第3話 天使の条件
懐かしい夢を見た。
さんさんと照りつける太陽は眩しくて夏の香りが辺りに充満していた。
俺は学校の制服を身にまとい友人たちと駄弁っていた。
「未来はさぁ、将来なりたいもんとかあるの?」
野球部である友人の一人、真壁雄介が特徴的な坊主頭をぼりぼり掻きながら聞いてきた。
「いや、特になりたいもんとかはない。普通に進学して普通の会社に就職する。そんなもんだろ。」
俺がそう答えるとむ一人の友人、逢空直樹が割って入ってくる。
「おいおい、未来。普通に就職っていうけど。実際、普通に就職って目標がなければ難しいもんだよ。」
野球部の真壁とは対照的な逢空は茶髪でちょっとチャラいが真面目少年である。
「だよな。未来は本当にやりたいこととかないのか?」
真壁は真剣な表情を浮かべる。本当に真剣なのかという疑問は置いておこう。
「俺は……特にないよ。ただ……。」
その時、俺はそのあとの言葉が続かなかった。
いや、本当は続きをしゃべっていたのかもしれない。でも、俺は覚えていない。
そのあとの言葉がなんだったのか思い出せないのだ。
無言だったかもしれないし、何か喋ったかもしれない。わからなあい。
わからないこと。思い出せないことが多すぎる。
俺を殺した犯人だってそう、俺は顔をみたことを覚えているのにその顔自体を覚えていない。それどころか俺はその犯人を知っていたはずなのにおもいだせない。
何かが俺の脳内で規制でもかけているのではないのだろうか。
今日の寝起きは最悪だった。
外が黒から青へ変わる少し前。俺は目を覚ました。
汗がべっとりと布団に染みつき気持ち悪い感触。
懐かしいような夢を見た。それは俺が人間だった頃の記憶。
確か、数か月くらい前の話だったと思う。……夏休みだったから半年前になるかもしれない。そろそろ3年で受験を控えていた時期のこと。
2年生の始めは楽しかった。受験なんて何にも考えずにただ遊んでいた。
けど、夏休みに入って受験の面影がチラッと出てきたのだ。
宿題を出すときに先生が言った言葉。
”来年は3年だから。遊べるのは今年までだぞ。”
そんな当たり前のような言葉に俺たち3人…いや4人だったかな?…は真面目に受け取って話をしたのだ。将来何になりたいかって。
ついこの間のことなのにすごい昔のことのように感じる。
ふと、小さな窓から外を見る。外はちょうど黒から青に変わるときだったようで夜に輝いていた星が消えていった。その消えていく様は妙に感慨深いものですべて消え去るまで俺は眺め続けていた。
天使と言うものは思ったよりも簡単なものではないことが分かった。
天界に来て2日目。俺は教室で授業を受けていた。
外は相変わらず綺麗な青。中は人間の時と同じような通常的な教室。
黒板があり教壇があり机があり椅子があった。ただ、ここで違うのは授業を受けているのは人間でなく天使であるということ。先生が黒板に書き記す為に使っているものがチョークではなく指であるということ。まぁ、おおまかに言えばそんなところだろう。
もっと深く言えば電灯が電気で光ってなく神力という力で光っていることや壁に掛けられている時計は法術で動いていたりと…。人間の頃とは違うものなんてそこらじゅうにある。
とりあえず、今日の授業でいろいろなことがわかった。
まず、歴史。天使の歴史だ。歴史と言っても人間のように大きな話は少ないのですぐに覚えられる。
天界ができたのは不明。人間よりも早いのは明らか。
天使たちが天界に住み始めてこれまで戦争といった戦争は2回だけ。悪魔という連中との戦争だ。今は休戦中でいつまた戦争が起こるかわからないそうだ。
しかも、一番近く戦争があったのは100年くらい前のことらしい。今でも小さな抗争なら人間界で起こっている。
次に習ったのは天使と悪魔についてだ。
天使の仕事は因果律の制御、人間の監視、守護が主になる。
因果律の制御というのは世界に矛盾を生じさせないための業務であり位の高い天使にしか与えられない仕事で管理職である。人間の監視と守護は地上勤務と呼ばれこれもある程度位の高い天使しかやってはいけない仕事でこれも管理職である。
その他にも管理職として天使の仕事はあるがその他の仕事とは天界や天使の生活を支えたりする仕事である。技術、教育、守護の種類があり守護以外は誰でもなれる。まぁ、それなりに能力が必要ではあるが通常天界勤務なら誰でもなれるものが多い。
ちなみに守護とは戦闘職のため、試験に合格する必要がある。
天使には位がありそれが役職と深く結びついている。
例えば、俺のような天使候補生には位がない。そして、苗字もない。
天界の門番と案内をしていたクロエの位はケルビム。これは天使において第2位の位となる。第2位の位と言えば天界でもかなりの地位になる。まぁ、天界の門番という重要な職業であるからそれなり高い位の天使が就くのは当然だと思うが。ジェームズも言ってた。
ちなみに第1位の位と第2位の位にはかなりの差があり第2位以下では天界の中心に立つ天界の塔に入ることが許されない。
ジェームズの第6位の位、エクスシアイはまぁまぁの位らしい。
天使の位を上から順番に現すとこうなる。
第1位 セラフィム
第2位 ケルビム
第3位 スローンズ
第4位 ドミニオン
第5位 デュナメイス
第6位 エクスシアイ
第7位 アルヒャイ
第8位 アルヒアンゲロイ
第9位 アンゲロイ
それ以下 候補生
悪魔については深くは教えてもらえなかった。
もともと悪魔は自然に発生していたのにあるとき、いきなり天使のように魔界に住み徒党を組んだのだ。それだけである。
天使と悪魔について教えてもらった後はいよいよ法術である。
そのために法術理論というめんどくさいものを学んだ。
細かいことは実際覚えていないが必要なことは完全に覚えたつもりだ。
前、タケトたちが言っていたエンジェルラインについても学んだ。
エンジェルラインとは神力という力を天界の塔から各天使へと運ぶ紐のようなものでそれが繋がり神力が天使に注ぎ込まれることによって法術が扱えるようになったり傷の修復が行えるようになる。天界ではこのラインはほぼ無限につなげることができ神力も無限に手に入る。そのため、天界で天使は基本死なない。しかし、地上、魔界ではラインのつながりが悪く神力もあまり手に入らない。神力が尽きた状態で身体が壊れてしまうと天使は死ぬ。地上や魔界で天使が死にやすいのこのためである。
法術は神力をエネルギーなどに変えるもので発動方式はおおまかに分けて3つ。
付加方式、術陣方式、言霊方式があり。
エリーゼが使っていたのが言霊方式。クリスが使っていたのが術陣と言霊の混合方式。
言霊方式はその名のとおり言葉をしゃべることによって発動する方式であり発動範囲は声が聞こえる範囲。威力が高く、とっさに扱うことができるが言霊を定義しなければ発動できない。定義とはエリーゼが持っていたノート(術書)にどの言葉を言えばどんな効果が与えられるかを書いておくことである。但し、術者の才能によっては定義を頭の中に書き込むことが可能らしい。
術陣方式とは陣と呼ばれる図形を書いておき(刻むや形でも可)そこに神力を流し込むことによって発動させる方式であり図形さえ確立させておけば印刷でも発動が可能。細かい術などが扱いやすいしかし、威力が弱く、発動に陣を手に持っているか体のどこかに着けていなければならない。
付加方式は物質に意味を持たせた神力を注いでおく方式である。この方式は法術が苦手な者でも強い法術を扱うことができる唯一の方式で威力は作成主によってまちまち。しかし、多彩な技を扱うことができない。また、神力がなくなれば効力はなくなり元のただの物質に戻る。
今日学んだことはこれくらいだ。
黒板の前ではアニーという教師が大きな眼鏡を直しながら今日のまとめをしていた。
アニーという教師は赤毛で20代前半くらいの女性だ。すぐにずれそうな大きな眼鏡をかけてマイペースな授業を行う。
指を直接黒板にこすり付けて黒板に文字が生まれる。これは法術で作られたもので黒板の中(見えないところ)に陣を書いてあり、指から神力を注ぐと神力が注がれたところの色が変わるというものだ。
「え~と、天使の階級は~9段階あって~」
と復習にしては遅いペースで授業が進む。時刻は昼前。最初の基本授業は天使の基本と法術などの能力の基礎だけを行うので実は対した時間を取らないらしい。と言っても担当する教師によって時間はまちまちである。
例えば、教育熱心な先生だと細かいところまで詳しく説明するためまる1日、天使について学ぶこともある。その面、アニーは教育熱心というわけでもないそうだ。
今日の授業は昼前には終わる予定。つまり、そろそろ終了。
アニー曰くこんなに早く終わるのは自分の研究の続きがしたいからだ…と。
余談だがここの教師は本業は教師ではなく研究員なのだそうだ。まぁ、新人が来なければ授業をやらなくて良いし基本、生徒が自主的に勉強しわからないことや聞きたいことがある時だけ勉強を教えるだけだからな。大抵の教師は研究しながらついでに生徒に教えるといったところだ。
アニーはちらちら時計を気にしながら俺に向かって勉強を教える。
正直言って復習なのでもう終わってもかまわないのだが…。
しかし、アニーは変なところで律儀なのか今日やったところをすべて復習し終わるまで授業を行った。
こうして、1日目の基本授業が終了した。
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眠れる森の3話です。
天界にやってきて新たな仲間と出会ったミライは新人に行われる基本授業に参加する……。
後編うpしました。
http://www.tinami.com/view/441463