No.428241

天馬†行空 十五話目 志を掲げて

赤糸さん

 真・恋姫†無双の二次創作小説です。
 処女作です。のんびり投稿していきたいと思います。

※主人公は一刀ですが、オリキャラが多めに出ます。
 また、ストーリー展開も独自のものとなっております。

続きを表示

2012-05-26 09:06:56 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:6815   閲覧ユーザー数:5004

 

 

 賊討伐での華々しい戦いぶりは思った以上の早さであちらこちらに伝えられたと見え、二週間ほど経った今では北平を根城とする賊の殆どは逃亡、或いは投降。

 それでも抵抗する集団は幾つか存在したが、そちらは張り切って出陣した桃香さん達(当然、俺や星も出たが)と義勇兵の皆の前にあっさりと打ち破られ、前回の主役とも言える白蓮さんの白馬義従は、五胡だけではなく近隣の賊にとっても恐怖の的になった。

 愛紗さんと鈴々ちゃん、星もここいらでは知らぬ者がいない程の武名を轟かせている。

 

 その結果、北平を中心として幽州ではそれなりに穏やかな日々が戻りつつあった。

 俺と星は今回の討伐戦を経て白蓮さんから気に入られたようで、(客将の範囲ではあるが)それまで以上の仕事を任されるようになっている。

 

 最近では、客分扱いの桃香さん達とも街の警邏などで一緒に仕事をする機会が増え、それなりに話もするようになった。

 また、交趾を出てからも日課の鍛錬は欠かさないようにしているので、練兵場にはよくお世話になっている。

 流石に星や愛紗さん達とはレベルが違いすぎてまともな練習にならない為、正規兵の人達と稽古をする事が多い。

 忙しくはなったが、雲南でもこのくらいはやっていたので戸惑うこともなかった。

 

 その一方で、大陸では匪賊の横行に大飢饉、疫病の蔓延などで人心が(すさ)み始めていく。

 中原からやって来た行商人さん達の話によると、一日に起こる揉め事の件数が日毎に増加し、刃傷沙汰も増えて警邏兵にもストレスが溜まっていくのが肌で分かるくらいだとか。

 

 そんな風に緊迫した雰囲気が村や街に充満し……やがて大陸中へ広がるのも時間の問題かと思われたある日、とある地方で太守の暴政に耐えかねた民が民間宗教の指導者に率いられて武装蜂起し、官庁を襲う事件が勃発する。

 地方で起きた事件ながら、官軍は暴徒の前に全滅。暴徒達は周辺の街へと進行を開始し、蝗のような勢いで大陸の三分の一が乗っ取られた(交州は無事、また『三国志』で有名な人達が治めている地域もおおよそは大丈夫のようだ)。

 

 たかが一地方の反乱と侮っていた漢王朝は、討伐軍全滅の報を受けて混乱に陥る。

 そして地方の軍閥、豪族に賊徒の討伐を命じた。

 

 それが、つい昨日の話。

 星と共に、白蓮さんからその話を聞かされたとき、やはりという確信と共に、心と身体に震えが走ったのを覚えている。

 

 それは……これから本格的に始まる乱世を前にした武者震いであり、また戦が日常的なものになってしまう時代への、恐怖からくる震えであったのかもしれない。

 

 

 

 

 

「失礼、遅くなりました」

 

 挨拶をしながら玉座の間へ入ると、白蓮さんと星、桃香さん達……と、全員揃っていた。

 

「非番なのにすまんな北郷。呼び出してしまって」

 

「いえ、それよりも皆揃って……何かあったんですか?」

 

 申し訳なさそうにこちらに手を合わせる白蓮さんへ一礼する。

 

「……今、この城に朝廷から使者が来ているのは知っているよな?」

 

「はい。黄巾党の討伐命令を伝えに来られた、と」

 

「そうだ。私はすでに参戦することは決めたのだが……」

 

 そこまで喋ると白蓮さんは桃香さんに目を向けた。

 

「あ、うん。白蓮ちゃんがね、これは私達にとって好機なんじゃないかって」

 

 白蓮さんの視線に促された桃香さんが真面目な顔で口を開く。

 

「好機…………旗揚げの、かな?」

 

「ああ、その通りだ」

 

 僅かに思案し浮かんできたことを口に出してみると、愛紗さんが大きく頷いた。

 ……桃香さん達と真名を交換してから今日まで、何度か話をする機会があったのだが、そのときに義勇軍に志願した理由や今後の目標のようなものは聞いている。

 それを鑑みれば、今が独立の好機だろう。 

 

「黄巾党討伐で手柄を立てれば、朝廷から恩賞もあるだろう。桃香達がその気なら、きっとそれなりの地位に就ける筈だ」

 

 確かに、史実でも劉備は黄巾の乱で乱世に名乗りを上げていた。

 

「そうすれば、より多くの民を守ることが出来るだろう?」

 

 そして、乱が収束した後に公職を得ている。

 

「残念ながら、今の私の力はそれほど強くは無い。……そりゃもちろん、もっと力をつけて、この動乱を収めたいとは思っているけど」

 

 顔を顰めながら、白蓮さんは拳を握り締めた。

 

「しかし、今すぐには無理だ。それに桃香を付き合わせる訳にもいかない。時は金よりも貴重なんだからな」

 

 ……ふむ。

 白蓮さんの言葉には説得力がある。

 だが、おそらくはそれだけではないのかもしれない。

 ひょっとすると白蓮さんは桃香さん達の扱いに迷い始めているのではないだろうか。

 客将としてすでに星と俺が居る。

 更に最近、名を上げてきた桃香さん達が幕下(ばっか)に居るというのは、太守としてはあまり面白くない。

 一国に二人の主なし、という言葉もある。

 一つのグループ内で、リーダーと同じ位の名声を得ている人間は必要無いというのも、当然のことだろう。

 ならば、功名を立てる機会があるときに、自分達で手柄を立てて独立させるのは、お互いにとって良い処方と言える。

 

 と、少しシビアに白蓮さんの内面を推測してみたけど……。

 うん……何かしっくりこない。

 それに、白蓮さんはそんなことは承知の上でなお好意から提案している、というのが正解のような気がする。

 ……白蓮さんの横顔を眺めながらそんな風に考えていると、桃香さんが一つ頷いて顔を上げた。

 

「……うん、そうだね。私達もそろそろ、自分達で頑張ってみよう」

 

「でも、鈴々たちだけで大丈夫かなぁ?」

 

「う~ん……。それは分からないけど。でも、いつまでも白蓮ちゃんのお世話になる訳にもいかないよ」

 

「そうですね。……しかし、我らには手勢が無い。そこが問題です」

 

 顔を寄せ合って相談している桃香さん達。

 と、今まで黙っていた星が白蓮さんの方を向く。

 

「手勢ならば街で集めれば良い。なあ? 伯珪殿」

 

「ん~……。そうだな、ここ最近で志願兵も増えてきてるし、討伐軍を編成する為に必要な人数にもなんとか足りそうだしな――」

 

「ふむ、ならば問題は無しですな」

 

「ああ……でも集めすぎは困るぞ? こっちも再編成とかでまた募集する可能性があるからな」

 

 あっけなく片が付いたあの賊討伐の成果か、白蓮さん(と白馬義従)の人気は高く、桃香さん達とほぼ五分五分といったところ。

 そのお陰で、北平だけでなく幽州の各地から白蓮さんのところに志願して来る人達も増えた。

 

「北の五胡にも備えないといけないですからね……」

 

「そうなんだよ……後、思った以上に志願兵が来たから武具と兵糧の補充とかもしなきゃいけないし」

 

「あ、じゃあ俺はそっちを手伝いますよ。兵站部ですよね?」

 

「ああ、頼むよ北郷。……それと桃香達の武具と兵糧の供出もしてやってくれ」

 

「了解です」

 

「じゃあ、私は街に出て人を集めるね。……えっと」 

 

「私は一刀殿の方に行きましょう。鈴々、桃香様を頼む」

 

「了解なのだ!」

 

「ふむ、では私も念の為、護衛として桃香殿に同行致そう」

 

「ありがとう星ちゃん!」

 

 組分けは決まり、っと。

 

「では愛紗さん。こちらも行きますか」

 

「ああ」

 

 方針が決まり、それぞれ行動を開始する。

 愛紗さんを連れて、俺は兵站部へと向かった。

 

 

 

 

 

 その途中――――。

 

「…………お。そう言えば」

 

 呼び出しを受けた際に懐へ入れていた物のことを思い出し、俺は声を上げる。

 

「む? 一刀殿、なにか?」

 

「桃香さん宛てに手紙を預かっていたの忘れてた……これなんだけど」

 

 取り出した手紙を愛紗さんに渡す。

 

(かたじけな)い……ふむ、張世平(ちょうせいへい)? 聞き覚えの無い名だが……」

 

「ああ、張世平さんは愛紗さん達が参加した初めての賊討伐の時、戦の直前に物資の支援をしてくれた人だよ」

 

「ほう、あの時の……」

 

 手紙の表に書かれた商人(主に馬を扱っている)の名を教えてあげると、愛紗さんは僅かに表情を綻ばせて頷いた。

 

「ひょっとすると、桃香さん達への支援の話かもしれないね」

 

「そうであれば喜ばしいな…………ところで、一刀殿」

 

「うん?」

 

「一刀殿は白蓮殿の家臣にはならないのか? 客将でいるよりも正式な家臣となれば、白蓮殿により貢献できると思うのだが……」

 

「う~ん……。今はまだその気は無いんだよね。……俺は、誰かに仕えるには未熟すぎるから」

 

「ご謙遜を。私の目から見ても、一刀殿は確かな才覚を持ち合わせている」

 

 うわわ……お世辞とかを言わない愛紗さんに褒められると凄く照れくさいな。

 

「いやいや、未熟なのは本当のことだよ……俺はまだ、この国の中心を見てないし」

 

「中心? ……都、洛陽のことか?」

 

 問いかける愛紗さんに頷くと、彼女は眉根を寄せて苦虫を噛み潰したような顔つきになった。

 

「むう……老婆心ながら言わせて貰うが、今の洛陽は腐敗している政の源と聞く。わざわざ行く価値は無いのでは?」

 

「だからこそ、かな」

 

 思えば、士壱さんにも難色を示されたなあ。

 

 でも――――。

 

「だからこそ見てみたい。……街が、人が、どんな風になっているのか……どんな暮らしを送っているのか」

 

 例え周りから悪し様に言われても、俺にとっては未だ見たことの無い土地であり……また、これからの乱世に関わっていく為にも見ておきたい場所でもある。

 

「悪評が流れるからこそ、そこで懸命に頑張ってる人も居ると思うんだ……だから、そんな人達に会ってみたいかな、ってね」

 

 劉焉に対しての獅炎さんや夕のように。

 つらい現実に対しても、前を向く人達は必ず居る筈だ。

 もし、そんな人達の協力が得られれば――いずれ訪れる夕との約束の時に心強い味方となるかもしれない。

 直接的に戦に関われなくても、そんな心を持った人達が集まれば、必ず――――。

 

 ――それと、もし史実通りにいけば董卓(とうたく)によって洛陽は廃墟になってしまうので、彼(或いは彼女)が洛陽に入るより前に見聞を済ませておきたいというのもある。

 

「勿論、黄巾党が収まるまでは白蓮さんと一緒に戦うつもりだよ? 乱が収まらないと安全に旅も出来ないし、今から討伐が始まる、って時に出ていくほど薄情じゃないしね」

 

 最後に早口でそう纏めて愛紗さんの方を向く。

 

 ん? ……あれ?

 

「……愛紗さん?」

 

「ひゃっ!? ……な、なな何だ一刀殿?」

 

 少し後ろで立ち止まり、なにやらぼうっとしていた愛紗さんに声を掛けると彼女はびくり、と体を震わせる。

 

「? えっと、どうかした?」

 

「い、いや、なんでもない。うん、なんでもないぞ」

 

 ごほん、と咳払いをしながら何故か顔をパタパタと仰ぐ愛紗さん。

 

「お、おほん! そ、それよりもだ一刀殿。……もしもの話だが、一刀殿が白蓮殿の下を離れて見聞を果たされたときは……桃香様の下に来てはくれないだろうか?」

 

「そう、だね。もし、その時が来て……また、縁があれば」

 

「……私は、一刀殿の道と我らの道が再び交わると信じている」

 

「……ありがとう、愛紗さん」

 

 愛紗さんに頷き返し、兵站部のある蔵の方へと向き直る。

 こうして各々作業を分担して行っているうちに、一週間が経過して――――。

 

 

 

 

 

「桃香さん達、いよいよ出発か」

 

 全ての準備を整え終えた桃香さん達は、集まった義勇兵を率いて出陣の時を迎えていた。

 俺はその見送りで来ている(折り悪く白蓮さんと星は近隣に出没した小規模の賊退治に向かっており、俺は留守番)。

 

「ふわあ、たくさん集まってくれたねー。これなら何とか戦えそうだね、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん」

 

 義勇兵の皆さんは、この街だけでなく、その他の村からも集まっていて……その数は四千人にも上っていた。

 昨日、桃香さんが出発の挨拶をしたときに白蓮さんの顔が若干引きつってたのが思い出された…………南無。

 

「しかし……これからどうしたものか」

 

「こうきんとーを探し出して、片っ端からやっつけるのだ!」

 

 口元に手を当て、思案する愛紗さんに鈴々ちゃんが勢いよく手を挙げながら発言する。

 

「いや、それは無理だぞ鈴々。そのやり方では、すぐに兵糧が底を尽いてしまう」

 

「むぅ……ならどうすりゃ良いのだー? 愛紗は他に何か良い考えがあるのかー?」

 

「む……それを言われると耳が痛いな」

 

「うーん……どうしたら――――あっ! ねえ一刀さん! 一刀さんの――」

 

 頭を付き合わせて相談している三人のうち、桃香さんがくるりとこちらに振り返ると同時、

 

「しゅ、しゅみましぇん! う……か、噛んじゃった」

 

 下の方から声が聞こえてきた。

 そこには鈴々ちゃんとほぼ同じくらいの背丈の女の子が二人。

 一人は淡い黄色の髪に暗紅色の瞳、小豆色のベレー帽と同色の制服……のような格好。

 背負った黒のランドセルからは竹の定規が顔をのぞかせていた。

 

 もう一人は淡い紫色の髪を左右で結んでいる少女。

 紺色の、まるで御伽噺の魔女が被るような先の折れた三角帽を深く被るその下から、薄緑色の瞳がちらちらとこちらを窺っている。

 服装は前の子と色違いではあるが同じデザインのもので、どちらの子も淡い緑色のリボン(やや大きめの)を帽子に着け、同じ色の帯を身に着けていた。

 

「桃香さん、愛紗さん、こっちこっち」

 

 どこから声が聞こえてきたのかと、キョロキョロ周囲を見回している二人に声を掛ける。

 

「こ、こんにちゅは!」

 

「ち、ちは、ですぅ……」

 

「こんにちはっ。……えーと……どちらさま?」

 

 緊張した面持ちで挨拶をする少女二人、

 

「私はしょ、諸葛孔明れしゅ!」

 

「私はあの、その、えと、ほ、ほーとうでしゅ!」

 

 その口から出た名前は驚くべきものだった訳だが……いかんせん彼女達が噛み過ぎたので、驚くよりも先に和んでしまった。

 

 

 

 

 

「――とまあ、そんな感じでした」

 

「ほう、桃香殿はもう軍師を得られたのか」

 

「……出発して、いきなり二人も軍師が来るとか……うう~」

 

 その日の夕方。

 無事に賊を討伐して帰って来た二人に桃香さん達の話をすると、星は感心したように何度も頷き、白蓮さんはへこんでいた。

 まあ、そりゃそうか。白蓮さんは募集を掛けて兵は集まっても武将(武官、文官)がなかなか見つからないのに、桃香さんはのっけからいきなりこの時代ではトップクラス(であろう)の軍師が二人、しかも向こうからやって来てるからなあ……。

 

「昨日も挨拶はしたけど本当にお世話になりました、と言付かりましたよ?」

 

「ああうん、わかった。ごくろーさん北郷…………はぁ」

 

「桃香殿は桃香殿、伯珪殿は伯珪殿です。気持ちを切り替えてこれからの討伐に当たりましょうぞ……なあ、一刀?」

 

「そうですよ白蓮さん。俺も星も頑張りますので」

 

「あ、ああ。すまん。……そうだな…………よし! 頼りにしてるぞ、二人とも!」

 

「お任せあれ」

 

「はい!」

 

 うん、上手くフォローできたみたいだ。

 あの後、桃香さん達も孔明ちゃんと士元ちゃんの助言もあってある程度の行動指針を決められていた。

 俺も桃香さんと愛紗さんから助言を求められて、用意していた竹簡を渡したけど……孔明ちゃん達がいるから、多分要らないんじゃないかな?

 さて、こっちもだいぶ賊は減ったけれど中原から勢いに乗った黄巾党が雪崩れ込んで来る可能性は高いし……星の言う通り、気持ちを切り替えていくか!

 

 

 

 

 

「――と意気込んだものの…………こっちは意外と早く終わったなー」

 

「ですね。冀州にはまだ黄巾の本隊は残ってますけど……五胡が北にいる所為で白蓮さんはここを離れられないですし。実質討伐終了、ですか」

 

「だがこれで幽州からは黄巾を一掃出来た。……四ヶ月前の賊討伐と併せれば伯珪殿の名はまた上がったのではないですかな?」

 

 桃香さん達の旅立ちから、はや三ヶ月。

 

 心機一転、やる気を(みなぎ)らせて黄巾党討伐を開始した白蓮さんと俺達だったが……幽州にはそれほど賊が入ってこなかった為、拍子抜けするくらい早く事態は沈静化した。

 

 一番大きかったものでも黄巾党の集団二万ほど。

 この集団は幽州と冀州の境の辺りに駐屯していて、白蓮さんと袁紹さんをかち合わせようと目論んだようだが……白蓮さんの騎馬隊の速さと、袁紹さんのところの顔良さんと文醜さんの強さが彼等の予想を上回っていたようで、逆に二つの軍に挟み撃ちにされる形で壊滅した。

 

 この時の戦勝の報がそれぞれの領地に知れ渡るとそれ以降はぱったりと賊の流入が止まったのだ。

 以降は領内に点在する賊徒の集団や黄巾の残党を潰していくだけの掃討戦に移行した。

 

 で、それらが一段落したのが昨日。

 黄巾の本拠地である冀州(袁紹さんの治める渤海を除く)はすぐ南なので気は抜けないが……現在はまともな将軍が率いる官軍と、袁紹さんが他県への勢力拡大を抑えている状況だ。

 幽州から黄巾は一掃したものの、白蓮さんも五胡への備えからむやみに兵を動かせないと判断して朝廷に使者を出していた。

 

 ちなみに桃香さん達については、張世平さん経由で白蓮さんから聞いている。

 その際に中原の状況も一緒に教えてもらったのだが……。

 

 先ずは桃香さん達から。

 彼女達は北平から南下し、黄巾の物資集積所を制圧。

 その後、転戦していた陳留刺史の曹操(!)と合流して行動を共にしているらしい。

 

 次に洛陽の官軍。

 こちらは開戦当初、十常侍に取り入った名ばかりの将軍達が幅を利かせていたようだが任地でことごとく敗れ、現在は皇甫嵩(こうほすう)朱儁(しゅしゅん)盧植(ろしょく)ら歴戦の将が出陣し、戦況は好転しつつあるとか。

 なかでも盧植という人は白蓮さんが以前通っていた私塾の先生でもあったそうだが、しばらく前に十常侍の不興を買って閑職に回されていたらしい……その先生が復職したのを聞いて白蓮さんは自分の事のように喜んでいた。

 

 続いて中原より南方の状況について。

 こちらで目立ったのはなんといっても董卓配下として出陣した呂布(りょふ)

 彼女(女性だった)は主戦場を離れた位置から北上してきた張角(ちょうかく)張梁(ちょうりょう)張宝(ちょうほう)らが率いる三万の兵を『一人で』撃退したと言う。

 眉唾物の話だったが実際にその場を目撃(勿論、離れた場所からだが)した人から聞いた情報とかで…………いや、もう凄いとか言うレベルを通り越した人外なその強さに開いた口が塞がらなかった。

 袁術配下の孫策が近隣の賊を次々に撃破しているという話もあったんだけど……呂布の話のインパクトが凄すぎてあまり印象に残らなかった、というのが正直な感想だ。

 

 次に交州だが……流石に張世平さんも遠く離れた土地の情報を入手していなかったので、威彦さんと想夏の手紙からの情報になる。

 あちらは東に山越、北に武陵蛮(ぶりょうばん)、西は獅炎さんや美以ちゃんが幅を利かせている上、中原からあまりにも離れている土地ということもあり黄巾党の脅威には(さら)されていないらしい。

 益州の劉焉も未だ残る反乱軍と五胡、更に荊州から流入して来る黄巾党の相手に忙しいらしく、今のところ南に軍を向ける気配は無いようだ。

 久し振りに見る二人の筆跡に顔が緩むのを自覚しながら返事を書いたのを憶えている。

 

 とまあ、以上が半月前の戦況だ。

 最新の情報では、各地の有力諸侯が順調に勝ちを重ねて、残る黄巾党は本拠地である冀州に集結した本隊のみ……なんだけど、なんとその総数が二十万。

 それに対しては官軍より前述の三将軍、諸侯からは曹操、袁紹さん、孫策。

 義勇軍は勿論桃香さんの部隊で、現在は周辺の村や街を解放しつつ包囲網を作成しているとか。

 

 

 

「しかし、先生や桃香達は大丈夫かなあ……」

 

 討伐軍の総数は十万前後。敵兵力の半分なので白蓮さんが心配するのも解るけれど……。

 

「大丈夫ですよ白蓮さん。討伐軍が負けることは無いでしょうから」

 

「ほう、随分はっきりと口にしたな一刀」

 

「そうだぞ北郷、えらく自信があるような言い方だったが何か根拠でもあるのか?」

 

「いや、星、白蓮さん。冀州だけじゃなくて中原や荊州方面にも拠点を持ってた黄巾党が今は一つの拠点に集結してるんだよ? しかも二十万人も。……兵糧とか具足とか、明らかに足りなくなるでしょ」

 

「……む、成る程な」

 

「…………あー、そりゃそうか」

 

 今までは大陸のあちらこちらで暴れまわっていた彼等が、その数を減らしたとは言え一同に集まればどうなるかは明白。

 しかも黄巾党の物資集積所は、少数ゆえに目立たず小回りの利く桃香さんの部隊や、開戦当初から積極的に動いていた曹操によってその殆どが潰されている。

 自然、本隊に合流しようと各地から集まる黄巾の部隊は殆ど手ぶらに近い状態なのだ。

 本拠に物資の備蓄は有るだろうが…………恐らくは減る一方だろう、特に兵糧は。

 なんせ彼等の物資補給は街や村からの略奪がメインだから。

 一つの拠点に籠り……周囲を討伐軍に囲まれつつある……迂闊に外へ補給に出れない状態では、ね。

 これではいくら総勢で二十万もの兵力が有ってもまともに戦える人数は半分にも満たないだろう。

 

 対して討伐軍はここまで彼等を相手に連戦連勝を重ねて来たツワモノ揃い。

 練度も士気も段違いだろうな。

 桃香さん達が負けることは無い筈だ……多分。

 

「まあ、仮に今から出陣しても決戦には間に合わないし……桃香達の武運を祈るしかないな」

 

 それから一週間後、討伐軍が黄巾党の本拠地を落としたとの報せが北平に届く。

 

 

 

 ――――そして。

 

 

 

 

 

 

「伯珪様、こちらの書類の決裁をお願いしますです」

 

「んー……そこに置いといてくれるか国譲(こくじょう)

 

「解りましたです」

 

 政庁にある自分の部屋で政務に励む白蓮は、向かいの文机から書簡を運んでくる少女に目を遣った。

 こちらを窺うその深い緑色の目に頷き返すと……両手が塞がっていた白蓮は自分の机の空いている場所を目で促す。

 国譲と呼ばれた背丈の低い少女が書簡をそこに置くのと同時に部屋の戸を叩く音が聞こえた。

 

「ん? 入れ」

 

「――失礼します。()(きみ)、御命令通り新兵の訓練を完了致しました」

 

「ああ、ご苦労さん叔至(しゅくし)

 

「はっ」

 

 白蓮よりも頭一つは高い少女が部屋に入ってくる。

 拱手しながらよく通る声できびきびと報告する少女を白蓮は(ねぎら)う。

 

「――っと、ん? もう昼か。叔至、国譲、一旦休憩にするか」

 

「はいです」

 

「はい」

 

「よし、じゃあ星と北郷も――」

 

 凝り固まった身体をほぐすように大きく伸びをして椅子から立ち上がると、白蓮は弾んだ口調で友人であり客将でもある二人の名前を口にして、

 

「――そっか。もう、居ないんだっけな……」

 

 ふと自身の勘違いに気付き、寂しそうにそう呟いた。

 

「……我が君」

 

「……伯珪様」

 

 恐る恐る、と言った風な部下の声に顔を上げると、二人は心配そうに白蓮を窺っている。

 

「ああ、いや、なんでも無い。さ、行こうか!」

 

「我が君、星殿……いえ、師匠はまた帰って来て下さいますとも!」

 

「私も、一刀様ともっとお話がしたいです。ですから、私はこの街を……いえ、北平を今よりももっと発展させて、お二人が帰って来たくなるように頑張るです!」

 

「…………お、お前達。……あ、ああ。そうだな、そうだよな!」

 

 ――人をからかう癖があるが、その分、人の心や感情の機微に(さと)く、今までに会った誰よりも強かった少女。

 

 ――兵法者でもなく、武人でもない。なのに戦では誰よりも早く状況を把握していた、穏やかで優しい少年。

 

 ――私塾で机を並べた桃色の髪の少女は志を胸に、仲間と共に旅立っていった。

 

 

 

 友と呼べる者は全て自分の元から去って行った。

 

 

 

 ――――だが。

 

 気紛れな少女は、生真面目で仕事熱心な少女を。

 

 少女によくからかわれていた少年は、小さな事にも良く気が付く利発な少女を。

 

 自分の目から見てもどこか危なっかしい親友は、耳の早い馬商人を。

 

 ――――残して行ってくれた。

 

 

 

(ありがとうな。桃香、星、北……一刀)

 

 瞳に真剣な光を宿して、自分を見る部下達に応え、

 

(私も頑張るよ。……だから、またな!!)

 

 気を抜くと流れそうになる嬉し涙を堪える様に。

 白蓮は強く、強く拳を握り締めた。

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 お待たせしました。天馬†行空 十五話目です。

 あっさりざっくりと黄巾の乱は終了致しました。

 張三姉妹や華琳、雪蓮の出番を期待していた方、申し訳ありません。

 

 今回、白蓮に部下が出来ました。

 彼女達の詳細については、また後の話で記載します(字で誰か判る方も居られると思いますが)。

 また、最後の部分で一刀達がどこへ行ったかは明記していませんが……バレバレですよね(笑)。

 一刀達がどのくらいしてから北平を出たのかも次の話で……。

 

 さて次回、反董卓連合、その直前の時期へ(拠点を挿むかもしれませんが)。

 そして、この事件を通して本作品のルートが決まります。お楽しみに。

 

 

 

 

 

 白蓮「ねんがんの ぶかをてにいれたぞ!」

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
42
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択