No.444421

博麗の終  その18 (終)

shuyaさん

どこかの、誰かの、幻想郷

2012-07-01 23:00:58 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:631   閲覧ユーザー数:627

【幻想の終】

 

 レミリアの去った部屋に、月明かりが差し込んでいた。

 

 生きているにしては白すぎる霊夢の顔は、もはや血の気というものが存在していなかった。

 紫がそっと顔を撫でてみれば、低目ではあるが体温が感じられる。

 

「…………あーあ」

 

 ふてくされた少女のような声で、紫は不満を乗せた声を吐き出していた。

 そして添い寝をするようにパタンと倒れると、もぞもぞと布団の中にもぐりこんでいった。

 

「失敗、しちゃった」

 

 すべては終わったのだと、決定してしまったのだと。

 何をやっても何をやらなくても、何を変えても何を変えなくても。

 話しても考えても叫んでも、何もかも何もかも。

 

 決して、避けられないことを悟った。

 

 

「ごめんね。霊夢」

 

 

 

 

 紫は、布団にくるまりながら、霊夢の胸の温かさを感じていた。

 

 そして考えるまでもなく、これから起こることを、起こっていることが頭の中を通り過ぎる。

 

 紅魔館は、パチュリー・ノーレッジが館ごと移動する魔法の手筈を整えていることだろう。

 白玉楼は、地獄と共に担当替えでどこかへと行ってしまうだろう。

 永遠亭は、また姿を隠して細々と生きる道を選ぶのだろう。

 山の神社は、あの2柱の指示ですでに幻想郷を離れているだろう。

 地底は、そのうちまた入口を閉じるだろう。

 新しくできた寺も、他の勢力も、またどこかへ行けばいいだけだ。

 

 みんなみんな、去っていくだけだ。

 

 私だけが、取り残されて。

 私だけが、死に目に立ち会うことになる。

 

 

 幻想郷の終わりを見るのは、いつも私か霊夢だけなのだ。

 

 

 

 

 八雲紫と、これから旅立つ博麗霊夢だけが知っている。

 

 この幻想郷の崩壊は、神が幻想郷を捨てたからなのだと知っている。

 

 神が見捨てたなら博麗霊夢に、神の式が壊れたなら八雲紫に。

 

 幻想郷の終わりは、必ずそのどちらかで決まる。

 

 壊れれば、戻らない。

 

 幻想は、儚く消え去るだけ。

 

 神の脳内から、式の記憶から、削除されればただ終わるだけ。

 

 この先などありえない。

 

 博麗霊夢の命と共に、すべてが消去されていく。

 

 

 働き過ぎたが故の眠気なのか、それともすでに削除が始まっているのか。

 

 薄れ行く意識の中で、八雲紫は思う。

 

 

『これはたった一つだけ、一つの幻想郷の終わり。

 

 神の数だけ、幻想郷は存在する。

 

 悲しむことはない。

 

 ただ役割を終えただけなのだから。

 

 きっとどこかの神の式で、私も霊夢も励んでいるのだろう。

 

 嘆くことはない。

 

 この幻想郷を忘れた神も、いつかの時は楽しんでくれていたのだろうから』

 

 

 消え行く幻想郷の中で、紫が一粒涙を零す。

 

 

 畳に落ちるその前に、全てが記憶の底へと消える。

 

 

 


 
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