空きっ腹に多くを詰め込むのは胃に悪いといわれてもやはり3日も何も口に入れていないというのはかなりキツイわけで、イエローが持ってきてくれたシチューも1分もしないうちに俺の腹に収まってしまった。
途中で急いで食べない方がいいとイエローに注意されたようだが、夢中になっていたせいだろうイエローの声はほとんど俺に届いていなかった。
俺が食べ終わったのを確認すると、俺にまだ起きたばかりだからあまり動かないようにと注意をして、空になった皿を手に部屋を出て行った。
(……ふぅ)
シチューを食べ終え水を飲み、腹一杯とまではいかないまでも一心地ついたことで心に多少の余裕ができた。
今はちょうどイエローもいないことだしいろいろ考えを整理しよう。
まずは、イエローの事だ。
俺は今までここはアニメ版ポケモンに似た世界だと思っていた。
それはあのロケット団の3バカ(ムサシ、コジロウ、ニャース)の気球がトキワの森を通り過ぎたという情報からもあながち間違いじゃないだろう。
アニメ版主人公のサトシについてはまだ何とも言えないけど、いる可能性は大いにある。
しかし、ここにきてイエローというポケスペの方の登場人物が出てきた。
……まぁ、アニメ版ポケモンの世界にも本当はイエローが存在していて、ただ作中に出てきていなかっただけという可能性もあるかもしれないが、それに関しては考えてもしょうがないことだろうし今は省いておく。
つまりだ、この世界がもしかしたらアニメ版とポケスペの両方の要素が合わさった世界の可能性があるということが今の問題なのだ。
……いや、人によったらだから何? というかもしれないけど、ポケスペの要素が入って来るんだったらいろいろと危険度は増すんだぞ?
例えば、アニメの方にもポケスペの方にも等しくロケット団が存在するが、俺の見た感じだとポケスペの方のロケット団の方がかなり活発な動きを見せているように思える。
人体(ポケモン体?)実験などは日常茶飯事、様々なジムリーダーにまで内通していたり、タマムシシティ占拠を行ったり、伝説のポケモンの捕獲を行っていたり。
(……いや、これもアニメ版でやっていたところもあるけど、なんというか行っている規模が違う気がするんだよな、実験の残虐性とか行動範囲とか)
恐らく視聴枠の関係とかもあるのだろうが、それ以上に首領であるサカキの影響力による差なのではないだろうかと思えるのだが。
アニメ版のサカキはそれこそ上に座っているだけの成金男みたいな感じかな?(一視聴者の見解です)
それに比べポケスペのサカキは自分自らが様々な地方へと赴き見聞を広め、いろいろと発言力を持ち、その上実験などで強化などしていない(予想でしかないが)ポケモンを四天王クラスとタメを張れるほどまでに育てあげるというトレーナーとしての実力も高い。
どちらのサカキが世界征服を果たす可能性が高いかと聞かれたら、俺は迷わずポケスペのサカキを推すだろう。
まぁ、この世界がポケスペ要素を含んだ世界だとしたらレッドやグリーンなどの図鑑所有者という実力者たちがいる可能性もあるからその人たちに頑張ってもらおう。
サトシも確かに強いだろうが、同じ主人公であるレッドと比べてしまうと、私見でしかないが些か見劣りする気がする。
少し先の未来で様々な旅をして多くの経験をしてきたサトシ(今テレビで活躍しているサトシ)がベストメンバー(と俺が思えるポケモン)であるピカチュウ・リザードン・ゴウカザル・ジュカイン・ドダイトス・カビゴンの6匹を使っても、あのトキワジムでレッドと戦った頃のサカキにさえよくていい勝負ができる程度ではないだろうか。
まぁ、ポケモンとしての強さでいったらサカキの手持ちに勝てるポケモンもサトシの手持ちにはいるだろうしバトル中、斬新な発想で変則的ともいえるバトルをするサトシも十分強いと思うが、知略・策略などといったものを用いる知能戦や、元々のトレーナーとしての経験といったものなどで圧倒的に劣っていると思える。
別にサトシが弱いというわけではない。
むしろアニメ版ではベストメンバーで且つベストな調子の時のサトシならば、全世界のトレーナー達と比べてもベスト100に入るくらいには強いのではないだろうか。
ただサカキが……いや、ポケスペに出てくる主要トレーナー達が異様に強いというだけなのだ。
……あ、今思い出したがアニメ版ではポケモン図鑑はトレーナーの間で身分証みたいなものとして常備されているから図鑑を持っているからと言って周囲に与える影響力はそれほど大きくないか。
ま、まぁ、図鑑所有者だとかそんなの関係なく、彼らの実力は本物だろうし、もしもの時は何とかしてくれる……よな?
……仮にここがアニメ版とポケスペの要素が合わさった世界だからと言って、その主要人物の全てが全ているわけではないのではという可能性もあるわけだが、それは俺の心の平穏のため今は無視することにする。
とりあえずその件は置いておくとして、次行ってみよう。
えっと……あ、そうだ、俺がスピアーに放った、予想以上に高威力な電撃についてだ。
そう思いだし、俺は自分の中にある電気量を確かめてみた。
(……ん? 最初に比べてかなり量が増えてるな。でも、あの時放出した電気量に比べると全然足りない。これって……)
そう考えて、俺は思い出した。
俺がスピアーに遭遇する前、天然物の高威力の落雷をこの身に受けたことを。
確かアニメの方でもあったはずだ、ピカチュウが強力な電撃を使えるようになったきっかけとして、その身に大量の電気を受けたことが。
ニビシティでサトシのピカチュウが“10万ボルト”を使えるようになった時の事がいい例だ。
それと同じ理屈で天然の雷という大量の電気を浴びたおかげで、俺の電気総量も増えていたのだろう。
そしてあの時は雷を受けた直後だったため、その影響で大量の電気が体に蓄積されていた。
スピアーに攻撃する際、体に溜まっていた電気が「スピアーに対して全力で攻撃」という俺の意思に従い一気に体の外に放出される。
その放出された膨大な電気量に俺自身も制御ができず暴走、蓄積されていた電気量と電気袋にある電気量が合わさり本来の技“雷”の威力を余裕で超えた高出力の電撃となってスピアーに直撃したのだ。
今思い出すとゾッとする、あの時の電撃は俺自身で制御ができていなかった。
そんな強力な電撃がもしスピアーじゃなくその近くにいたイエローに当ったらと考えると本当に怖くなる。
雷の影響だったとしても言い訳にもならない。
(今はまだ無理だけど、動けるようになったらまた電気の制御を練習しなくちゃな)
そこまで考えて、少し眠気が襲ってきた。
まだまだ考えなくてはいけないことはあるだろうが、まだ体の疲労が抜けきっていないことやいろいろと考えて疲れたこともあり、今はその眠気に誘われもう一眠りすることにした。
◆◆◆◆◆
イエローの家にやっかいになって早2ヶ月。
あの時に負った怪我もすでに癒え、今では普通に走り回れるようになった。
……なんていうと怪我が治るまでかなり時間がかかったように聞こえるが、実際のところ怪我自体はあの後3日くらいで完治したわけだが。
こんなに早く傷が癒えたのはイエローの力のお蔭というのもあるだろうが、そこはこのポケモンという自己治癒能力が高い体だからということも理由の一つだろう。
(ほんとすごいよなぁ、ポケモンって。人間だったらこうはいかないよ)
まぁ、それはさておき、なぜこんなに長い期間やっかいになっているかなのだが、実はあの後イエローに俺の事情を話してしまったのだ。
……突然何をと思うかもしれないが、これにはちゃんと理由がある。
まず、イエローなのだが彼女は見た目同様に9歳で、あと少しで誕生日が来て10歳になる。
そう、つまりポケモントレーナーとして認められ旅に出ることができるようになるということだ。
怪我が癒えるまで俺はイエローの部屋で世話になっていたのだが、ほんと優しい子で俺の面倒を一生懸命見てくれた。
それに伴い一緒にいる時間も多くなり、いろいろと話す機会も多くなったわけだが話していくうちに俺はイエローのお友達と認識されてしまったようだ。
だからかもしれないが、俺はイエローに一緒に旅をしないかと誘われたのだ。
一人旅ということに対して寂しさがあったのか、トキワの森でスピアーから守ったということが印象に残っていて俺と一緒にいることが心強いと思ったのかどうかはわからないが、俺としてはイエローのことは嫌いじゃないし、いろいろと面倒を見てもらった手前恩を返す意味でもその話に対してOKした。
それに、俺自身この世界を見て回りたいという欲求もあるし、俺自身なぜポケモンになってしまったのか、それが気にならないと言ったら嘘になるわけで……。
この世界を回ったからと言って原因がわかるとは限らないし、元に戻れるなんて保証はどこにもないけど決して「そんなものは無い」と言い切れるわけじゃない。
それに、一応もしかしたらという『当て』もある。
その『当て』の情報も、この世界を回ることで掴めるかもしれない。
……とまぁ、なんだかんだ考えてるけど実際のところイエローの誘いを受けて俺が答えるまでの間中、イエローが不安そうな目で俺を見つめていたことが俺の意思を決定させたようなものなのだが。
イエローにそんな目で見られたら、たとえ乗り気じゃなかったとしても思わずOKをしてしまったことだろう。
やっぱり、女の子は笑顔が一番です!
……まぁ、流石にまだモンスターボールに入れられることに対しては抵抗があったためその旨を伝えボールに入らずについていくことにしたわけだが。
所謂サトシ君のピカチュウみたいな感じかね。
さて、一緒に行くことになったのはいいのだが一つ思い出してほしいことがある。
それはイエローの持つ能力、「ポケモンの意思を読み取り、ポケモンの傷を癒す」能力だ。
なぜか通常時にも普通に会話ができていることに疑問は覚えるが、今はさしたる問題はない。
問題があるのは、イエロー自身まだその力をうまくコントロールできていないということだ。
作中では普通に使っているその力だっただけに、そのことを聞いた時は小さい驚きを感じたが、はっきり言ってコントロールできていないということはいろいろとまずい。
まぁ、能力が能力なだけに某魔法先生みたいにクシャミで暴発なんかはないだろうけど、もし何かのはずみで能力を行使してしまい俺の過去の記憶に触れてしまったらどうなるか。
……いや、イエローの事だからなぜ今まで黙っていたのかと問い詰められたりそのことで関係がギクシャクしたりはしないだろうけど。
それでも、これから一緒に旅をする上で俺のことを知っていてもらっていた方がいろいろと協力をしてもらい易くなるだろうし、こちらとしてもいろいろと協力してやれることもあるかもしれない。
……とりあえず、俺がいる場所で着替えとかそういうのは控えてはもらいたい。
俺だって今じゃポケモンだけど心は人間の男なわけだし、イエローが子供だからって女の子なわけで美少女なわけで、その、いろいろと気まずいっていうかなんていうか……。
よく、二次創作とかで男の主人公が女の子の着替えるところを見てしまったとき何とも思わないということがあるが、俺には無理だ! 気まずいものは気まずいんだ!
子供に対して何変な感情抱いてんの? とかお前ロリコン? とかいうやつ、俺と変わってみろ、リアルにそんな状況になってそんなこと言えるんだった土下座でもジャンピング土下座でもスタイリッシュ土下座でもして謝ってやるよ。
……と、まぁそんなわけでイエローに俺のことを話したわけだが、流石に話を聞いた時は何かの冗談だと思ったようだが、まぁそれは予想の範囲内だ。
そこでイエローに能力を使わせた。
言葉で信じられないなら、見てもらった方がいいだろう、俺の人間だったころの記憶を。
俺の記憶を見たとき、イエローは流石にびっくりしたような顔をしていたが、しかしこれでようやく信じてもらえたわけだ。
そして俺の目的である人間の姿に戻ることといつか元の世界に戻れるのならば戻りたいということ、この旅で『当て』の情報を探すことを伝えると、イエローは俺の目的を手伝うといってくれた。
ポケモンである俺だけじゃ集められる情報なんて微々たるものだろうけど、人間であるイエローの手を借りることができるならそれこそ俺では集めることができない情報を集めることができるだろう。
……しかし、イエローは本当にいい子だと思える。
俺自身この話をしたらイエローだったら協力をしてくれるのではと思ってはいたけど、こちらから頼むより先に申し出てくれるとは。
ここまでしてもらって感謝してもしきれないというのに、俺に返せるものなどそれこそたかが知れている。
(……せめて一緒にいる間、イエローに危害が及ばないように守れるようになろう)
そんな思いを背にイエローが旅立つ日までの間、俺は今日も増えて制御しにくくなった電気の制御に明け暮れるのだ。
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7話です。例によってあまり進んでいないという…。