No.429873 LOST WORLD―COLLAPSE― 1-2 8月23日 午前8時 バス停2012-05-29 20:47:24 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:574 閲覧ユーザー数:568 |
玲と天音はいつも通り、二人で登校に使うバス停へと向かった。
いつもよりも少し出るのが遅かったためにおいて行かれる心配もあった。
そのため二人は朝から食後の運動を強いられることになっていた。家からバス停まではそれほど離れてはおらず、徒歩でいえば5分と少しだろう。走ればまだ間に合う時間だ。消化に悪いのは理解しているが、遅刻だけはするわけにはいかない。
二人が通っている蒼陽市立蒼陽高等学校の生徒指導担当の教師が時代遅れの完全体育会系スパルタ教師だからだった。いつもジャージに首から笛をぶら下げ、その手には竹刀を持って校門で整容指導と登校指導を行っているのだ。
学校から降りるバス停までは、また少しあるかなければならない。普段どおりの時刻のバスに乗れば何のことはないが、それに乗り遅れると次のバスに乗っても完全にアウトだった。
「ほら急いで玲! もうすぐバス行っちゃうわよ!」
視線の先で走っている姉が肩越しからこちらを見ながら話しかけてきた。
「それくらい分かっている」と慌てているために、少しだけ苛立ちをこめた口調で言う。
「そう」と姉は呟く、また前を向いて走る。角を曲がると丁度バスが見えた。エンジン音が聞こえ、今にも発進しそうである。後ろの窓からこちらを見つめる高校生の姿が見えた。
「あいつらもう乗ってやがる」
「当たり前でしょ。いつもだったら私たちもそこに一緒に座ってるはずだったんだから」
夏休み明けの一日目であるから身体が切り替わっていなかったのが悪いのだと内心言い訳染みた考えをする。ドアが閉まりそうだったのに対して、
「ちょっと待ったー!」
姉が大きな声でその閉まりそうなドアにしがみ付く。運転手の男性は突然のことにひどく驚いた表情を浮かべた。それからすぐに閉まってしまったドアを開けてくれる。
「ギリギリだね、どうしたんだい? いつもだったらもう乗ってるのに」
五十代後半のやや白髪の目立つ彼がからかうように話しかけてくる。
「色々ありまして……」
苦笑いを浮かべつつ天音が言う。
「っ!?」
天音よりも先に乗っていた玲が立ち止まり、突然背筋を伸ばす。天音と話をしていて気付いていないが、彼女の指は玲の背中に伸ばされており、思いっきりつねっていたのだ。
遅刻の原因が怜の寝坊にあるため無言の怒りを向けていた。
「な、何をするんだよ……!」
「原因は玲でしょ? これくらいの罰は受けなさいよね」
「なら何でさっさとひとり、行かなかったんだよ!」
「そ、それは……」
小声であるが、それでも回りに聞こえるかどうかギリギリの声量だ。
理由を尋ねる玲。それに対して天音はどうしたわけか口ごもる。
なんだっていうんだ――?
いつもならすぐに言い返してくる彼女にして見えれば珍しいと思う。
すると突然エンジン音が再び聞こえる。バス全体が少しだけ揺れる。そろそろ出発するということで立っているのは危険だ。取り敢えず隼人は同級生が座っている後ろの方に向かうことにする。
「天音―、こっちこっち!」
「ごめーん、遅くなっちゃったね」
「いいよいいよ.それにしても珍しいね、何かあった?」
玲の同級生が座っている後ろの席よりもいくつか前のほうに天音の同級生が数名座っているのが見えた。足早にそこへと向かい、座る。
何やら話をしているのが聞こえる。
学校の方でも優等生の天音が珍しく遅れてきたのが気になるようだ。
その話はもういい加減にして欲しいと思い、玲は同級生の待つ席へと向かった。
「よう、天音さんを新学期早々困らせたようだな」
「あかんで、玲やん。いくら姉弟仲良うても、迷惑ばっかりかけてると嫌われるで?」
同級生の佐々木広大と斉藤大河だ。
小学校、中学校とずっと同じく一緒にいた悪友だ。
いい加減にして欲しいと思っていたことを追及してきた広大。へらへらとエセ関西弁で話しかけてくる大河。むっとするが、それでも憎めない二人だった。
席に座り込み、ポケットから音楽プレイヤーを取り出す。ヘッドホンを付けて完全に外からの音を遮断する。学校に行くまでの数少ないゆっくりとできる時間だ。
隣に座る二人と話をすることもあるが、基本ひとりでゆっくりするのが好きだった。どうせ学校に行けば音楽機器を使うこともできず、友達と話をするくらいしかできないのだから。
音楽が流れ始める。
流れる音楽に耳をゆだね、頬杖をつきながら窓から外を見る。
もう何年も見てきた景色がそこから見える。何も変わらない、これから先変わるのかも分からないこの景色。
「ああー、もう夏休み終わってもうたー」
「これは夢だ……なんて思えたらなー」
僅かであるが二人のやり取りが聞こえた。確かにまだ夏休みが続いて欲しいというのは怜も同じ考えだ。これが夢であったならどれだけ良かったか。
そんな漠然な思いを抱えながら再び視線を外の景色に向けた。
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時は2150年。
決してありえないとはいえない未来の話。
いつものように朝目が覚めればいつもの日常がやってくるだろうということを信じて疑わなかった。
だが次の朝目が覚めたら……世界が終わっていた。
町を歩き回るは生きた死体――ゾンビ。人が人を喰らい、まるで生き地獄を見ているかのようだ。
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