2話 試験
少しばかり早く起きた葛西は周辺の探索をかねて散歩をしていた。外はまだ肌寒く、その寒さに少しばかり顔を歪めた。
しばらく歩いていたら葛西の携帯が着信を知らせるために、音楽をかき鳴らす。
「もしもし」
「おはようございます」
電話の主は悪魔だった。若干葛西の声が震えていたのは、苦手意識なのか単純に嫌いなのか分からないが、悪魔が電話をかけてくるなんて何か嫌な予感がした葛西であった。
「今回あなたの腕試しもとい試験を行います。今から説明するのでよく聞いてください」
「……分かりました」
葛西の嫌な予感が的中し顔がどんどん歪んでいく。だが本来先に言われた通りこの転生は『死神になる為の試験』なのだ。昨日のように楽しい事ばかりでは無い。
「今日あなたは峰理子という生徒と戦って勝ってください。詳細はメールで送ります。後領収書を送ってくるのはいいですけど、程々にしておいて下さい。こちらもそこまで裕福では無いので」
そう言い捨て電話はきれた。まあ試験と言われたら何も言えない。葛西はそのために転生させられたのだから。
「……試験……か。まあ、何とかなる……かな?」
葛西は寮に戻り軽い朝食をキンジの分と自分の分を作り学校へ向かった。予鈴のチャイムギリギリに入ってきたキンジを葛西は横目で確認して授業を受ける準備をした。
しばらくは静かに板書を取っていたり、話を聞いていたが、携帯が震え出した。
どうやらメールが来たらしい。葛西はバレないようにそっと開き内容を確認する。宛先人は言わずもがな悪魔からだった。
「ルパンの子孫なんだ……ていうかルパンって実在してたんだ」
少し驚いたあとメールを見ていく。すると今世間を騒がせている武貞殺しであったり、イ・ウーという組織に所属している事が分かった。だが葛西はイ・ウーという組織を全く知らないので特に気に留めて無かった。
相手が渋ったらこれ等の情報をばらすみたいな事を言えば、大丈夫だろう。みたいな交渉の材料にしようと思っていた。
やがて授業も終わり、葛西は峰理子に声を掛けた(同じクラスというのもメールに記してあった)。
「峰さんちょっといいですか?」
「ん~何かな? 転校生君♪」
掴みは上々。後はどこか人目に着かない場所に移動するだけ、と言っても大多数の人は葛西と理子の二人に注がれているわけだが……。
「僕と屋上に来て欲しいんだけど……誰にも聞かれたくない話しなんだ」
「……いいよ。先に行ってて」
葛西は言われた通りに近くにある。手近かにある屋上へと向った。
〇〇〇
理子が来るまで煙草を吸いながらゆっくりと待つ。見ると葛西の足元には結構な吸殻が落ちていた。どうやら携帯灰皿というものを持ち合わせていないらしい、中々反社会的な高校生が武貞高校の屋上にいた。
「ごめーん待った? で話しって何かな」
若干警戒している。当たり前の話だが。
「うん……単刀直入に言うよ。僕と戦って欲しい」
「……どうして君と戦わないといけないのかな? 理子には理由が見つからないんだけど……」
「君からは何となく強そうなオーラ? みたいなのが見えたような気がしたから……」
葛西は口から出任せを言い事なきを得る。だが理子はまだ怪しんでいるようで……目付きが険しくなる。
「それでも君と戦う気は「逃げんなよ。腰抜け4世」……何だと」
「まあ君がそこまで言うならこっちだって考えがある」
「一昨日まで一般校に居た人間が私を脅すのか?」
「まあまあ話は最後まで聞いてよ4世さん「私をその名前で呼ぶなっ!」……失礼。まあ僕の持ってる情報を警察とかに送り付けるだけなんだけどね」
理子は緊張しているのか気づかれないように生唾を飲み込んだ。葛西はこの場戦闘できるように殺人衝動解放を発動させる。
「――――君が武貞殺しでイ・ウーって組織に所属している事バラす。もし戦わないって言うならね」
「……その情報はどこで仕入れた?」
「――――人の口に戸は立てられぬって良く言ったものだよね。こういうのは流れてくるんだよ、人から人へ」
ここまで平静を装っていた理子だが、明らかに顔を渋くさせる。こんな意味が分からない生徒に自分の素性を知られているのが悔しくて仕方がないのだろう。
「……分かった。場所は何処に行けば良いんだ?」
「場所は……そうだなぁ空き地島って所で、時間は20時で」
「分かった」
そう言って理子は出ていった。理子が居なくなった瞬間に、葛西はその場にへたり込んだ。
「怖かった……うわあシャツが汗でビショビショだ……特に口調が変わった後とか、もう死ぬんじゃなかいかって思ったね」
取り敢えず殺人衝動解放を解除する。解除した瞬間デメリットである痛みが体に帰ってくる。だがあまりの痛みにうずくまり喀血(かっけつ)してしまった。かなり使いづらい能力だが、葛西の生命線でもある能力なので頼らずにはいられない。
閑話休題(それはともかく)。
理子という少女は葛西とは住む世界が違う。それはもう圧倒的に、片や普通の高校生、片や犯罪者集団に身を置く少女。誰が見ても勝負の行方は火を見るより明らか。だが葛西はオルフェノクの力がある。葛西はこの能力をいかに上手く使えるかが、今回の鍵となって来るだろう。
〇〇〇
学校が終わり急いで寮へと帰る。そしてキンジの為に夕飯を作り始める。米をとぎ、炊飯器に入れて飯が炊けるのを待ちながらオカズを作り始める。冷蔵庫から豚肉を取り出し、適当に焼いていく。
しばらくすると炊飯器がピーピーと鳴り始め、飯が炊き上がるの知らせた。
肉も焼き上がり、皿へと移す。付けあわせのキャベツを切り、これも皿へと移し完成。そしてラップをして冷蔵庫に入れる。後は目に付くような場所に走り書きしたメモを置いておく。
今の時間は19時を少し回ったという所だろうか。葛西は時間を確認して、身支度を始める。
何かあったための鎮痛剤等を制服のポケットに入れて準備を整える。
「さてと……行きましょうか」
葛西は空き地島へと向った。
「少し早く着きすぎたか……」
時刻は19時50分。あと10分で20時になる。今から殺し合いをするのに浮かれた気持ちは禁物。葛西は深呼吸を始める。深呼吸を終え、いい感じに緊張している体をいたわるように触る。準備は万端――あとは理子を待つだけだ。
たった今20時なった。それと同時に理子が現れる。彼女も周りは殺気で満ちており、朝のようなおどけた感じは見受けられない。
「来てくれてありがとう。お手柔らかに頼むよ」
「随分余裕だな……まあいい。私はさっさと君の息の根を止めて帰るとするよ」
理子は殺気を体に纏い葛西を威圧する。葛西は多少気圧されたのか若干に後ろに下がった。
「……じゃあやろうか。手加減無しで掛かってこい」
「言われなくても分かってるさ」
葛西は殺人衝動解放を発動させ理子に肉薄する。理子はナイフを両手に持ち迎撃の構えをとる。一方葛西は丸腰。葛西はそれに構わず殴りかかる。だが理子はそれを簡単に
だが葛西の体にナイフが触れた瞬間灰に変わってしまった。一瞬の出来事に理子は驚きを見せたが、直ぐに気持ちを入れ替え、葛西の腕を掴みひねり上げた。
「グッ痛い……」
葛西の足の関節を蹴り、立てなくしたあと更に腕に力を込めた。
「このまま私の素性が入ってる情報端末を渡せ。そうしたら命だけは取らん」
「……嫌だね……渡すもんか……」
葛西は自由な手に力を込めて、拘束されている手にかけた。
「……僕は……昔から頭動かす作業が嫌いでね……力業でしか解決しなかったんだ……」
「だからどうした?」
「……だから僕は……この状況を力業で……解決しようと思うよ」
葛西は腕に力を更に込めた。理子は言ってる意味が分からず首を傾げていたが、おしゃべりによる時間稼ぎのおかげで、腕に込めた力は万端だ。そして自由な手で捻られている手を力任せに引っ張った。
葛西の腕は力任せに引っ張ったおかげで、理子の腕から離れ、葛西の肩からも離れた。
簡単に言えば葛西の腕がもげたのだ。理子にあっけに取られ、葛西はバックステップで距離を取った。
「イタタタタ。腕をもぐなんて初めてだよ……超痛いし……」
葛西の左手にはもがれた右手があった。だがその数秒後に右腕が灰に変わり、葛西は「わっ!」と声をあげた。
「な、なんで腕が灰になったんだ!? 死神め……僕の体がドンドンおかしな感じになってるよ……」
そんな独り言を言っていると、もいだ右腕が生え始めた。中々グロテスクな音が響き、数秒の内に完璧に再生した。
「さてと……第二ラウンドと行こうよ」
「気持ちの悪い化け物め……!」
今理子が持っている装備はワルサーP99二丁のみ。だが今の状態で行っても確実に負けが待っているだろう。化け物じみた回復能力、怪力。さっきは運良く後ろをとれたが、もう駄目だろう。不利と言う言葉が理子の体にまとわり付く。
葛西は理子に向かって走ってくる。理子はワルサーP99を抜いて、葛西に向かって撃ちまくるが灰に変わっていく。
葛西は理子に向かって左腕を突き出し殴りかかろうとするが、理子はそれを受け止めた。
だが葛西は左腕を自分の方に引っ張った。左腕と一緒に引っ張られた理子の腹めがけて、葛西は膝蹴りを繰り出した。たまらず膝をついてしまった理子に対して、葛西は理子を掴み力の限り投げ飛ばした。
二、三回バウンドした後漸く止まり。荒い息で呼吸している。
葛西は理子にゆっくりと歩いていく。
「大丈夫? 救急車呼ぼうか?」
「……頼む……肋骨が折れてるんだ。動けない……」
「本当に!? 救急車すぐ呼ぶよ! あ、あとこれ鎮痛剤。気休めかもしれないけど飲んで!」
葛西は携帯を取り出し119に連絡した。
「ごめんね……怪我させちゃって……」
「別に気にしていない。私が弱いからこうなったんだ……それに謝られると自分が惨めになるばかりだ」
「う、ごめんなさい……あ、謝ったらいけないのに……ごめんなさい……あ」
何回も謝っている葛西を見て思わず笑ってしまう理子。
「……これ以上ここに居ると怪しまれるからもう行くね。あ、あとお見舞い行くね! 後退院したらご飯食べに来てね!」
それだけ言うと葛西は夜の闇に紛れ消えてしまった。
(……一体何者なんだ……人間なのか……?)
理子の疑問は救急車のサイレンが近づいて来てもその疑問は晴れなかった。逆に考えれば考えてしまうほどわからなくなってしまった。
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