No.41982

そうじ(風のタクト)

三上空太さん

赤獅子の王から保護者的立場で見たリンク。
続きを書こうかと思ったけど、オチがついてしまった。

2008-11-16 17:34:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:884   閲覧ユーザー数:812

赤獅子の王は目の前の子供を見た。

彼にとんでもない提案をしてきた少年は、勇ましい表情で立っていた。ただし盾と剣ではなく、バケツとデッキブラシを持っている。

王の嘆くべき事に、その姿はいつもよりもよく似合っていた。

 

溜息を押し殺して、赤獅子の王は振り返った。

一つ向こうの桟橋には女海賊の船が停泊している。

そう言えば、彼の小さな勇者はここ数日、海賊達の元にやっかいになっていた。

海賊に限らず、船乗り達は自分たちの船を大切に扱う。剣士が剣の手入れを怠らないのと同じ事だ。……目の前の剣士に関しては少々不安だが。

――ともかく、リンクはそこで何か学んだのだろう。

 

バケツを盛大に鳴らしながら走ってきたリンクが、舟――赤獅子の王の掃除をすると言い出したのは先程の事だった。

 

勤労奉仕は素晴らしい精神だ。特にこの遊びたい盛りの少年については、足りないことはあっても余ることはない。うんうんと満足そうに頷きつつ、赤獅子の王はそう思った。

それを見てリンクは勘違いをしたらしい。パッと嬉しそうに顔を輝かせる。手にしたバケツがガランと鳴った。

 

(……いかん)

 

相変わらず表情が分かりやすい少年だ。

だが、デッキブラシで洗われるのが自分の身体であれば話は別である。例え今は舟の身であっても、心は王だという誇りがある。

どうにかして、この少年を悲しませずに断らなくては。しかし方法が分からない。

王は頭を抱えたくなった。だが舟の身ではそれも叶わない。

 

END


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
1
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択