「そんな言い訳が通用するはずないだろ!」
私は自分の部屋の前でとある青年に説教されていた。
稽古を終えて戻ってきた私が、何故こんな状況に陥ったのかいうと理由は単純だ。
頼まれていた仕事を忘れていたからだ……
朝から色々あったからとさりげなく反論もしてみたが、結果は今のように一蹴されてしまった。
「どんな理由があったにせよ、君は仕事を受け持った。ならばそれを遣り切るのは義務じゃないのか?」
「……すみませんでした」
言い返すことなどできない。全くの正論だから……
「……謝ったということは、自分の非は認めたようだな?」
「はい」
「それならいい。しかし覚えておくんだ。君がしてしまったことは信頼を失うことにつながるということをな」
「……わかりました」
「なら、この話は終わりだ。仕事のほうはこっちで片付けておいたから戻ってかまわない」
「……ありがとうございます。クロノさん」
素直に私はクロノという青年に礼を言った。
そして部屋に入ろうとした、その時だった。
「……いや、すまない。少し待ってくれ」
私は呼びとめられた。
「はい、何ですか?」
「考えてみれば君がこういうし失敗をするなんて妙だと思ってな。朝から色々あったと言っていたが、それが関係しているのか?」
「聞いてくれていたんですね」
「まあな。気がたっていたのは事実だが、だからといって相手の言ったことを聞き洩らすようなことはしないさ」
……こうやってさりげなく相手のことも心配してあげられるのはこの人、クロノ・ハラオウン執務官の長所なのだろう。
「……話を聞いてもらってもいいですか?」
「ああ、構わない」
許可をもらったの私は、目の前にいる優しい青年にゆっくりと話し始めた――
「……なるほど、そんなことがあったのか」
自分が悩んでいたことや、それの解決策が見つかったことなど、とりあえず今日あったことをを私は全部話した。
それをは聞き終えるとクロノさんは何故か何かを考えるようなしぐさをとっていた。
「どうかしましたか?」
「……一つだけ疑問がある」
「疑問、ですか?」
「あの三人に自分がないと思っている才能を期待をされてしまったから君は悩んでいると言ったな?」
「はい」
「そして君は本当にそんな才能があるのか、自分は期待に応えることができるのか知るために訓練で答えを出そうとした」
「そうです」
「ここで疑問だ。君は何故わざわざ訓練で答えを出そうとするんだ?」
「……どういうことですか?」
「彼女たちが新人たちによる新部隊を作ろうとしているのだとしたら、そこで答えを見つければいいんじゃないのか?」
「それは……」
「そうすれば自分には才能があるのかどうかという答えは出ると思うが」
「……それだと、もう一つのほうは答えは出ません」
クロノさんの言うことはわかる。
確かに一つの答えは出るだろう。
しかしもう一つの、期待に応えれるかどうかという答えは出ない。それでは意味がない。怖いのは変わらない。
何を言ってもこの二つの答えが出ないならば、私はなのはたちの話を受けることは出来ない。
……そう思っていた。この言葉を聞くまでは……
「君は期待とは必ず応えないといけないものだと思っているのか?」
当然です、と言うことは出来なかった。
何故なら、そんなはずないからだ。
「黙っていてはわからない。君は期待とは僕が言ったようなものだと思っているのか?」
「……そんなはず、ないです」
「その通りだ。期待とは必ず応えなくてはいけないものなんかじゃない。大事なのは――」
「少しでも応えられるようにする、そんな心構えをもつこと……」
クロノさんの言葉を遮るように、私は自分の考えを述べた。
「わかっているじゃないか。それでいいんだ」
クロノさんはその答えに満足しているようだった。
しかし私はまだ迷っていた。
期待されるということの考え方が間違っていたことは理解した。
しかし怖いと思う原因が解決がされたわけじゃない。
私は‘なのはたちに見放される’ことが怖いのだ。
結局のところクロノさんが言ったことは私が求めている答えとは違うのだと思う。
「まだ迷いがあるみたいだな?」
表情に出てしまったのか、私が迷いをまだ抱いていることは筒抜けだったようだ。
ならば隠し通すことは無理だろう。正直に話すのが一番だ。
「なのはたちに見放されたらと思うと怖いんです。だから答えが欲しかった。自信を持てない私が少しでも自身を持てるように……」
顔を伏せながら私は話していた。だからクロノさんの表情は見ていない。
だがこのままでいるわけにもいかない。
ゆっくりと顔を上げるとそこには、少し呆れているようなクロノさんがいた。
「はあ。君は頭はいいのに、意外なところでにぶいんだな」
同じようなことをヴィータにも言われた気がする。
「君は自分が考えていることが、彼女たちも考えているとは思わないのか? 君にとって彼女たちはそんなに冷酷な人間か?」
「……そんなことないです」
「なら信じればいい。例え期待に応えれずとも、彼女たちはそんなことで見放すようなことは絶対にしないとな」
「……そう、ですね」
どうして私はこんなにも悩んでいたのだろう?
彼女たちは優しい。
どんなことがあろうと誰かを見放すような真似はしない。
そんなの当たり前のようにわかっていたはずなのに。
「……こんな簡単な答えを、どうしてすぐ出せなかったのだろう?」
「僕にはわからない。僕があと言えることはただ一言、もう迷う必要なんかないんじゃいか?」
「……クロノさん。話を聞いていただき、ありがとうございます」
「気にしなくていい」
「……わかりました。それでは失礼します」
クロノさんの返事も聞かずに私は背を向け部屋の前を通り過ぎて行った。
少し失礼だったかもしれないが何か言われたら後で謝ろう。
とりあえず今は彼女たちを探さないと……
そうして意気込んだ私が一人を見つけたのはほどなくしてのことだった。
「なのは、待って!」
焦ったためか少し大声になってしまった。
それに対し私の大声をあまり聞かないなのはは少し驚きながら振り向いた。
「どうしたの、リリスちゃん?」
「話がある」
「大事なお話、みたいだね」
「用件だけ言う。朝のあの話、受けさせて」
「……念のため聞くよ。真剣に考えた?」
「考えた。考え過ぎなんじゃないかってぐらい」
私はなのはをまっすぐ見詰めていた。なのはも同じようにしていた。
そして――
「……よろしくね、リリスちゃん」
なのはは手を差し出してきた。
「よろしく、なのは」
私はそれを握り返した。
「リリスちゃん。副隊長なんて立場は大変かもしれないけど頑張ってね」
「……そのことで、先に言っておきたいことがある?」
「なに?」
「なのはたちの期待に応えることは出来ないかもしれない。けれど私、頑張るから」
「心配しなくても大丈夫だよ。リリスちゃんが出来る範囲でいいんだから」
なのはは微笑みながら、励ましてくれた。
(あんなに悩む必要なんてなかった……)
改めて私はこう思った。
「それじゃ、リリスちゃん。フェイトちゃんたちに教えに行こう」
「うん、そうだね」
これから大変なんだろうな、なんて呑気に考えながら私はなのはと一緒に歩き出した。その時――
『マスター。ようやく答えを見つけましたね』
今まで黙っていた
(本当に、やっと見つけられた)
『お疲れ様です』
(まだ早い。本当に疲れるのはこれからなんだから)
『そうでした。まだこのお言葉は早かったようですね』
(これから忙しくなるけど、一緒に頑張ろう)
『はい。マイマスター』
こんなやりとりをしながら、私は思ったことがある。
この子は私が望んでいた答えを知っていたのではないかということだ。
聞いても多分、答えてはくれないだろう。
でも何故か、私はこれが間違ってはいない気がした。
そんなことを考えたあと、私はなのはと一緒に新部隊の話を受けることをフェイト達に話した。
二人は予想していた通り、歓迎してくれた。
まあ、私は誘われた側だから、歓迎されなかったらおかしいのだが……
とりあえずその後は色々な話を気いたりと、とにかく忙しく気づけば夜くになっていた。
部屋に戻って来た頃はもうすでに、夜遅くになっていた。
疲れ切っていた私はすぐさま寝床に入り寝ることにした。
こうして私の色々なことがあった一日は終わりを迎えたのだった……
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第五話です。