No.446396

DIGIMON‐Bake 序章 1話  DELETE or TRANSFAR

※2017.5.23 修正済

1話 DELETE or TRANSFAR

この話はオリジナル性が強いかと思います。

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2012-07-05 13:20:26 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2035   閲覧ユーザー数:2001

 

 宣伝広告。

 

 それを作るために開いたパソコンだった。しかし広告は作る途中で置き去りにされ、画面の下に追いやられる。

 

 

「セキュリティが弱まってるだって……?」

 

 

 ウィルスの影響かなのか、それとも単にセキュリティが不在なだけなのか。

 此処とは違うデジタルな世界の情報を正確に捉えたパソコンは、彼の副業用のもの。とは言っても彼の場合、副業の方がパソコンを使うのだが。

 

 

「どっちにしろコレはマズイぞ……」

 

 

 ほらみろ、と言わんばかりに大事なデータがかき消されている。

 このノート型の小さなパソコンではデータが空っぽになるのはもう、すぐ。あっという間だ。

 兎に角本部に行くしかないと机にパソコンを放ったまま立ち上がった。

 

 

「おい! タクティモン。今すぐ本部に飛んでくれ」

 

 

 もう5年も着ているのに慣れない制服に腕を通す。

 今日に限ってヘルプは雇っていない。「午後からは臨時休業か」なんて思い溜息が出たが、それも仕方ない。よくあるっちゃある事だ。

 それでも常連のように来てくれるお客様には感謝の心を忘れない。綺麗とは言えないが、ミミズのような字を丁寧に書いた方だろう。『本日、急用により午後から臨時休業です。すみません いつも感謝!』と、休業の度に貼り紙をした。

 自営業の彼は団子屋を営んでいた。その奥から返事が聞こる。

 

 

「今すぐか? 承知した」

 

 

 彼の相棒はタクティモン。タクティモンの背中を見ても未だに飛行能力がある事にどこか納得出来てない彼は、空高く上がるタクティモンの背中に乗った。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 データの残骸だと思っていたデータは実は分裂しただけのデータだった。

 これには誰も気づかなかった。否、誰もが自分の力に奢っていたのだ。

 

 ほんの少し前、デジタルワールドに突如現れた膨大なデータ量。

 こういった異変を対処する聖騎士達はイグドラシルという場所に召集する。

 最初は微々たる小さな異常だった。それを良くも悪くもドゥフトモンは軽視しなかった。ドゥフトモンの判断は早かった。賢明な指示でロイヤルナイツ達にイグドラシル召集の警報が送られる。

 その時だ。

 皆がイグドラシルに集まったこの時を狙われるとは誰が考えただろうか。

 数え切れないほどの究極体デジモンがイグドラシルに押し寄せる。

 この場所を知っている者はロイヤルナイツと四聖獣のみ。無数の敵は誰かの後を付けてきたとでもいうのか。

 

 

「オメガモン!」

 

「デュナスモンか、大事ないな?」

 

「あぁ、問題ない。それよりも、だ……」

 

「ここを知られて帰すわけにはいかん」

 

「それもそうだ。しかし……」

 

「? さっきから何だ、そのハッキリしない返答は?」

 

「……。ここだけではないという情報が入った……」

 

「まさかっ、」

 

 

「そこのお二人さん! 大丈夫かい?!」

 

 

「「アルフォースブイドラモン!」」

 

「どうやら大丈夫みたいだね。それよりもさっきデュナスモンが言った情報の続きだ」

 

「ここだけではない、という事はここで屯(たむろ)ってる場合じゃないという事だな」

 

「そうそう、それでねえ。俺はそっちの場所を抑えた。

 見た所こっちより随分場所が広いし、敵も分散してる。

 こっちは……究極体になって御出ましだけど、向こうは成熟期がいっぱい、いっぱい。

 あの様子だと進化するつもりもないらしく、落ちてるデータばっかり食ってるよ」

 

「それで、対応には二手に分かれるという事か?」

 

「デュナスモン正解。悪いけど、デュナスモンは俺に付いてきて欲しい。後はエグザモンとクレニアムモンに来てもらうけど、いいかいオメガモン?」

 

「ああ、構わない。そちらは任せたぞ」

 

 

「了解」

 

 

 アルフォースブイドラモンがデュナスモンを連れて二人を呼びに飛んだ。四人が別の場所に向かい、イグドラシルに残るは六人。

 再生と修復を繰り返す敵の前に、確実に体力を削られていたのだった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

「……で、何で俺まで付き合わされてんの?」

 

 

 不機嫌そうな顔……というよりは眠たそうな顔をしてファーストフード店に居座ってるのは、國土深という二陣中学3年の男の子。

 そして彼を付き合した張本人、同じ中学3年の西ノ宮澪。

 

 

「新しいカード出たから」

 

「……」

 

 

 それだけか、とでも言いたかった深はその言葉を喉で止めた。

 ま、自分も欲しかったからいいか、と思い直して。

 

 

「カードの出は?」

 

「まぁまぁ順調」

 

「あー、そう」

 

 

 単調な会話はいつも通りだが、澪の機嫌が少しだけ嬉しそうな感じがする。

 澪は買ったカードを全部見終わると、ガサゴソと鞄からノートパソコンを取りだす。

 

 

「譲ってもらったんだ、小さいの」

 

「へぇ、いいな」

 

 

 深がひょいと身を乗り出すと澪はパソコンをそちらに向ける。

 デスクトップにはデジモンの壁紙。ほんとに大好きなんだなぁと思う。

 

 デジモンと言えば男の子対象のものかと思っていた深だが、最近ではカッコイイのやら複雑な設定やらでデジモンも女の子から上の年齢層にまで受けている。

 現にクラスメイトの女の子でもハマっている子もちらほら見るし、ちょっと上の年齢層の女の人なんか凄いもんだ。

 

 

「で、何。パートナーにするならロイヤルナイツの誰かがいいってか」

 

 

 デスクトップに飾られているのはロイヤルナイツの面々。

 オメガモンからデュークモン、最近少しあちこちで顔を出し始めたアルファモンやジエスモンまで、見事に現在公開されている13体のロイヤルナイツがカッコよく描かれている。

 

 

「そうだな……ロイヤルナイツはカッコイイよね。でも、パートナーデジモンは誰でもいいよ。

 デジモンがここに存在するってだけで十分だ」

 

 

 澪はあまり高望みしないタイプの人間だった。

 元々叶いもしない願いなのだと割り切っているのかもしれない。

 でも人種で分けるなら、澪は絶対『サッパリ現実型』だと深は思う。

 

 

「そうか……デジモン、本当にいるといいよな」

 

 

 ちゅーとコーラを飲み干しながら、深はパソコンを操作する澪の手をじっと見ていたのだった。

 

 

 広い広い荒野には、無数のデジモンが散っている。

 そんな光景をある者は横に首を振り、ある者は溜息をし、ある者は何も言わず見据えている。

 

 

「また増えたのか……」

 

 

 アルフォースブイドラモンがそう呟いたのを真後ろにいたクレニアムモンが頷くように聞いていた。

 

 

「増えただけなのだろう。消せばよい、問題ないぞアルフォースブイドラモン」

 

 

 クレニアムモン自身もフォローのつもりで言ったのだが、やはりその数は目が痛くなる程に今も増え続けている。

 

 

「見ていても仕方ないな。半分……俺が消そう。それで大分視界も良くなるだろう」

 

 

 大きさはロイヤルナイツ随一のエグザモンが大きく羽ばたいた。

 荒野がこれ以上ない荒野になりそうなエグザモンの一撃は、やはり予告通りその敵の数を半分に減らす。

 

 

「流石……"竜帝"。規模が違うな」

 

 

 同じ竜の眷族であるデュナスモンが感心の言葉を代表した。

 これではもう一発エグザモンにやってもらえば終わりではないか?と思ったが、そうはいかず敵は増える。

 

 

「一体どれだけ湧いて出て来るのか……」

 

 

 キリがない、と言った瞬間、3体も敵の排除に向かう。

 

 

 随分と戦った気がする。そして随分と減った気もする。

 しかし、4体の身体を違和感が包んでいる事も確かだった。

 

 

(何だ……身体がおかしい)

 

 

 それにいち早く気づいていたのはクレニアムモンだった。自分の手を見つめてみても何も分かりはしない。

 

 しかし何かがおかしい。

 

 

(この敵に触れるだけで……まさか)

 

 

 一度や二度なら感じる事はなかっただろう。その違和感は明らかに同じ敵を何度も触れているからだ。

 

 

「オイ皆! 敵に触れ過ぎると危険だ! これ以上長期戦は不要、荒れた地は後に修復に手をかける。一気に終わらせよう!」

 

 

 クレニアムモンの声掛けの意図をすぐに察した3体は頷き、各人広範囲に有利な技を繰り出す。

 

 その矢先の事だった。

 

 

 体の異変が表れたのは

 

 敵の全排除完了と共に4体の体はその場から消えた。

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 先程と同時刻、イグドラシルに姿を表した敵はほぼ同じ時間に消滅した。

 

 

 そして消えたロイヤルナイツの一人は、イグドラシルに戻ってきた。どういう訳か、かなり息を切らしている。

 

 

「クレニアムモンか。いつ帰った?」

 

 

 気配もなくいきなりその場に戻ってきたクレニアムモンにオメガモンは何気なしに質問したつもりだった。

 ぼやっとしているクレニアムモンに近寄ったスレイプモンが、絶え間なく息を切らしている異変に気づく。

 

 

「どうしました。そんなに急ぐ事もなかったでしょう」

 

 

「ここは……イグドラシルか……?」

 

 

 その質問に皆がクレニアムモンを見る。

 

 

「? 何かあったのですか?」

 

 

 スレイプモンが不思議そうに尋ねたが、クレニアムモンは目を見開き唖然とした態度だ。

 

 

「私以外は? 帰っていないのか?」

 

 

 

 意図の分からない質問ばかりで、ついにロードナイトモンが痺れを切らす。

 

 

「帰っていない。お前と一緒に行動していたのではなかったのか?」

 

 

 クレニアムモン自身もまだ状況が分かっていない。

 そして片言で呟くしかなかった。

 

 

「消えた。私も含め他の3人も、あの場所から一度消えたのだ」

 

 

 事実は、意図の分からないものだらけでロイヤルナイツ達は個々で数少ないクレニアムモンの発言から考えを巡らし始めた。

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 ネットワーク管理局本部。

 

 管理者は数えるほどの組織だが、今は彼一人しか本部にはいない。

 彼とそのパートナー、タクティモン。その彼の名は、直樹悠史。

 

 

「やっぱりおかしなことになってやがる」

 

 

 こちらのデータは無くなっていなかった。

 普通のパソコンと違い、デジタル世界専用に作られているお陰でデータが無くなるという被害は避けられたようだ。

 

 

「増殖したウィルスと進化したウィルスか……タクティモン、これはデジタルワールド内でデータを食いたかっただけだと思うか?」

 

 

 セキュリティは弱まっていたが、正常に戻っている。一時のウィルスの所為ならばこれでいいのだが、直樹は納得していなかった。

 

 何故か、それはデジタルワールドのセキュリティとも言える二つのデータが消えていたからだ。

 

 

「セキュリティ……ロイヤルナイツの2体のデータが消えている。さっきのウィルスの所為で消されたのだろうが、それと共に魔王系の大きなデータも一つ消えている」

 

「ロイヤルナイツが? しかしウィルスは排除したのだろう」

 

「あぁ、排除は完全にした」

 

「消えたデータはDELETE(削除)かTRANSFAR(移動)か?」

 

「ん? TRANSFAR? まさか……」

 

「こちらに移された可能性がない事もないだろう」

 

「成程……」

 

「うむ。意図は分からんが、ネットワークセキュリティをDELETE出来ないと判断し移動させたか、だな」

 

「少しばかり調べる必要があるな……」

 

 

 タクティモンの助言に悠史は頭を働かせ始めた。

 

 セキュリティ――消えた二つのロイヤルナイツがDELETEではなくTRANSFARしたと祈りながら。

 

 

 

 
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