「どうするべき、なんだろう……?」
部屋に戻ってきた私の第一声は弱々しかった。
それに答えてくれたのは私の
『マスターは、何に対して悩んでいるのですか?』
「…………」
その問いに答えなかった。言わなくとも理解しているはずだと思ったからだ。
私は声を無視し、先ほどの話について考え始めた。
なのはたちの話を聞いた私は、少し戸惑いこそしたが確かにうれしいと感じた。
自分が必要とされていると思ったからだ。
さらに経験を積むこともできる。
まさにいいことばかりだと思っていた。
……模擬戦の意味を知るまでは。
意味を知った時、自分が考えているほどいいことばかりではないことに気付いた。
彼女たちは私のことを誤解していたのだ。
それは私にあるはずのない判断力に優れているという才能を持っていると思っていること。
その結果、私が副隊長などといった立場でも充分にやっていけるだろうと考えていることだった。
……結局のところ悩んでいる理由はその誤解が問題なのだ。
私がこの話を受けてしまえば、彼女たちは少なからず私に指揮をとらせようとするだろう。
今回の話は新人たちに経験を積ませようとする為のものなのだから当然だ。
しかしそれは無理なのだ。
あるはずのない才能をいかせと言われているようなものなのだから。
「やっぱり断るべきかな……」
――今回のような機会ならこれから先にいくらでもあるはず。
――何もこれが最後になるわけではない。
私の諦めに近い一言にはこんな思いも含まれていた。
それを聞いていた私の愛機(デバイス)は、ただ冷静に話しかけてきた。
『最後にどのような決断を下されるかはマスター次第です。ですが一つだけ質問をしてもよろしいですか?』
「いいよ」
『マスターは何故、悩んでいるのですか?』
……どんなことを聞かれるのかと思えば、さっきと同じようなことだった。
言わずともわかっているはずなのに、どうしてわざわざ私から聞こうとするのかは不思議だった。
だが、いいよと返事をしたのだから、とりあえず答えてあげることにした。
「……誤解されていたからだよ」
簡潔(かんけつ)に言ってしまったが、これで十分理解してくれるだろうと思った。だが――
『いえ、それでは質問の答えにはなっていません』
返ってきたのは予想外なものだった。
「どういうこと?」
『今の答えでは、現状を認識したということしか私には伝わりません。……ここまで言えばマスターならわかるはずです。質問の意味が』
「……うん。そこまで言われてやっとわかった」
つまり私は、質問の意味を間違えてとらえていたのだ。
私は誤解されいたからと答えてしまっていた。
だが、そういう意味じゃない。
その誤解されていたという現状を私は、どのように感じたのかをこの子は聞きたがっていたのだろう。
『では、改めてお聞きします。マスターは何故、悩んでいるのですか?」
今度は意味を間違えないように答えた。
「自信がないから。あと、怖いからだよ」
……自分で言っておいて少し情けないかなと思う。
私は自分にあまり自信がもつことができない。
だから今回のように、長々と悩みを抱くようなことになるのだろう。
そんなことを考えながら、私は何を言われるのかただ待った。
あまり良い返事がもらえるとは思っていなかった。
『マスター。貴女は一つだけ勘違いをしています』
だからこれは私にとって以外だった。
『マスターは彼女たちが言っていたような才能はないと思っているようですが、もし本当にそうであったなら私があの場でお断りしていました』
「えっ?」
『……その反応を見る限り、本当にお気づきでないようですね?」
「気づくも何も、だって私は……」
『信じてもらえないのであれば、他の人たちにも聞いてみたらいかがですか?』
「……他の人に聞いたところで、あの模擬戦をみていたら答えは決まっていると思う」
『はい。ですからあの模擬戦を見ていなかったとしたらどうなのか、という過程のもとでお聞きすればいいと思います』
それは気づかなかった、というのが今の私の気持ちだ。
確かにそれなら、今までの私自身が判断されるわけだから、悪くないと思う。
ただ一つだけ不安がある。
「もしそれで、私には向いてないと思われていたらどうしよう……」
『その心配はありません。私が保証します』
「……わかった。他の人に聞いてみる」
不確定なことは言わないこの子がここまで言うのだから、それだけ私のことを評価してくれているのだろう。
それは純粋に嬉しいと思う。だから私もこれ以上は何も言わないことにした。
『では早速ですが、お聞きに行きますか』
「うん、そうだね」
そう言って私が腰かけていた寝床から立ち上がった時だった。
突然部屋のドアがノックされた。
「誰?」
「私だ。入るぞ」
そう言って入ってきたのは、意外な
「シグナムさん? どうかしましたか?」
「どうかしたかではない。時間はとっくに過ぎているぞ」
目の前にいるのは、はやての守護騎士。ヴォルケンリッターの一人、シグナムさんだった。
だが、どうしてここに来たのだろう。
(時間が過ぎているってどういう………………あっ)
そこで私は気づいた。
確か今日は、シグナムさんに剣の稽古をつけてもらう約束だったのだ。
時間はもう一時間近くが過ぎようとしていた。
「まさか、忘れていたのか?」
呆れたような口調だった。
「すっ、すみません。すぐに行きます」
私はすぐに準備を始めた。といっても訓練用の剣を用意するだけなのだが、無駄に焦ってしまった。
「それにしても、お前が約束を忘れるなんてめずらしい。何かあったのか?」
「……はい、ありました」
この期に及んで嘘を言うのもどうかと思い、何かがあったことだけが正直に言った。
シグナムさんもただ、そうかとだけ言うだけでそれ以上は何も聞いてはこなかった。
「準備ができたなら行くぞ」
「はい。あと稽古が終わった後、一つだけ聞きたいことがあります」
「了解した。終わったあと聞こう」
「……ありがとうございます」
私たち二人はそれ以上の会話をすることもなく、屋内の訓練場へと向かった……
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第三話です。