赤獅子の王は目の前の子供を見た。
彼にとんでもない提案をしてきた少年は、勇ましい表情で立っていた。ただし盾と剣ではなく、バケツとデッキブラシを持っている。
王の嘆くべき事に、その姿はいつもよりもよく似合っていた。
溜息を押し殺して、赤獅子の王は振り返った。
一つ向こうの桟橋には女海賊の船が停泊している。
そう言えば、彼の小さな勇者はここ数日、海賊達の元にやっかいになっていた。
海賊に限らず、船乗り達は自分たちの船を大切に扱う。剣士が剣の手入れを怠らないのと同じ事だ。……目の前の剣士に関しては少々不安だが。
――ともかく、リンクはそこで何か学んだのだろう。
バケツを盛大に鳴らしながら走ってきたリンクが、舟――赤獅子の王の掃除をすると言い出したのは先程の事だった。
勤労奉仕は素晴らしい精神だ。特にこの遊びたい盛りの少年については、足りないことはあっても余ることはない。うんうんと満足そうに頷きつつ、赤獅子の王はそう思った。
それを見てリンクは勘違いをしたらしい。パッと嬉しそうに顔を輝かせる。手にしたバケツがガランと鳴った。
(……いかん)
相変わらず表情が分かりやすい少年だ。
だが、デッキブラシで洗われるのが自分の身体であれば話は別である。例え今は舟の身であっても、心は王だという誇りがある。
どうにかして、この少年を悲しませずに断らなくては。しかし方法が分からない。
王は頭を抱えたくなった。だが舟の身ではそれも叶わない。
END
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赤獅子の王から保護者的立場で見たリンク。
続きを書こうかと思ったけど、オチがついてしまった。