No.437837

ボケ娘に告白されました! 双葉姉妹の告白

スーサンさん

後、一話したら、タイトルを変えて、シリーズ化するつもりです。

双葉姉妹との約束からタイトルを変更しました。

2012-06-16 09:18:52 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:596   閲覧ユーザー数:582

「先輩! 私たちと付き合ってください!」

「はひ?」

 いきなり屋上に呼び出され、俺は訳のわからない状態になっていた。

 話はちょっと戻り、五分前のことだった。

 いつものように友人と語り合いながら玄関の下駄箱を開けるとラブレターらしきものが入れられていたのだ。

 ラブレターなど貰ったことも送ったこともないのでちょっと舞い上がっていたのは確かだった。

 半信半疑、屋上へ行くとそこには噂の双子美少女といわれる双葉右京(ふたばうきょう)と妹の双葉左近(ふたばさこん)がいたのだ。

 最初、なにを言われたのか迷い、混乱した。

 考え事も出来ないほど、俺は思考が止まってしまった。

 そんな俺に双子の片方がもう片方を見た。

「フリーズしてるね、お姉ちゃん?」

「そうだね、どうしてだろう?」

「私たちの魅力にアレが立ったとか?」

「おい、妹。言動はわきまえろ!」

「えへへ♪」

「なぜ、笑う!」

 とりあえず、深呼吸した。

「で、用件は?」

「もう言ったけど?」

 姉の顔がキョトンとし、哀れむように目が潤んだ。

「先輩、物忘れ? 若いうちの物忘れはよくないよ。ピコピコハンマーでも使う?」

「頭に衝撃与えてどうする、姉!」

「そうだよ、お姉ちゃん。殴るのは私たちじゃなく、お兄ちゃんがしたいんだよ!」

「誰が兄だ! それと、俺は女性に暴力を振るう趣味はない!」

「鞭を使ってみたいとかは?」

「ふざけたことを言うのは、この頭か!?」

「あう~~~……グリグリは違う~~~……」

 パッと手を離した。

「で、なんの冗談だ?」

「なにが?」

 姉の顔が不思議そうになった。

 妹が納得したように頷いた。

「どっちが上にするかで悩んでるんだよ! ほら、さんぴ」

「妹は黙ってろ!」

「……」

「……」

「な、なんだよ、二人とも?」

「先輩、私たちがわかるの?」

「一年の双葉姉妹だろう? この学校じゃ有名だ。妹にしたい美少女で……」

「じゃあ、お兄ちゃんは可愛い双子とくんずほぐれずの」

「妹、黙っててくれないか?」

「チェッ!」

「舌打ちするな!」

 俺のツッコミがツボに入ったのか妹は愉快に笑った。

「第一から、恋人になれって、なんの罰ゲームに参加したんだ!?」

「別に罰ゲームじゃないよ、先輩!」

「そうそう。私たちは純粋にお兄ちゃんに好意を持って」

「そこが信じられないんだ。君たちほどの美少女なら男なんて選び放題だろう?」

「男の子って選べるものだったの?」

「ウッ……!?」

 真顔で返され、俺はたじろいだ。

「お姉ちゃん。お兄ちゃんは、私たち二人のうち、どっちと付き合いたいかで悩んでるんだよ!」

「いや、それも違うんだが」

「な~~んだ、先輩もマジメだな~~!」

 テヘッと舌を出した。

「私たちは二人で一人なんだから、二人一緒に付き合えばいいの!」

「一粒で二つおいしいね、お兄ちゃん!」

「俺の話を聞け!」

「ヤダ!」

「ヤダ!」

「ステレオで返すな!」

「先輩は私たちと付き合うの嫌?」

「そ、そんな目をウルウルされても……」

 知り合って間もない女の子としかも二人同時に付き合えって、なんてギャルゲだよ……

 でも、この二人、本当に可愛いな……

「で、先輩? 告白はオーケー、それとも?」

「イエス?」

「涙目で選択肢は一つじゃないか!」

「だって、それ以外だと、私たちフラれるだけじゃん!」

「お兄ちゃんと私たちが付き合うのは天命だよ! ちゃんと、首輪も二つ用意してあるし、オプションで尻尾も」

「妹は本気で黙っててくれ!」

「はぁ~~い!」

 頭痛を感じるのも我慢した。

「とりあえず、ちゃんとじじょうをせつめいし」

「先輩も強情だな!」

「なら、実力行使だ!」

「え……おわぁ!?」

 二人に押し倒され、俺は背中を打った。

「なにをする……むぐぅ!?」

 いきなり、姉の唇が俺の唇をふさだ。

 同じように抱きつく妹が俺の首筋を吸った。

(なななななななななにこれ!?)

 生まれて初めてのキスに動揺した。

「ぷはぁ!」

 姉の唇が離れると今度は妹の唇が俺の唇をふさいだ。

(あ、妹のほうが姉よりもキスがうまい)

 姉とは違い、舌を濃厚に絡ませる妹に俺はちょっとだけ、メロメロになった。

 さっきと同じように抱きついている姉が俺の耳をアマガミしてきた。

(耳もちょっと気持ちいいかも……ってそうじゃなく)

 濃密にキスをする二人をどうにか引き離そうと手を伸ばした。

 むにゅうと柔らかい感触が手に広がった。

「キャッ♪」

 手に触れた柔らかい感触に俺は自分の手元を見た。

「お兄ちゃん、私のおっぱいを触るなんて、準備万端?」

「先輩、気合入りすぎ! ゼクス特尉?」

「それを言うなら、セックス得意だ! って、変なこと言わすな!」

「自分でいったくせに」

「ああ、もう君たちは!?」

 頭が混乱しそうで自分がなにを考えてるかわからなかった。

「じゃあ、先輩、明日から、私たちをよろしくお願いね?」

「浮気したら、焼き土下座ね!」

「死ねってか!?」

 こうして、俺たちの交際が始まった。(脅された気がするけど)

 

 

 俺が双葉姉妹と交際することになった噂はすぐに広まった。

 最近、古優(こゆう)先輩が俺と同じような男と交際を始めたという噂もあり、その手のネタはすぐに広がるトップニュースになっていた。

 下駄箱の前に立つと俺は靴を履き替えようと、蓋を開けた。

「お兄ちゃん、おはよう!」

「おわぁ!?」

 背中からタックルをくらい、俺は胸から倒れてしまった。

「いてぇ!?」

「お兄ちゃん!」

 なぜか、妹の怒鳴り声が響いた。

「私というものがありながら、床と愛を語るなんてどういう神経してるの!?」

「お前が押し倒したんだろうが!?」

 妹を押しのけ、立ち上がると目尻を上げた。

「朝からなんなんだ、人に飛びついて!?」

「朝の挨拶だよ! やっぱり、朝の挨拶はハグでしょう!」

「今のハグじゃなく、タックルだ!」

「ストロンガーの相棒?」

「それは改造人間だ!」

「流派東方不敗は!?」

「王者の風よ! って、違う!」

「結婚式に相手に言う言葉?」

「それは誓うだ!」

「私と先輩の距離」

「それは近いだ!」

「お餅の入ったうどん」

「それは力うどん! って、もうだいぶ離れてるぞ!」

 息を大きく吸った。

「挨拶なら、普通に肩を叩くとかそんなのがあるだろう?」

「私はお年寄りじゃない人の肩を叩くほど無粋じゃないよ!」

「そういう意味じゃない!」

「じゃあ、どういう意味? 拳で殴ったほうがよかったの?」

「それは昭和の番長の挨拶だ!」

「男の子の共通の夢だよね?」

「それは番台だ! 早くも意味がわからなくなってるぞ!」

 ふぅふぅと息を整えた。

「普通に挨拶をしろって言ってるんだ!」

「普通って、校舎裏でズボンをおろ……ずぼら!?」

 チョップして黙らせた。

「どこのエロゲだ! 倫理を守れ!」

「鈴虫?」

「それは、り~~んり~~~んだ! かなり無理があるぞ!」

「無理を通して道理を蹴っ飛ばすだよ!」

「それは天を貫く男のアニキだ!」

「サングラス、格好いいよね?」

「それは激しく同意するが、今は話を元に戻せ!」

「お兄ちゃん。私たち二人と付き合って」

「戻りすぎだ!」

「お姉ちゃん、起きてよ!」

「お前の朝の家庭事情まで戻るな!」

「この学校の三年かはとても素敵なものでした!」

「話が未来まで進んでるぞ!」

 妹の目が冷たくなった。

「なにを守るか知らないけど、守るだけじゃ勝てないよ!」

「なにに勝つんだ!」

「それはもちろん、悪に!」

「悪ってなんだよ!?」

「宇宙から宝物を求めて、地球にやってきたエネルギー生命体とか?」

「それは勇者ロボの敵だ! 古すぎる!」

「いい作品はいつの時代になってもいい作品だよ」

「それも同意だが、今は関係ない!」

「ちなみに一番人気の高い最終シリーズは意外と賛否両論が激しいんだよ」

「知るか! それに俺は否派だ!」

「人気シリーズなのに」

「いい加減にしろよ!」

「お兄ちゃんのボケに付き合うほうも大変だもんね?」

「お前がボケだろうが!」

「左近! 先輩になにしてるの!? 抜け駆けなんて酷いじゃない!」

「あ、お姉ちゃんだ! じゃあ、お兄ちゃん、また後でね!」

「あ、おい!?」

 逃げるように去る妹に俺は慌てて止めようとした。

 姉の腕が俺の身体をおさえた。

「先輩、左近になにかされてない!? 先輩のお弁当を食べて犯人を当てるとか!?」

「それは食いしん坊探偵だ! 第一から、事件はおきてない!」

「でも、某名探偵の孫の学校では事件がよく起きるよ」

「ああ、オフィシャル本でも「普通の学生生活を送りたいなら絶対に受験しないほうがいいだろう」と書かれてるからな!」

「でも、あっちは巻き込まれ型だけど、十七歳の小学生は自分から事件に首を突っ込むもんね?」

「黒の組織を追うのもある意味、逆恨みだな?」

「平凡が一番だね?」

「そうだな。って、違う! そんな話をしたいんじゃない!」

「そうだよね。この学校平和だもんね?」

「平和じゃない学校のほうが怖いわ!」

「先輩の顔はギャルゲーみたいだし」

「余計なお世話だ!」

「授業は六時間もあるし」

「普通はそうだ!」

「高校から給食がないし」

「義務教育じゃないからな」

「おいしそうな教育だね?」

「それは麦教育(むぎきょういく)だ! 確かに麦はうまいけど!」

「先輩、ビール飲んだことある?」

「ないよ!」

「私もない」

「未成年飲酒は禁止だ!」

「タバコは二十歳過ぎても吸ってほしくないな」

「タバコは毒だからな!」

「いい加減、クドくなってきたね?」

「だったら、言わすな!」

 泣きながら、話を戻した。

「それになんで、お前たち別々に行動してるんだ。いつも一緒だと聞いてるけど?」

「左近は抜け駆けが大好きなんだよ。この前だって、お風呂に入るのをちょっと遅れただけで一番風呂を取るし」

「それはお前が悪い」

「私が姉なのにおやつのケーキは私のほうが二ミリ小さかったし」

「誤差の範囲だ!」

「先輩は一人だし」

「当たり前だ!」

「工藤先輩はエロ小僧だし」

「そうだな!」

「先輩、古優先輩を狙ってるでしょう?」

「狙ってない!」

「今、何回突っ込みました?」

「クイズか!?」

「先輩と話すのって楽しいね!」

「こっちは疲れたわ!」

 俺はため息を吐いた。

「ところで、教室に行かなくっていいのか。もうそろそろ、HRだぞ?」

「あ、そうだった! じゃあ、先輩、ちょっとかがんで」

「うん、こうか?」

「おはよう、先輩」

 チュッとキスをされた。

「お、お前!?」

「また、後でね、先輩!」

 走りながら、投げキッスをされ、俺は動揺を隠せず、固まってしまった。

 HRは遅刻した。

 

 

 昼休み、俺は双葉姉妹に呼ばれ、屋上に来ていた。

「恋人の定番、屋上でランチ!」

「キャ~~パフパフ♪」

「お弁当ってね?」

 目の前の残念な黒の塊に冷や汗をかいた。

「これはなんの嫌がらせだ?」

「嫌がらせとは失礼な! ちゃんとしたお弁当じゃない!」

「どうみても、これはダークマターだろう!」

「ちょっとだけ失敗しただけだよ!」

「この苦味を通り越した鼻を突く臭いはちょっとじゃないぞ!」

「味は保障するよ!」

「じゃあ、なんで合掌する!?」

「お兄ちゃんなら、おいしいといってくれると私たち、信じてるよ!」

「なんで、お前らだけ、購買のパンを食ってる!」

「仕方ないじゃない。お兄ちゃんのお弁当を作ってるうちに私たちのお弁当用意できなかったんだもん」

「一人作るのも三つ作るのもたいして変わらんだろうが!」

「お兄ちゃんは料理を作る者の苦労がわかってないな~~……」

「うわぁ、むかつく!」

「なに、お兄ちゃん、その顔は?」

「私たちに文句でもあるの!?」

「だから、ツッコミしか出来ない新八ポジションなんだよ!」

「ギャルゲーの主人公みたいな顔して、フラグを立てないのは暴挙だよ!」

「余計なお世話だ! 第一から、俺が言いたいのはそこじゃない!」

「じゃあ、なに?」

 姉の顔がちょっとイライラしてきた。

 妹がハッとなった。

「もしかして、お兄ちゃん、私たちに自分の絞りたてジュースを」

 ダークマターを妹の口にねじ込んだ。

「あうぅ~~……」

 バタンッと倒れる妹を見て、姉の顔が真っ青になった。

「よかった、味見しないで」

「してねぇのかよ!」

 俺は呆れ返り、お弁当の残りを食べた。

(う、まずい)

「ど、どう、先輩?」

 妹の反応を見て答えは決まってるだろうといいたかったが、ここは我慢だ。

「う、うまいぞ……」

「よかった」

 ホッとする姉を見て、ちょっと可愛いなと思ってしまった。

「お兄ちゃん、私にもおいしいって言ってよ!」

「復活、はや!?」

「ほらほら、お兄ちゃん、あ~~ん♪」

「あ~~ん……」

 お弁当のおかずを放り込んだ。

「きゅ~~~~……」

 また、倒れた。

 ちょっとだけ、面白い。

「せ、先輩、私にもあ、あ~~んを」

「これを食いたいのか?」

 姉の顔が真っ青になった。

「こ、このカツサンドでお願いします!」

「お前たちの姉妹愛はその程度か?」

 といいながら、ちゃんと姉にはカツサンドを食べさせてやった。

 これは差別じゃない。

 状況によっての区別だ。

 

 

 昼の授業を聞いてると携帯電話のバイブが鳴り出した。

(メールか?)

 先生にバレないように携帯電話を開いた。

『お兄ちゃん、今日、私たち、部活があるから、終わるまで待っててくれない?』

(今日はあの娘たち、部活か)

 無所属の俺としてはさっさと家に帰りたいが誘われて嫌な気分はしないし、オーケーを出すか。

 あ。新しいメールだ。

『先輩、バレー部に入ってよ! そうすれば、いつも一緒にいられるし!』

 丁重にお断りのメールを出した。

『大丈夫! もう、入部届けだしたから、今日、顔を出してね!』

「なにやってるんだ、アイツら!?」

 アッと先生と目が合った。

「お前、廊下に立ちたいか?」

「ごめんなさい」

 クスクス笑うクラスメートの視線を感じながら席に座りなおした。

 あの姉妹、勝手に人を部活に入れやがって……

 

 

 双葉姉妹の部活は意外なことにバレー部だった。

 身長が小学生かと思えるほど小さい二人だが意外とバレーの練習はマジメだった。

「テヤ!」

 身長からはとても想像できない跳躍力でボールを弾くと二人はガッツポーズをとった。

(ああしていれば、結構、イケてるんだよな?)

 休憩に入り、双葉姉妹は俺を見つけ、飛び込んできた。

「おわぁ!?」

 倒れないよう足を踏ん張った。

「せ~~の!」

 二人は、もう一度飛び込んだ。

「おわ!?」

 今度こそ、背中を打った。

「なにするんだ!?」

「倒れないとお約束にならないよ、先輩!」

「そうそう。倒れた拍子でキスしたりおっぱい触ったりするのは常識だよ!」

「どこのラブコメだ!?」

 二人を押しのけ立ち上がった。

「それよりもお兄ちゃんが来てくれて嬉しいよ!」

「存分にバレーボールで揺れる私たちの胸を堪能してね!」

「そんな堪能の仕方はない!」

「ちょっと前におっぱいを題材にした実話映画があるよ」

「意味が違う!」

「ポロリがほしいの?」

「いるか!」

「そうだよ! バレーの醍醐味は化身だよ!」

「されはサッカーだ!」

「消えるボールとかは?」

「それは野球!」

「小さな箱の中の戦いは?」

「それはダンボールだ! 離れてるぞ!」

 ケラケラ笑う二人に俺はついていけず肩で息をした。

「二人とも練習の休憩中なのに元気だな?」

「それは彼氏が来てくれたんだもん! 世界中のみんなの元気を分けてもらって必殺技を打つくらい元気だよ!」

「なぜ、勝利フラグを立てる!?」

「そうだよ、お姉ちゃん! 元気なのはお兄ちゃんのこか……むぐぅ」

 口に購買で買ってきたメロンパンを押し込んだ。

 物凄い速さでメロンパンを食べきり、怒鳴った。

「お兄ちゃん、酷いよ! 突っ込むなら、メロンパンじゃなくお兄ちゃんのソーセ」

 今度はからしを入れてやった。

「ぎゃ~~~~~~!?」

 口から火を吹き、暴れだす妹を無視して話を続けた。

「でも、バレー部に入ってるって言っても、身長がこれだから、テッキリ、補欠かと思ってたぞ」

「努力してるから!」

 ブイサインを出す姉にいまだに辛さで暴れる妹の口にバターを叩き込んだ。

「むぐむぐ……あれ、辛くなくなった?」

「バターなどの乳製品は辛い成分を分解してくれる効果があるんだ」

「へぇ~~……お兄ちゃんって、物知りだね。というと思った!?」

 パシパシと俺の胸を殴った。(痛くないけど)

「なんで、私の扱い、こんなに酷いの!? お姉ちゃんには普通なのに、これは差別だ!」

「下ネタさえ出さなきゃ、普通に接してるよ!」

 殴ってくる手を押さえ、ご頭を撫でた。

「ほら、いい子だから、殴らない!」

「いい子宝?」

「今度はバターなしで、からしを放り込んだろうか?」

「あうぅ~~……♪」

 頭を撫でられ、猫のように幸せそうな顔をする妹に俺はちょっとだけ、可愛いなと思った。

「ほら、双葉姉妹! 遊んでないでさっさと練習に戻りなさい。休憩は終わりよ!」

「あ、いけない!」

「じゃあ、お兄ちゃん、マネージャーの仕事お願いね!」

「へいへい」

 近くで記録係をしているマネージャーに挨拶をし、とりあえず仕事を貰うことにした。

 

 

 練習が終わると俺は他のマネージャーと一緒に練習用具の片づけをしていた。

 男手がなかったので今まで重い荷物は協力して片付けていたらしいが、俺がいるおかげでだいぶ、だいぶ楽に片づくらしい。

 双葉姉妹には先に校門で待ってるので、さっさと、終わらせて迎えに行くか。

「お兄ちゃん、手伝おうか?」

「なんだ、姉。なんで、妹の呼び方をしてるんだ?」

「あ、バレてた?」

「誰でもバレるよ。顔がぜんぜん、違うからな!」

「えっ……!?」

 マネージャーみんなの目が信じられないものへと変わった。

「なんか、俺、変なこといったか?」

「う、うぅん……そんなに私たちの顔、違うかな?」

「姉のお前は顔が丸い」

「太ってないもん!」

「妹はお前より、尻がデカイ」

「本当?」

「嘘だ」

「先輩!」

 柄にもなく俺が笑った。

「本当はなんとなくだ!」

「なんとなくで人がわかるの?」

「人の区別なんて大体、なんとなくなものだろう?」

「そうなのかな?」

「そうだろう? 親しい友人だって、特徴を挙げろといわれてもすぐには出ないだろう。人の付き合いなんて、そんなものだ」

「実は私は姉の不利をした妹で」

「だから、騙されないって!」

 ギュム~~と頬を引っ張った。

 パッと離し、頭を撫でた。

「すぐに片づけを終わらせるから妹と待っててくれ!」

「う、うん……わかった」

 背を向け、体育館から出ようとすると足を止めて、振り返った。

「あのさ、先輩?」

「なんだ?」

「私と左近。どっちが好き?」

「え……!?」

 あまりの質問に俺は絶句した。

「ご、ごめん! 変なこと聞いちゃったね。じゃあ、待ってるから!」

 逃げるように去る姉に俺はどう答えればいいのか迷った。

 どっちが好き。

 そんなのわからないに決まってる。

 そもそも、そっちが俺のことを本気で好きかどうか、わからないのに、俺の気持ちがハッキリするわけがない。

 あの二人は校内でも妹にしたいという噂の美少女姉妹だ。

 比べて俺は特徴がないのが特徴の平凡男子。

 告白どころか、女の子と付き合うのだって今回が初めてだ。

 それが、いきなり、二人の美少女と同時交際など信じられるわけがない。

 これがイタズラというなら、まだ真実味がある。

(あの二人、本気で俺みたいな奴が好きなのかな?)

 ネットを片付けようと持ち上げた。

「おい!」

「はい?」

 後ろから声をかけられ、振り返った。

 あ、工藤先輩だ。

 サッカー部のモテモテ先輩で噂だと双子姉妹目当てでバレー部に兼任で入ってるらしい。

 バレーにそんなに執心してないから、滅多にくることがないらしいが……

 ちなみにこの情報(ソース)は双子姉妹の妹から聞いた。

 だから、多少、信憑性が薄い……

「な、なんですか、先輩? 俺、これから、これを片付けないといけないんですけど?」

「お前、なんで、女子バレー部にいるんだ!?」

「なんでって……」

 俺が聞きたい。

 姉妹に無理やり入れられたなんて言えないよな……

「お前、得意なスポーツはなんだ?」

「え……得意?」

 頭にゲームセンターが浮かんだ。

「エ、エアホッケーかな?」

「ぷっ……」

 あ、鼻で笑われた。(俺も自分を笑った)

「お前、噂は聞いてるか?」

「噂?」

「この部の双葉姉妹がお前と付き合ってるという噂だよ! そんな訳ないよな? だって、お前、なにもないじゃん!」

 嫌なことを言うな……

「俺と違って、ルックスも悪いし、俺と違って、勉強も出来ないし、俺と違って、スポーツ出来ないし、俺と違って……」

 工藤先輩の「俺と違って」の自分大好きトークは長々と続いた。

(双葉姉妹を待たせてるんだから、早くこの無駄な話を終わらせてほしい)

「おい、聞いてるのか!?」

「あ~~……聞いてます聞いてます! 今年こそ、あの球団は優勝しますよ」

「誰が野球の話をしてる!?」

 胸倉を掴まれた。

「テメェ、噂が立ってるからって、調子こいてるんじゃないのか、このストーカー野郎!」

 そこまできて工藤先輩の顔がピンッときた。

「ここでお前をボコボコにしてあの二人に近づけさせなければ、恩を売れる」

 なんて、残念な思考だ。

 こんなのになびく女の顔が知れない。

「ねぇ、アナタ、そこでなにをやってるの?」

「あ、え、こ、古優さん?」

 絡まれてる俺を見て、なぜか体育館に来ていた古優先輩は不思議そうな工藤先輩を見ていた。

「最近、美術部に顔を出してないけど、こんなところでなにをしてるの?」

「い、いや、ス、ストーカー野郎を」

「美術部に来てないけど、なんで?」

「い、いや……部活が忙しくって」

「美術部も部活よ」

「い、いや……バレーボール部が」

「もう終わってるわよ」

「だ、だから……」

 淡々としながらも、確実に首を絞める古優先輩に工藤先輩は真っ青になった。

 古優先輩はますます訳がわからない顔をした。

(本気で工藤先輩の言動がわかってないな、この人)

「クソッ! やってられるか!」

「うわぁ!?」

 身体を吹き飛ばされ、尻餅をついた。

「なんなんだ、アイツ?」

「大丈夫?」

 腰をかがめ、目線を合わせる古優先輩に俺はごまかし笑いを浮かべた。

「尻餅が面白いの?」

「面白くないですよ。ただのごまかし笑いです」

 不思議だな。

 前までの俺なら、古優先輩の色香にメロメロになっても不思議じゃないのに今はなにも感じない。

 認めたくないけど、どうやら、俺は本気であの姉妹が好きになってしまったらしい。

 それに今の会話なら、確実にボケとツッコミの応酬になってるのに、不思議と古優先輩とはそんな会話が想像できなかった。

(まぁ、天然っぽそうだけど、ボケの応酬が出来そうな人じゃないな)

 俺は立ち上がり、尻をパンパンと叩いた。

「助けてくれてありがとうございます」

「助けた覚えないけど、君、ここの部員?」

「一応、マネージャーです」

「そっか!」

 ニコッと笑い先輩は思い出したように外を指差した。

「バレーボール部の双葉姉妹がなんだか、泣き出しそうな顔で校門に立ってたけど、怒られたの?」

「あ!」

 慌てて立ち上がった。

「俺、約束があるんで、ここで!」

「君、ネット出しっぱなし!」

「おっと、いけない!」

 ネットを片付け(先輩も手伝ってくれた)、校門に急いだ。

 

 

 校舎を抜けると空はスッカリ暗くなっていた。

 工藤先輩の自分大好きトークに付き合ってるうちにこの時間か。

 双葉姉妹、待っててくれてるかな。

 もしかしたら、怒って帰ったかも……

 俺の甘い(?)恋人生活もこれまでか……

「あ、いた!」

 校門の前に立つ二人を認め、俺は少し嬉しくなると同時に申し訳ない気持ちになった。

「ゴメン、待たせて!」

「先輩?」

「お兄ちゃん」

 目を真っ赤にして、二人は俺を認めた。

「よかった……ちゃんと来てくれた」

「お兄ちゃん、私たちと帰りたくないから一人で帰っちゃったと思ったよ」

「……」

 泣いている二人の涙をポケットのハンカチで拭ってあげた。

「ごめん……」

「あ……!?」

「い、いや……これは放置プレイに感じて」

 今更になって俺は自分が恥ずかしくなった。

 二人が俺を好きだといってくれたのに、俺は二人を疑ってばかりだ。

 純粋に二人の気持ちにこたえようとしなかった。

 待っててくれたのに、俺はフラれたとばかりしか考えてなかった。

 俺は気付いたら二人の身体を抱きしめていた。

「せ、先輩?」

「お、お兄ちゃん?」

「ごめん……待たせて。本当にゴメン」

「今度は先輩が謝ってるね?」

「え?」

 二人から離れた。

「学校に入学したとき、私たち食堂で先輩にぶつかって、ご飯を台無しにしたんだよ」

(そういえば、そんな記憶があるな?)

 すごい申し訳なさそうに謝る二人に、逆に俺が申し訳ない気持ちになり、つい、許してしまったんだよな。

(あの後、昼抜きで一日を過ごしたな……)

「あの時、みんな私たちを悪者みたいに見てたのに、先輩、むしろ、周りを見てる生徒を怒鳴りながら追い返してくれたよね?」

「そうえいば、そんな事あったな」

 あの時のみんなの目があまりにも失礼だったから、俺の気が触ったんだよな。

「お兄ちゃん、すごく格好よかったから、密かに見てたんだよ」

「先輩、格好良かったから、彼女いるのかなと焦ったけど、全然いないから、勇気を出して告白したんだ」

「あの時は二人のうち、どっちかとだと思ったけど、今は二人一緒に愛してほしいと思ってる」

「だから、先輩!」

「私たちを好きになってください!」

「二人とも……」

 あまりの可愛さに俺は言葉を失い、赤くなる顔を隠すように背を向けた。

「じゃ、じゃあ、帰るか! 送ってくよ!」

「あ、お兄ちゃん!」

「先輩!」

「だから、なんで、呼び方を姉妹変えてるんだよ?」

「大好き!」

 チュッと両頬にキスされた。


 
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