No.447042

トトリのアトリエ ~若き双剣聖の冒険譚~ 第5章 母の行方

紅葉さん

この小説は、『トトリのアトリエ ~アーランドの錬金術士2』の二次創作作品です。

2013年 1月25日……第5章 完結

2012-07-06 02:13:29 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3857   閲覧ユーザー数:3691

第18話 水中散策で思わぬ遭遇

 

7月某日。

俺は仕事を探しに、アーランドの冒険者ギルドを訪れていた。

依頼書の貼られた掲示板を、何かいい仕事はないかと物色する。

その途中で、掲示板の隅から隅までを見回していた視線を、俺は一箇所で止めた。

視線の先にある依頼書には、『湖底の溜まりを採取せよ!』と記されている。

『湖底の溜まり』は水に含まれた不純物が沈殿した物で、可燃性の物質も含まれているらしく、燃料として使用される事が多い。

何でもその品質は、数ある天然燃料の中でも最も良質な部類に入るのだとか。

しかし、『湖底の溜まり』を採取できるのは、その名の通り主に湖の底だ。

稀に同様の物質を含んでいる『湖底の溜まり』と似て非なる物が地上で採れるらしいが、天然物はやはり湖底でしか採れない。

水中、それも湖底にある物を取って来るには、それなりの準備が必要だ。

俺は依頼書を剥がして、この依頼の詳細を訊ねるべく、クーデリアさんの横に立つもう1人の受付嬢、フィリーさんの(もと)に向かった。

 

「こんにちは、フィリーさん」

「ど、どうも、こんにちは。そ、その依頼を受けるんですか?」

 

この人は『フィリー・エアハルト』さん。

前述の通り、冒険者ギルドの受付嬢をしている。

しかし、この職種には確実にミスマッチである対人恐怖症を患っているらしく、女性なら比較的大丈夫らしいが、男性相手だと過剰に怯えてしまい、まともに対応できない事もしばしばあるそうだ。

現に俺も、最初の頃は会話の度に怯えられ、何度も複雑な気分にさせられた物だ。

最近になって、ようやく男性相手でもそれなりの対応をできるようになったらしいが、それでもまだ、どこかぎこちない態度になってしまっている。

どうやら元々は、彼女のお姉さんがこの仕事をしていたらしいが、そのお姉さんがとある事情で旅に出てしまったため、彼女が代役としてこの仕事をさせられるようになってしまったとか。

彼女にしては、迷惑この上ない話だろう。

 

「あっ、いえ、ちょっと気になったので、この依頼の詳細を訊ねようと思いまして」

「はい……どう言った事が気になるんですか?」

「いえ、この『湖底の溜まり』ですが、水中で採れる方なのか、それとも地上で採れる方なのか、どちらを採って来ればいいのか、と思いまして」

「そうですね……依頼主の方は、できれば水中の方を採って来て欲しいみたいです。そちらの方が、混合物の純度が比較的高いそうなので」

「なるほど……」

「あっ、でも、無理そうなら地上で採れる方でもいいそうなので、無理しなくてもいいですよ?」

「いえ、何か方法がないか考えてみます」

「それなら、あたしにいい考えがあるわよ」

 

声をかけて来たのはクーデリアさんだった。先程の俺とフィリーさんの会話を聞いていたのだろう。

『いい考え』と言う言葉に釣られた俺は、クーデリアさんに話を聞こうと声をかけ返した。

 

「いい考えって……何ですか?」

「あんた、『エアドロップ』ってアイテム知ってるかしら?舐めると中から酸素が出て来る飴なんだけど、確か、ロロナがいくつか作って雑貨屋に納品してたと思うから、それを買ってみたらどう?」

「それは、水中で採取活動ができるぐらいの量の酸素が出るんですか?」

「そりゃね。元々、そう言う事をする為に作ったような物だもの。ロロナったら、一時期水中散歩にはまってたみたいで、相当な量の『エアドロップ』を納品してたはずよ。今でも、少しぐらいなら余ってるんじゃない?」

「なるほど……ありがとうございます。それでやってみますね」

 

俺は『湖底の溜まり』の採取依頼を受けて、職人通りにある『ロウとティファの雑貨屋』へ向かった。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

「あら、ライナー君じゃない。いらっしゃい」

「こんにちは、ティファナさん」

 

彼女は『ロウとティファの雑貨屋』の店主、『ティファナ・ヒルデブランド』さんだ。

数年前に旦那さんを亡くしているらしいが、当人はその事については既に吹っ切れているようで、いつも屈託のない笑顔で、店を訪れた客の相手をしている。

ちなみにこの方、街のおじ様(がた)から尋常じゃない人気を博していて、彼女の店に行くと、必ず中年の紳士が最低でも3、4人は、買い物そっちのけでティファナさんに視線を注いでいる、と言った光景を拝む事ができる。

それもまぁ納得の結果で、上品な雰囲気と端麗な容姿がいい具合にマッチしていて、俺も初めて出会った時はつい数秒間の間言葉を失ってしまった程だ。

 

「今日は何が欲しいのかしら?」

「えーっと……『エアドロップ』ってまだありますかね?ちょっと、冒険者の仕事で入用になってしまいまして」

「『エアドロップ』ね?ちょっと待ってて。在庫があるか見て来るから」

 

そう言って、ティファナさんは店の奥へ引っ込んで行った。

おじ様(がた)の小さなブーイングが聞こえた気がしたが、そんなの俺の知った事ではない。

程なくして、ティファナさんがカウンターに再び姿を現した。

 

「あと少ししかないわね。10個にも満たないわ」

「そうですか。差し支えなければ、あるだけ頂きたいんですけども……」

「そうねぇ……正直、水中散歩自体があんまりメジャーじゃないし、売れ行きはよくないのよね……ロロナちゃんも最近は買いに来てくれないし……構わないわよ」

「ありがとうございます。それじゃ、頂きますね」

 

俺は6本の『エアドロップ』を受け取ってから、代金を支払った。

どうやら1本に12粒入っているらしい。合計で72粒。恐らくは十分だろう。

ただ、1粒でどれだけの時間酸素を補給できるかわからないので、1粒だけ、実験用に舐めてみようと思う。

さて、まずは『湖底の溜まり』を採取する為、湖に向かわないとな。

俺はある程度の準備をしてから、湖を求めてアーランドを()った。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

アーランドの北東には、『ネーベル湖』と言う巨大な湖が存在する。

この湖の畔では、錬金術の貴重な触媒となる、『マーメイドの涙』と呼ばれる水晶が採れるなど、錬金術士であるトトリにとっては何かと縁のある場所らしく、俺も何度か一緒に訪れた事があった。

この湖を選んだ理由は至極単純で、近代機械化が進んでいるアーランドに最も近い為、水に含まれる不純物の量もまた多いだろうと踏んでの事だ。

まとわり付いて来る『近海ペンギン』を蹴散らしながら、俺は湖の岸まで辿り着いた。

 

「さて、と……それじゃ1粒だけ舐めるとするか」

 

服のままで湖に飛び込むのは得策とは言えないので、最近着用していなかったが、家から海水パンツを発掘して来た。

既にズボンの下に装備済みなので、衣服を全て脱ぐだけで準備は完了だ。

モンスターに着替えを持ち去られたりボロボロに引き裂かれるのが心配だったが、まぁ、その時はその時だ。

俺は全てのエアドロップをポーチから取り出し、勢いよく湖面に向かって跳躍した。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

水は思ったよりも澄んでいて、視界は中々良好だった。

エアドロップの方も、1粒で5分ほど酸素を確保できる事が実証済みだ。

単純に考えて、およそ360分、6時間もの間水中で活動ができると言う事になる。

案の定、『湖底の溜まり』を依頼で指定された量採取した頃には、まだエアドロップは4本分も残っていた。

今後、気が向いた時に水中散歩に利用する、と言う手もあったが、あと2本ほど使ってもいいので、この湖を散策してみようと、俺は考えた。

見た事もない水草などもあり、トトリが喜ぶ顔を想像しながら、それらをポーチに詰め込む作業などをしつつ、水中を泳いで回る。

……見覚えのある物を見た気がするのは、丁度エアドロップの4本目に手を付け出した頃だった。

ピンクっぽい色でセミロングの髪、これまたピンク色のマント、更にその周囲を漂っているのは、先端に虹色の装飾が施された杖だ。

……これはもう、見間違う事の方が難しいような気さえして来る。

我が妹トトゥーリア・ヘルモルトの錬金術の先生であり、流石にもう恨んではいないが、我が家を木っ端微塵に吹き飛ばしてくださった、稀代の錬金術士こと、ロロライナ・フリクセルさんだ。

どうしてこんな所にいるんだか……まだ口からぶくぶくと気泡が吹き出ている、と言う事は、息をしている、と言う事になる。……していなかったら困るが。

俺はエアドロップを1粒、ロロナさんの口に含ませてから、抱き抱えて湖面への浮上を開始した。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

息はある物の、どうやら気絶しているらしい。

湖から上がって、今は近くにあった木にもたれ掛かるようにして寝かせているのだが、一向に目を覚まさない。

水でもかけたら起きるだろうか……いや、さっきまで水の中にいたのだから、恐らく無理だろう。

 

「困ったな……このまま寝かせておくわけにもいかないし……」

 

このままおぶってアーランドに帰る、と言う手もあるが、主によくない理由で注目を浴びかねないだろう。

『双剣聖がロロライナ・フリクセルを部屋に連れ込んだ』などと言う噂を立てられては適わない。

……まぁ、連れ込むとしたらロロナさんのアトリエぐらいだから、さして問題でもないか?

 

「……連れて帰るか」

 

何となく前途多難な気がしたが、俺はロロナさんをおぶって、アーランドへの帰路に着いた。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

アーランドを歩いている最中、通行人から様々な視線で見られた事は、言うまでもない。

そんな視線にも何とか耐えながら辿り着いたのは、職人通りに屋根を連ねる、ロロナさんのアトリエだ。

ようやく一息つける、と思いながら、俺はアトリエに扉を開き中に入った。

 

「あっ、ロロナ、帰ったのね」

「えっ?」

「えっ?」

 

……はて。

何故、クーデリアさんがここに?

 

「……あんた」

「何故、クーデリアさんがここに?」

 

今し方脳内を駆け巡っていた疑問が、一字一句ずれる事なく、俺の口から出た。

 

「いくらロロナが可愛いからって、眠らせて連れ込むなんてどうかしてるんじゃないの!?」

「落ち着いてください!あなたは今想像を絶するほど壮大な誤解をしています!」

「これが落ち着いていられるかっての!あんたは真面目な奴だと思ってたのに……まさかこんな……」

「あー、もう!いいから話を聞いてください!とんでもない誤解ですから!」

 

何とかクーデリアさんをなだめ、俺は誤解を解くべく、事の顛末を手短に語った。

それを黙って聞いていたクーデリアさんは、しばらくしてから、組んでいた腕を解き、溜め息を1つ()いてから話し出した。

 

「……はぁ、なるほど、そう言う事ね」

「そうですよ。クーデリアさんが言ったような、人の道から外れたような真似しませんよ」

「悪かったわ。まぁ考えてみれば、あんたに限ってそんな変態じみた事はしないわよね。それにしても、湖で、ねぇ……」

「僕だってびっくりしましたよ。湖の中で気を失ってるんですから。手遅れかと思いましたよ」

「それは驚くわね。とりあえず、そこのソファにでも寝かせときなさい」

「そう言えばこのアトリエ、ベッドとかないんですか?そっちの部屋も入れないし……」

「ないわね。この()ったら、夜なんかもソファで寝てるし」

「ウチでは考えられない生活ですね。とりあえず寝かせとくんで、クーデリアさん、お暇でしたらお世話してあげてくださいね」

「ええ、わかったわ。疑ってごめんなさいね。それじゃ」

「はい、それじゃあ、失礼します」

 

俺はロロナさんをソファに寝かせてから、アトリエを出て冒険者ギルドへ向かった。

……そう言えばクーデリアさん、何でロロナさんのアトリエにいたんだろう。

そんな事を考えながら辿り着いた冒険者ギルドで依頼の報告を済ませてから、俺は行き着けの宿屋にて、その日1日の幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

第19話 再会する師弟

 

ネーベル湖からロロナさんを連れ帰って来た、その翌日。

俺は再び、ロロナさんのアトリエを訪れていた。

 

「あれ?ライナー君、どうしたの?」

「……いつ起きました?」

「えっ?今日の朝だけど……どうかしたの?」

「……いえ」

 

昨日あれからずっと寝てたのか……死にかけてたって言うのに……。

まぁ、こう言う能天気さが、ロロナさんらしいと言えばらしい。

俺は話題を変える事にした。

 

「ところでロロナさん、一体、最近どこまで旅してるんですか?」

「う~ん……どこまでだろう……もう憶えてないかも」

「そんなに遠くまで?一体どうしたんですか?」

「あれ?アトリエの入り口に貼り紙してなかったっけ?『師匠がいなくなりました~』って」

「あぁ……そう言えば、あったような、なかったような……」

 

言われてみれば、トトリ達が初めてアーランドを訪れた時に、このアトリエの扉に、そんな紙が貼られていた気がする。

 

「そう言えば、トトリちゃん元気にしてる?最近ずっと会ってなかったから……」

「はい、元気ですよ。錬金術の方にも慣れて来たみたいで、最近は活き活きとしてますよ」

「へぇ、そうなんだ!よかったぁ……トトリちゃん、錬金術に飽きちゃってたらどうしようかと思ったよぉ……」

「ははは、飽きるなんてありえないですよ。今では、あの()の生活の大部分が、錬金術で埋め尽くされてますからね」

「うぅ……私、全然先生っぽい事してないのに……トトリちゃんって、いい()だよね……」

 

いや、ただ単純に錬金術が好きなだけで、ロロナさんが先生っぽくあろうがなかろうが、どの道変わらない気がする。

まぁでも、今言う事ではないので(主にロロナさんが落ち込む、と言う意味で)、俺は黙って首肯するだけに留めた。

 

「ところでロロナさん、トトリに伝言とかありますか?」

「ん?あー、そうだなぁ……」

 

顎に指を添え、可愛らしい仕草で思考を巡らせ始めたロロナさんは、数秒考え込んだ後に何かを閃いたらしく、ぱっと顔を上げた。

 

「そうだ!どうせなら伝言を頼むんじゃなくて、直接会いに行っちゃおう!」

「えっ?でも、トトリは今アランヤ村にいますけど……」

 

しばらくはアーランドに滞在すると伝えてあるので、ペーター(にい)もアランヤ村へ戻ってしまっている。

歩いて行くとなると……1ヶ月以上かかるかもしれない。

俺はその旨をロロナさんに伝えた。

 

「平気だよ。わざわざ歩いて行かなくても、これがあるから!」

 

そう言ってロロナさんは、コンテナの中から青白く発光する大きな輪を取り出した。

大きさは相当な物で、3人ぐらいなら余裕で入れそうな勢いだ。

その巨大な輪を、ロロナさんはアトリエの床に置いた。

 

「……これは?」

「これは『トラベルゲート』って言うアイテムで、1度行った事のある場所に、一瞬で行けちゃう便利な道具だよ」

「……それ、コンテナに入ってたら駄目じゃないですか?」

「あははは……ま、まぁね……つい、うっかりしてて……」

 

全く、この人は……。

そんな道具をちゃんと持ち歩いていれば、湖の底に沈む事もなかったろうに。

 

「と、とにかく!これがあれば、アランヤ村でも一瞬で行けちゃうんだよ!」

「まぁ、確かにそれは便利ですね。それじゃ、早速行きましょうか?」

「うん!じゃあ行くよ!この輪の中に入って!」

 

先立って輪の中に入ったロロナさんに続いて、俺も輪の中に足を踏み入れる。

 

「じゃあ行くよ!行き先はアランヤ村の、トトリちゃんの家の前!」

 

ロロナさんが行き先を告げると共に、輪が一際激しく発光し、俺とロロナさんを包み込んだ。

ほんの何秒かの間、視界が真っ白になっていたと思いきや、次に視界が開けた時には、そこは既にロロナさんのアトリエではなく、見慣れた自宅のすぐ目の前だった。

 

「……えっ!?もう着いたんですか!?」

「うん、そうだよ!ねっ?便利でしょ?」

「は、はぁ……そうですね……」

 

何て言うか……今更ながら、錬金術って規格外だな、と思った。

 

「それじゃ、行こっか!」

「は、はい……」

 

俺はロロナさんと並んで歩き、自宅の扉を開いた。

 

「ただいま~」

「えっ?ライナー君?ど、どうしてここにいるの?」

 

応答したのはツェツィ(ねえ)だった。

が、やはり驚いているようだ。ペーター(にい)アランヤ村(こっち)にいるし、そもそもペーター(にい)に頼んだ手紙には、あと2ヶ月はアーランドにいる、と書いたからだ。

 

「後で詳しく説明するよ。それより――」

「こんにちは、お姉さん!お久しぶりです!」

「ろ、ロロナ先生!?お、お久しぶりです!」

 

片や快活に、片やしどろもどろになりながら、2人はお互いに挨拶を交わした。

 

「あのぉ……トトリちゃんに用事ですか?」

「はい!トトリちゃん、家にいますか?」

「いえ、その……ついさっき、友達と一緒に出かけて行ってしまって……」

「行き違いになったか……」

 

まぁ、無理もないだろう。

トトリは、俺があと1ヶ月は家に戻らないと思ってるし、ロロナ先生なんかしばらく旅に出て帰って来なかったんだから。

調合でもしていない限り、のんびりと家で俺達を待っているわけがない。

 

「どこに行く、とか聞いてないのか?」

「うん。ジーノ君たちと出かけて来る、としか言ってなかったから」

「そっか。それじゃ、ロロナさん。待ちますか?」

「う~ん……どうしよう。お邪魔じゃなければ、待たせてもらいたいけど……」

「いえいえ、全然お邪魔なんかじゃないですよ。どうぞ、ゆっくりしていってください」

「ありがとうございます、お姉さん!それじゃ、お言葉に甘えて!」

 

ロロナさんがツェツィ(ねえ)に促され、食卓に着いた。

ツェツィ(ねえ)が台所に向かった事から考えて、恐らくパイの1つでもご馳走するつもりなのだろう。

さて、俺はどうしようか……。

 

「ライナー君、何か食べたいお菓子とかあるかしら?」

「ん?あぁ、そうだな……ミルクパイとか、材料ある?」

「ええ、あるわよ。ミルクパイでいい?」

「うん。じゃあ、頼むよ」

「わかったわ。ロロナ先生は、何か食べたい物ありますか?」

「あっ、じゃあ私は、お姉さんのおすすめのパイがいいです」

「はい、わかりました。ちょっと待っててくださいね!」

 

とりあえず、俺もロロナさんの隣の席に着いた。

ちなみに普段身に着けているレザーベストとか何やらの防具や愛剣たちは、アーランドの宿に置いて来ているので、除装の必要はない。

 

「あぁ~、トトリちゃんの家、久しぶりだなぁ~」

「長い間来てませんもんね。でも、あんまり変わってないでしょう?」

「まぁ、そうなんだけど……ここにいると、何となく『帰って来たなぁ~』って感じになる、って言うか……」

「あぁ、何となくわかりますよ。僕もロロナさんのアトリエとか、アーランドの宿に帰ると、たまにそんな感じになりますよ」

「だよねぇ~。何て言うか、2つ目の家って感じがするもん」

「僕が言う事じゃないかもしれませんけど、本当に自分の家だと思ってくつろいでもらってもいいですよ」

「えへへ、ありがとう、ライナー君。けど、う~ん……私も、そろそろ大人にならなきゃだしなぁ~……」

「そう言えば、もう成人されてますよね?ロロナさん」

「そうだよ。でも、いつまで経っても子供っぽさが抜けないって言うか……」

 

あぁ、確かに。

少なくとも、普通の大人は湖に落ちて溺れかけたりはしないと思う。

少なくとも、普通の大人は最低限の安全を確保した上で旅をすると思う。

 

「うぅ……何かライナー君にひどい事思われてそう……」

「えっ?い、いや、そんな事、な、ないですよ?」

「ほらぁ!今噛んだもん!絶対失礼な事考えてたでしょ!」

「い、いや、でも、自分でも子供っぽいって自覚してるんじゃ……」

「それは、そうだけど……じ、自分で思うのはいいの!」

 

何と理不尽な。

まぁでも、流石に少し失礼だったか、と若干反省する。

 

「もう……ライナー君って、時々ひどいよね」

「そ、そうですか?」

 

あんまりひどい事を言った覚えがないのだが、何故だろう。

 

「そうだよ。トトリちゃんはもっと優し――う~ん……」

「何でいきなり考え込むんですか」

「いやぁ……考えてみると、トトリちゃんも案外ひどい事言ったりするもんね……」

「ヘルモルト家の宿命だと思って諦めてください」

「うぅ……納得いかない……」

 

と、ロロナさんは子供みたいに頬を膨らませた。

そう言うのが子供っぽいと思われる理由なんだろうな、とは思うが……ロロナさんは何となく、『大人のお姉さん』って言うより、こっちの方が合っている気がする。

 

「ははは、知らない間に、随分と仲良くなったようだね」

「っ!?」

「ふぇぇっ!?」

 

2人で慌てて後ろを振り返ると、そこには我がヘルモルト家の主である、『グイード・ヘルモルト』氏が立っていた。

 

「父さん……忍び寄るのはやめてくれよ……」

「いや、普通に近寄ったつもりなんだが……すまないな」

 

くっ……いつになったら俺は父さんの気配を察知できるようになるんだ……!

 

「お、お父さんでしたか。お、お邪魔してます」

「ああ、構わないよ。こちらも、息子たちがお世話になっているようだしね」

「い、いえ!お世話になってるのはむしろ私の方で――って何言ってるんだろ、私……うぅ、恥ずかしい……」

 

突然の父さんの登場に相当驚いたのだろう。ロロナさんは1人で慌ててわけのわからない事を口走っている。

……何て言うんだろう。こう言うロロナさんを見てると和むって言うか……心が洗われる、と言うか……。

とにかく、言いようのない安心感に包まれる。

 

「ろ、ロロナさん、落ち着いて」

「う、うん……」

 

ロロナさんが深呼吸を始める。

いや、深呼吸で直るのかよ、と思ったが、案外何とかいく物らしい。

深呼吸を終えた頃には、既にいつものロロナさんに戻っていた。

 

「はい、パイができたわよ。どうぞ~」

「わぁ、美味しそう!」

 

ツェツィ(ねえ)が俺達の(もと)にパイを2つ運んで来る。

俺にはミルクパイ、ロロナさんにはフルーツパイが、それぞれ運ばれて来た。

 

「いただきま~す!」

 

ロロナさんがパイにフォークを入れるのとほぼ同時に、家の扉が開き、聞きなれた高い声が聞こえて来た。

 

「ただいま~!」

「あら、トトリちゃん。お帰りなさい」

 

言うまでもなく、声の主はトトリだ。

食卓に着く俺達の姿を見て、彼女は文字通り目を丸くして驚いた。

 

「お、お兄ちゃん!?それに……ロロナ先生!どうして!?」

「久しぶりだね、トトリちゃん!会えて嬉しいよ!」

 

ロロナさんが、抱き付かんばかりの勢いでトトリに跳びつく。

まぁ、再会を喜ぶのは別にいいのだが……2人とも危ない。

 

「わっ!ろ、ロロナ先生!ちょっとぉ!?」

「わっ、わわっ!?」

 

……何故なら、扉が開きっ放しだからだ。

そのまま2人は一緒に玄関から外へ転がって行った。

俺は溜め息を()きながら2人の様子を見る為席を立つ。

随分な勢いで跳びついていたが、幸い大事には至らなかったようだ。

 

「大丈夫ですか?ロロナさん。それとトトリも」

「う、うん。私は大丈夫だよ……」

「私も何とか……ごめんね、トトリちゃん」

「い、いえ、大丈夫ですよ!」

 

2人が起き上がって、服についた砂を払う。

一段落した所で、俺は2人を椅子に座らせ、幸いにも、俺はまだミルクパイに手を付けていなかったので、トトリにそれを食べさせた。

 

「久しぶりに会ったんだから、ゆっくり色んな話をするといい」

「そうだね。けど、何から話そう……」

「ねぇねぇ、トトリちゃん。私がいない間、どんな生活してたか教えて!」

「生活ですか?そうだなぁ……あっ、そう言えば私、冒険者になったんですよ!ほら!」

 

トトリが冒険者免許証を見せながら、嬉々とした声で話す。

それをロロナさんが、時にはいつものように無邪気に、時にはまるで親のように優しい笑顔で、聞き続けていた。

そんな仲睦まじい師弟の様子をしばらく眺めてから、俺は自室へと帰還する。

その日、流石にリビングで、と言う事はなかったが、2人は夜遅くまで楽しそうに話を続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第20話 動き出す運命

 

翌日から、ロロナさんはトトリの冒険や錬金術を手伝う為に、一旦旅を中断する事にしたらしい。

トトリにとっては、ロロナさんと共に生活や冒険ができるのは、頼もしかったり、楽しかったりで、いい事尽くしだろう。

俺も結構嬉しかったりする。普段はあまりに子供っぽすぎてわからないが、ロロナさんは『稀代の錬金術士』と呼ばれる人物なのだ。

昨日使ったあの『トラベルゲート』も、ロロナさんが作った物だろう。

俺は錬金術には詳しくないが、錬金術によってあらゆるアイテムが作り出される事には、ある種のロマンを感じるのだ。

口では説明しにくいが、強いて言うとするならば、『この世の全ての物質には、何かを作り出せるだけの価値があると知れる』、と言った所だろうか。

何でも、錬金術に失敗してできたガラクタ紛いの物でも、作る物によっては、再び材料として使用する事ができるらしいのだ。

この辺りに、俺は前述のようなロマンを感じざるを得ない。

とまぁ、大分話が逸れたが、何を言いたいかと言うと、そのロマンを『稀代の錬金術士』の手によって得られるのであれば、中々贅沢な事だろう、と思うわけだ。

で、何故いきなりこんな話をしたかと言うと、たった今目の前で、トトリが錬金術を行使しているからだ。

 

「えーっと……あとは最後に、『マーメイドの涙』を入れて……」

 

先日訪れたネーベル湖の畔でとれる水晶のような物を釜に放り込み、トトリはその釜をぐるぐるとかき混ぜる。

何をやるにもまず混ぜる。いい加減飽きて来ないのだろうか、と何度も思うのだが、本人は全く飽きていないようだ。

ほどなくして、ボンッと言う小さな爆発音のような物が聞こえると同時に、釜の中から何かが飛び出して来た。

それをトトリがキャッチし、嬉しそうにはしゃぎだす。

 

「できたー!見て見て、お兄ちゃん!」

「ん?今度は一体何を――ぬいぐるみ?」

 

トトリが抱えているのは、どう見ても猫のぬいぐるみだった。

1つ、ぬいぐるみと異なる所を挙げるとすれば、それは腹から胸にかけて、縦にチャックがついている事ぐらいか。

 

「これは『秘密バッグ』って言うアイテムで、どこにいてもコンテナの中のアイテムを出し入れできるんだよ!」

「へぇ~、便利だな。それがあれば、もうカゴ持ってかなくてもいいんじゃないか?」

「そうかもだけど、ちゃんと整頓してコンテナに入れなきゃ、どこに何があるかわかんなくなっちゃうし」

「……じゃあ何でそれ作ったんだ?」

「う~ん……たまに、素材がカゴに入りきらなくなる時があるから、その時にでも使おうかな……って」

「なるほどな。まっ、何にせよ、便利な道具って事には代わりないよな。凄いぞ、トトリ」

「えへへ、これ、ロロナ先生にもらった参考書に書いてたんだ。やっぱりロロナ先生って、凄いよね!」

 

錬金術士としては、と注釈をつけたい所だが、ここは大人しくトトリに合わせておいた方がいいだろう。

 

「それじゃ、ちょっと息抜きに、散歩にでも行くか?」

「うん!行こう!」

 

俺とトトリは、2人で散歩をする為に家を出た。

丘を下って広場へ向かう。一応丘の上からでも広場が一望できるので、すぐ着くかと思いきや、実はそうではない。

広場まで辿り着くのに、数分は要する道のりだ。

まぁ、数分と言っても、高々2、3分、と言う事には代わりないのだが。

とは言え、トトリと他愛もしながらだと、案外すぐに坂を下りきる事ができた。

やはり話し相手がいるだけで、普段は淡々とこなすだけの作業も捗るようだ。

 

「さて、どこ行く?」

「う~ん……どうしよっか?」

「そうだな……ん?あっち騒がしいな」

 

散歩コースを模索している途中で気づいたのだが、何やら海岸の方が騒がしい気がする。

遠目でも大勢の村人が見て取れる。一体何があったのだろうか。

 

「行ってみる?お兄ちゃん」

「そうだな。行ってみるか」

 

俺とトトリは、何があったのか気になったので、2人で海岸へと向かった。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

大勢の村人の隙間を縫うように進み、最前列に近い場所まで辿り着いた俺達は、喧騒の理由を目の当たりにした。

波打ち際には、ボロボロの木材が大量に流れ着いていた。形状や量からして、恐らくは船に使われていた部材だろう。

 

「これ、一体どうしたんですか?」

「おぉ、ライナーか。いやな、実は馬鹿な奴らが、船で外海へ出て行っちまったんだよ」

「外海へ?」

 

外海、と言うと、フラウシュトラウトが棲む海域へ、と言う事か。

それならば、この事態も納得だった。

しかしまた……フラウシュトラウトについては、村の住人ならば知っていて当然だと言うのに……どうしてわざわざ出向いて行ったんだ?

 

「けど、フラウシュトラウトの事は、村人ならみんな知っているでしょう?それをどうして……」

「何でも、外の大陸で新しい商売を始めるつもりだったらしい。そいつにとっては長年の夢だったらしいが、だからって無茶しやがって……この有様だ」

「ねぇ、お兄ちゃん。『ふらうしゅとらうと』って何?」

「えっ?」

 

しまった。

トトリはフラウシュトラウトの事を知らない。

と言うより、母さんの一件と合わせて、フラウシュトラウトの事を忘れている。

母さんが船で旅立った、と言う事も知らない為、ここで思い出してしまうと、『自分も海を渡る』と言った事を言い出しかねない。

それだけは、何としても阻止しなければ。

フラウシュトラウトは、とてもじゃないが、並みの人間が相手取って勝てる相手ではないのだ。

俺は何とかごまかそうとしたのだが、ここで偶然にも、厄介な出来事が起きてしまった。

 

「何だ?お前、フラウシュトラウトの事忘れたのかよ?」

「ぺ、ペーター(にい)

 

突然現れたペーター(にい)が、予想だにしない言葉を発したのだ。

彼は恐らく、ヘルモルト家の3人との約束を忘れているのだろう。

トトリにこれ以上負担をかけさせない……その為に俺達は、この一件を知るあらゆる人物の口を封じたのだ。

今日(こんにち)までトトリがフラウシュトラウトの事を忘れていたのも、それ(ゆえ)だ。

 

「忘れた?どう言う事?ペーターさん」

「ペーター(にい)、ちょっと大事な相談があるんだ。来てくれないか?」

「うわっ、ライナー!お前、何でここに……!」

「いいから、早く」

「お、おう……」

 

俺はペーター(にい)を物陰に引きずり込み、腹の底で煮え滾る物を思いっきりぶちまけた。

 

「どう言う事だ。トトリには内緒にしといてくれって、あれほど言っただろ」

「うわっ、しまった!す、すまん……忘れてた……」

「忘れてた、じゃないだろ……もし、トトリが全て思い出して、またあの時みたいになったら、どうするって言うんだ?」

「ほ、本当に悪かった!今後は約束忘れないようにするからよ……許してくれ」

「……いや、わかってくれればいいんだ。俺の方こそ、ごめん」

 

ペーター(にい)に頭を下げる。

それにペーター(にい)も謝辞の言葉などで応じているが、俺としては、あまりそれを気にしている余裕はなかった。

……やっと。

やっと、『錬金術』と言う新しい道を見つけたのに。

ここでまた、トトリの心を壊すわけにはいかない。

不安を覚えながらも、俺はペーター(にい)と共に、トトリの(もと)へ戻った。

 

「ごめん、トトリ。待たせたな」

「ううん、大丈夫だよ。それより、いきなりどうしたの?」

「……いや、何でもない。そろそろ帰るか」

「えっ?でも、まだ全然お散歩してないよ?」

「ああ……俺から誘っといて悪いけど、何か、今は散歩をしてられるほど、気持ちが落ち着いていないんだ」

「そう、なんだ……わかった。お兄ちゃんが散歩したくないって言うなら、無理にする必要もないもんね。帰ろっか」

「……悪いな。この埋め合わせは、日を改めてまたさせてもらうから」

「ううん、気にしないでいいよ」

 

目の前で満面の笑みを浮かべるトトリ。

……やはり、この笑顔が再び崩れる日を、俺は迎えたくない。

心が晴れないまま、俺はトトリと共に帰宅したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

翌日。

ヘルモルト家に、1人の来客があった。

 

「邪魔するぞ。グイードはいるか?」

「あら、ゲラルドさん。どうしたんですか?」

 

突然の来客は、酒場のマスター、ゲラルドさんだった。

 

「すまんな、少し話があるんだが……」

「私なら、ここにいるよ。どうしたんだ?」

「うわっ、父さん!」

 

いきなり横に現れた父さんに俺は驚いたが、ゲラルドさんの表情から、真面目な話なのだろうと察した俺は、すぐに気を引き締めた。

一瞬の静寂の後に、ゲラルドさんは重々しく口を開いた。

 

「実は……昨日流れ着いた船の修理をしてもらいたいんだ」

 

……船、とは、言わずもがな、昨日トトリと海岸で見たあの残骸の事だろう。

父さんは、母さんが旅立つ為の船を造った、腕利きの船職人だった。

だが、現在進行形ではない。あくまで、『だった』と過去形だ。

一応、今でも船が修理できないわけではない。だが、あれだけ船造りに燃えていた父さんが、母さんが失踪した直後から、自ら進んで船を造る事をやめてしまったのだ。

『あの日の事を思い出してしまうから』と言う理由で、父さんに、修理を初めとする船に関する相談事を持ちかけるのは遠慮して欲しい、と村の人達にも釘を刺したのだが。

 

「どう言う事ですか!そう言う相談はなしにしてくださいってお願いしたじゃないですか!」

 

激しく反駁するツェツィ(ねえ)

だが、それには俺も同感だった。

あの日から父さんは、何度も何度も自分を責め立てているのだ。

『自分が船さえ造らなければ』……と。

それなのに、そんな傷を抉るような頼みを持ちかける、と言うのは、あまりにも酷すぎる。

 

「へぇ~、お父さん、船の修理なんてできたんだ」

 

背後から聞こえたのは、予想外の幼い声。

振り向くとそこには、想像した通りの人物が立っていた。

 

「トトリ……」

 

まさか、俺もここまで悪条件が重なるとは思わなかった。

父さんへの船の修理の依頼。それに加えて、父さんが船の修理を出来る事を、トトリに知られてしまった。

ツェツィ(ねえ)が、トトリがこれ以上事情を深く知る事のないように、トトリを部屋から追い出そうとした。

 

「今、大事な話をしているの。向こうに行っててちょうだい」

「えっ?でも――」

「いいから!」

「ひゃっ!?な、何で怒るの?わかったよ……」

「そうだ、トトリ、村の外に何か採りに行ったらどうだ?俺も付き合うよ」

「うん、そうする。お願い、お兄ちゃん」

 

ツェツィ(ねえ)に目で合図して、俺はトトリと共に家を出る。

――何となく、だが。

俺はこの時、避けては通れない大きな出来事が、この先で待ち受けているだろうと、そう予感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

第21話 discover the truth

 

それからおよそ1週間後、俺はロロナさんに、トラベルゲートを使ってアーランドまで送ってもらった。

ロロナさんはと言うと、しばらくはアランヤ村の方の採取地にてトトリの手伝いをする、と言う事だった。

本当ならば俺もトトリの手伝いをする予定だったのだが、流石に俺ものんびりはしていられないと思い、少し依頼を受けておくべきだと判断したのだ。

そんなわけで、到着直後に俺は冒険者ギルドへ直行する。

 

「あら、ライナーじゃない。どうしたのよ?最近顔出してなかったけど」

「すみません。ちょっとアランヤ村に帰ってたので」

「……アランヤ村に帰ってた?あんた1、2週間ぐらい前までこっちにいなかった?」

「いましたけど、ロロナさんが便利なアイテムで向こうまで送ってくれたんですよ」

「あぁ、なるほど……そう言う事ね。まっ、事情はわかったわ。今あの()休憩中だから、あたしが相手するわね」

「あっ、はい。お願いします」

 

あの()とは、恐らくフィリーさんの事だろう。

掲示板から手頃な依頼を見つけ出した俺は、依頼書をはがして、クーデリアさんに手渡した。

 

「それじゃ、手続きしておくわね。ところであんた、ポイントはまだ貯まってないのかしら?」

「そう言えば、少しぐらいなら貯まってた気もしますけど」

「じゃあついでだし清算しちゃいなさい。ほら、免許証貸して」

「わかりました。どうぞ」

 

俺はクーデリアさんに免許証を手渡した。

ポイントの清算をしている合間に、クーデリアさんからちょっと予想外な言葉が投げかけられた。

 

「今更だけど、あんたの苗字って『ヘルモルト』って言うのね」

「本当に今更ですね。もう何年間会ってると思ってるんですか?」

「まぁそう言わないでよ。いっつも名前でしか呼んでないし、正直、『あいつ』の事忘れてた時期もあったのよね」

「あいつ?それ、もしかして、母さんの事ですか?」

「母さん……と言うと、あんた、やっぱりあの『ギゼラ・ヘルモルト』の息子だったりするわけ?」

「まぁ、はい」

「……へぇ~」

 

クーデリアさんの目つきが変わる。

まるで獲物を狙う野獣のような、獰猛な目つきだ。

 

「……ど、どうかしたんですか?」

「どうかしたかですって?……ええ、そうね。どうかしてたわ。あんたの母親は」

「そっちじゃない!クーデリアさんの方です!」

 

背中を嫌な汗が伝うのがわかる。

この威圧感は一体何なんだ?まだ記憶に新しい荒野の魔獣ですら、ここまでの威圧感は放っていなかったはずだ。

 

「私が……どうかしている、ですって?」

「意味が違いますって!」

「この際だから、あいつの代わりをあんたに務めてもらう事にするわ。断ってみなさい?あんたの大切な妹が代役になるだけだから」

「さりげなく人質を取らないでください!ちょ、ちょっと、クーデリアさん、まずは落ち着いて話し合いましょうよ?」

「ええ、たーっぷりと、話し合いましょう?」

「くっ……」

 

体が動かない。

やばい、怖い。クーデリアさんすっげぇ怖い。これは逆らえないわ。

 

「……で、ぐ、具体的には、どんな事を?」

「そうね。まずは全力の往復ビンタを……可哀相だから1時間で許してあげるわ。それから始めましょうか」

「慈愛をかけられて尚1時間!?」

 

しかも『それから』って事は、他にもまだ別のお仕置きが待っているのか。

母さん……どんだけやらかしたんだよ……。

 

「ほらほら、さっさとこっちに顔を近づけなさいな。丁寧に可愛がってあげるから」

「いえ、あの……」

 

(はた)から聞くととても蠱惑的(こわくてき)な言葉に聞こえるかもしれないが、その実は地獄への門を開く魔法の言葉だったりする。

ここで大人しく顔を差し出せば、両頬が夕日のように真っ赤になってしまう事だろう。

依頼を達成できるほどの元気が残っているかを予想してみるが、かなり絶望的だ。

 

「と、とりあえず、落ち着きましょうよ、クーデリアさん。ねっ?」

「……」

 

突然、クーデリアさんが沈黙する。

 

「……そうね。ちょっと熱くなりすぎたわ。ごめんなさいね」

 

と思ったら、あっけないほど素直に謝罪の言葉を述べた。

 

「い、いえ……僕としては、クーデリアさんがあんなになるほど母さんの悪戯が酷かった事に一番驚いてるんですが……」

「あれを悪戯、って言うぐらいだから、やっぱりあいつの息子なのね、あんた」

 

『あれ』と言われても、具体的にどんな事をやらかしていたのかを知らないので、比較のしようがない。

 

「どんな事をしてたんですか?母さんって」

「う~ん……挙げ出したらきりがないんだけど……筆頭は、行く先々で橋を落としたり、遺跡を派手に壊したり、モンスターを引き連れて街中を闊歩してたり、って所かしらね」

「予想以上に酷かった……」

 

そりゃクーデリアさんでもああなるわ。あまりにも酷すぎる。

しかもその他にも余罪がたくさんあるとなれば、慈愛の神を以ってしても、顔をしかめるぐらいはしてしまうだろう。

 

「あんた達が母親に似なくてよかったわ。あんなのが子供にまで受け継がれてたら、たまったもんじゃないしね」

「さっきは『やっぱりあいつの息子なのね』とか言ってた気もしますけど」

「見方が変わったわ。って言うか、あいつ今何してるのよ?全然話を聞かなくなったけど」

「母さんは……実はですね……」

 

俺はクーデリアさんに、母さんが数年前から行方不明になっている事を伝えた。

 

「……そう」

「船も壊れてしまったみたいですし、どこかの島に漂着するって言う可能性も低いですから、多分もう……」

「悪かったわね、辛い事思い出させちゃって」

「いえ、僕は大丈夫ですよ。って言うか、トトリの方が辛かったでしょうから、そのトトリを支える為に、僕はとっくのとうに割り切ってたりもしますし」

「そうそう割り切れるモンじゃないでしょ?そんなの」

「いや、本当に大丈夫ですって。何ともないですよ?」

「……あんたって、薄情なのね」

「そうなっちゃうんですか!?」

 

クーデリアさんへの気遣いの言葉が、どう言うわけか俺の評価を落とす動機になってしまったらしい。

 

「冗談よ。あんた、ホントにガキの癖に立派な奴みたいね」

「何だ……からかわないでくださいよ、クーデリアさん」

「からかい甲斐がありすぎてこっちが逆に困っちゃうぐらいなんだし、覚悟しなさいな」

「……はぁ。適当に流しても怒らないでくださいよ?」

「わかってるわよ。それぐらい弁えてるわ」

「よろしくお願いします。あっ、それと」

 

俺はクーデリアさんに、一番大事な事を伝える為に、再び言葉を繋いだ。

 

「今度は何よ?あんたの事をからかってはいたけど、こっちにもまだ仕事があるんだけど」

「すみません。これで最後ですから。さっきの……母さんの事ですけど、くれぐれも、トトリには内緒にしておいてくださいね」

「何でよ?あの()に知られちゃまずい事でもあるわけ?」

「まぁ、色々とあるんですよ。トトリは、一度やると言い出したら、誰が何と言おうとやめようとしませんから」

「……あぁ、なるほどね。さっきの話を聞いたら、あの()が海に出る、とか言い出しかねないから、って事?」

「具体的にはそうなりますね。それじゃ、くれぐれも、って言いましたからね?よろしくお願いしますよ?」

「わかったわよ。ほら、行った行った」

 

半ば追い出されるように、俺は冒険者ギルドを後にした。

……しかし、トトリから、衝撃的な頼み事をされたのは、それからわずか数日後の事だった。

アーランドに滞在していたはずのトトリが、突然とんでもない勢いで家に入って来て、こう言ったのだった。

 

「お父さん!私にも、船を造って!」

 

 

 

 

 

 

 

 

第22話 家族

 

この言葉に、俺とツェツィ(ねえ)と父さんは、呆然とせざるを得なかった。

『私にも』と言う事は、勿論母さんが船で旅立った事も知っている、と言う事だろう。

どこから漏れたのか……考えられるのは、前科のあるペーター(にい)か、クーデリアさんしかいない。

 

「トトリ……どうしてそれを?」

「クーデリアさんに聞いたの!ねぇ、造れるんでしょ!?だったら――」

「駄目よ、そんなの!トトリちゃんまで海に出るなんて!」

 

猛反発したのは、今回もツェツィ(ねえ)だった。

しかし、それも当然と言える態度だろう。

 

「……なぁ、トトリ。もうやめないか?」

「どうして!?どうしてそんな事言うの!?お兄ちゃんはお母さんの事が心配じゃないの!?」

「……心配も何も、母さんは、もう……」

「そんな事ないもん!どうしてみんなでお母さんが死んじゃったって決め付けるの!?船が壊れただけで、今もどこかで旅してるだけかもしれないじゃない!」

「手紙の1つも寄越して来ないのにか?」

「そ、それは……き、きっと、手紙を出そうとしても忘れちゃうんだよ!それだけだよ!」

「……トトリ、頼む。もういい加減に言う事を聞いてくれ。海だけは……海だけは絶対に駄目なんだよ……」

「やだ!私はお母さんを探しに行く!船を造ってくれないなら、泳いでだって迎えに行くもん!」

 

そんな事無理に決まってる、と言う言葉も、今はもう口に出来なかった。

ただただ、最愛の妹が死地に向かおうとしている、と言う事実に対する不安と、最悪の事態を想像しての悲しみしか、沸いて来なかった。

 

「今まではお前の事を守ってやる事もできた。けど、海じゃそんな事もできない。お前も見ただろ?海には、船1隻を粉々にするような奴がいるんだぞ?」

「私はもうお兄ちゃんに守られなくたって大丈夫だもん!」

「無理だ」

「どうして!?」

「俺に倒せないモンスターをお前に倒せるわけないだろ?」

「そ、それは……」

「諦めろよ。そこまで言うって事は、お前ももう大人なんだろ?割り切りのよさも大人には必要だぞ?」

「で、でも……」

 

トトリは肩を落としつつも、尚も食い下がろうとする。落ち込むトトリの姿をこれ以上見たくなかった俺は、彼女の肩に手を置いて、優しく語りかけた。

 

「母さんの事は、俺達がいつまでも忘れなければいいだろ?」

「……」

 

トトリは応えない。

 

「……やっぱり、探しに行きたいよ」

 

数秒の後に返って来たのは、思いがけない言葉だった。

 

「私は諦めたくない。お母さんは絶対に生きてるって信じてるから!」

「トトリちゃん……無理よ。もう……手遅れに決まってるわ……」

 

今にも掻き消えてしまいそうなか細い声で、ツェツィ(ねえ)が言う。

俺もそれには同感だ。

 

「トトリ。どうして、そこまで信じれるんだ?」

「決まってる!大事な家族だもん!そんな簡単に死んじゃったなんて決め付けられるはずがないよ!」

「トトリ……」

「……仮に」

 

突如、今まで一言も言葉を発していなかった父さんが口を開いた。

 

「もし、私がお前に船を造ってやったとしても、ギゼラが乗っていたあの船も、造ったのは私なんだよ。またフラウシュトラウトに襲われれば、あっさり沈んでしまうさ」

「そんな事ない!私、お父さんの事も信じてるもん!お父さんの造った船は、絶対に沈んだりしない!」

 

その言葉を聞いて、父さんは何事か、目を丸くして一瞬、固まってしまった。

一体どうしたのだろう、と様子を見ようとした、その時。

 

「……くくっ、はははっ!そうか、俺の造った船は沈まねぇってか!」

「と、父さん?」

「「お、お父さん?」」

 

再び口を開いた父さんは、もはやいつもの彼とは別人のように変わっていた。

 

「ああ、そうだ。俺の造った船は沈まねぇ!ギゼラの時は、どうせあいつが船の上でドンパチやったせいで壊れたに決まってるぜ」

「あっ、何となく、母さんが旅立つ前の父さんに戻った感じがしないでもない……」

 

そう言や、昔はこんな感じだったかもしれない、と今更思い出す。

 

「いいぞ、トトリ。船を造ってやるよ」

「ほ、ホント!?」

「ちょ、ちょっとお父さん!?何馬鹿な事を……!」

「こいつはもう止めたって聞きゃしねぇよ。だったら、やりたいようにやらせてやんのが一番だろ」

「で、でも……」

「ただし、トトリ。船に使う材料はお前が集めて来い。ギゼラだってそうしたんだからな。いいか?」

「うん!急いで集めて来るよ!何が必要なのか教えて!」

「そう慌てんなって。急いては事を仕損じる、ってな」

「な、何よ、みんなして……私が、私がどれだけトトリちゃんの事を心配してるのか、知りもしないくせに……」

「ツェツィ(ねえ)……」

 

ツェツィ(ねえ)の頬を涙が伝っている。

無理もない。ツェツィ(ねえ)はきっと、俺以上にトトリの事を愛している。

そんなトトリが、母さんを死に追いやったかもしれない魔物が棲む海へ繰り出そうとしているのだ。

普通なら、心配で気が狂ってしまっても仕方のない事だ。

 

「もういい!そんなに言うんだったら、勝手にどこへでも行っちゃえばいいじゃない!」

「お、おい、ツェツィ(ねえ)!!」

 

そのまま、ツェツィ(ねえ)は家を飛び出して行ってしまった。

それから数分の間、俺達は一言も発する事は出来なかった。

 

「……トトリ」

「な、何……?」

「そこまで言うんなら、俺ももうお前を止めようとは思わない。けど、万が一、お前がここに帰って来れないような状況になった時、悲しむ人がいるって事を忘れるな」

 

トトリは黙ったままだ。

しかしその表情から、俺が伝えたい事はしっかり伝わったのだろうと察する。

 

「……俺は、ツェツィ(ねえ)を探して来る。船の材料でも教えておいてやったらどうだ?父さん」

「あ、ああ、そうだな……」

「……行って来る」

 

2人を残して、俺はツェツィ(ねえ)を探しに家を出た。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

色々な場所を探し回って、最後にゲラルドさんの酒場を訪れた時、つい先程まで、ツェツィ(ねえ)が来ていた、と言う情報を手に入れた。

事の顛末を聞いたゲラルドさんが、ツェツィ(ねえ)を諭してくれたそうなのだが、何やら思い詰めた表情のまま、つい先程酒場を後にしたそうだ。

ツェツィ(ねえ)の事だから、どんなに自棄(ヤケ)を起こそうとも、危険な村の外に飛び出して行ったりはしないだろう。

となると、あと村の中で探していないのは、桟橋だけだ。

ツェツィ(ねえ)はきっと、そこにいるはずだ。

俺は確信を持って、まだ見ぬ外海への旅立ちを予感させる、桟橋へ足を向けた。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

果たして、ツェツィ(ねえ)はそこにいた。

桟橋の先端で、海に足を垂らすようにして座っている。

俺はツェツィ(ねえ)の隣まで歩き、同じようにしてそこに腰を下ろした。

 

「ツェツィ(ねえ)にしては珍しかったね。あんなに怒るの」

「……」

 

ツェツィ(ねえ)は応えない。

けど俺は、めげずに色々と、何度も話しかけた。

 

「こんな言葉で安心できるかわからないけど、あのトトリが冒険者になって、色々危険な場所を冒険できるぐらいに成長したんだ。きっと海に出ても、案外何とかなるんじゃないかな?」

「……それ、ゲラルドさんにも言われたわ」

「そっか。って事は、村の人にも、少なからず俺と同じ考えの人はいるって事だね」

「……ねぇ、ライナー君」

「ん?」

「さっき言ってたけど……フラウシュトラウトって、ライナー君でも倒せないの?」

「……さぁね。さっきはああ言ったけど、何しろ、まだ直接見た事もないから」

「……そう。やっぱり、そうなんだね」

 

少し落胆した様子のツェツィ(ねえ)を見て、俺は今まで温めて来た言葉を、思い切って切り出してみた。

 

「ツェツィ(ねえ)、もし、勝てるか分からない相手に挑むのは無謀だ、と思ってるのなら、少し憶えておいてもらいたい事があるんだ」

「……なに?」

「冒険者ってさ、常にそう言う状態なんだよ。今まで戦った事のないモンスターと戦う事だって日常茶飯事なんだ。

 例えばこの先、フラウシュトラウトなんか比較にならないほど強いモンスターを倒して来いって言われたとしたら、それは今回の航海よりも大変な仕事になる、って事になる」

 

返事も、相槌もなかった。

だが俺は、そのまま話を続けた。

 

「そうなったとしたら、今回海に出ようが出まいが、大変な事には代わりないだろ?だったら、今回フラウシュトラウトを相手にして、経験を積んだ方がいいと思うんだ。

 その方が、この先冒険を無事に成功できる確率だって上がるし、何より、母さんを探しに行ける」

「……ふふっ」

「えっ?」

 

突然、黙っていたツェツィ(ねえ)が笑い出した。

しばらく俺が硬直していると、静かに笑い続けていたツェツィ(ねえ)が、俺の方に優しげな眼差しを向けて言葉をかけて来た。

 

「必死に言い包めようとしてるけど、私の心はもう決まってるのよ」

「えっ、そ、そうなの?」

「ええ。ゲラルドさんに言われたの。あの2人は、私が許可してくれるのを待ってるんじゃないか、って。話は盛り上がってたけど、実際にはまだ行動に移してないだろ、って」

「あ、あぁ、そう言えばそうだね」

「それに、ライナー君の事だから、ちゃんと釘も刺しておいてくれたんでしょ?」

「……ま、まぁ、帰って来れなかったら、悲しむ人がいるって事を憶えておけ、って言うのは言っておいたけど」

「そっ。じゃあ心配いらないわね。私も安心して、あの()を送り出してあげられるわ」

「……なんだ。俺が説得する必要なかったんだ。けど、ゲラルドさんは随分思い詰めた表情してた、って言ってたけど」

「あぁ、それは、お店を出た時には、まだ心に迷いがあったのよ。けど、ここで少し考えてたら吹っ切れちゃったわ。そこで、丁度ライナー君が来た、ってわけ」

「ははっ、タイミングがいいんだか悪いんだか。まぁでも、何よりだね」

「ライナー君も、ちゃんとお兄ちゃんやってるわね。私関心しちゃったわ」

「トトリが産まれた時からお兄ちゃんやってるつもりだけどね。今更じゃないと気付かれないぐらい駄目兄貴だったかな?」

「冗談よ。私は、ライナー君もトトリちゃんも、お父さんもお母さんも信頼してるわ。トトリちゃんの言葉を借りるけど、私達、『家族』だからね」

「……そうだね。『家族』だもんね。俺も、みんな信頼してるよ」

 

それから少しの間、俺とツェツィ(ねえ)は、2人で海を見ていた。

夜もすっかり更け、月夜に照らされた水面(みなも)は、淡く輝いていた。

 

「……トトリちゃんをお願いね。ライナー君」

「……うん。分かってる」

「帰りましょうか。もう夜も遅いし」

「そうだね。行こうか」

 

俺とツェツィ(ねえ)は立ち上がり、2人並んで丘の上の家へ向かった。

トトリと父さんはテーブルに就いて肩を落としていたが、帰って来た笑顔のツェツィ(ねえ)を見て、安心したようだった。

 

「すまねぇな。辛い思いをさせちまって」

「あら、また辛い思いしなきゃいけないの?私」

「……へっ、させるかよ。見てろよ、あいつの時より立派な船造って、トトリ達を送り出してやるからな!」

「頼りにしてるわ。お父さん、お願いね」

 

――この日。

それぞれが信頼し合う、ある1つの『家族』の団結は、これ以上ないほど強固な物となったのだった。


 
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