(※内容に出る指先を針で刺して血を出させる民間療法は、韓国で使われる食靠れの時の民間療法です。決して拷問などではありません)
拠点:雛里 題名:それでも…私を一番にしてください。
雛里SIDE
「なんで病み上がりで過食してまた倒れこむなんて馬鹿なことをするんですか?」
「面目もございません…いてっ!」
昼孫権さんと出掛けて戻ってきた一刀さんは、夕方ぐらいに食べたものがもたれて顔を白くして寝床に倒れこんでいました。
民間療法で、指先を針で刺して血を出させながら、私は一刀さんを睨み付きました。
「うっ……」
「……真理ちゃんに付き合うって言ったんですか?」
「付き合うとは……でも、そこで駄目だと言うわけにもいかないだろ」
「あまり適当な対応したら、後で真理ちゃんに酷い想いをさせますよ」
「分かってるけど…正直どうすれば良いのか迷ってる…いたっ」
蓮華さんと一緒に戻ってきた時は、ちょっと驚きました。
部屋に居ないと思ったら何時の間に二人で出かけていたのです。
真理ちゃんのことは、まあそうだとしましょう。孫権さんが一緒に来るのを勝手に良しとしたのも百歩譲って見逃せます。
でも私の知らない所で二人でデートというのはさすがにいい気分にはなりません。
「怒ってる?」
「怒ってません」
「痛っ!」
わざと持ってる針で痛く刺しながら言いました。
一刀さんはしゃぶりながらちょっと訴えてるような顔で私を見ました。
「何か言いたいことありますか?」
「……いや、別に」
「食靠れはどうですか?まだ続きますか」
「刺したばかりだし…雛里ちゃんはご飯食べに行ってよ」
「……あまり食べる気になりませんので良いです」
一刀さんがこんな状態なのに、私だけ食べに行けるわけないじゃないですか。
と言いつつも、もうなんかこれ以上一緒にいたら一刀さんに何か文句言いたくなりそうなので、もう自分の部屋に行きます。
「あ、帰るの?」
「はい、帰って寝ます」
「……」
「なんですか?」
「…いや、何も」
「……」
一刀さんが何も言わなかったので、私は部屋を出て行きました。
大きな音がするように門を閉じて、自分の布団にゆっくりと身を落としました。
「はぁ……」
私がワガママなんでしょうか。
正直に言うと、孫権さんにも、真理ちゃんにも、一刀さんのこと渡したくありません。
ずっと今までのように独り占めしたい。
じゃあその独占したい相手にどうして冷たく当たるんでしょうか。矛盾してます。
本当はこんな時間こそ、一刀さんと一緒に居なきゃいけないのに…さっきまで一刀さんが他の人と居たと思ったら…一刀さんのこと見ているのが辛いんです。
「こんなところで何してるの?」
「…ふえ?」
布団に埋めていた顔をあげると、左慈さんが横に立っていました。
「他の皆はどうしたの?」
「…今食事中です」
「鳳統ちゃんは?」
「…ちょっと食欲がなくて」
「それは大変ね。成長期だからちゃんと食べないと…どこか具合悪いの?」
「ほっといてください」
そう言って私はまた顔を布団の中に埋め尽くしました。
「……女に好まれるのは天の御使いとしての北郷一刀の本性なの」
「…前は私のことだけ見てくれるって言ったじゃないですか」
「その時は北郷一刀がまだ弱い時期だったから。そして、その時は本当にあなたしか頼れなかった時期でしょ?」
「じゃあ、一刀さんにとって私は何ですか?」
私は起き上がって左慈さんに怒りをぶつけました。
「単に自分を好きな女なら誰でも良いんですか?いつも私だけ見てくれると思ったのに、今更他の女の人に告白されたり、何の躊躇いも街歩いてたりするのに私は怒ることも出来ないんですか?私が一番初めて好きだったんです。今でも好きです。他の誰よりも私が一番愛しているんです!」
「……じゃあなんでここに居るの?」
「………」
「そんなに他のコたちが手を出すのが嫌だったら、あなたが一刀に言ってはっきり言いなさい。他のコなんて見ないで自分だけ見てって。諸葛均の告白も断って、孫権と一緒に旅するのも取り消して、あなたとだけ一緒に居てと言いなさい。それでも彼は嫌とは言わないわ。あなたが言った通りに、一番はあなただから」
「…そんなこと…できません」
「なんで?ぎくしゃくするから?自分が悪い女みたいだから?そんなの気にしてるから他の娘に取られそうになるのよ。本当に欲しいものがあるなら何やってでも手に入れるのよ。恋に関しては尚更」
「私だけの気持ちならそうしても構いません。でも、そんなことしたら一刀さんが傷つきます」
一刀さんは優しい人ですから。
私がそうして欲しいと言ったらそうしてくれると思います。
例え真理ちゃんが泣いても、孫権さんに叩かれても一刀さんは私のお願いなら聞いてくれると思います。
でも、そんなことする一刀さんの心が大丈夫なわけがありません。
ここに来て最初に孫権さんが付いてくるのが嫌だって言った時、一刀さんは私たちの言うとおりに孫権さんを仲間に組み入れるのを拒絶しました。
でもその直後、一刀さんがとても悲しい顔をするんです。
私はそんな顔を見たくて一刀さんにそんなこと頼んだわけじゃありません。
自分の愛を守るために、愛する人の心を傷つけては本末転倒です。
「私っておかしいですか?」
「…正常よ。誰も自分が一番愛する人が他の誰かと居るのを見て嬉しそうにはしないわ」
そうか……
それは、間違ってはないんですよね?
独り占めしたいというこの気持ちが、私勝手なわけではないんですよね。
「打たれ弱いわ。あなたも、北郷一刀も……もうちょっと風波もあった方が、愛も深まるわ」
「……でも、出来ることならずっと今のままで居たかったです」
でも、それが駄目だとしても…何も挫ける必要はないんですよね。
「私、ちょっと出掛けて来ます」
「二人には今日のうちは帰って来ないって言っておくわね」
「そういう説明はいいですから」
私はそう言って一刀さんの部屋に戻るために外へ向いました。
「……」
部屋に入る前に、私は少し考え込みました。
正直に言いますと、ちょっとした悪巧みです。
「すぅ……はあ」
深呼吸して、顔を正して部屋を開けると、一刀さんが驚いた顔で私を向かいました。
「雛里ちゃん?」
「…ちょっと後様子を見に来ただけです」
わざと冷たいままで言葉を発しながら一刀さんが居る寝床の元へ行きました。
「顔色も良いですし、もう大丈夫そうですね」
「あ、…うん」
「人はこんな苦しそうにしてるのに」
「え?」
そう小さい声でぼそっと吐いて私は一刀さんから背を向きました。
「え、もう行くのか?」
「はい、最初から様子見に来ただけです。何かあったら言ってください。真理ちゃん行かせますから」
「………」
もう行くのかっていう一刀さんの声から残念そうな感じがダダ漏れです。
実は最初に出ていった時も知ってたんです。でも、さっきはそういう気になれなくて無視して出て行きましたけど……
「じゃあ、私は帰って寝ます。『独りで』。お休みなさい」
「…雛里ちゃん」
後ろから名前を聞かれて私は門に向かっていた手を止めました。
でも、振り向きません。
「なんですか?」
「……行くな」
「…用事があるのだったら早く言ってください。私眠いんで……あ」
そしたらふと、後ろから大きな両腕現れて、私を抱きしめました。
「…行くな、一緒に寝よ」
「……はい////////」
友達の妹?
前代有力豪族の姫?
どんとこいです。
でも、一番なのは私です。
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