No.438244

オアシスがかれるほど騒ぎたいⅠ 《完全版》

生徒会長は美少女! ……でも、頑固で口汚くて悪賢い。そのせいで学校中は敵だらけ。 平凡な高校生・桐生和也が主人公の座を脅かされながらも、会長に捨てられないために偽生徒会役員として大奮闘!(活躍はしないけどね) いつかアイツの口に石鹸を突っ込むんだ──!

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2012-06-17 01:26:06 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:462   閲覧ユーザー数:462

プロローグ

 

 

 

校内一の雌犬と、校内一の狂犬が睨み合う。

 

新一年生の俺には縁遠いはずの三年生の教室に、昼休み、俺と栗山さんと今田美園生徒会長と三人。

 

背後から見ても自信のオーラに満ち満ちている会長は、今田美園先輩は「私が何か悪いことしましたか?」と言い張る。

 

会長の席の前で仁王立ちをする男の先生は、この世のものとは思えないほどの厳つい剣幕で会長を睨む。

 

会長の後ろで見守る俺たちに飛び火しないことを祈ろう。というか、早くこっから立ち去りたい。先輩ってのは、ホントに厄介な人種だ。

 

俺の隣で会長と先生のにらめっこを申し訳なさそうな表情で見守る同級生の栗山さんも恐らく、いや絶対、俺と同じ心境だろう。

 

「みんなに迷惑をかけているってことが分からないのか!?」

 

先生が突然怒鳴った。びくんと反射的に体が反応する。耳を塞ぎたかったがそんな余裕は無い。二人はクラス中の注目の的となった。

 

驚くべきというか、仕方ないのか、会長はちっとも動揺してない。それどころか、先生にも負けないくらい辛辣な表情で先生を睨む。そして、なぜか目を閉じた。そしてそのままインチキ賭博師のごとく微笑んだ。その表情は、実に不気味で、俺にとっては吐き気を催すほど不愉快なものだった。

 

「……来年の今日は、きっと休日ね」

 

何を思ったのか、会長は突然そんな事を言い出した。そして、椅子から立ち上がった。

 

「カレンダーに目立つように明るい字でよーく記しておきなさい……今日という日を!」

 

会長はそう言うと、勝ち誇ったように微笑んで先生を指差した。先生は呆れた表情で今までにない大きな溜め息をつく。先生、俺も同じ気持ちだ。

 

「我々、東菫高校生徒会の独立記念日

インディペンデンスデイ

をね!」

 

この会長のことだから、アホらしい決めポーズでもするのかと思えば、会長はスカートが翻り、その中が見えるほどに大きく足を上げ、思いっきりその薄汚い足の裏で先生を蹴り飛ばしやがった!

 

「どわ!」と脱力したマヌケな声を上げて倒れた先生の姿に俺の身体は思わず前のめる。周囲にいた先輩たちもみんな、この壮絶、というよりはサスペンスな光景に注目する。

 

独立記念日

インディペンデンスデイ

? 笑わせるな! 今日は人生最大の汚点だ!

 

「さぁっ! 行くわよ!」

 

会長は爽やかに俺たちの方へ振り返ると、こんなトコ早く立ち去るわよ、と催促する。従いたくない、だが、逆らうわけにはいかない。死にたくない!

 

俺の青春は、こんな傍若無人な脳タリン女と出会わなかった時間軸を妄想するのかと思うと、吹っ切れそうで怖い。

 

先生が立ち上がる前に、逃げるように教室を後にすると、俺たちは廊下を我が物顔で歩く会長の後を鴨の子のように黙々と追った。

 

人気があるのか避けられてるのか、会長が通ると廊下は一気にざわめくする。そんな会長の手下だと思われるのが、嫌で仕方ない。

 

不意に「和也!」と会長は廊下の真ん中で立ち止まり、薔薇が舞う幻覚が見えるほど華麗に振り返った。夢中で歩いてた俺は危うく会長にぶつかりそうになり、身体に急ブレーキをかける。

 

「なんすか?」

 

みんなが見てんだよ! 恥ずかしいから早く済ませて!

 

「あんたの教室、どっち?」

 

どっち? だって。なんかバカっぽい。

 

「どっちっていうか、一年B組、です」

 

「B組? 夏子ちゃんは?」

 

その言葉に、俺の隣にいた栗山さんがびくんと反応する。この様子、相当怯えてるな。

 

「……桐生くんと同じです」

 

肩まで伸びた緑色の髪。その頭頂部に聳えるチャーミングなアホ毛。四角くて黒いフレームの眼鏡。反射するレンズの奥に見え隠れする大きくて澄んだ瞳。

 

朴訥、それの付け合わせメニューのように謙遜な栗山夏子さんとは、さっきも言ったけど同級生だ。まだ知り合って一ヶ月にも満たない。全然話したことも無いし、話そうとも思わない。なんかこう不気味っていうか……。

 

「じゃあ、行くわよ!」

 

栗山さんのことを考えてると、いつの間にか会長が結論を見出だしていた。会長の後ろ姿が俺と栗山さんを置き去りに遠退く。

 

「え? ちょっと! 行くって、どこにですか?」

 

俺の反射神経は先輩を逃がさなかった。

 

「アンタ自分で言ってたじゃない。そのアホ面はなに?」

 

会長はまた振り返ると、俺をバカにしたように言う。

 

困る。こんな怪物が教室にいるだけで迷惑だ! それにもうすぐ昼休みが終わるし。

 

俺の気持ちを知ってか知らずか、先輩は前に向き直りまた歩きだした。

 

俺は呆れて思わず隣の栗山さんの顔を見た。

 

栗山さんも俺と同じことを思ってたのか、苦笑いで俺の顔をみた。

 

これから、こうして栗山さんと顔を見合わせることが何度もあるのかと思うと、なんか気が遠くなる……。

 

 

 

第1話

 

 

陽が差し込む小さな窓が鉄格子に見えたのは初めてだ。

 

俺は、朝以来、再び部室棟に来ていた。というよりは無理矢理連れてこられた。俺は椅子に座らされ、目の前には長机越しに三人の上級生。一つしかない出入り口には、門番のように佇む、彫り深い、金髪の恐らくハーフか外国人。これまた上級生。

 

まるで面接のようだ。

 

一人、机の上に足を乗っけてるのが気になるが……。

 

今、聞きたいことはただ一つ――。

 

「いったい、なんなんですか?」

 

そう言うと、一人の眼鏡をかけた男子生徒の口が開く。

 

「まぁ、落ち着いてくれ」

 

自分では、これまでにないくらい落ち着いてるつもりなんだが……。

 

「僕の名前は、一木 博(いつき ひろし)。よろしく」

 

眼鏡の奥の小さいが鋭い眼差しと、洗礼された仕草。

 

「は、はぁ……」

 

相槌に紛れて小さな溜め息をつく俺。

 

一木さんは、隣の二人の女子生徒に何やら目で合図する。

 

「山口 桃子(やまぐち ももこ)と言います。よろしく」

 

これまた眼鏡をかけた黒いおかっぱの髪の女子生徒が自己紹介をする。

 

「ウチは、松田 聖(まつだ ひじり)! よろしくっ!」

 

毛先を遊ばせた赤いショートヘアーの女子生徒。悪そうなツリ目、口元に眩しいぐらいに光輝く真っ白い健康な歯。

 

体操着姿のそいつは、実にボーイッシュだ。

 

そして、俺が気になってた奴だ。机の上に足を乗っけて偉そうな態度。

 

それにしても、よろしくって言われても困る。

 

「そして彼は、ユゴーだ」

 

一木さんがドアの付近の西洋風の男子生徒を指差す。

 

「……」

 

ユゴーと呼ばれた先輩は、無口で返事も挨拶もしない。

 

「よ、よろしくお願い、します……」

 

とりあえず俺も全員にペコリとお辞儀し挨拶をする。礼儀だからな。

 

「気になっていただろう? 我々が何なのか」

 

「は、はい」

 

一木さんが放つオーラに圧倒される俺。

 

「我々は、教頭から直々に命じられて、君ら生徒会に制裁を降す、いわば反生徒会ってわけだ」

 

「は、はあ……」

 

出た。さっき小泉さんが言ってた奴だ。

 

それにしても教頭は頭が悪いのか? 会長が仕切る生徒会が嫌いなら、無理矢理解雇すれば良いと思うんだが……。

 

なんでわざわざ「反生徒会」なんか作ったんだ?

 

「ちゃんと名前もあんだよ。『東菫(とうきん)の騎士団』ってね! カッコいいでしょ!?」

 

松田さんが付け加える。

 

「……その『東菫の騎士団』が、俺になんの用ですか?」

 

俺もバカな質問をしたなぁ……。俺たち生徒会を制そうとしてる連中に。

 

「実は、君に頼みがあるんだ」

 

一木さんがひっそりとした低い声で言う。

 

「な、何ですか?」

 

「君も『東菫の騎士団』に入らないか?」

 

「そうそう! そしてあのバカ美園をギッタギタにこらしめんの! 楽しいよ! 絶対!」

 

一木さんと温度さのある、高いテンションと声で松田さんが口を挟む。

 

そしてそれを一木先輩が「君は黙っててくれ!」と制す。

 

「……確かに楽しそう」

 

正直な気持ちが零れた。

 

「でしょでしょ!?」

 

松田さんが前のめりになると、一木さんが大きく咳払いをする。

 

あのクソ会長を懲らしめるのは、確かにこれ以上にないパーティーだ。でもこの人たちにそんなことができるのか、少し不安な部分もある。

 

まだそんなに会長のやりたい放題ぶりは見たことがないが、オーラで伝わってくる。

 

「そこで、あなたにやってもらいたい、とても重要な任務があるの」

 

山口さんが口を開く。

 

「どんなことですか?」

 

「スパイってやつ」

 

「スパイ?」

 

「そう、スパイ。あなたはいつものように生徒会活動、もといお遊びに付き合えば良いの。それで、あの子の弱味や色々な情報を握って、で、手に入れた情報を私たちに伝える。それだけ。それで、タイミングを見計らって、私たちが一気に攻撃する。もちろんあなたもね? その方が混乱させられると思うから」

 

この人たちがバックについてくれるのは、とても頼もしい。成功するか不安だ。

 

「そんな心配すんなって!」

 

松田さんが根拠のないフォローを入れてくる。

 

「とりあえず、が、がんばります!」

 

「よし! 今日から君も騎士団の一員だ! よろしく!」

 

一木さんが握手を求める。

 

俺は、生徒会でありながら反生徒会の騎士団へ入ったのだった……。

 

 

 

 

第2話

 

 

 

しかし、誰が美園を見張るのか! もちろん俺だ。

 

そう、俺は騎士団に味方するのさ!

 

美園会長という名の薄汚れた醜い魔獣の首を、俺が勇者となり、騎士団が俺の強力な武器となり、原型もとどめないほどグチャグチャに切り裂いて、その堕落しきった精神を死体安置所に送ってやるのさ!

 

そして俺はこう言う、「火葬でお願いします」。

 

イカれた悪の魂を洗礼された正義の炎で見違えるほど更正させてやるのさ!

 

悪を洗い流された魂が会長の肉体に戻った時、会長は俺にこう言うだろう、「ああ主よ。どうか私を菫畑に連れてってください!」。

 

そして、全てを涙ながらに謝罪するんだ!

 

うん、最高のシナリオだ―――なんてね。

 

 

放課後、俺は、会長に絶対に来るようにと言われていた生徒会室へ向かう。

 

騎士団のこともあって、行かないわけにはいかないんだけどね。

 

それにしても、生徒会室を未だに使えることが不思議でならない。いったいどうなってんだこの学校は……。

 

お城の中にいるような、大きくて豪華な扉の前に、クソ会長と栗山さんが立って何やら貼り紙とにらめっこしていた。

 

「どうしたんですか会長?」

 

一応訊いてみる。

 

「ああ和也……」

 

相変わらず貼り紙とにらめっこしながら言う。

 

「何があったの?」

 

俺は隣にいた栗山さんに話を聞く。

 

「……つかえないみたい」

 

苔アホ毛娘め。何をかって聞いてるんだよ!

 

「『東菫の騎士団』ねえ……アホみたいな名前。誰が考えたのかしら。私ならもっと良い名前考えるわよ」

 

会長が呆れたように脱力して言う。

 

騎士団の名前を聞いて、俺はその貼り紙を見る。

 

『この部屋は、腐れ会長率いる堕天生徒会には贅沢すぎる。ヘドロまみれのガマカエルにフカヒレを与えるわけにはいかない。今日からこの部屋は我ら反生徒会団体『東菫の騎士団』の部室だ! 異論は認めない! 交渉にも応じない!』

 

酷い言われようだな。まぁ全部クソ会長のせいだが。

 

「行くわよ!」

 

会長の力強い叫び声に、俺と栗山さんはびくんとなる。

 

そして、去り行く会長の後に続く。

 

それにしても驚きだな。会長なら強行突破とかしそうなのに。いったいこの人は何を考えてるんだ?

 

それより、会長に関する情報を集めないといけないんだっけな。情報つっても、どんなのがある? 弱味? まずそんなものが会長にあるのか疑問だ。

 

会長の後を追って着いたのは、新聞部の部室前だった。ここに来るのは朝と今の二回目か。今度はなんの用なんだ?

 

もしかして、この部室を乗っ取ったりなんてしようとしてるんじゃあるまいな?!

 

「たのもー!」

 

会長はいっちょ前にそう叫び、大きな音を立てて全力でドアを開ける。

 

まるで道場破りだ。

 

「はぁ……美園、今度は何の用? それにメンバー全員連れて」

 

朝と変わらず、大きなテーブルから離れたところにパイプを置いて座っている小泉今日歌さんことキョンキョン。

 

会長はお構い無しにズカズカと室内に入ると、適当に置いてあったパイプ椅子を持ち出し、小泉さんのところまで行くと、向かい合わせに椅子を置いて、座った。

 

「……だから、何の用なの?」

 

呆れる小泉さん。

 

「キョンキョン! あんた、生徒会に入らない?」

 

これは! 俺もこんなかたちで生徒会に誘われたんだ!

 

『サッカーやろうぜ!』みたいなノリで!

 

「はぁ? ……生憎、新聞部の作業で手一杯なんだけど」

 

完全に呆れ返ってる。めんどくさそう。だが、俺だってこんな風にお断りさせてもらったさ!

 

会長のスカウトはこんなもんでは終わらない。

 

「大丈夫よ! 息抜きだと思えばいいから! 新聞部なんていう人のプライベートをあることないこと書くゲスい部活なんて、心底疲れるでしょ? でも生徒会は違うわ! そう、すっごく楽しいの!」

 

「ウチらはパパラッチなんかじゃないし……。学校の行事に関することとか色んな情報を発信して……」

 

あ、そうだ。これもちゃんとした情報だな。会長が新聞部部長を勧誘っと。

 

「お願い!」

 

「別に私じゃなくても、他にそういう騒ぎたいだけの連中はいっぱいいるでしょ? 今から記事書くんだから、あんたらがいると邪魔なの。とっとと帰って」

 

「いいじゃん! 別に」

 

少し甘えた口調になる会長。

 

「聞こえなかったの? 私は無理って言ったの! もう出てってよ!」

 

小泉さんが煙たそうにそう言うと、会長は「ふんっ!」とふくれて、椅子も戻さず、出入り口まで向かってきた。

 

そして一歩廊下に出ると、「キョンキョンのケチ!」と舌を出した。

 

小泉さんは呆れた様子で天井を見上げて知らんぷりをした。

 

「行くわよ! 二人とも!」

 

今現在、大した情報は手に入らず。次に期待。

 

 

 

 

第3話

 

 

 

 

会長はいったいどこに向かってるんだ?

 

会長は一階にある何の部活か分からない部室の前で止まると「よし!」と声を上げた。

 

「なんですかここは」

 

「今日からここが、生徒会室よ!」

 

またそんな勝手に……。絶対許可取ってないでしょ!

 

「大丈夫なんですか?」

 

「その質問は野暮よ」

 

なるほど。さすが会長だ。

 

会長Hは堂々とドアを開けて入るが、俺も栗山さんも気が引けて、なかなか入れない。

 

「もっと度胸を持ちなさい! そんなんじゃ生徒会の仕事が務まらないわよ!」

 

仕事って、もはや遊びのようなもんじゃん。それに、まず会長が会長になれたのがすごいな。

 

部室には何も置いてなく、殺風景だ。

 

「テーブルが欲しいわね」

 

会長がそんなことを言い出す。

 

「和也、夏子ちゃん!」

 

突然名前を呼ぶもんだから俺も栗山さんも「はい!」と大声で反応する。

 

「お隣から机を拝借してもらえない?」

 

「隣に部室なんてありましたっけ?」

 

「いいからいきなさい!」

 

「はい!」

 

俺と栗山さんは勢いよく廊下へ飛び出す。

 

また栗山さんと顔を見合わせ、隣の部室を訪ねることにする。

 

ドアに貼り付けられた紙には「枕研」と書いてある。枕研ってなんだ?

 

とりあえずノックをする。

 

返事もなく開かれたドア。目の前の立っていたのは、パジャマ姿の女子生徒だった。

 

眠たそうな目を擦りながら「なんですか?」と俺に訊ねる。

 

「あ、あの~机をですね、貸して欲しいんですが……」

 

俺がそう言うと、女子生徒は、相変わらず眠たそうに背後を振り向くと「部長、なんか来た」と言って、下がっていった。

 

その代わりに奥から現れたのは、同じくパジャマ姿の男子生徒だった。この人も眠そうだ。

 

「なんだい? 君らは」

 

「え、えっと、せいとか……」

 

やばい。生徒会の名前は出さない方がいいかな。

 

「なんて?」

 

「新聞部の者です。机を拝借したいのですが……」

 

「新聞部? 君、見ない顔だね。もしかして新入部員かい?」

 

「ええ、まあそうです」

 

やだ。このまま嘘をつくのが辛い。

 

「おお! よろしく! 僕は枕研の部長、クレイヴっていうんだよろしく!」

 

握手を求めてくるクレイヴさん。とりあえず俺も手を差し出す。

 

それより何より、俺には溜まり溜まった疑問がある。『枕研』っていったい何だ? 何なんだ?

 

でもそんなこと聞けない。聞く余裕がない。早く机を拝借しないと。

 

「それで? 何だっけ?」

 

「机を貸して欲しいんです」

 

何回言わす気だよ!

 

「失礼します」

 

背後から声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。後ろを振り返ってみる。

 

「あ、桐生さん」

 

俺の視線の先にいたのは、『東菫の騎士団』の山口百子さんだった。いったい百子さんがこんな所に何の用なんだ?

 

「やあ、山口さん」

 

おっとりとしゃべるクレイヴさん。

 

「ちょっと、椅子が足りなくてね。悪いんだけど貸してくれない?」

 

偶然、同じように物を借りに来たようだ。それにしてもすぐ隣に会長がいるってことが心配だ。

 

「二人がいるってことは、あの子もいるのね?」

 

山口さんが俺と栗山さんを見て言う。『あの子』とは正真正銘、会長のことだろう。

 

「一応……」

 

クレイヴさんが運んできた椅子を抱えると、山口さんは俺に意味深なウインクをおくる。

 

「それじゃ、頼んだわよ桐生くん」

 

「は、はい……」

 

とにかく会長と接触しなくてよかったぁ。

 

「それで? 君たちは何だっけ?」

 

もう一度言おう、何回言わす気だよ!

 

俺は半ば強引に机と椅子を奪い去るように廊下に運び出す。

 

「こんにちは、美園さん」

 

ホッとしたのも束の間だった! なんと山口さんと会長が顔を合わせてしまっていた!

 

「あなた誰? 見たことあるけど……」

 

「あなたが追い出したんでしょ? 生徒会からね」

 

「ああ、思い出した! 百子ちゃん! ごめん影薄いから忘れちゃった」

 

「……私たち『東菫の騎士団』は、必ず生徒会、もとい、あなたを潰しますから。それだけは覚えておいてください」

 

それだけ言うと山口さんは、会長に背を向けて立ち去る。

 

宣戦布告されても会長は、どこか余裕の表情だ。その自信はいったいどこから湧いてきてるのか不思議だ。

 

そうだ、騎士団の勝利には、俺も頑張らなくちゃいけないのか……。

 

生徒会室に机と椅子を手分けして運ぶ。

 

「さぁて、作戦会議よ」

 

机と椅子を室内の真ん中に起き、椅子には座らず机の上に座る会長。

 

作戦会議ってのは、いよいよ本格的に騎士団との対決に挑むってことか。情報がいっぱい手に入りそうだ!

 

「キョンキョンを生徒会に入れる方法、何か案ある人いる?」

 

俺はずっこけた。

 

 

 

 

第4話

 

 

 

 

「私に良い案があるわ」

 

だったら何故俺らに聞いたんだ。

 

「ちょっと待っててね」

 

会長はそう言うと、机から飛び降り、そそくさと部室を後にした。

 

いったい何をしようっていうんだ。

 

会長が戻ってくるまで暇だ。俺は床に胡座をかく。

 

栗山さんも座り込む。

 

待つこと数分、ドアがバタンお開き、会長のアホ面が戻ってきた。

 

会長は遊園地の帰りみたいに、脇に画用紙とマーカーセットを抱えて戻ってきた。

 

「何ですかそれ?」

 

「見て分からない? 小学生の時からよく使ってたでしょ?」

 

「いや、何をするんですか?」

 

「ここが生徒会室だってわかるように、ここに目立つ色と大きな字で『生徒会』と書いて、ドアに貼るのよ? わかったら手伝って」

 

机に画用紙とマーカーセットを置きながら言う。

 

いつも思うが会長はバカだ。なんて危険なことを言い出すんだ。

 

「会長それってちょっと……」

 

今までずっと無言だった栗山さんが口を開く。

 

「何よ?」

 

「いや……何でも無い、です」

 

会長に威圧されて引き下がる栗山さん。

 

「そうそう、和也にはちょっと御使いに行ってもらうわ」

 

なんか嫌な予感……。

 

「な、なんですか? 御使いって」

 

俺がそう言うと、会長は待ってましたとばかりに、画用紙の下に隠してあった白い封筒を取りだし、「じゃじゃーん」と俺に見せつける。

 

「何ですかそれ?」

 

「お手紙よ」

 

「お手紙?」

 

「そう、お手紙。あなたには、今からこれをキョンキョンに届けに行くという極めて重要な仕事をしてもわうわ。誇りに思いなさい」

 

まだ諦めてなかったのか!

 

「嫌とは言わせないわよ?」

 

「……分かりました」

 

「夏子ちゃんにもちゃんと仕事があるから安心してね」

 

俺は廊下に出て、新聞部に向かう。

 

そうだ。会長には悪いが、これを騎士団に持っていこう。でも時間を掛けると怪しまれるな……。

 

騎士団の人たちとメアドでも交換しとくんだった。

 

……よし、走ろう!

 

俺は、ドアを閉めると、全力疾走する。

 

向かうのは元生徒会室。今は騎士団のアジト。

 

渡り廊下を駆け抜け、目指すは三棟の最上階! 会長に怪しまれないように、急ぎ足で向かう。

 

そして息切れしながらも元生徒会につく。大きな扉に似合わない控えめな小さなノックをする。

 

「はーい?」

 

仲から女子生徒の高い声がしたと同時に、観音開きの扉が開く。

 

「あら、桐生くん。どうしたんですか?」

 

声の主は山口さんだった。

 

「あの、こ、これ!」

 

息切れしながら俺は山口さんに封筒を差し出す。

 

「か~ずやくんっ! どうしたの?」

 

背後からハキハキとした高い声が聞こえたと思ったら、体が引っ張られ、グッと傾く感覚を覚えた。

 

松田さんが肩を組んできた。

 

「会長が新聞部部長に宛てて書いた手紙です。届けるように言われたんですが……」

 

松田さんの腕の中で言う俺。

 

「なるほど……さすが桐生くん。よくやったわ」

 

笑みを溢す山口さん。

 

「それじゃ、俺、会長を待たせてるんで」

 

「そう、引き続き頼むわよ」

 

「はい!」

 

そう言って俺は、松田さんの軽いヘッドロックから逃れ、騎士団室を後にする。

 

そして大急ぎで生徒会室へ戻る。

 

ドアにはすでに目立つ鮮やかな字で「生徒会!」と書かれていた。

 

固唾を呑み、息切れを隠しながら恐る恐るドアを開ける。

 

「遅かったわね」

 

ドアを開けるのと同時に会長が、机の上に座りながら俺に不適な笑みを見せる。かなり怖い……。

 

栗山さんもちょっと怖じ気づいたように、申し訳なさそうに俺を見る。

 

いったい、どうしたんだ? 俺が言えたことじゃないけど……。

 

「手紙はちゃんと届けてくれた?」

 

「は、はい!」

 

「よかった、今さっき夏子ちゃんも手紙を届けてくれたの。これで私の計画は成立ね」

 

栗山さんも手紙を届けた? 作戦? いったい何のことだ?

 

「どういうことですか?」

 

「その内わかるわよ」

 

そう言ってウインクをする会長。

 

俺には状況が理解できない。

 

 

 

 

第5話

 

 

 

 

この日の生徒会の会議(?)は終わり、俺と栗山さんは、帰って良いと言われた。

 

部室棟の廊下を歩いていると、目の前から見覚えのある四人の人物が歩いてきた。

 

俺はその姿を見て、少し驚いて立ち止まってしまった。栗山さんもだ。

 

歩いてきた集団は、騎士団の方々だった。

 

恐らくリーダーであろう一木さんを先頭に横並びに松田さん、山口さん、ユゴーさんと続いている。

 

「やあ! 和也くんっ! 元気してる?」

 

松田さんが笑顔で言う。

 

「あ、どうも……」

 

恐る恐る言う。

 

いったい、どうしたんだ? もしかして、もう攻め込んできたのか? まだ情報は新聞部部長に宛てて書いた手紙しか無いぞ?

 

俺と三メートルほどの距離で騎士団の人たちが立ち止まる。

 

「手紙、読ませて貰ったよ」

 

一木さんがそう言うと、何故か栗山さんが後退り、逃げ出そうとする。

 

「どう、でしたか……?」

 

「最高の内容だったよ!」

 

一木さんは笑みを浮かべながらそう言うと、俺が渡した封筒を地面に叩きつけるように乱暴に捨てた。

 

怒っているのか?

 

その行為の直後だった、無口なユゴーさんが俺に向かって突き進むように歩いて向かってくる。

 

その顔は厳つい顰めっ面だ。

 

俺は思わず後ずさる。

 

ユゴーさんがとうとう俺の目の前まで来る。何なんだいったい。

 

ユゴーさんの青い瞳を見ていると、ふと、何かが浮いているのが見えた。

 

そう思ったのも束の間、俺は頬に尋常じゃないほどの衝撃を受け、体が吹き飛ぶ!

 

「ぐはっ!」

 

三メートルほど俺は飛ばされただろう、何事かと思って、飛び起き、前方を見てみると、ユゴーさんが拳を俺に向けて何やらポーズをとっていた。

 

俺は、殴られたのか……? 口の中は血の味がする。

 

栗山さんが怯えたように立ち竦んでる。

 

ふと、生徒会室のドアが開き、中から会長が出てくる。

 

「やっぱり、ちゃんと来たわね。ありがとう和也!」

 

騎士団の姿を見据えると会長は何故か俺に礼を言う。殴られた衝撃もあり頭がぼんやりする。いったい何のことなんだ?

 

「望み通り来てやったぞ! 生徒会! 貴様らは我が校の恥だ!」

 

一木さんが叫ぶ。

 

「へえ? それで?」

 

「今日で美園さん、あなたのくだらないお遊びは終わり! あなたは、私たち騎士団によって二度とその口をきけないように打ちのめされるのよ。でも安心しなさい! ちゃんと報酬もあるわ! 毎日休みなく社会貢献に追われる人生をプレゼントするわ。まず最初は、そうね、トイレ掃除なんてどうかしら?」

 

淡々と喋る山口さん。

 

しかし、会長は笑みを溢す。

 

「それ、間違ってない? 修正するとこうよ。『今日であんたらのくだらない偽善は終わり。あんたらは私たち生徒会によって二度とそのクソをたれる汚れきった口をきけないように打ちのめされるのよ。でも安心しなさい。ちゃんと報酬があるわ。私らのお世話係という、これまでにない最高の高校生活をプレゼントするわ。まず最初は、そうね、生徒会室の飾り付けなんてどうかしら?』」

 

「あなた方は、何も理解していないようね……」

 

山口さんが真っ黒いオーラを放つ。心なしか少し毛が逆立ってるように見える……。

 

「あなたたちこそ、空気の読めない連中ね。第一なによ。『東菫の騎士団』って。ダサい名前。ゾッとするわ! それと吐き気もね」

 

会長と山口さんのにらみ合いが勃発する!

 

いったいどうしてこうなったんだ、と栗山さんと顔を見合わせる。これで三度目だ。

 

「ユゴー! まずは裏切り者の和也くんをやっちゃいな!」

 

松田さんが勝手に指示する。っていうか、俺が裏切り者!?

 

「ちょっ――!」

 

ユゴーさんが猛スピードで突進してくる。これはマズイ!

 

死の恐怖を感じた俺は慌てて逃げる。きっとすっごく無様だろう。

 

でも構わない! 命さえたすかれば!

 

しかし逃げ場が生徒会室しかない! これはホントにマズイ!

 

いきなり、会長は俺の胸ぐらをつかんで、庇うように俺と位置を交換し、向かってくるユゴーさんの前に出た!

 

いったいどうする気だ!?

 

そう思った次の瞬間だった。俺は胸ぐらをつかまれたまま、下に引っ張られ、前のめりになった。

 

そして、それに追い討ちをかけるように背中にずっしりとした、そして暖かい重みを感じる。

 

その直後、ものすごい物音と振動が耳と体に伝わった。

 

背中が軽くなり、ユゴーさんの姿を確認しようとしたが、向かってきていたはずのその姿が見当たらなかった。

 

一木さん、松田さん、山口さんは、驚愕の表情で窓の方を見ていた。

 

俺も何かと思って見てみる。

 

するとなんと、ユゴーさんが窓ガラスに身体を突っ込んで力無く項垂れていた! まるでコメディーだ。

 

というか大丈夫か!?

 

本来強力なはずの分厚い強化ガラスは無惨にも割れて、破片が辺りに散らばっていた。

 

「今の見た!?」

 

会長が目を輝かせながら俺の方を向く。そして俺の反応など無視するように「カッコよかったでしょ!? 私のキック!」

 

キック!?

 

まさか、アレって、会長がやったのか!?

 

さっきの重たい感覚はそうか、俺の背中を台にしてユゴーさんを蹴り飛ばしたのか!?

 

っていうか、あの窓割るって、相当なパワーが必要だと思うけど……?

 

「あのユゴーが一撃で……」

 

一木さんがユゴーさんの無惨な姿を見て力無く言う。

 

「上等じゃん! 次はウチがやる! ユゴーは油断しすぎなんだよ!」

 

松田さんが悔しそうに叫び、俺らというか会長に近づいてくる。

 

だが会長は松田さんに背を向け、俺の方を向きながら、目を閉じて、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

あぶないですよ会長!

 

というか俺はどっちの味方なんだ?

 

「おーりゃぁああああー!」

 

会長の背後で、松田さんは、顔を狙った高い回し蹴りをする。

 

だが、なんと会長は相変わらずの笑みで見ずに腕で防ぐ。

 

鈍い音が廊下中に響き渡る。

 

「えっ?」

 

松田さんは思わず声をあげる。

 

それも束の間、会長は使っていない左腕の肘で、勢いよく松田さんの腹部を突く。

 

「がはっ!」

 

松田さんは悲痛な声を上げ、腹を抱え後退し、片目で苦しそうに会長を見る。松田さんあぶない!

 

会長は、振り返り際、大きく足を上げ、スカートを翻し、松田さんの顔面に目掛けて回し蹴りを入れた!

 

「きゃぁあっ!」

 

今までに無い女の子っぽい悲鳴を上げ、松田さんは仰け反り、三メートルほど吹っ飛び、廊下に仰向けで倒れこむ。

 

「あんたのやりたかったことってこれでしょ? お手本は役に立ったかしら?」

 

どうやら生徒会会長、今田美園は、本当に悪の大魔王だったようだ――。

 

 

 

第6話

 

 

 

 

俺は今日、会長のとんでもない一面を栗山さん、騎士団の人たちと刮目した!

 

まるで映画のようだ!

 

窓から夕日が射し込む日差しは、睨み合う会長と騎士団にスポットライトを当てているようで、戦いの始まりはまだまだこれからだということを仄めかす。

 

心なしか歓声も聞こえる……。

 

それにしても凄まじい光景だな……。

 

筋肉質のユゴーさんは、窓に体を突っ込んで無様に項垂れている。

 

魅惑のボーイッシュガールの松田さんは、仰向けで倒れてる。

 

「さあ、次は誰が吹っ飛ばされたいのかしら?」

 

会長はすっかり余裕を決め込み、背中から不適な笑みを浮かべていることが伝わる。

 

一木さんは怖じ気づいたのか、少し後退りし、山口さんの顔を見る。

 

だが、山口さんの方は、眼鏡のレンズに反射して、どんな目をしているかは分からないが、どこか強きで、それでいて冷静なオーラを醸し出している。

 

そう思った矢先、山口さんは、会長目掛けて歩み寄ってきた。

 

眼鏡の奥に見え隠れする目は、刃物のように鋭く、会長を睨んでいた。

 

その目にはまるでメデューサのような能力が秘められていて、その目を見てしまった俺は、得体の知れない恐怖で足がすくむ。

 

「……随分やりたい放題やってくれたわね。どうやら私たちは生徒会を見くびっていたようね――」

 

歩みよりながら山口さんは口を開く。

 

やりたい放題やってくれたわね、って、襲ってきたのはそっちでしょ!

 

ユゴーさんは会長に向かっていったと思ったらガラスにダイブしてるし、松田さんは、いっちょ前に回し蹴りしたと思ったら廊下の真ん中でイビキかきそうな勢いで寝転んでるし……

 

まさにやりたい放題だな!

 

「教えてあげる。騎士団はあなたみたいな騒ぎたいだけの子供になんか負けたりしない、ってことをね」

 

そう言って、山口さんは華麗におかっぱヘアーを揺らしながら眼鏡を外し、その鋭い眼光を会長に向ける。

 

眼鏡を外した山口さんは、案外美人だった……。

 

「へえ? やる気なの? それなら手加減しないわよ?」

 

「言いたいことはそれだけ?」

 

山口さんはその言葉を聞いた直後、俺は凄まじい衝撃を感じ、身体が吹き飛んだ!

 

「うぁっ!」

 

背中にも強い衝撃を覚えた。廊下の壁に打ち付けられたようだ。すごく痛い。

 

セルフで背中を擦りながら、俺は会長と山口さんのことが気になり、前を向く。

 

その光景は、まさに次元を軽く超えていた――。

 

まるでアクション映画のような壮絶な大立ち回り!

 

山口さんの滑らかで俊敏で強力そうなパンチやキックを会長が手足を使い防いだり、華麗な動きでかわす。

 

しかし、みる限りでは会長が圧されてる。

 

一木さんは、額に汗を滲ませ、心配そうに二人の闘いを見据えてる。

 

山口さんのパンチキック地獄を見切ったのか、会長が素早くしゃがんだ! そして、そのまま一回転し山口さんのアゴ目掛けて蹴りを放つ!

 

しかし、山口さんはわかっていたように俊敏に身体を仰け反らしてかわし、一気に体勢を前にのめらせ、勢いよく隙だらけの会長目掛けてパンチを放つ!

 

パンチは会長の顔面にクリーンヒットし、会長は「きゃっ!」と悲鳴をあげ、仰向けに地面に身体を強く打ち付ける。

 

大丈夫か会長!

 

「いったーい!」

 

倒れても会長は、どこか余裕そうで、すぐに身体を起こす。

 

だが、今度は山口さんの踵が、会長の頭上で待機している。このままでは会長が危ない!

 

山口さんの踵落としが炸裂すると、ほぼ同時に、会長はそれをかわすように、しゃがんだまま素早く山口さんの横を勢いよく滑り抜け、窓際へ移る。

 

山口さんの踵落としは、隕石が墜落するように大きな音を立てて、俺の目の前に落ちてきた。

 

びゅうっ! っと掠れた音が俺の耳の中に響く。そして凄まじい突風を感じ、身体がのけぞる。

 

なんてパワーのある踵落としなんだ!

 

ガリ勉の陰気少女だと思っていた山口さんは、会長にも負けない格闘家だったようだ。

 

ユゴーさんのもとまで逃げた会長は、何を思ったのか窓ガラスの鋭い破片を素手で掴み、山口さんを見据える。

 

おいおい、まさかそれで山口さんに斬りかかるつもりか!?

 

しかし、山口さんもかなり余裕な表情で、笑みを浮かべ、気取ったように手のひらを返し手招きをする。

 

それを合図に会長は、飛び付くように山口さん目掛けて足を踏み込む。

 

かと思うと、姿勢を落とし、身体を寝かし、スライディングキックで、山口さんの足を狙う!

 

しかしそこは山口さん、上に飛びかわす。そのまま空中で一回転し、足を開いて着地する。

 

山口さんの股のしたに、仰向けで寝転がる会長。そして山口さんは拳を振り上げる!

 

またしても会長のピンチ! このまま互角で終わったら、山口さんの判定勝ち間違いなしだ!

 

しかし会長はにやける。

 

会長は寝転んだまま、足を曲げ、体育座りの様な状態になり、そして山口さんのパンチが来る前に、そのまま足を目一杯開き、その衝撃で同時に山口さんの足も開かせる!

 

「きゃぁ」

 

山口さんは小さく悲鳴を上げ、会長に向かって倒れかかる。

 

それを見計らい、会長は持っていたガラスの破片を山口さんの顔面目掛けて突きだす!

 

山口さんは顔を傾けてかわし、ガラスは頬を掠め、切り傷が走る。

 

だが会長の攻撃はまだ終わってなかった!

 

会長は、すぐにガラスを持った手を引っ込め、目一杯開いた両足を使い、女座りで地面に座り込んだ山口さんの顔をヘッドロックする!

 

まるでプロレスの試合を見ているようだ!

 

「くっ!」

 

苦しそうな山口さん。

 

会長は、そのまま勢いをつけ、ともえ投げをするように山口さんを投げ飛ばす。

 

その勢いはとどまるところをしらず、山口さんは強化ガラスを突き破り、屋外へ飛んでいってしまった!

 

そして悠々と起き上がり、見事に割れた窓を見ながら「どうする? 一木さん」と言うのだった……。

 

西日に照らされた会長の堂々とした表情は、とにかくかっこいい! 惚れてしまいそうだ!

 

「……次会う時が、お前の命日だ!」

 

悔しそうに吐き捨てる一木さん。

 

そして、目の前に仰向けで倒れ気絶している松田さんの脇腹を小刻みにさするように蹴り「起きろ松田!」と焦った様子だ。

 

ふと、誰かが階段を降りてくる音がした。

 

降りてきたのは新聞部部長の小泉さんだった。悲惨な光景を前に立ち止まると「え?」と声を漏らす。

 

「キョンキョン。遅いじゃない」

 

会長が腰に手をあてて言う。

 

「つーか、何これ」

 

不思議そうに辺りを見回しながら会長に向かってくる小泉さん。

 

「ユゴーさん? 死んでるの? これ」

 

窓に身を突っ込んだユゴーさんを見て言う。

 

「さあ?」

 

なんとも無責任な発言をする会長。

 

「それより、和也、夏子! これより生徒会緊急会合をするわ! 早く中に入って!」

 

騎士団の人たちを放置し、会長は手招きをする。

 

さっきまでの会長の残像に圧倒され、言われるがまま、生徒会室の中に入る俺と栗山さん。それと小泉さん。

 

室内の真ん中の机の前に会長と小泉さんは立つ。

 

「さあ! 二人とも! 心して聞いて!」

 

会長が言う。

 

「この度、この子、キョンキョンが生徒会の一員になりまーす!」

 

「え?」

 

いったいどうしたっていうんだ? 俺は手紙を届けてないぞ?

 

小泉さんは、余計なお世話とばかりに、少し恥ずかしそうにそっぽを向く。

 

「全部、夏子のお陰よ。ありがとう夏子」

 

「ど、どういたしまして……」

 

俺には状況が理解できない!

 

「か~ずやっ」

 

会長がわざとらしく俺の名を呼ぶ。

 

「は、はい?」

 

我ながら少し同様した声を上げてしまう。

 

「廊下に落ちてる手紙、ちょっと回収してきてもらえるかしら?」

 

「わ、わかりました!」

 

俺は廊下に出る。

 

さっきまであったユゴーさんの姿もとい騎士団の姿はどこにもなく、窓際にはガラスの破片が落ちている。

 

そして、廊下の真ん中に俺が騎士団に渡した封筒が落ちている。

 

俺はそれを拾い、中身を確かめる。

 

手紙には太い字でこう記されていた――。

 

『俺、桐生和也は騎士団など言う下劣な集団に付き合う気も協力する気も更々無い! 俺が慕うのはただ一人、偉大なる今田美園名誉会長のみだ! わかったか! そして我ら生徒会は、貴様ら薄汚れた足の裏の角質を集めたような騎士団に宣戦布告する! 桐生 和也』

 

……なるほどね。そういうことか。

 

会長は、最初から全て見抜いていたってわけか……。

 

施設でのこともそうだが、もう迂闊なことができないな――。

 

俺の高校生活、自由など一切許されないようだ。


 
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