No.446440

チートでチートな三国志・そして恋姫†無双

第1章 ”天の御遣い”として

2012-07-05 14:57:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3032   閲覧ユーザー数:2635

第6話 知ったモノ ~格の差・そして・・・~

 

 

 

 

 

 

”漢王朝を叩き潰す”なんて考えている俺に、人を惹きつけるほどの徳なんてあるはずがない。俺なりの”大義”はあるけど、それで人が集まってくることはないだろう。白露が俺たちのために宿を用意してくれたから、そこでゆっくり休んで、桃香たちとじっくり話をしようか。

 

 

 

「ご主人様!! 私のほうがご主人様より人望があるとはどういうことですか!?」

 

「ご主人様が居るから我らの大義が果たせるのです! それを……。

 

 

宿に行くと、桃香と愛紗がもの凄い剣幕で迫ってきた。まあ、こうなるだろうとは分かっていたけど。ちょうど良い機会だし、俺の立ち位置をきちんと伝えておこう。

 

 

俺は愛紗がさらに何か言おうとするのを遮り、

 

 

「事実としてそう言っているだけだよ。主君としては桃香のほうが相応しい。

 

後漢ができた理由をちょっと考えてごらん。後漢の建国者は光武帝、すなわち”劉”秀だ。前漢の建国者は”劉”邦。後漢の建国者が光武帝なのは、勿論光武帝本人が優秀だったというのもあるけれど、それ以前に”劉”性だったからなんだよ。桃香たちは旗頭として俺

 

――天の御遣い――

 

を求めていたようだけれど、そもそも”天”なんて名乗ると色々とややこしくなるんだ。”劉”備のほうが遥かに旗頭としては相応しいんだよ。」

 

 

「そんな……。じゃ、じゃあご主人様の役割は!? どうしてこれまで一言も言わなかったの!?」

 

桃香が、”自分の信じていたものが何もかもひっくり返された”ような、焦った口調でそう迫ってきた。まあ、それに近いことを言ったわけだから当然といえば当然だけど。

 

 

「俺の役割は”参謀”。例えるなら、”軍師”、あるいは”丞相”。そういう感じかな。大将、あるいは皇帝が桃香になるわけさ。

 

 

俺は桃香たち、つまりこの世界の人では考えが及ばないような知識をたくさん持っている。それだけは間違いなく言える。だから、それを精一杯活用すれば、”天の御遣い”なんて要らないんだ。相手にとって怖いのは”俺の知識”なんだよ。言わなかったのは、そのほうがこれまではやりやすかったからさ。ただし、今回は白露にも”天の御遣い”の”噂”と桃香が言っただけだし、そもそも俺は”天の御遣い”だなんて一言も言っていない。」

 

 

 

本当になりたいポストは”丞相”ではないのだけど、まだまだ秘密だな。これは。

 

それにしてもこういう姑息な言葉遊びのようなことが”駆け引き”なんだよなあ……。実践するときがくるとは思ってなかったけど、なかなか上手くいってるような気がするな。そして、何より、”楽しい”な。これは、他では味わえない類の”快感”だ。調子に乗って大失敗しないように自重しないとな……。

 

 

 

「そうでしたか……。しかし、我らの主がご主人様であることには変わりがありません。それだけはどうか……。」

 

「ああ、分かってるよ愛紗。そのことはとても大切なことだからね。」

 

 

そうでないと俺はただのNo.2で終わりだから、誰も俺の言うことなんて聞いてくれないだろうからなあ……。

 

 

 

「ところで、これからどうなさるおつもりですか? ずっと公孫讃殿の元にいては天下統一は困難だと思うのですが……。」

 

「それは勿論だ。けど、有能な将を手に入れ、兵を増やし、実戦の経験を積めば、これからの展望が開けてくるよ。」

 

「”有能な将”ということは、あの趙雲という客将を配下に収めるつもりですか?」

 

「できればね。まあ、それよりまずはこの華北の地の状況が知りたいな。彼女以外にも群雄はたくさんいるんだろうから。」(※1)

 

 

趙雲を引き抜くのは当然なんだけど、それより必要なのは軍師だ。軍師。

 

俺は、劉備が蜀を手に入れるまで殆ど敗北続きだった最大の理由は軍師の不在にある……と考えている。つまり、徐庶が加入するまでロクな軍師が居なかったということだ。

 

まあ、あとは場所が悪かったんだよなあ。最初は曹操・袁紹・公孫瓚という強大な群雄にに挟まれた土地、平原。

 

次は徐州。父親を殺されたことで曹操が最も恨んでいた地だ。荊州は孫権と争い、最後には関羽まで失った……。

 

結局、成都(蜀)を手に入れるまで安息の地は無かった。(※2)

 

これで”天下統一”は至難の業だからなあ……。許昌へ行って、曹操より先に引き抜けば軍師は問題なさそうな気もするけど、相手はあの曹操だし、果たしてどうしたものか。

 

他はまあ、色々と策を練ってあるけど、まだお披露目する時じゃないだろう。

 

「とりあえず休もうか。ここは治安もいいからゆっくりできるんじゃないかな。」

 

 

 

 

 

そして翌日。白露からの指令により、俺たちの初陣は4日後に決まった。

 

 

 

今日はどうしてもやりたいことがあったから、みんなで武器を持って町外れに集まってもらった。

 

「ご主人様、わざわざ武器まで持ってくるとは、今日はいったい何の用ですか? まさか、公孫瓚殿のところに殴り込みに行こうとか、そういうとんでもないことを考えていらっしゃるわけではないでしょうね?」

 

愛紗が疑いの眼差しを向けながらそう言ってきた。これは、どうやら昨日の一件が尾を引いているようだな……。

 

 

「いや、まさか。ただ、今日は愛紗と手合わせをさせて貰おうかと思ってね。結局、こっちに来てから一度も戦いはしてはいないからさ。」

 

「そういうことでしたか。しかし、ご主人様に怪我をされては困るのですが。」

 

「まあ、俺が怪我をしそうになったら甄が止めてくれるから大丈夫だよ。なあ?」

 

そう言うと、女媧は”問題ない”と頷いた。

 

「分かりました。ならば、全力でやらせて頂きます。」

 

すると、愛紗は、優しい女の子から、覇気を剥きだしにした戦士へと変貌した。でも、それだけで臆する俺じゃない。祖父に鍛えられた剣術はこの3ヶ月で俺は更に強くなった。不動先輩や早坂さんの剣道に気迫。それがどの程度通用するかはわからないけど、俺の全てをぶつけるだけだ。

 

 

「じゃあ、桃香、開始の合図を頼むよ。」

 

「あ、はい。じゃあ、さん、に、いち、始め!!」

 

そして―――。

 

「はあああああーっ!」

 

互いの先制の一撃が交差し、愛紗が2撃目を繰り出し、俺も対抗しようとしたそのとき

 

「そこまでだ。」

 

女媧の無情な声が響く。

 

「な……。」

 

愛紗の呆然とした声。まあ、切っ先を指2本で止められたんじゃな。そして、落ちる俺の剣。

 

握力不足。一撃で手は痺れ、俺は負けた。女媧が止めなかったら死んでたかな。ハハ。

 

ここまで圧倒的だともはや笑うしかない。『”柔よく剛を制す”とはよく言ったものだけど、そもそも圧倒的な力の前に敵うものはないよ。』とあのとき早坂さんが不動先輩を退けたときに言っていたのを思い出した。

 

すると、どこからか酔狂な声が聞こえた。

 

「あの一撃を受け止めるとは、”天の御遣い”の呼び名は飾りではないようですな。そして、あれを指で止めるなど、甄姫殿はやはりタダ者では無い様子。ところで、私も関羽殿とは一度手合わせをしてみたかったのですが、いかがですかな?」

 

「望むところだ。受けて立とう、趙雲殿。」

 

愛紗vs趙雲か。これは凄い。関羽と趙雲……。ゲームではほぼ同等の能力値に格付けされた武人だけど、はたしてどうなるのかな……。

 

 

「では桃香さま、始まりの合図を宜しいですか。」

 

「いや、ちょっと待ってくれ。ここは俺にやらせてくれ。」

 

「ご主人様!? もう大丈夫なのですか?」

 

「”怪我”じゃないからね。手はまだ痺れてるけど。じゃあ、3・2・1・始め!で合図するからね。わかった? 2人とも。」

 

「わかりました。」

「承知。」

 

 

 

了解の合図をする愛紗と趙雲。強い人物同士の対決は間近で見ておきたいから、俺に仕切らせて貰うことにした。といっても、合図をするだけだけど。

 

愛紗は偃月刀。趙雲は鎗。紅い鎗だ。

 

 

そして始まる手合わせで、思い知った。”格”の差を。

 

 

愛紗の重い一撃を受け流し、その力を利用して反撃に転じる趙雲。それを紙一重で躱し、そのまま相手の切っ先にたたき込む愛紗の技術。

 

力も技も圧倒的。これが……。

 

どこか、”彼女達は女の子だから”という思いがあった。でも、それは違うと理解した。

 

この世界の彼女たちは、男よりも強い。

 

もしも、俺の世界に行ったら、互角以上で渡り合うかもしれない。

 

細身だから、可憐な少女だから、

 

そんなことは彼女達にとって弱点にならないということを、目の当たりにして初めて理解した。

 

しなる腕。自在に、武器の特性を理解し、手の延長線のように使いこなす。まさに別格の強さだ。

 

それでも、決着は訪れた。

 

「次も私が貰います。ご主人様や桃香様が見ている限り、私は他の軍の将には負ける気はしません。」

 

「次もこのままだとは思って頂きたくはないですが、貴方たちは私の真名を預けるのには相応しい相手のようですな。私は常山の昇り龍、趙雲。字は子龍。真名は星。この愛鎗、紅染鎗(こうせんそう)で次は貰いますよ。」

 

「紅く染める鎗とは物騒だな……。俺は北郷一刀。今後はよろしくな。」

 

「私は関羽。字は雲長。真名は愛紗。また闘おう。この青竜刀に賭け、負けはしない。」

 

「鈴々は張飛。字は翼徳。真名は鈴々なのだ。愛紗ばっかりずるいのだ。鈴々も闘るのだ。」

 

「私は劉備。字は玄徳。真名は桃香です。よろしくお願いしますね、星さん。」

 

「私は甄姚。北郷の護衛だ。ところで、そこの。いつまで覗いてるつもりだ?」

 

 

「う……。いいじゃないか別に!! ここの焼きそばとメンマ買いに来たら誰かが打ち合いやってるから、見てみたらお前ばっかり真名交換しやがってー。」

 

メンマ?

 

「では白露殿も交換すればよろしいではありませんか。しかし、おお。あの店のメンマは天下一品。私のために買っていただけるとはありがたい限りですな。」

 

そしてハムハムとメンマを頬ばる趙雲、もとい星。何だこのキャラの変わりようは?

 

「う……。じゃあ改めて。私は公孫瓚。字は伯珪。真名は白露だ。ほれ、お前らも焼きそば食べるか?」

 

ホント、白露って素直な性格だよなあ……。しかし、何でメンマなんだ? 焼きそば美味しいなあ……。

 

「星? そのメンマは?」

 

「ああ、私はメンマが大好きなのです。ここの職人は見事な腕でメンマを、しかもすばらしい壺に漬けているのですよ。白露殿はそれをタダで提供して下さるというので、ついつい手を貸してしまうのですよ……。」(※3)

 

そんなアホな理由かよ……。しかし、壺ってまさか……。

 

 

「腹ごしらえも済んだし、愛紗、星、今度は鈴々と勝負なのだ!!」

 

「まったく……。星、私が先にいかせてもらうぞ。」

 

「承知した。」

 

今度は鈴々vs愛紗、星か。史実では、関羽>張飛・馬超 だと諸葛亮が手紙で書いてた気がするけど、あれはご機嫌取りだって説が有力だし、どうなのかな……。(※4)

 

 

 

まずは、愛紗vs鈴々か。

 

鈴々の実力はまだわからないけど、間違いなく愛紗や星と同じクラスの武人だ。それでも、あの愛紗相手に通じるのだろうか。

 

 

「・いち・始め!!」

 

「うりゃうりゃうりゃ~。」

 

「くっ」

 

単純な、力。なんてシンプルな。それだけであの愛紗を封じてる。

 

俺の見たところ、愛紗の強さは力55%に技巧45%といったところ。まあ、といっても力も圧倒的なんだけど。それに対し、鈴々は力90%に技巧10%といった感じか。技巧というよりも気合いのような気がするけど。

 

そして、決着。愛紗の刀が地に落ちた。

 

「よし! 勝ったのだ。」

 

「っ!」

 

「3人とも凄い、いや、凄すぎるな……。まあ、4人か。とはいえ、1人は存在そのものが信じがたいんだが。」

 

「そうだね~。白露ちゃん。まあ、あの人は甄姫さんだからしょうがないよ。」

 

それは全く理由になってないぞ。桃香さんよ。

 

「フム。次は私ですな。」

 

次は鈴々vs星。

 

星は力50%に技巧50%という感じかな。愛紗よりさらに不利なはずだけど、何か策でもあるのだろうか?

 

 

「・いち・始め!!」

 

「うりゃうりゃうりゃ~。」

 

当然のように突っ込んでくる鈴々。に対して、星も突っ込んだ。構えずに。

 

「な……。」

 

その行動には、皆が唖然とした。

 

「確かに力は素晴らしいが、下がガラ空きですよ。」

 

足払い。確かに、長くて重い得物を持つということは、バランスを保つのが難しいということだけど……。

 

「わ、わ。」

 

そして、一閃。あっさりと鈴々の矛が落ちた。

 

 

パチパチパチ.... 俺は思わず拍手をしてしまった。相手に自ら近づき、踏み込んだほうの足を払い、バランスを崩したところにすかさず一撃を叩き込む。あまりに鮮やかすぎる、”見事”としかいいようがない。

 

 

「むー。ズルイのだ、星。」

 

「ここまで鮮やかだと、褒めるしかありませんな。仕方ないぞ鈴々。しかし、これでは我らの中で誰が一番強いのかわからないですね……。」

 

「それは決まっているではないですか? のう御遣い殿?」

 

「? ご主人様ですか?」

 

「いや、その隣ですよ。一度手合わせしたいような気もしますが、しかしアレでは……。流石に勝てぬでしょうな。」

 

「ああ、甄姫どのか。まあ、確かにそうですね。」

 

クスクス笑う星に愛紗。

 

まあ、確かになあ……。無敵だからねえ、このお方は。

 

そして、俺は気になることを確認に行くため、白露に質問した。

 

「なあ白露、その肉まんとメンマ売ってるところってどこにあるんだ?」

 

ん? 泣いてる?

 

「そりゃ、私は幸薄いかもしれないけど……。それにしても、もうお前ら仲間になったようじゃないかー。

 

ん? 焼きそばとメンマ? ああ、そこの角を曲がったところにある店だよ。焼きそばを売っている店と、その向かいにメンマとかキクラゲみたいなやつを売ってる店があってな。乾物も味のついたのも両方売ってるんだ。両方ともかなり美味しいぞ。」

 

まあ、確かにめっちゃ打ち解けてるから、悲しいと思う気持ちもわからなくもないな……。

 

 

それより……。メンマ……。気になるな……。

 

俺は慌てて確認に行くことにした。

 

―――やっぱりか―――

 

この壺に、よく考えれば愛紗の刀もそうだ、これらは、間違いなく、俺の世界で、学院に展示されていたものだ。

 

 

「どうしてこの壺や愛紗の刀がこの世界にあるんだ!! これらは俺の世界で展示されてたやつだぞ!!」

 

気が動転していたけれど、なんとか大声は出さずに済んだ。が、女媧は顔色を変えることもなく、落ち着いた口調で、

「心配せずとも大丈夫だ。お前のいた世界にはもう、この世界に入る起点は無い。」

 

と言った。

 

 

「だが、あの壺は、刀は、鏡は……。」

 

「外史とはいわゆるパラレルワールド。文化的なレベルが同じ時代には同じ物がつくられるのが道理だろう?」

 

 

”いわゆるパラレルワールド”とか言われても、正直言って「外史」が何なのかさよくわからないんだけどな……。

 

「そもそも、『外史』というのは一体何なんだ? イマイチよくわからないんだけど……。」

 

そう俺がストレートに聞くと、珍しく? 溜息をつきながら外史に関する説明をしてくれた。

 

「…………。実はな、我ら

 

―――高位の仙人+αだ―――

 

はかつて、大きな過ちを犯した。あの場にいた仙人を覚えているか?」

 

「あ、ああ。なんとなくだけどな。」

 

「高位の仙人はあそこに居た者と、他に数名居るのだが、それらがほぼ二分(にぶん)して、”仙界大戦”という争いを巻き起こした。人間界にまで介入して……な。」

 

「な……。」

 

「その戦いが終わったとき、我らは初めて気づいた。自分たちの持つ力の大きさ、仙人の役割、そして、あまりに罪深い、愚かな行いをした……とな。全くもって情けない話だ。……。私はその中心、というより火付け役だったわけだが……。

 

 

そこで、一つの世界

 

―――お前が住む世界だ―――

 

を『正史』と定め、その世界に生きる者が空想で描いた世界を『外史』と定めた。

 

故に、外史は無限にある。それで……。この2つの世界が交わることなどあってはならぬ。が、『外史』はどうしても乱れやすい。世界そのものが不安定なのだ。なぜだかわかるか?」

 

「空想の産物だから?」

 

自然と、その言葉が出てきていた。

 

「そうだ。だからこそ『管理者』と『鍵』というものを置き、乱れぬようにしているのだ。

 

が……。今回はその『管理者』とバカ共、そしてまあ、我らの一部が問題を引き起こしたのだ……。

 

正史への介入は不可能だが、外史ならば、その『鍵』や『起点』を手に入れればいくらでも介入できるからな……。」

 

ん? 我らの一部? まあ、そこは後で聞くか。

 

「でも、アイツは俺たちの世界、すなわち『正史』に入ってきたぞ……。」

 

「『起点』が、お前たちの世界に紛れ込んでしまったからな……。それとたまたま、我らの監視体制が緩くなる日が重なってしまったりしたからお前がここに居るのだ……。」

 

「本当に”たまたま”なのか?」

 

「当たり前だ。そんな日があることそのものが『極秘事項』だからな。」

 

「今、俺に喋っているけど……。」

 

「説明のためだ。今は、他人には一切聞かれぬようにする術を使っている。それに、”時”も止まっている。下らぬ心配をする必要はない。」

 

聞きたいことは今聞け、ということらしい……。

 

「その『起点』というのは……?」

 

「『管理者』が持つ、外史へ『入る』為のモノだ。」

 

「お前ら、”高位の仙人”とやらは……?」

 

「そんなモノが無くても外史に入ることなど容易(たやす)い。」

 

さすが、”高位の仙人”様ですなあ……。

 

「で、今回はどうしてこうなったんだ?」

 

「今回はな……。その『管理者』がその『起点』をイタズラ半分で鏡に移しこんだのだ。それをあのバカ共が盗もうとした……はいいが、奪い返そうとした管理者とのもみ合いで落としてしまい、それがよりにもよってお前達の世界、すなわち『正史』に紛れ込んでしまったのだ。」

 

「だから、『展示』されていたのか。”外史のどこか”に紛れ込む可能性のほうが高いから、誰も『正史』に紛れ込んでいるとは考えなかったわけか……。」

 

「ああ……。しかもお前にとって、とても都合が悪いことが立て続けに起きた。」

 

「?」

 

「我々とて、無策ではない。”外史で起点を探すグループ”と、”バカ共を監視するグループ”に分けた。

 

一つ目の不運はそもそも、グループの人数が減る日だったことだ。そしてもう一つは……。

 

その監視するグループの男、聞仲が『人間だが、鍛えれば我らと同格になるやも……』というバケモノ人間に気が取られて、お前を助けるのが遅くなってしまったのだ……。」

 

まさかそのバケモノ人間……って、あの人か……?

 

「聞仲は真面目な男なのだが、強者を見ると血が騒ぐのか、冷静ではなくなるのだ。まあ、あ奴には”元々は人間だったが、修行して仙人になった”という過去もあったから致し方ないのかもしれぬが……。」

 

「その『バケモノ人間』って……?」

 

「早坂なんちゃらだ、あとはそ奴の従者とかいう女だな。」

 

やっぱり早坂さんかよ……。あの人、仙人から見ても”バケモノ”なのか……。ん?

 

「従者?」

 

「名前までは知らぬ。」

 

やっぱり、ああいう人には”従者”なんて人が居るのか……。(※5)

 

ん? ってことは、俺がここへ来たのは早坂さんのせいでもあるのか……。

 

 

「なあ、俺がその『バケモノ人間』に『勝つ』ことってできると思うか?」

 

「普通に考えれば、100%不可能だな。”才能”が桁違い……ということだからな。だが、お前は幸か不幸か、この『外史』へ紛れ込んだ。ここでほぼ無限に近い時を過ごせる。それは、その男には与えられていない『時』だ。それを考えると、”一矢報いる”くらいはできるやもしれぬな。まあ、それも確信を持って言えるわけではないがな。」

 

今の女媧の言葉で、改めて『あのときの選択は正しかった』ということを確信した。この世界で鍛練を積めば、”手も足も出ない”状態からは抜け出せそうだ。

 

「なあ、『バケモノ人間』って、あの人はどのレベルなんだ?」

 

「……。低位の仙人

 

――道士と言っていいな。お前が相対した于吉とやらもそうだ――

 

では全く相手にならぬレベルだな。あのとき、あの于吉とやらは仙術を使っていなかった。もしも使われていたらお前ではかなり厳しかったろう。だが、その男には全く通用するまい。」

 

少なくとも、早坂さんが”ニンゲンかどうか疑わしい”というのは、そこまで外れては居ないみたいだな。

 

ん……? 于吉を初めて見た時に全く興味を持っていなかったのは、そもそもアイツが『人間』でないことに気づいていたからか……? まさかな……。

 

「ところで、お前はどうして俺にここまで尽くしてくれるんだ? わざわざ仙人としての”責務”まで放り出してきたわけだろ?」

 

今思うと、『酔狂にも程があるような行いだろう』とか『寛大な心』という言葉を言っていたのが本心から出たようには思えなかった。何となくそう思っただけだけれど。

 

「……。聞仲を含む仙人たちの不始末でお前に迷惑をかけたことが一つ。そして、私は実際に見てみたくなったのだ。」

 

「見てみたくなった?」

 

「うむ。『人間が秘める可能性』というものをな。

 

それに……。お前のひたむきさ、ある種の一途さを少し見ていたくてな。」

 

女媧はそう言って極り悪げに目をそらした。

 

「ありがとう。ところで、その『管理者』とやらはどうしたんだ?」

 

「2人いたのだが、1人は捕らえた。もう1人はこの世界にいる。鏡を奪った仙人共を捕まえると抜かしたので、とりあえず泳がせることにしたのだ。まあ、いずれにせよ後で捕らえて裁くが。」

 

「てことは、お前の仕事ってのは……。」

 

「お前の護衛と、その仙人2人と管理者1人の捕縛だ。それに、この世界で連中が”操り”の起点としている4つの鍵を集めることだ。”鍵”を連中が全て持っていることは無いと思うがな。」

 

「どうして”全て持っているわけではない”とわかるんだ?」

 

「私といえど、4つの鍵を持たれていたとしたら、この世界に介入する手段は一つ。全てリセットするしかないからな。そうなっていないということは、この外史に入ったときにわかっている。ということは、4つの鍵は、少なくとも我らがこの地に入ったときには連中の手には無かった……ということだ。」

 

「なるほど……。」

 

 

 

「ご主人様~。」

 

気づけば、愛紗たちがのんびり焼きそばを食べていた。一人、星はひたすらメンマを食べているけど。

 

「大事な話のようでしたので先に食べさせていただきました……。少し、顔色が悪いように見えるのですが、大丈夫ですか?」

 

「もう大丈夫だよ、愛紗。やるべきことははっきりわかったから。」

 

 

その3人を捕まえ、”鍵”を集め、そして天下を統一する。それが俺と女媧のすべきことか。まあ、俺は天下の統一を第一に考えればいいんだろう。他は女媧のほうが専門だろうしな。

 

 

 

解説

 

 

※1:華北:中国東北部。まあ、今作では幽州・并州・冀州・青州あたりを指すとお考えいただければ。

 

※2:念の為に書いておきますが、関羽死去は成都を手に入れた後です。

 

※3:本来は何か理由(恩?)があるらしいのですが、どうも明かされなかったような気がしたので。原作で何か記載あったらその時はすいません。というか、感想で教えて下さい。

 

※4:馬超が蜀に加入したと関羽が聞いた(当時、蜀(成都)には劉備・諸葛亮がおり、関羽は荊州を任されていた)とき、諸葛亮に実力を聞く手紙を出し、返書には「張飛といい勝負。髭殿(関羽)には及びません。」と書かれており、関羽は大喜びで周りの人に見せびらかしたとか。 本作の関羽はそんなキャラじゃないのでエピソードとして採用しようがないので……。

 

※5:今作では出ません。無視して頂いても構いませんが、一応書いておきます。『那岐沢 千砂』という人物です。早坂の部下、兼、黎明館のチーフウェイトレス の大学生です。


 
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