戦は広い訓練場が使用されるうえに疑似的に作る廃墟のようなフィールドになるため別々の場所で待機して始めることになる。
このような場所だと障害物が邪魔で互いの魔力による攻撃が通りづらいなどのデメリットはあるが、隠れやすいといったメリットもある。
これらをうまく利用しながら戦うことが今回のポイントになるだろう。
なのはが先に待機場所に言ったので私も行こうとすると……
「リリス、頑張ってね。応援してるよ」
「うちも応戦するで。頑張りや~」
「まあ、簡単におとされねえよう、必死にやれよ」
「今のお前に出来ることを私たちに見せてみろ」
「期待している」
「怪我とかしたら治してあげるけど、あまり無理はしちゃダメよ」
「君の力、見せてもらうよ」
フェイト、はやて、ヴィータ、シグナムさん、ザフィーラさん、シャマルさん、クロノさん、以上の人たちが励ましの言葉を贈ってくれた。
「頑張ります」
一言だけ自分に言い聞かすように返事をすると待機場所に向かった。
ほどなくしてその場所にはついたが時間はまだありそうだった。
(ねえ、エターナルパルス?」
『何でしょうか?』
(ここまで言われて無様に負けるわけにはいかないよね?)
『当然ですよ、マスター』
話はそこで終わりだった。
自分の愛機(デバイス)の言葉が言い終わると同時に、魔力弾が打ち上がった。
「エターナルパルス。セット、アップ」
『了解。マイマスター』
私たちの声を合図に私たちは戦闘スタイルになった。
私は即座に行動した。
この模擬戦に勝つためにはいくつかの問題を解決していかなけらばならない。
その一つ目が相手の居場所を掴むことだ。
そこで私が選択した行動は、誰が見ても多分驚くものだろう。
なにせいきなり空を飛んで空から地上を探し始めたからだ。
なのはのように射撃魔法などが優秀な魔道士にとって今の私は遠くから攻撃できる言い的になっているだろう。
『マスター! 魔力弾、数は十。きます』
案の定なのはは仕掛けてきた。
そして見逃しはしなかった。
なのはが攻撃してきたその地点を。
「ソウルシューター! シュート!」
私は自分の射撃魔法で向かってきた魔力弾を相殺させ、すぐさま地上に向かって降下した。
(まず第一の問題はクリアかな?)
『そうですね。ですが苦しいのはここからですよ」
(そうだった。油断は禁物か)
第一の問題は何とかわざと空に上がり、攻撃を受けるという行動によってクリアできた。
なのはの位置はわかった。
当然なのははすぐさま移動するだろう。
後は私が今までのなのはの模擬戦での動きを頭で思い出しながら、次に何処に移動するかを予想して不意をついて攻撃をすればいい。
次のなのはの行動は、一度だけ距離をとるだろう。
相手があんな行動をすれば様子を見るため距離をとるのが普通だからだ。
それに対して私がすることといえば、単純なことにただ突っ込むというものだった。
今回の模擬戦はいくら私が妙な行動をとろうが、そのたびに相手に時間を与えてはなんの意味にもならない。
だからこそ私は迅速に動くことが必要になるのだ。
(多分、ここらへん)
私が予想地点にたどり着くとなのはの姿は確認できなかったが、予想通り複数の魔力弾が高速で飛んできた。
私はそれらを今度はシールドで防ぎきった。
先程より弾速が早かったため、射撃魔法が間に合わなかったのだ。
私がその魔力弾を相手し終わったころには、もうすでになのはの気配はなかった。
(くっ、逃げられた)
心の中で呟くと、私はすぐさまなのはを追跡した。
だが結果だけを言うと、次の場所でもなのはにはまかれてしまった。
実際のところ私がなのはの居場所を予測するというこの行動は、一見私が有利に思えるかもしれないがそういうわけでもない。
どうしてこちらの動きが予想されるのだろうと思うだけならまだいいが、それを利用しようと考えられたらかなりまずい。
何故ならば私の攻撃手段はほとんどが相手の姿が見えないと使えないものばかりだから、必然的に相手がいる場所には行かなくてはならない。
もしそれに気付かれればそこに罠でもはられるかもしれないからだ。
相手がなのはならばあまり回数を重ねるわけにはいかない。
(次あたりで絶対に見つけないと)
心の中で少し気合を入れると、次の予想地点へ急いだ。
そしてこれも四度目になるが、どこからともなく魔力弾は飛んできた。
けれどやっぱり姿は見えない。
いくら‘魔力弾が飛んできたほう’に目を凝らしても、なのはの姿は見当たらない。
そこで私はふと閃いた。
(魔力弾が飛んできたほうにいないということは……」
私は後ろを振り向いた。
そこにいた。
なのははそこにいた。
よく見ないとわからないけど、ほぼ崩れている建物の中に確かにいた。
(見つけた!)
私はすぐさま自分の杖を向ける。
「ソウルシューター・フルパワー!」
その声と同時に高速の魔力弾が一斉になのはへと向かう。
なのはからも同じように高速の魔力弾が飛んでくる。
そして互いにぶつかり合い相殺する。
あたりには多少の砂煙が舞う。
だがこの時こそ、最大の狙い目だった。
私はその砂煙にまぎれてなのはの後方へと移動した。
当然この程度で不意を突こうとしてもなのはでは引っかかりはしないだろう。
実際になのはのいる場所からでは私が移動したのは見えないうえ、砂煙がはれる前に後方へと移動したのになのははこっちを向いていた。
再び同じように続く射撃戦。
ただの射撃戦なら、私は勝てない。
徐々に押されて来ているのがその証拠だ。
「リリスちゃん。このままじゃ勝てないよ」
「確かにそう。このままじゃ勝てない。けれど!」
私が叫ぶと同時になのはが立っていた場所の真下から突如、四発の魔力弾が飛んできた。
それはなのはの両手両足に一発ずつ当たり、当たった場所を拘束した。
「こ、これは!?」
「シューターバインド。見た目はただの魔力弾だけど、当たった場所を拘束する。私が使うバインドの一つ」
さすがのなのはもこの状況には驚いているようだ。
にもかかわらずすぐさまバインドから抜けるのはやっぱりすごいと素直に思う。
そもそもこのバインドはそんなに拘束力が強くはないのだが、それでも普通なら焦ったりして時間をかけるはずなのだ。
ここらへんの違いはやっぱり経験の差かと思う。
けれど私の狙いはうまくいった。
なのはは空へとあがった。
地上は突然バインドで拘束されるかもしれないのだから、この選択は当然だろう。
(第二の問題、クリア)
なのはを空に上げるという問題をクリアした私は心の中で呟き、なのはと一定距離を保ったまま空へと上がった。
この行動も相手にとっては意外なものかもしれない。
相手は下に降りることが出来ないのに対し、私は下で戦うことが出来る。
なのに私は空でなのはと直接対決する選択を選んだ。
理由はいくつかある。
「どうしてリリスちゃんもそらに上がるの?」
「まともな攻撃なんてあてられないから」
一つ目はこれだ。
下からいくら攻撃をしようが、決定的な一撃を入れるのは難しい。
射撃魔法も砲撃魔法もバインドも、下から使い続けてもなのはにまともにあてられるとは思わない。
「けれどさっきみたいに私が混乱すれば話は別だよ?」
「それも無理。あれ以上の策なんて考えていないから」
理由の二つ目がこれだ。
さっきの不意をついてのバインド以外の策で、あれ以上になのはを混乱させれるものは下にいるとなにもないのだ。
「それになのはの戦闘経験から考えて、もっとずばぬけたものでもないとよまれるから」
そう、三つ目にして最大の理由がこれだ。
これなら絶対いけると思えるような策でもないと、戦闘経験の無い私が考えたものなどすぐよまれてしまう。
これら三つの理由から私だけ下で戦っても勝てる可能性を見つけられなかった。だから空に上がったのだ。
「うん。リリスちゃんの言いたいことはわかったよ」
「それなら良かった」
「じゃあ、改めていくよ。リリスちゃん」
なのはとの空での闘いが始まった。
ここからが最後にして最大の問題だった。
最後の問題は、空中戦でなのはに勝つというもの。
まさに最難関と言えるだろう。
「ディバイシューター・フルパワー!」
「ソウルシューター・フルパワー!」
「「シュート!!」」
お互いに自分の魔法を相手にぶつけている。
実力は拮抗しているように見える。
しかしこんな射撃魔法をぶつけあうという行為を何度繰り返したことだろう。
「くっ! おさ、れてる?」
私となのはでは魔力量が違う。
私のほうが劣っているのだから、同じペースで使い続けていれば私のほうが早めに疲れは出る。
『マスター! 上です!』
言葉の通り上を見ると数発の魔力弾が向かってきていた。
私はそれをよけきれず、まもとに受けてしまった。
「っ!?」
急いで態勢をもちなおそうとしたその時、突然手足が拘束された。
「設置型のバインド?」
今なのははバインドの魔法をを使っている感じでない。
隙をみて少し前に設置していたのだろう。
「いくよ。これが私の全力全開!」
なのはのあのモーションはまず間違いなく、ディバインバスター。
ならば……
(今ここでしかける!)
私は魔力をためた。
この状況は私にとって不利ではない。
むしろこの瞬間を望んでいた。
射撃魔法が一切こない、このわずかな時間を。
「なのは、甘いよ! エターナルパルス!!」
「了解。マイマスター!」
なのはは発射シークエンスにもう入ってる。
けれどぎりぎり間に合う。
「サードリングバインド!」
その声を発すると同時になのはの手足は再び先程のように拘束された。
「えっ!」
サードリングバインドはただのバインドではない。
相当の拘束力を持つだけでなく、バインドをほどくという作業を3回も繰替えさなかければならない特殊なものだ。
それゆえに消費する魔力量は多いという欠点もあるがこれぐらいは仕方がないだろう。
なのはは今回は焦っていた。
今のなのは隙だらけだからだ。
私はすぐさま自分の拘束を外した。
「これで決める、なのは。エターナルパルス!」
『カウントスタート。10、9、8、7、6』
なのはにとって無情なカウントが始まる。
今から打つのは私の残存魔力で打てる一番の砲撃魔法だ。
これで私は勝つ。
『5、4、3、2、1、0』
「ソウルフォースバスター!!!」
私の打った砲撃は真っ直ぐなのはへと向かっていき直撃した。
周りに轟音が響き、当たりに砂煙が舞う。
「はあ、はあ、やった?」
徐々に砂煙がはれていった。
そこで私はある光景に驚愕した。
「そ、んな……」
無傷というわけではなさそうだが、砂煙がはれた先にいた少女は目立ったダメージはなさそうだった。
「今度はこっちの、番だよ!」
なのはは再びディバインバスターの発射シークエンスに入っていた。
気づけば再び私はバインドで拘束されていた。
(もう、無理だよ)
私は諦めの声を心で呟いた。
その時だった。
――もう、諦めるのかしら?
何処からともなく声が聞こえた。
――まだ戦う術が残っているにも関わらず、諦めるのかしらと聞いているのよ?
(戦う術なんて、もう……)
私はそこで思いだした。
(いや、まだあった。戦う術が……)
けれどこれで戦うとしてもチャンスは一回。
今の体力と魔力量では二回目はない。
――思いだしたようね。ならこれは私からの手助けよ。
それを最後に声は聞こえなくなってしまった。
(手助けって何を?)
『マスター、前を!』
よそ見をしていた私が前をむくと、そこにはちょうど砲撃魔法を発射するとこのなのはがいた。
(急いでスタイルチェンジして!)
『マスター。何をするつもりですか?」
(お願い、早く!)
『……了解!』
エターナルパルスがもう一つの形態、剣(つるぎ)になるのと、
「ディバインバスター!」
なのはが砲撃を打つのはほぼ同時だった。
ここで気づいたのだが、バインドが何故か外れていた。
ならこの砲撃はぎりぎりかわせるはず。
そう思い私は精一杯横によけたのだが、その行動をした自分自身が驚愕した。
(なに、この速さ!?)
今までの私はこんなにも高速の移動が出来たことなんてない。
それなのに今の私は自分でも信じられないくらいの高速移動を可能としていた。
(詮索はあとにしよう。今は……)
目の前の相手に勝つためにこの砲撃を目くらましとして、後方に移動しなければ。
私がなのはの後方につくのと、なのはの砲撃がやんだのはほぼ同時だった。
打ち終わってすぐだからかなのははこちらに気づくのにわずかに遅れた。
私はその隙を見逃さず高速の一撃を振るった。
デバイスで防ごうとしているが、今の私の剣撃はその程度ではとめれらないという確信があった。
今度こそ決まったと思った。
なのに……
ガキィンン!!
響いたのは金属音。
私の剣がデバイスに振れた直後、シールドが複数同時に出現しデバイスをごとなのはへ攻撃するまでにはいかなかった。
「二人とも、そこまでだ!」
ちょうどその時、クロノさんからの念話によるやめの声がかかった。
「終わった?」
「うん、そうみたいだね。リリスちゃん、お疲れ様」
「ありがとう」
私たちが他の人たちのもとにたどりつくと私はすぐに座り込んでしまった。
「ずいぶんと疲れてるみたいね。このあとすぐ休むといいわ」
「シャマルさん。私この後は仕事が……」
「ダメ! こんなに疲れてるんだからしっかりと休まないと」
確かに疲れてはいる。
けれど今日は休日なんてわけじゃないのだから、この後は普通に仕事はある。
疲れているからって仕事をさぼるわけにはいかない。
「シャマルさん。でも……」
「いや、君はこの後休んでもらって構わない。もちろんなのはもだ」
「いいんですか?」
「クロノ君、私もいいの?」
「ああ。失礼だが今回の模擬戦、こんなにも接戦になるなんて思っていなかった」
「……接戦になったのは、なのはが私に力を合わせてくれたからです」
そうでければ今回のようにはならなかっただろう。
でも何故か他の人たちは不思議そうに見ていた。
「ええと、リリス。今回のこの模擬戦でなのは手加減してるように見えたの?」
「そう、だけど」
「リリスちゃん、なのはちゃんは手を抜いたりしてへんよ」
「えっ? 何を言ってるの、はやて?」
なのはが手加減していなかったなんてあるはずがない。
「おいおい、はやてが言ってる事は本当だぞ」
「ヴィータまで何を?」
「主の言うとおりだ。もし仮にお前相手に高町が手加減なんてすれば今回の勝負、お前の勝ちで終わっていた」
「ですがシグナムさん。最初は様子見のような感じでした」
「最初だけはな。お前たち二人が空での闘いになったころは手加減などしてはいなかった」
「ザフィーラさん……」
「私の目から見ても二人の実力は拮抗していると思うわ」
「シャマルさん、本当ですか?
「ええ、本当よ」
「……でも」
「君はいいかげん自分の力を知るべきだ」
「私の力?」
「今この場に集まっているメンバーをよく見てみるんだ。何も思わないか?」
「すごい人たちがそろっていると思います」
「君がいうそのすごい人たちとやらが、今日はこれを見るためにここにいるんだ。これがどういう意味かわからないか?」
「……」
そんな言い方をされればいくら私でもわかる。
でも思ったことはなかった。
私がなのはたちと同等の強さを持っているなんて。
射撃魔法や砲撃魔法はなのはには勝てないし、接近戦ではシグナムさんたちに勝てない。
誰にも勝てない私がそんなに強いと思えなかったのだ。
「確かに君は射撃や砲撃といった遠距離からの攻撃だけではなのはに勝つことは難しい。だがそれがなのはに勝てないという意味にはならない」
「どういう、意味ですか?」
「例え遠距離からの攻撃で勝てないとしても、特殊なバインドや接近戦。こういったものを使えば勝てるかもしれないということだ」
「……クロノさん、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「私は今までずっと自分は弱いと思っていました。クロノさんから見たらどうですか?」
「君は弱くなんかない。もっと自分に自信を持っていい」
「ありがとう、ございます」
私が例を言うと、ころ合いを見計らっていたようにはやてが話し始めた。
「それじゃみんな、そろそろもどろか」
「うん。それじゃリリス、ゆっくり休んでね」
「リリスちゃん、ゆっくり休むんやで。それと、正直驚いたわ。いつのまにかこんなに強くなっていたんやね」
「今度あたしとも模擬戦しろよ。あと最後のあの動きは悪くねえからいつでもだせるようにしとけ」
「私が今度は相手する。あの動きがお前の本当の動きなのだとしたら興味はあるからな」
「今の二人は気にしなくていい。俺から後で自重するように言っとく」
「そうそう、あまり言うこと聞かなくてもいいからね。自分の体のことを大切にしてね」
「では僕も戻る。明日からはいつも通りで頼む」
七人はそれぞれの性格にあった言葉を贈りながら戻って行った。
今この場にいるのは私となのはだけだ。
「昨日も最後はこんな風に二人だったね」
「そういえば、そうだった」
「……ねえ、リリスちゃん。一つ聞いてもいいかな?」
「なに?」
「最後のあの接近戦で見せたあの動きのことなんだけど」
「……あれは、偶然」
「偶然、出来るものなのかな?」
「出来たんだからしょうがない」
「……わかった。じゃあこれはお願いね。もうあんな動きはしないようにして」
「どうして?」
「自分でもわからないの。何故かリリスちゃんはもうやっちゃ駄目な気がして。ごめんね、いきなりこんなこと言って」
「気にしてない。それより疲れたから部屋に戻ろう、なのは」
「そうだね」
私たちは二人で戻って行った。
途中歩いている時、私は何故か疑問を感じた。
どうして妙な声が聞こえたことを話さなかったのだろう?
考えてみたが答えはでなかった。
ならばこれ以上考える必要はないかと結論付け考えるのはやめた。
(……眠い)
とりあえず今はすぐに部屋に戻って寝たかった。
それはどうやらなのはも同じようだった。
私たちは自然と歩く速さを上げながらそれぞれ自分の部屋へと戻って行った……
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
第六話です。今までよりかなり長いです。